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第135話 廃坑探索

 出発日の早朝は晴快晴だった。

エカテリーナ達に川の手前で見送られ、川を超えるのに濡れるのが嫌だったので子供を抱えて浮いて渡り、暫く黒い大地が続いたが、森に近づくとピクニック気分で歩みは軽く、道中に魔物が出る筈もなく、順調に進む。

しかし、フーリンの言う半日はほどなく過ぎて、空腹に苦情を言う子供達を宥めながら進んだ。


「あの山の麓に絶壁が有って、昔のままならそこに小屋が有るわ。」

「あれか。」


 見るからにボロボロの小屋は、壁が崩れていて内部が見える。休憩や宿泊には使えなさそうで、竈も半分崩れていて、火を入れたらそのまま小屋も燃えそうだ。


「野営しますかー。」


 スーの提案に従って、久しぶりのコテージを取り出す。


「なんじゃこりゃ・・・。」


 グルさんが吃驚している。組み立てている姿をただ眺めていたが、興味を示したのか途中から手伝うようになった。

 子供達はマナとグリフォンと遊んでいて、スーとフーリンが料理をしている。


「変わった仕組みだし、なんだこの金属・・・軽くて硬いじゃねーか。」

「ステンレスです。」

「ステンレスだぁ・・・???」

「合金なんですが・・・作り方は知りません。」


 パイプをじーっと見詰めていたと思ったらガブっと咥えた。

 まるで骨を咥える犬のように・・・。


「こんな味知らねぇな・・・。」

「味で解るんですか?」

「ある程度はな。」


 真剣な表情で味を確かめているが、スイマセンそれ必要なんです。

 料理は鍋に具材を入れるだけの簡単なモノなので、暇を持て余したフーリンにも手伝ってもらいながらコテージは完成した。


「おめー、すげーな、これ。」

「広さ的には5人用くらいなんです。」

「外で寝るのに贅沢な話だな。」


 子供達がワ―キャー言いながら中に入る。


「身を寄せて寝れば15人くらいはいけるんじゃないですかー?」


 煮込んでいるだけで暇なスーがやって来た。


「それにしても、本当に世界樹様は平気なんですか?」

「平気よ!」

「本体から離れると魔素が・・・太郎君から貰ってるんでしょうか?」

「多分ね。無自覚だから分からないのよ。」


 子供達が走り回るには狭くなると、俺にしがみ付いてきた。


「ごはんまだー?」


 スーを見る。


「煮るだけなのでもうすぐですよ。」

「はー、すげーもんだな。俺が旅した頃は冷たくて不味い飯を我慢しながら食って、凍えながら寝たもんだが・・・。」

「快適過ぎて普通に生活できますよー。」

「だろうな。移動する民族ってのがいるって話を聞いた事が有るが・・・こんな感じか。」

「流石にそこまで快適ではないと思いますよ。」

「この幌みてーなのも頑丈なのに、重過ぎず、それでいて暖かい。どうなってるんだ・・・。子供を連れてくるなんてどうかしてると思ったが・・・これなら何の問題も無いな。」

「長期ではないですし、経験も子供には大切だと思いますよー。」


 グルさんは感心ばかりしていて、コテージの内部をあちこち見ている。

 バタバタする子供達を落ち着かせる為に、陽が落ちる前に夕食だ。


 


 湯気の立つ温かい食べ物にグルさんは驚いている。


「旅の食事とは思えん・・・。」

「お代わりも有りますよー。」


 子供達も食事の時は大人しい。珍しくグリフォンも食事をしていて、ポチもコテージの中で生肉を食べている。冷たいままが良いらしい。


「喰ったら寝るだけだが、なんだこれは?」

「寝袋です。」


 もう何も言うまい。


「とりあえずだけど、先に私が入って調べて来るわ。」

「一人でですか?」

「他の人に任せるならグリフォンか世界樹様だけど、ただ見るだけじゃないので。」

「普通の人が入るような場所じゃないですしねー。」

「いいんじゃない?」


 グリフォンは話に興味がなさそうだ。


「じゃあ、お任せします。」

「モンスターの気配があればある程度退治しておくわ。」


 それは凄い助かる。

 食べ終えた子供達がすでに疲れて寝始める頃、フーリンは一人で坑道へ向かって行った。以前は鉄鉱石がそれなりに採掘されていたようだが、廃坑となって500年以上経過し、崩落しているかもしれないという危険がある。流石に坑道内へ子供を連れて行く気は無い。

 筈だったのだが・・・。


「危険が無ければ一緒に行った方が良いですよー。」

「もし崩れたらどうする?」

「フーリン様が居るので山を破壊して脱出すると思いますー。」


 な、なるほど?


「我が掘っても良いぞ。」

「私が魔法で穴を広げても良いし。」

「そうか、俺も魔法で掘れるのかな?」


 あの時は出来なかったが、今なら出来るという事は成長の証しだろう。


「私は土魔法と言うより植物パワーで何とかなるわね。太郎と同じで以前よりもたっぷり力も蓄えたし。」


 しょくぶつぱわーってなんですか?


「それじゃあ、みんなはゆっくり休んでて。」

「気を付けて。」


 一人で行くフーリンさんに不安になる必要も無いが、女性一人に任せているという罪悪感がどこかにある。だが、彼女はドラゴンなのでそんな心配をする事も無いのだ。

 片付けを終えると外は真っ暗で、コテージの中ではランプが一つ。子供達は完全に寝ていて、久しぶりにポチの身体を背もたれにして帰ってくるのを待つ。

 ・・・つもりだったのだが、しっかり寝てしまった。本来なら魔物に対して警戒するべきなのだが、フーリンさんとグリフォンがいて、さらにマナもいるので魔物なんて寄ってこない。グルさんは最初不安な顔をしていたが、気が付けばぐっすり寝ていたらしい。

 らしい・・・というのは俺の方が先に寝てしまったからだ。

 スーは一人で帰ってくるのをしっかり待っていた。ちなみにポチとマナも起きていたとの事。

 夜が明けて目が覚めた時には、スーとフーリンさんがすでに食事をしていた。


「朝食なんてなあ・・・。」


 ブツブツと呟きながら美味そうに食べている。子供達は朝から元気モリモリで、昨日と同じモノでもモリモリ食べている。料理に苦情を言うような贅沢は許されない事なので、当たり前なのだが、俺が子供の時に好きな食べ物をねだったモノだ。


「中の様子はどうでした?」

「古い案内板は有ったけど流石に読めなかったわ。」


 木の棒で地面に線を引いて、坑道のルートを描いている。


「放射状に真っ直ぐ道が伸びてるんですね。」

「そりゃー、適当に掘ったら帰れなくなっちまうからな。」

「天然の洞窟も有ったから、その先は複雑かも知れないわね。」


 人の手で掘った穴と元々あった洞窟が繋がっているので、昆虫系の魔物がいる可能性も有るのだが、遭遇しなかったらしい。


「小さい虫とか蝙蝠は普通に居るから数に入れてないわ。」

「そのくらいは問題ないです。後は空気か・・・。」


 悩んでいたが悩むくらいならいっそのこと。


「ちょっと見てきます。」

「太郎君。一人は流石に危ないから私がついて行くわ。」

「私も行くわよ。」


 マナが言うとグリフォンも付いて来ようとするので、ここを守るために残ってもらう。少しだけ不満な表情だったが、頼めるのが他にいないと言った事で引き下がってくれた。当然スーとグルさんも残る。ポチと子供達も!




 坑道内は真っ暗かと思ったら、意外にもぼんやりと明るい。手に持つランプの灯りが無いと文字が読めない程度の明るさだ。


「おー、ヒカリゴケだ。」

「これ育てたらもっと明るくなるんじゃないの?」

「それは良いアイデアだな。」


 マナがヒカリゴケをじーっと眺めている。


「増やさないの?」


 フーリンさんもじーっと見ている。


「どしたの?」

「増えてるはずなんだけどなぁ・・・?」

「増えた所から枯れてますね。」


 小さいし暗くて俺にはよく見えないな。


「そういや、もの凄く環境の変化に弱いって聞いた事あるな。」

「こんなに弱いのによくここに生えていられるわね?」

「植物には違いない筈なんだけどな。」

「何でも育てられる自信があったのになー・・・。」


 マナが珍しく凹んでいる。

 よしよし、頭撫でておこう。


「発芽しても枯れちゃうんなら、飛ばす胞子の量を増やして自然に任せた方が良いのかもね。」

「胞子ってなに?」

「あー、種みたいなもん。」

「うぅーん。」


 マナが珍しく困り顔で唸っている。


「これってコケ自体が光ってるわけじゃないのね。」

「へー、そうなんだ。」


 ヒカリゴケの光る仕組みなんて知らないぞ。


「でも、人が入るようになったら無くなるんじゃないかな。結構貴重な植物だとは思うけど、この世界なら他でも生えてるでしょ。」

「じゃあ増やしても駄目じゃない。」

「いつでも増やせるなら使えるかと思ったんだよ。」

「あーうー・・・。」

「あ、マナが悪いわけじゃないから拗ねないで。」


 諦めて奥へ進む。フーリンさんがスイスイと歩いて進んで行けるのはそれなりに広いからだ。しかもレールの跡もある。


「ここが最初の分かれ道よ。」


 四方に穴が伸びていて、ここにもヒカリゴケがある。

 どうせ枯れてしまうんだろうけど。

 角材が割れるように崩れていて、分岐先の坑道は今度こそ真っ暗だ。

 

「ここで作業してたんですね。」


 崩れたテーブルと椅子もある。キノコまで生えているがこれは食べられるのかな?


「このキノコ光ってるな。初めて見たけどこんなの有るんだ・・・。」


 マナがスッと寄ってきて、今度はキノコをじーっと見詰めている。


「すげー、モコモコ増えてる。」

「キノコなら増えるわね!」


 地面一面が光るキノコでいっぱいだ。


「どうよ!」


 久しぶりのドヤ顔だ。可愛い。


「世界樹様。」

「なに?」

「ねっとりして歩き難いです。」


 足元の光るキノコはなんか不思議な粘液が出ていて、踏むと光も消えてしまう。


「壁に頼むよ。」

「しょーがないわねぇ。」


 今度は壁一面が光るキノコだ。もうランプいらないな。


「このキノコ持って帰って家にも欲しいけど、すぐ枯れたりしないかな・・・。」


 そう言いながら布の袋に入れようと思ったが、掴んで止めた。


「手がねっとりだ・・・。」


 左手から水を出して右手を洗う。

 神気魔法の無駄使いという自覚もない。


「今更だけどさ、鉄鉱石って見て解ります?」


 マナとフーリンは首を横に振った。






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