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第133話 残留組

 夜も明けきらない朝に兵士達は起床していて、朝食を食べている。用意したのはエカテリーナだが、エルフ達が全員で手伝っている。朝から肉をたっぷり使った料理がガンガンに出されていて、兵士達もガンガン食べている。


「こんなに大丈夫なのかね?」


 ダンダイルが心配する量だが、減るのも早い。


「保管しても腐ってしまっては意味が無いのです。」

「それ程の量を保管していたのか。」

「兵士さん達がガンバって狩ってくれたのです。」


 そう言えば兵士達も遠慮する必要が無い。遠征用の保存食である干し肉もたくさん用意してあり、今回はスーが行く事は無いので無制限に持つことは出来ないから、荷車を作って樽や箱に詰め込んでいる。

 鍜治場がまだ完成していないので、武器のメンテナンスはあきらめたが、防具は修繕してある。往路と違って復路は道が解る分少し楽になるため、兵士達に大きな緊張は無い。周辺での狩りは戦闘に対する十分な自信を作っていて、顔つきも変わっていた。

 綺麗に整列して出発する事を太郎に告げると、移動が開始される。


「人がいっぱいいなくなっちゃうんですね。」


 とは、うどんの言葉だ。


「そんなに寂しく感じるの?」

「だって、触ってもらえなくなるじゃないですか。」


 そっちか!


「オリビアさんも気を付けて。」

「ありがとう。」


 兵士達は何故か全力でエカテリーナに手を振っている。一人ひとり丁寧に返すのも大変だろうに、きっちりしている。

 オリビアが整列した兵士達の最後尾に加わり、みんなで見送る。特にエルフの人達は寂しそうなのだが・・・そう言えばこの人達の名前一人も知らないぞ。話す時はオリビアさんとばかりだった所為もある。

 後日、改めて自己紹介してもらったがそんなにいっぺんに覚えきれません。


「気にしなくて良いですよ。」

「オリビアさんもしばらく戻ってくる事は無いからちゃんと覚えますよ。」


 とは言ったものの、やっぱり自信は無い。どこか紙に書いて置く・・・顔と名前が一致しないと申し訳なくなるな、流石に名札付けてもらう訳にもいかないし。

 どうしたものか。


「毎日話せば覚えるでしょ。」

「マナは覚えてるの?」

「ソコのアンタって言えば返事するじゃない。」

「それが出来るのはマナだけだよ。」

「我も気にしないぞ。」


 気にしてあげてください。

 エカテリーナは全員の名前を憶えてるのか。

 流石と言うかなんというか・・・。

 残留組がダンダイル率いる一行を見送り、湿地帯の方へと、その姿が見えなくなるまで眺めていたが姿が見えなくなると何となく寂しい。


 するるっ・・・。


「・・・一気に減っちゃったわね。」

「風呂場も広すぎるようになったな。」

「家も空き家になってしまいますが、管理の方は一任していただけますか?」


 エルフの男の人だ。名前は・・・えーっと何だっけ?


「こちらからお願いしたいくらいですけど、鍜治場も建設中でしたよね?」


 鍜治場の責任者である、グル・ボン・ダイエがぬるっと現れる。

 この人の名前ってどこから呼んだらいいのだろう・・・。


「それなら形は出来ているから火入れするだけだ。」

「火入れってなんか儀式みたいなものってあります?」

「よう知ってんな。いちおーあるが、そんな訳の分からん神に祈るくらいなら正確に造ってくれた方が良いわい。」

「知ってるわけじゃなくて、そういう祭事ってどこにでも存在するから。でも、やったからって事故が無い訳じゃないし。」

「おめー、やっぱり変な奴だな。」


 そう言って太郎を不思議そうに眺めると、エルフの男が違う理由で不思議そうに問いただす。


「神よりも精霊に祈るのではないのですか?」

「サラマドーラに信奉する趣味はねーぞ。」


 四大精霊で火の精霊の名前だ。火を扱う場所なら小さなお札もあるようで、家庭の竈などの近くにも小さな絵が飾られていたりするぐらいメジャーらしい。今まで気が付かなかった。姿も知らないので見ても解らないが。


「サラマドーラがここに来る事は無いでしょう。」

「うわっ・・・急に現れないでくれ。」

「ソコソコ以前から傍に居ましたけど?」

「そーなんだ。まぁ、用は無いし、鍜治場のほうの火入れをしてもらいたいからそっち行こうか。」


 鍜治場はちゃんとした石造りで、作業場となる所にはもう道具が配置されている。乾燥した木材も大量に積み上げられているが、火力不足って事は無いのかな?


「初めてだからな、使えるようになるのに丸三日はかかるぞ。」

「じゃあ、寝ずの番を?」

「弟子二人と交代してやるから気にすんな。」


 なるほど。

 餅は餅屋。鍛冶は鍛冶屋だ。知らないのに手伝おうとするより、専門家に任せるべきだな。その為に来てもらったんだし。




 その後の日常は大幅な人数の減少で、大きな事件も無く、大きな変化も無く、毎日がゆるゆると過ぎていけば、妙な心配もするようになる。


「太郎さん、たまには私と剣術の修業しませんか?」

「そう言われると、最近はクワ以外握ってないなぁ・・・。」

「黒ずんだ土もだいぶ剥がしましたし、キラービーのおかげで魔物の牽制も出来てますし。」


 キラービーは本当に優秀で、たまに魔物を狩って持ってきてくれたりする。蜂蜜だけ集めているのではなく、統率のとれた団体運動で、何倍もの大きさの獣もあっさりと倒してしまう。


「使わないと魔力が無くなるって言う話は聞いた事が有りませんけど、剣の腕は錆びますよー。」

「確かになぁ。」


 そう言いつつ、作って貰った農具を並べて見ている。武器を作るだけじゃなく、鉄に関われば何でも作れるとの事。釘や蝶番(ちょうつがい)などの小さな金具もお願いしたら作れるとの事だったが、流石に螺子(ねじ)は無理と言われた。


「こんな小さなものを正確に同じ大きさで何個も作るなんて気の遠くなる話だ。」

「型を作って鉄を流し込むとかでも?」

「強度が保てないだろ。」

「そーなのかー。」


 太郎は何となく解らない。螺子なんてホームセンターでいくらでも買える世界から来たのだから、アレが有れば、コレが有れば、と考えてしまう事は有る。


「そんな小さなものを何に使うんですかー?」

「何に使うかは決めてないけど、あればいろいろな用途で使えるからね。」

「そーなんですねー?」


 スーは何となく理解していないようだ。

 鍜治場では弟子二人がダマスカス鋼を作る研究を始めたそうで、るつぼ鋼を調べている。とりあえず関係がありそうなものは渡しておくことにした。


「作れるようになったら蜂蜜だけじゃなくて特産物が増えますね!」


 増えるのは構わないのだが、もう一つの問題もある。


「おめー、鉄鉱石は何処から仕入れるつもりだ?」


 完全に忘れていた。

 元々はみんなの武具のメンテナンスをしてくれる人が欲しかっただけなのだが、それだけでなく金具関係も欲しい。作る人がいなければ何処からか買わなければならないが、買わなければ作ればいいという発想しかしていなかった。


「鉱山ってあるんですかね・・・?」

「興味なかったからなー。あの子達だって鉄製品は使ってたはずなんだけど。」


 マナはそうだろうな。


「フーリンなら知ってるかな?」

「訊いてみる?」


 シルバが居るので訊こうと思えば直ぐに訊ける。しかし、以前の様な事が無い様に注意しないとな。


「じゃあ行ってきます・・・場所どこですか?」

「あぁ、シルバは知らないのか。」


 一度ダンダイルを経由して、そこで居場所を聞き、フーリンの所へ行くというルートなのだが・・・フーリンの家の場所は知っているけど、俺とマナじゃ説明できないんだよなあ。


「あの、私知ってますけどー?」


 という訳でスーが説明していた。

 必要な物は自分で手に入れる。この世界では当たり前な事なのに、ついつい忘れてしまう事が有るのは、未だに元の世界の感覚が残っているからなんだろう。

 自分がこの世界観に染まるのはいつだろう・・・ね?






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― 新着の感想 ―
[一言] (城が建つ蜂蜜…ほしい…) 螺釘は難しいよなぁ…均一な形で作れるの凄いなぁ…
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