第124話 うどんの変態
今日も今日とて日課の水やり。ドロッとした土もいつものように与えているのだが、ふと気が付くと、不思議に思う事が有った。確認の為に、うどんの傍に神気魔法で出した土を盛る。
「水が消えるのはまだ解るけど、なんで盛った土まで消えてるんだろうな。」
じーっと見ていると、盛った土がじわじわと減っていく。隣のトレントにも与える。同じ様に減っていった。土の養分を吸収してるんじゃなくて、土そのものを吸収してるんだな。
それはマナの木も同様で、トレント達より大きい分、多めに盛っているのだが、こちらははっきりと分かるほど減る。
「太郎の土はそのものがマナの塊みたいに凄いのよ。」
「なんか、俺が、どんどん人間離れしてないか?」
「元々こっちの世界の人間では無いからねぇ。」
「それはそーか。」
と言って納得できる訳ではない。
「トレントもそうなんだけど、シルバも住み着いちゃってるしね。」
「風の精霊が住んでるっというと、何となく観光名所っぽい響きだなあ。」
「カンコーメイショ?」
マナだってなんでも俺の世界の事を知っている訳では無い。外出する事も無かったのだから、知識に激しい偏りが有るのだ。
「注連縄と鳥居も付けたら神聖な感じもしそうだ。」
「あー、それは解るわ。」
「ナナハルが来たら作り方教わろうかな。」
畑の収穫作業も終わっているので、今は特にする事が無い。キラービーの問題も有るが今は少し休んでも良い時期だろう。
肌寒く感じると、手を擦りながら周囲を見渡す。
・・・なんであんなところに全裸の女性が居るの?
こっちきた。
「太郎様。」
「・・・どちら様で?」
全裸な事よりも俺の事を知っている方が驚いたのだが、どこかで聞いた声だな。
「うどんです。」
「はっ?!」
マナも吃驚している。
「アンタ人型に成れたの?!」
「成れる様に成りました。」
文字にしたら分かり難いだろうな。
「トレントって人型に成れるんだ?」
「そんな話は聞いた事ないわねぇ・・・。アッタカナ?」
マナが悩んでいると、オリビアたちエルフがやって来た。
「・・・太郎殿の新しい女性ですか?」
また語弊が・・・。
「うどんです。」
「へっ?!」
オリビアたちエルフが何の事か再確認しようとうどんが居た所を見ると、確かにソコにいつもの姿はない。目の前に美しい女性が居るだけだ。
「いいなー・・・。」
羨ましい呻き声がもう一つのトレントから聞こえた。
周囲を見渡したトレントが不思議そうに言った。
「みなさんどうしたんです?」
「吃驚しているだけなんだけど、なんで裸なの?」
「それは太郎様が望んだ姿だからです。」
「なんで俺の所為?!」
「毎日水と土を与えてくれたじゃないですか。だから太郎様が望む巨乳になったんですよ。」
裸である理由を知りたいのだが?
「じゃあ、せめて服を着てくれないかな?」
「世界樹様とお揃いのワンピースで・・・。」
何をしたのか分からないが、ふわっとした純白の薄い布のようなモノが出現し、身体が覆われる。とりあえず裸では無くなったが、下着なんてない。魔法で服を作るのが常識みたいになってきたので、その事に違和感はないのだが、服を作れるって便利な魔法だな。ただし、その状態を維持する為には、常にマナが消費される。
「人型に成ったって事はもう水の浄化とかできないの?」
「問題なく出来ますよ。」
そう言うと溜め池に両足を浸した。
「水は何処から出てくるんだ?」
「太郎様の望むように出しますか?」
「やめて。」
きっと今想像した通りにやるんだろう。胸から母乳のように水が出るなんて、今後に支障が出る。
「普通に出せるのならその方法で頼むよ。」
うどんの手が水のようにふやけると、その先から水が飛び出た。
「太郎様のようにお湯になればいいのですけど・・・。」
「無理なんだ?」
「私の出している水は太郎様とは違って無制限ではないですから。」
「あー、吸った分だけしか出せないって事か。」
「歩き回れるようになりましたのでエカテリーナ様に来ていただかなくともこちらから行けますし、水質でしたら太郎様と遜色ない綺麗な水が出せます。」
「有能ねー。」
「世界樹様ほどの能力はありませんけれど、子供が作れます。」
「子供が作れるって人との間に?」
「はい。」
「太郎の所為で?」
俺は一体何なんだ。
「それは太郎様の所為ではございません。我々の固有の能力なのですが・・・人型に成ったのは少なくとも私以外で見た事が有りません。」
「そう言えば8万年生きてるって言ってたよね?」
「はい。」
「8万年前には既に人型がいないって・・・もっと昔なら存在したの?」
「もちろんです。10万年以上前になりますが、その当時に人との交配が発生したらしくて、我々は人の姿で多くの人と交わっていろいろな人の夢を叶えたと言い伝えられています。」
今、サラッとこの世界の始まりに近い事を言ってないか・・・?
「それって人だけ?」
「どういう意味でしょう?」
「人以外とでも可能だったんじゃない?」
「可能かどうか試さないと解りません。お試しになりますか?」
「しなくて良いよ。と、言うかトレントが人型に成った理由も良く分からないし。」
「少なくとも今の時代では私以外に人型は存在しません。」
「人以外にも成れるの?」
「太郎様がお望みであれば・・・。」
俺、どんだけ変態なんだ・・・。違う、そうじゃない。
「元々の存在意義というモノは私は知りませんし、どうしてこうなったのかもハッキリとした事は解りません。解りませんが、少なくとも太郎様の魔力を毎日注いでいただいた結果だと思います。」
「じゃあ子供が作れるって言うのも知っているというだけ?」
「はい。」
太郎が頭を抱えるほどではないが、困っているのか、悩んでいるのか、本人も解らない。マナがうどんに近づいて身体をペタペタと触っている。
「触った感じだと私に似ているわね。」
「世界樹様もおっぱいがお好きでしたらどうぞ。」
笑顔で服をたくし上げて胸を見せているが、股間も見えてるからな、それ。
羞恥心ってないのか。
マナも遠慮せず触っているけど、周りの者達が目を逸らしてるぞ。
「人のような感じもするし、スズキタ一族にも似ているし、魔女っぽい感じもするし、精霊のような感じもするし、あんたの身体は不思議ねぇ。」
見た目はむっちりタイプの爆乳お姉さん。アルビノ系の様に白い肌だが、どこかフィギュアを思わせるように艶々としていて、それでいてマナが触ると簡単に凹むくらい弾力も凄そうだ。
「太郎様は触られないのですか?」
「・・・俺が触っても何も解らないけど。」
「あっ・・・うどんって人の身体を理解しているのね・・・。」
マナは何でうどんの股間をじーっと見詰めているのかな?
「スーに教えて貰ってやっと覚えたって言うのに・・・。」
マナは何をしてるの?
「世界樹様との子供は作れませんよ。」
「逆に男の姿には成れないの?」
「もちろん成れます。」
スッと姿が変わって、今度は筋肉ムキムキの男が現れた。顔が俺に似ている気がするが、どうせ俺の影響なんだろうな。
「ただし、この姿ですと子供を作れません。」
ワンピースのまま股間には凄いモノが立っている。ちょっと、俺のよりデカいんですけど。
身長も俺と同程度、声も似てない?
「トレント同士では?」
「不可能です。」
正に変な植物だ。他種族との交配が可能なのに同族との交配が不可能だなんて。
「トレントは実を作れるように成ればその種から育ちますので。」
「そりゃそーだな。」
「これ、今度神様に訊いた方が良いかしらね?」
「神様の所に行けるの?」
「予定通りならまだ何千年も先だけど、成長速度が私の予想をはるかに超えているから、もしかしたら数年後かもね。」
「あのー・・・。」
うどんが股間をマナに握られながら少し困った表情で立っている。そりゃ困る。
「女性の姿の方が落ち着くというか、交配が必要でしたらいつでも私をお使いください。」
「今は不要だから出来ればいつもの姿でいてくれるかな。」
「え・・・あ、はい。」
うどんは寂しそうに溜め池の近くまで歩くと、いつもの姿に戻った。ホッと一安心したのは太郎だけではない。周りで見ていたエルフ達も何故か疲れた表情をしている。
その中で一人真面目に考えていたオリビアが何かを思い出すように言う。
「うどんとは・・・いや、トレントとはこの世界に知恵をもたらしたという始まりの木ではないか?」
「始まりの木?」
「この世界に人が誕生した時、その普人は木の実を食べて知恵を得たという伝説だ。」
「なんか聖書みたいな話だな。」
「太郎、知ってるの?」
「俺の世界に有った聖書にさ、アダムとエヴァが知恵の実を食べたって言うのならある。あるけど、その時の実を作ったのがトレントだという話は無いぞ。」
「その話なら私も知っている。聖書というモノは無いが、子を作るという人としての機能を持っているとなると、トレントがエヴァであるという可能性も。」
アダムとエヴァの話はこの世界にも有るのか。
アダムとは一体なんだ。しかもそれだと・・・トレントは知恵の木か生命の木か?
「なんか頭痛が痛いわね。」
「それならただの頭痛だろう・・・。」
いつもの木に戻ったうどんを見詰めていると、また女性の姿に成って俺のところに走って来る途中にコケた。
「大丈夫?」
「歩いた事が今までなかったモノでして。それよりやっぱり私のおっぱい触りたいですか?」
「なんでそうなるんだ。」
「良く分からないのですけど、凄く触ってほしいです。」
「太郎の所為ね。」
「太郎殿・・・。」
二人の視線の所為で頭痛が痛いです。
「まぁ、歩き回るだけなら良いけど・・・、てか触ってほしいって・・・。」
「あ、世界樹様も触りたいですか?」
だから笑顔で胸を押し付けるな。
「ちょっと待て、それを言うって事は触ってくれるのなら誰でも良いのか?」
「はい!」
こうしてうどんは歩き回る植物として男性に人気を博した。エカテリーナがたまに抱き付いているのを見ると、女性にも人気が有るようだ。子供達も抱き付いていて、あれは母性を感じているんだと思う。
流石に服を着て歩くように言ったが、あの巨乳と高身長は凄く目立つ。女性の姿の時でさえ俺とほぼ同じ背丈なのだから、一般的にはかなり大きいだろう。
鬼人族のフレアリスよりも巨乳で、兵士達と目が合うと胸を触らせている。その状況に一番困ったのは隊長で、流石に規律を重んじるだけ有る・・・と思っていたら、こっそりと触っていた。ダメじゃん。
倉庫ではうどんを枕にして寝ているグリフォンの姿が。
「我の専用ベッドにしたいぞ。」
「それは太郎様以外ダメです。」
「そっかー、残念だな。」
俺がいないところでそんな会話してたのか。
ついでに言っておくが俺は触っただけでベッドにはしていない。
柔らかいのは認めるが。モミモミ
そして・・・。
「あのうどんをどうにかできないか。」
「俺には無理ですよ。」
「あのままだといつか子供が出来てしまうぞ。」
それは、兵士達数人がうどんの周りで何かをしていたのを隊長が注意した事件があったからだ。うどんは嫌な顔どころか、喜んでいるので止められない。
「俺はいくら綺麗と言われてもあいつらの体液が混じった水は嫌だぞ。」
それには同意する。と言うか、あの扇情的な姿はグリフォンよりもひどい。男なら見ただけで股間が熱くなるのも仕方がない。しかし、それでは困るのだ。
「しかも、うどんの方から積極的に誘っているようだしな。」
「触られるのが喜びと言われては俺も止められないです。」
「触るぐらいで終わればいいが、我慢できなくなるのも男だからな。理解はできる・・・できるが、これでも任務を受けてこの地に居るのだから、不道徳は流石に困る。あれが本当にこの世界の始まりの木だとしたら、子供も沢山作る必要が有ったのだろうが、今は違うのだからな。」
「実際問題としてはもう一つのトレントでも浄化には困らないから・・・。それに俺が直接水を創っているので、うどんから貰った水を料理に使う理由はないんですよね。」
「まぁ、それならいいんだが。」
「うどんも歩き回れるようになってマナと話をしているのも楽しそうだし、木の姿でいろって言うのも可哀想な気がするし、どうしていいか判らないんですよ。」
うどんは一日中人の姿でいる訳では無く、陽が落ちると溜め池に戻って木の姿に成っている。朝になるとエカテリーナを手伝う姿を見るようになって、人型である事を楽しんでいるようだから、数少ない女性達もあまり文句を言わない。それどころか、あのオリビアでさえ抱き付いているのを見た時は流石に吃驚した。
「うどん殿は聖母だ。」
見慣れるまで我慢すれば良いという事で、決着はしていないが我慢する事になった。
あー、整列して胸を触るのは流石に隊長が怒ると思うよ?
「あ、太郎様。お悩みですか?大丈夫ですか?おっぱい触りますか?」
今日は遠慮しておきます。




