番外 ワルジャウ語
2020/11/23
今年最後の祝日なので投稿しましたが、番外編です\(^o^)/
ワルジャウ語が難しい言語という訳では無い。魔女達が覚えやすく改良した結果、多くの人達が使っている。世界共通言語とはいえ、使っていない人達も多く存在する。特に単一種族で生活する者達の中では古代からその種族で使う言葉を今も使っていた。
その中でも兎獣人は、人里に住む者と単一で生活する者で大きな差が有る。特に兎獣人は出生の男女比率で男が少ない上に、発情期間が長く、旅人や冒険者に被害は多かったが、その被害がギルドに伝わる事は殆ど無かった。それでも、言葉が通じない事を利用して連れて帰り奴隷としてペットとして飼う者もそれなりに存在していた。
ただし、純血の兎獣人は寿命が短く、兎獣人は捕まる事を恐れてどんどん人から離れて生活するようになった。
人里に残された兎獣人は多くの子供を産み、その子供は普人よりも長寿となって、発情期間も極端に短くなった。
そんな子供を宿している獣人族の一人は、あの時の男の姿をいつも考えていた。出産を控えると、更にその思いは強くなり、双子が誕生すると、子供に母乳を与えながらも、寂しくなって泣いていた。
『・・・こんなに会いたいって・・・なんでだろう?』
自分の気持ちが解らなかった。
子供が出来なかった他の者達は今日も励んでいて、育児は常に一人だった。
そんな或る日に現れたのはシルヴァニードで、一人で双子を抱きながら泣いている姿が気になった。
『どうしたのです・・・?』
『あ・・・シルバ様・・・。』
事情の説明はなかったが、あの時おぼろ気に覚えている名前が有る。
『タロウ。』
この世界では特に珍しい名前で、あの人以外にその名前を聞いた事が無い。
『会いたいのですか?』
『会いたい・・・です。』
兎獣人でこれほど父親に依存するのは珍しい。珍しいが無い話ではない。
『私では連れて行くことは出来ないし、それなりに旅をする事になりますよ。』
『愛を感じた訳では無いのですが、あの人は何故か特別な感じがしました。』
『・・・どちらにしも子連れで女だけで、服もまともに無い者に旅は無理です。』
『服・・・ですか?』
『そうです。』
シルヴァニードは少し考えた。この子達には強い信仰を貰ったし、希望は叶えてあげたい。しかし人を運ぶ力はない。
シルヴァニードはかなり考えた。
『良い人達がいました、あの人なら私の事も見えるでしょう。』
シルヴァニードの姿に驚いたのはオリビアだけで他の者は辛うじて声が聞こえる程度だった。シルヴァニードが語る話の中で、太郎の名を聞いたオリビアが強く反応した事に興味を持ったが、追及はしない。
「しかし、どうして私に?」
精霊に声を掛けて貰うという事だけでかなり奇跡的な出来事なのに、その精霊に頼みごとをされるというのは望外の幸運というレベルをはるかに超える。
「近くに頼める者がいないからですよ。」
「近くと言うと・・・?」
その後エルフ達は女性だけで兎獣人の里へ向かい、その女性に会う事が出来たが、ここで問題が起きた。
「何を言ってるのか分からないわ。」
「シルヴァニード様に通訳を頼んでもよろしいのですか?」
「それは問題ないですよ。」
しかし、シルバとは常に一緒に居られるわけではなく、旅をする前にこの兎獣人に常識を教えなければならない。なにしろ、すっぽんぽんだったのだから。
彼女とその子供に服を着せ、護衛をしつつ、旅は始まった。しかし、ここでも問題はある。エルフ達が魔王国内を歩くのは凄く目立つ。美男美女のエルフと純血の兎獣人が団体で歩いていたらそれなりに声を掛けて来る者も居るだろう。
オリビアは辿り着いた町で魔王国の数少ない知り合いを頼ろうと考えたのだが、連絡方法がない。ギルドに依頼を出そうか悩む一団の前に現れたのは、ダンダイルの使いの者だった。
「ダンダイル様は承知しておりますのでご安心を。」
事前に話を通したのはシルヴァニードで、問題なく頼める相手だと理解していたが、個人的な事でこれほど積極的に、能動的に活動したのは久しぶりだった。
久しぶりではあったが、悪い気分ではなかった。それは、きっとあの人の影響だと思っている。
子供の手を掴み、右も左も分らないところを歩いている。なにを言っているかは分からないし、シルバ様も見えない。子供が疲れて座り込むと歩みが止まる。
歩みは子供に合わせるのでなかなか進まない。そんな事は全員が承知していても、言葉が通じない為に申し訳なさで身が縮まる。見た事の無い布を被せられ、足にも何か着けさせられ、なにをするにも隠れさせられる。なんでこんなに苦労をしているのか良く分からないが、あの人にさえ会えればすべて解決する。
と、信じている。
旅は予想以上に長かった。いつの間にか周りに人が増え、町を離れ、森を抜け、山を越える。子供も少し成長して自力で歩く時間も増えた事に安心した。
「そんな事が有ったんですねー。」
拙いワルジャウ語で少しずつ話し、言葉の分からないモノは太郎が通訳した。3人は湯船に浸かっていて、裸の付き合いというモノは心を開かせる。湯舟での久しぶりの開放感も味わい、覚えたばかりのワルジャウ語で話したかったというウルクの思いも有って、太郎の傍にはスーが居たが、そんな事は気にならない。
「あの村のソトは初めてでした。」
「どうしてそこまでして会いに来たんだ?」
『?』
言葉が理解できなかった。
『どうして俺に会いたくなったんだ?』
『分らないです・・・。』
「ミミガー。」
『他の人はそうならないんだろ?』
『兎獣人は夫が誰であろうと気にするような事は有りません・・・。むしろ子供を産める事が喜びなので、相手をしてくれる人ならだれでも良いのです。ただ、純血を保つ必要があるので、太郎様だけにこれほど強い気持ちを持つのは私も不思議なんです。』
『あの子達は純血ではないんだろ?』
『それは問題ないです。数は少ないですが村にも男はいますので。』
「ハムハム。」
『俺に何か問題が有るんだろうなあ。』
『太郎様に問題って何ですか?』
『シルバに認められているのもそういう理由なんだ。』
『?』
今度は言葉そのものの意味が解らなかった。
『まあ、ここに住む事になると隠す必要も無いから言うけど、俺がこの世界の住人じゃないからね。』
『この世界?』
『この世界は、俺が生まれた世界ではないんだよ。』
太郎は兎獣人の言葉で詳しく説明した。ただし、兎獣人の言葉と言っても、存在を認識していない言葉はウルクでも解らない。彼女にとっての世界はあの村だけであり、あの村の外の事は知らないし、多種多様の人種が居るのだって今回の旅で初めて知ったのだから、一つ一つ説明しなければならない。
『驚く事ばかりなんですけど、どう信じていいか分からないです。』
『信じるかどうかは自由にしていいよ。』
『いえ、信じたいのですけど・・・。』
「ペロペロ。」
「スーはさっきからなn・・・。」
「私と同じカオしてます。」
「寂しいからに決まってるじゃないですかー。」
指先でグリグリしている。
ウルクはスーが何をしているのか理解している。発情もしていないのに何故あんな事をしているのかは理解できない。そんな光景を素の状態で見ていると、発情していないのにドキドキしてくる。
「私も・・・サン・・・カしてイーですか?」
「もちろんですー。」
俺の意見はそこに存在しなかった。




