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第14話 ダリスの町 (2)

 木板に堂々と日本語を書き込んだ。おっさんは不思議そうに俺の文字を見ている。だが慌てた様子はなかった。


「おや珍しい、異国の方かね。それにしては流暢に喋るね。」


 書き終えて応える。


「自分の名前くらいしか書けないんですよ。物心つく前にこちらに来ましたので。」


 嘘も方便。必要悪だ。


「はー、若いのに大変だね。で、なんて読むんだい、これ。」




■---


鈴木太郎 普人 20歳 代表

マナ 普人 15歳 --

ポチ ケルベロス  不明 従獣




「すずきたろう、です。」


 この木板の凄さは、タッチパネルに近いものだった。書くところは名前だけで、あとは画面を触ると表示される沢山の種類から選ぶだけ。特に種族欄は凄く種類が多い。人間が無かったからそれっぽいのにしたが、大丈夫なのか不安は残る。そういえば見える文字はすべて俺の知っている文字に変換されているけど、実際にはどう見えているのか分からない。神さまの能力ってどうなっているんだ・・・。マナもポチもカタカナで書いたし・・・。でも、それは普通の事だった。こっそりマナが教えてくれる。


「そういえば種族文字が有って名前は固有の文字を使うのよ。」


 種族文字というのは、俺の世界でいう外国語の文字と同じ扱いだ。地域によって文字が違ったり、古代文字もある。ポチの場合は飼い主というか、代表が名付けた名前だから、結局俺の文字になる。マナは・・・いいのかな、問題ないようだ。と、いう事は偽名も使えるのだろう。俺の方を一瞥したおっさんは何かやってる。その間に俺はカウンターの周りを見る。壁には依頼のようなものが書かれた紙が沢山あり、その横には壁に大きな文字で冒険者ギルドのルールのようなものが書かれていた。




ゴールドカード・・・超難度依頼達成者

シルバーカード・・・高難度依頼達成者

グリーンカード・・・依頼達成数100

ブルーカード・・・依頼達成数50

イエローカード・・・依頼達成数10

レッドカード・・・新規登録者




 仕事を達成したらギルドに報告することによって達成数が加算され、カードの隅に付いている色が変わる。もっと細かく分類されているかと思ったら、殆どの人が身分証明と通行が簡単になるという理由で持っている。兵士達には用のない物で、一度でも傭兵として登録すると、登録した国への入国が自由になる代わりに、他国へ行き難くなるという不便なところもあり、追加情報で記録するかどうかは本人次第だ。俺には関係のないことだが、ある程度の共通語が話せないとダメだし、孤児院育ちの人が身分証明で作ることもある。ここに記録した情報はギルド全てで共有する情報らしいが、どうやって情報共有しているのかは俺には分からない。


「パーティ名が未記入だけど、追加記入が有るならその時に手数料貰うからね。」


 そう言って俺にカードを渡してくれた。結構簡単に入手できたけどこのカード自体信用性はどのくらいあるんだろう?ケルベロスの年齢が不明なのは選択肢が無かったからだ。やはり意思疎通できない人達には謎が多いからなのか。ちなみに超難度依頼の内容は・・・ドラゴン退治ですか、そうですか。ちなみに、特に難しい仕事をやらなくても、宅配依頼を何回かやるだけでもカードの信用性は上がるとのこと。


「結果は嘘を付きませんからね。再発行とはいえ以前の記録は役に立ちませんし、あなたの感じだと誰かのパーティにでもいたんでしょ?」


 なるほど。グリーンカードまでが達成数なのに、そこから先が違うのはこういう理由から来るのか。数だけなら誤魔化せるが、高難度の依頼はそれ程の事という事だ。この町の中である程度簡単な仕事が有れば、やる価値はあるという事だ。今後の為にも。


「それにしても、このカードの中に沢山情報が有るってことはそれを読み取る道具とか、他のギルドに情報を素早く届ける手段が有るってことですよね?」

「もちろん有るよ。企業秘密だから教えられないけどね。初心者に限らず知りたがる人が多いから困ってるんだ。あんたもその口かい?」

「あ、いゃぃゃ。別に知りたいわけじゃないです。有るかどうか気になっただけで。」


 おっさんは苦笑いした。


「そうか。じゃあ、ここで食事もできるし道具も売ってるから、何か買っていってくれ。」


 ギルドでの手続きも終わったので、ここには用もないし、宿も探したい。


「宿屋ってここにもあるんですか?」

「宿屋は町に入らないと無いな。ここと同じ建物の向こう側に有るけど。」


 おっさんが腕を大きく振って指し示した。壁の向こうという事だ。同じものは町の中でも見れると言われたので、さっさと入ることにした。陽も傾き始めたし、暗くなる前に宿で寝たい。


「その犬は門の警備所で許可証をもらったらカードに書き込めるから、そっちで手続してくれ。」


 門の前に来るとだいぶ人が減っていた。夕方に出発する人が少ないので、半分はガラガラだ。関所のような門の前まで来ると、兵士がこちらを見るので、さっき作ったばかりのカードを見せる。カードを何かの道具に乗せて確認していると目が大きく開いた。


「お前、魔獣使いか何かか?」

「違いますけど?」

「ふーん・・・こんなにおとなしいやつ初めて見たぞ。だいたいは檻に閉じ込めているからな・・・。許可証が必要だな。手数料に20銀貨1枚貰うが持ってるか?」


 お金など久しぶりだが、持っているので袋から取り出してみせると頷いた。


「お前にとってどうか知らんが、ケルベロスは害獣扱いだ。今年も既に討伐依頼が数件出ている。その依頼には関係ないな?」

「まだ産まれて半年程度なので関係ないはずですが。」

「これで半年なのか・・・大きいなあ。・・・あ、まあ確かに関係ないか、小さいのは報告も受けてなかったはずだし、ちょっと確認してくるから待ってろ。」


 ケルベロスが幼体でよかった。これが完全な大人だったら大騒ぎなんだろうな。しかし、意外と手際がいい。まるで来るのを知っていたようだ。


「ああ、何時間前か忘れたが、ケルベロスを連れた若いやつが来るって言われてな、そいつ俺の友達なんだよ。あいつは悠々自適な傭兵冒険者なんだよなー。」


 愚痴が混ざっているが気にしない。あの時会った男の人は混乱を避けることもしてくれていて、感謝しきれない。なんとも良い人というのはどの時代もどの世界でも、居る所には居るのだと、今回の旅ではなかなかの幸運に恵まれているようだ。って言うか、あのごっつい鎧の男の人はケルベロスって気が付いていたのか・・・。

 兵士はその場から詰所の方に入っていく。しばらく・・・という以上に長く感じたが、戻ってくるとカードと何か輪っかを持っている。


「許可証はカードの中に記入しておいたからこれで大丈夫だ。あと、町の中にいる間は必ずこの首輪をケルベロスに付けてくれ。付けない場合は、檻に入れておくこと。忘れるなよ。」


 これがルールという事だ。それほど複雑じゃなくて助かった。


「それにしても大人しいな。ちょっと触ってもいいか?」


 兵士はケルベロスに興味津々である。俺はポチを見て頷く。ポチも頷いた。兵士の言葉が分かったようだ。凄いもう言葉を覚え始めてる。

 最初は恐る恐る。そして頭を触ると凄く嬉しそうだった。しかし首輪をつけることは忘れない。がっちりと首にはめる。


「なんか重そうですね、それ。」

「針金と蛇革で作られているから見た目ほど重くはない。簡単にはちぎれない筈だ。これカギな。」


 受け取ったカギは少し大きめで、無くさないようにお金の袋の中に入れた。貴重品ではあるが、神さまから貰った袋に入れるほどの物でもない。


「やっぱかっこいいよな。ケルベロスって確かに嫌いな奴多いんだけど、実は俺、子供の時にケルベロスに助けられた事が有るんだ。誰に言っても信じてもらえなかったけどな。お前なら信じてくれそうだ。」

「もちろん信じますよ。」


 兵士は笑顔になった。なんか、この町って変わった人というか良い人多いな。


「今夜夜勤じゃなかったら一緒に飲みに行きたいくらいだ。お前みたいに話の分かる奴はなかなかいないからな。」


 妙に気に入られてしまったが、悪い気はしない。ケルベロスを撫でるのを止めると元に位置に戻る。名残惜しそうにポチを見ているが、俺にはこう言った。


「気を付けてな。」


 門をくぐり町の中に入ると、人が減り始めているとはいえかなりの人が歩いている。しっかりとしたレンガの道路。レンガ造りの家が建ち並び、窓にはちゃんとガラスがはめ込まれているが、そのガラスの透明度はやっぱり低いようだ。人も様々。それでも耳を見ただけでは分からないが、狼系の獣人が多く感じる。以前に訪れた名もなき商人達の町とは比べ物にならないほど賑わっている。瓦屋根の煙突からは煙も立ち昇っていた。


「とりあえず宿屋行くの?」

「そうだな、暗くなったら何もできないだろうし・・・。」


 と、思っていたら灯りが見える。街灯もある。もう前の町とは比べられない。


「こんなに明るいなんて凄いな。これなら風呂も飯も・・・トイレも期待できそうだ。」

 長年?の謎だったトイレの排泄物処理が・・・公衆トイレもある。公園もある。噴水もある。ベンチも屋台も並んでいる。


「これはもう都会に近いレベルだな。」


 町の遠くの方にも明かりが見えるし、近くの山にもいくつかの光が見える。鉱山が町の活気を作っているという事を太郎が知るのは明日の話だった。






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