第121話 追加
今日は畑の拡張を行う。
冷たい風が吹く寒い日だが、そんな事は関係ない。
雨さえ降らなければ良いのだ。
太郎は思わず空を見上げた。以前のようにシルヴァニードが天候を操作していないか見たのだ。しかし、見ただけでは判らない。
天候を無理矢理に変えるのは自然に良くないので、そんな事はしないように言ってあるから大丈夫だと思う事にして、作業を開始する。
「何を植えるので?」
銀髪の志士が鍬を持って手伝っている姿は・・・凄く似合わない。旅に適した衣服なので半分鎧にも近い。他のエルフ達もその服装で手伝ってくれていて、兵士達はいつも通りに見廻りと狩りをしている。
ただ、隊長は野外での活動はなく、どこから持ち込んだのか食堂でコーヒー片手に書類仕事をしている。
子供は子供で自由に遊ばせているが、ケロイチロウとケロジロウが子供達の遊び相手になっていた。大丈夫かな?
スーとエカテリーナは昼食の準備をしながら、晩の献立を考えている。ポチとチーズは何故かグリフォンと同じ場所で昼寝を、兎獣人のウルクは子供達がどんどん言葉を覚えてしまって少し孤立している。
孤立しているのは少し可哀想なので俺と一緒に農作業だ。こっちおいで。
さて、気を取り直して考える。
「ジャガイモとサツマイモとマンドラゴラは大丈夫だから・・・えーっと。」
「そう言えば、あの時植えていただいたクルミの木は、未だに一定量のクルミを落としていて、いつの間にか小動物まで集まるようになっていたのだ。」
植樹かぁ。
果樹園も作りたいな。
「その動物を捕まえて食べたんですか?」
なんですぐ頬を赤くするの。
「可愛くて食べられんのだ。」
「あー、その気持ちは分かるなあ。」
「おぉ、解って頂けるか!」
何故か、凄く嬉しそうに畑を耕し始めた。
エルフ達が横一列になったところにウルクも加わり、ただの土を畑に変える。
畑仕事ではウルクの方が少し上手だ。
マンドラゴラを育てていた経験からだろうかね?
エルフの住んでいた場所にも小さいながら畑は有ったのだから、経験は有りそうなのだが。
「人数が揃うと作業も捗るもんだ。」
「肥料などを気にしなくて良いのも楽ですしね。」
肥料と言うからには、この世界なら人糞が主流だろう・・・が、トイレの排泄物は水路に全て流してしまっているのでもう残っていない。
水路には川から引き込んで溜め池に向かって流れる給水路と、溜め池から川へ向かって泣かれる排水路が有り、排水路の上にトイレが有る。子供達が溜め池で用を足していたのを見てしまったので、溜め池では用を足さないように力強く通達したから、大丈夫だと思う。
うどんが居るから綺麗なんだけど、なんかね・・・。
「マナが育ててくれるって言うのがね、逆の様な気がするんだよなあ。」
「逆とは?」
「本来は俺がマナの木を、世界樹を育ててるんだけど、今の状態だとマナにおんぶにだっこみたいな状態が続いてるから。」
「それは仕方が無いのでは?」
「もちろん、解ってるよ。」
そのマナはこの場に居ない。育った世界樹の木の枝に座って俺達を眺めている。その方向を見るとマナの周りには何か鳥がいっぱい集まっていた。
「なにしてるんだろ?」
鳥が集まって・・・なんかたくさん来た。
「せかいじゅさまー!」
「あらー、あんたたち生きてたの?」
「いえ、初対面です。」
「じゃあ、あの子達の子供ね。」
「子供の子供の子供の・・・良く分からないですけど子供です。」
「それにしてもよく私の事が分かったわね?」
「何世代も語り継がれていますので。」
「あいかわらず変な鳥ね。」
「変ですか?」
「うん。」
「またここに棲んで良いですか?」
「うん。」
「じゃああっちの方に巣を作って良いですか?」
「いいわよ。あ、あんまりそっちだと倉庫だからこっちで。」
「はーい。」
太郎が近づくと会話が聞こえる。ガヤガヤ、ワイワイ。なにを喋っているのかうまく聞き取れない。
「マナ~?」
「あ、太郎。おわった?」
「いや、なにを植えるか考えてるとこ。」
「早く決めてね。」
「あ、うん。」
「どうしたの?」
「その鳥、喋ってなかった?」
「この子達は普通に喋るわよ。」
「ワルジャウ語を?」
「うん。」
「世界樹に巣を作るの?」
「うん。」
「大型の鳥に狙われたりしないの?」
マナの肩にピよっと止まる鳥が太郎を見た。
その鳥は他の鳥と比べると少し大きく、他の小鳥たちがいろいろな色が有っても単色なのに対し、こいつだけ七色以上ある。
なんだコイツ。
「世界樹様のお知り合いで?」
「そうよ~。」
「我々の事を知らないので?」
「あ~、初めて見たから心配してるのよ。」
太郎は不思議そうに見上げている。風に靡くスカートの所為でマナのパンツが丸見え・・・穿いてなかった。
「ちょっと挨拶してきます。」
「挨拶・・・やめといた方が良いわよ。」
「大丈夫ですって。」
「・・・まぁ、いいか。わたし、しーらなーい。」
マナは何を言っているのだろうと、そう思っている七色の鳥が降りてきた。
「一回しか言わないからよく聞けよ!」
近づいて来る鳥が何か言っているけど良く聞こえないな。
「声が小さくてよく聞こえないからもう一回言ってくれる?」
「・・・。」
作業待ちをしているエルフ達も不思議そうにこちらを見ている。
「聞いて驚け!見て嘆け!」
前口上かな?
「我らはシルヴァニード様に仕える一番目の子分だ!」
一番目の子分が沢山いるな。
「へ~。」
「驚けよ!」
「しるば~?」
するする~ポン☆
「シルヴァニード様だ!」
小鳥が一気に集まってきて、太郎の周囲・・・ではなくシルバの周囲に・・・これ何匹いるの?
「シルヴァニードさま~、シルヴァニードさ~ま~。」
いつもならすぐ俺に話しかけてくるのだが、何故か無言で、すこぶる機嫌の悪そうなシルバを見るのは初めてだ。
「あなた達、子分を名乗るのやめなさいって言いませんでしたっけ?」
「我ら風の使徒としてズット信仰してますのに。」
「じゃあこれからは太郎様に仕えなさい。」
「たろう・・・さま?」
「私はもう太郎様に従属しています。」
太郎の両手が仄かに光る。
「言う事をきかないとみなさん焼き鳥ですよ?」
小鳥を食べる趣味は無いな。
そこへ、マナがふわりと降りてきて俺の肩に座る。
「太郎は適格者みたいだから、大事にしないと困るのはアンタたちなのよ。」
七色の鳥の身体がプルプルと震えだした。周りの小鳥も共鳴するかのようにプルプルと。なにこれ、恐い。
「たった今よりタロウ様の一番目の子分になりました。宜しくお願いします。」
「嫌だからやめて。」
「そんな~。」
なんて軽い連中だ。しかし、喋れる鳥って見ようによっては可愛いぞ。
「子分に固執する理由が気になるな。」
「私の子分にはならなかったのにねー。」
「世界樹様は別格です。」
「世界樹様が別格だったら、太郎様は神格になりますよ。」
シルバの言葉で更に震える鳥達。
痙攣しながらパタパタと倒れ始めた。
恐いを通り越して気持ち悪いよ。
「もうおしまいだ~おれたちはどっちにしてもしぬんだ~。」
「どっちにしてもってなんだよ。誰かに命を狙われてるの?」
「我々は迷いの森に棲んでいたのですが、キラービーとの縄張り争いで負け続けて・・・やっと世界樹様の許で棲めると思ったのに・・・。」
「昔はもっと沢山いたと思うけど?」
「今はここに居るので全部です。」
「あらら、だいぶ減っちゃったわね。」
「だから、おねがいします~、ここに棲むだけでも~!」
「棲むのは別に構わないよ。」
「流石親分!」
「それはヤメテ。」
「やっぱりしぬんだ~。」
なんだこれ。
「子分にしないと何か困るの?」
「キラービーの女王が強くて強くて。」
「代わりに退治してくれる人を求めていると。」
「迷いの森にキラービーが棲んでるとな。」
オリビアが割り込んできた。
「キラービーを知ってるの?」
「キラービーは別名雄殺しと呼ばれる凶悪な魔物だ。」
「雄殺しとは恐い名前だな。」
「うむ。何しろ雄が近づくと雄としての機能が失われると言われている。」
「機能って・・・え?」
オリビアが言い難そうにしていると、代わりに答えたのはシルバだ。
「勃起不全の機能障害です。」
「兵隊蜂で太郎殿の顔ぐらい大きく、女王ともなると人のような姿をしていると言う噂だ。」
「噂ではなく人型ですね。」
「ただ、キラービーの集める蜜は凄く甘くてだな・・・。」
「若返りの秘薬とも言われていますが・・・。」
エルフの女性陣の目付きと雰囲気が変わる。
いつの時代も、どこの世界でも、若返りと言うワードに女性は弱いのかな?
「まぁ、若返るかどうかは知りませんけど、そのままでも凄い回復効果が有ると言われています。」
「高級品?」
「スーパーウルトラグレートな高級品ですよー!」
スーは何処から来たのか、いつの間にかエカテリーナと一緒に居た。
「もうすぐお昼ですよ。」
その一言は次の行動を決定した。
「あ、じゃあ食べながら考えるか。」




