第120話 建設ラッシュ
俺の仕事。
それは木を伐採する事。
木材を集めて希望の建築資材に加工する。
エルフ達がガンガンと家を建設していて、兵士達も手伝うからものすごいスピードで家が完成していく。寝る間も惜しんでの突貫工事だが、寝る場所が無いので起きていた方が良いそうだ。
それもそうだが、テントぐらい用意するよ?
そんな俺は、建築は手伝えないので必要な建材が集まってしまえばこちらでする事はない。
なので・・・、畑の手入れをする。
黒ずんだ土を引っぺがす。
子供達と遊ぶ。
狩りに行くと子供が付いて来ようとするので行くに行けないな。
世界樹とトレントに水と泥を与える。
スーが子供達だけではなく兎獣人親子とケルベロス親子も集めて全員でワルジャウ語講座をしている。
なんで俺も座らせるの・・・あ、子供が俺の傍に寄ってくるからか。
毎日がこんな調子で、平穏そのものだ。
平穏なんだけど、夜にのんびりと寝れる日が凄く減った。
何しろ子供だけで7人、マナもしっかりと混ざってくるが最近は入りにくいようだ。
マナは子供に含まれないのだが、頼むから変なこと教えないでくれ。
いつも通りポチが傍に居てくれるのだが、何故かチーズとその子供達も傍に居る。
俺にプライベートは無いのか・・・。
子供枠のエカテリーナは最近スーと一緒に寝ている。たまに俺の部屋を覗き込んでくるが、常時満員のような状態なので遠慮しているようだ。
グリフォンは・・・また倉庫で寝ている。人の姿だと全力が出せないのであまり見せたくないと言っていた筈なのだが、今は平気で寝ている。しかもここ床の上だぞ。せっかくベッドを置いてもいつの間にか床で転がっている。
そして、何日も寝ているのだからどれだけ安心しているのか。
まぁ、戦う事を忘れたって良いじゃないか。
そのままにしておこう。
―――平穏に数日後―――
「設計図が無いから目算だが、ちゃんとした家になったな。」
オリビアが腕を組んで完成した家を眺めている。
現場監督のような仕事をしつつも、しっかりと作業も熟す完璧な働きぶりは兵士達も感銘を受けてしまい、今じゃ隊長代理の立場がだいぶ弱くなってしまっている。でもこの代理はあんまり気にしていないようだ。
「こんな良い家はなかなか無いぞ。俺も家を建てる時はエルフに頼もうかな?」
「エルフが魔王国に居ないだろう?」
「いないな。特に魔王国で規制している訳でもないし、他種族を嫌うほど排他的でもないだろうに。」
「頼られるのは構わないが頼るのはあまり好まんのだ。」
「そんな気風なのによく国家が出来たね?」
「そんな気風だから崩壊したんだ。」
確かに。
「それに、エルフと言っても全員が仲良しでは無いからな。他国に行けば迷惑になりかねん。」
「それなら何でここに来たんだ?」
「・・・太郎殿に問われるのなら答えるが、魔王国の軍人に答える理由は無いな。」
なんで俺の顔を見るの?
別にそんなの知りたいとも思わないんだけど。
だいたいそれだけ聞けばここに来た理由が分かりそうなものなんだが?
「まぁ、昼間は暖かいけど夜は冷える事だし、完成記念にパーッとみんなで・・・って言うほど良いモノもまだないか。」
「酒でも有れば違うのだがな。」
「酒かぁ・・・。」
そしてもう一つ、ペンションの横に大きな建物が完成した。こちらは食堂兼集会場で、二階の一部は来客用の寝室があり、今まではペンションで使っていたキッチンルームも倍ほど広い。
エルフ達は自分達の食事は自分で作ると言っていたのだが、エカテリーナに圧し負けたのだ。もちろん一人で作るには大変な量には違いないので、いつも通りにスーが手伝い、場合によってはエルフ達や、ウルクが手伝う事も有るのだが、残念な事にウルクは料理をしたことが無いそうだ。
「素材のまま食べてたんだって。」
「料理って凄い。」
「おいしー。」
と、通訳をしている太郎。
ワルジャウ語を覚えるのが大変なのだろうけど、聞いて少しは理解できるようになったと言っていたので、喋れるようになるのも早いかもしれない。ちなみにウルクの子供達は、片言ながらワルジャウ語しか喋れなくなっていた。チーズとウルクが必死で覚えようとしているのを見ると、ガンバレーっと心の中で応援している。
俺はそんな必要が無くて助かる!ありがとう言語加護。
「それにしてもちょっと大き過ぎない?」
それは建設中にも言ったのだが、オリビア曰く「いずれ必要になる。」との事。来客があった時に必要な場所が無いと困るのは解るけど、来客が有るの?
それなりに寒くなったので、夜の見回りも大変だ。今まで一度も魔物の襲来とかは無かったのだが、それでも見回りは絶対に必要だと兵士達だけではなくエルフ達も同意見だ。しかし、ここには着替える為の服が無い。無い訳じゃないけど防寒具は特に少ない。見回りの為の歩きやすい道を造って、水路の上を通る小さな橋も作って、畑の横も倉庫や世界樹までの道も通りやすくなったが、夜は寒い。
「もう、完全に村だよね、コレ。」
「太郎殿はここをどうしたいおつもりなので?」
「大き過ぎず、小さ過ぎず。」
オリビアが困惑しながら俺を見ている。少し肌寒い所為も有って頬が赤く、遠めに見ると乙女が告白しているようにも見えなくない。
見えなくもないけど、決してそんな雰囲気では無いから、そこのエルフの女性陣は覗き込んで変なうわさ話をしないで。スーが文字通り飛んで来るから。
「今回はどんな場所なのか知りたかったのと、問題が無ければと言うのは太郎殿に失礼になるのだが、向こうに住んでいる者達を全員こちらに呼びたいのだ。」
「それは太郎より私に失礼ね!」
「世界樹様がいらっしゃればこその安全ということは解っていますので。」
「・・・マナに頼ってもらうには傍に居た方が良いもんね。」
オリビアが恥ずかしそうにモジモジした。
「まぁ、来るのは問題ないけど、家足りる?」
「子供を含めると65人程になりますので不足するのは間違いないです。」
「畑を増やすのにも今のところ俺かグリフォンしかまともに土が剥がせないしなあ。」
エルフ達も黒ずんだ土を剥がすのに挑戦したが、案の定たいした戦力にならなかった。オリビアがかろうじて少しマシな程度だ。
「剥がすだけなら私が一気にやっちゃうけど。」
「土魔法で一気に?」
「私の力もだいぶ戻ったから出来ると思うわ。」
「魔王国迄の街道の舗装用に使うからあんまり細かくしないでね。」
「おっけー。」
マナは一体何の魔法を使ったのかは分からないが、もの凄い地鳴りと共に周囲の黒ずんだ土が一気にひび割れた。建物が崩れないか少し心配したがオリビアが平然としているので心配はないだろう。
スーとエカテリーナが少し離れたところで抱き合って震えている。
スーが怖がるのは忘れてただけだが、エカテリーナも怖がってたんなら悪い事をしてしまった。
揺れが収まった後は剥がれた土を運んで一か所に集めるだけだが・・・。
「太郎さんもマナ様も、やるんなら一言くらい言ってくださいよー!」
揺れが収まるとスーとエカテリーナがやって来た。
「あっのっ!火を使ってるときに揺らさないで下さい!」
それは全くその通りだ。
マナが悪い。
「世界樹様のやった事なので・・・。」
オリビアは言い難そうだ。
「あーあー、わかったわよ、わたしがわるいですよーーーだ!」
拗ねちゃった。
しょうがないな~。
頭を撫でておこう。
「それにしてもこの広範囲を土だけ割るというのは不思議な魔法ですね。」
「多分、私にしか使えない魔法だから。」
「誰でも使えたらそれはそれで困りますねー。」
「私の方法では難しいってだけで太郎も同じことは出来る筈よ。」
「まじで?」
「うん。マジマジ。」
一般でも可能になるのは恐ろしい気がする。
マナがかなりの範囲の土を破壊したので、土を一つずつ回収する作業となった。兵士の他にエルフも加わり子供達も手伝ってくれた事も有って、日没までに土が綺麗に剥がされた。ただし、川向うはまだ真っ黒だ。
「これで畑の拡張も出来るな。」
「もっと色々作ろうよ!」
「それにしても。」
「?」
それにしても、最初からマナに任せたらもっと簡単に土を剥がせたのか。
と言う、ちょっとした後悔が太郎の心を侵食したが、直ぐに切り替えた。
「頑張れば誰も出来るかもしれないという事は魔法の訓練をしないとダメか。」
「魔法のイメージ力もそうですけど、そもそもの魔力量が桁違いなので太郎さん以外は出来ないと思いますよー。」
「やはり太郎殿は凄いな。」
オリビアが腕組みをして太郎をまじまじと見詰める。
視線が熱いぞ。アチチッ
「ところで、畑はいつ完成するんですか?」
「今の畑だと足りないもんなあ。」
「最近お肉ばかりですし。」
「贅沢な話だな。」
「調味料はスーさんが沢山持ってきてくれたので困りませんが、毎日お芋ばかりでも皆さん飽きてしまいますよ。」
エカテリーナの料理が美味しいので苦情が出ていない・・・という訳では無く、兵士達は食べられれば文句は言わない。それでいて肉も安定して食べられるのだから文句を言う筈もない。
「子供に料理をさせているというのが申し訳ないのだが。」
「私の仕事なんです!」
エカテリーナが精いっぱいにムムムって表情を作っている。
それ、ただ可愛いだけだからね?
アレ?
あの銀髪の志士が圧されているだと・・・?!
いや、しらんけど。
「まぁ、交代で手伝えばいいんじゃないかな。そうしてるんでしょ?」
「そうなんだが・・・。」
「何か問題でも?」
子供の面倒や世話は親が、大人が見るべき。
という古い風習がそのまま踏襲されているようだ。
「いずれ村長となるお方だしな。従うのも務めか。」
え?
今なんて言った?
何かとんでもない言葉を聞いてしまった。
どうしよう・・・。




