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第13話 ダリスの町 (1)

 条件1


 人は殺さない。たとえ攻撃されても追い払うか逃げること。

 

 条件2

 

 特に用が無ければ喋らない。俺が話しかけた時は返事してね。淋しいから。


 条件3


 俺とマナの傍を離れる時は必ず声をかけること。

 

 条件4

 

 基本的に俺の命令は必ずきくこと。どうしても無理なら理由を言うこと。



 1つ目の条件は絶対に守ってもらう事を約束した。これが基本だから。2つ目はあんまり喋ると犬っぽくないから。3つ目は迷子になると困る。いや、俺が迷子になるから。4つ目は、俺の困る事をして欲しくないのが理由で、俺自身がこの世界の事に詳しくないから、常識などが間違っていたら指摘してかまわない。マナもよくわかってないしな。


『・・・わかった。守る。だけど、意外と抜け道が多い約束だけど、本当にこれでいいのか?』

『いいよ。ただ、申し訳ないけどマナと対等には見れない。それは俺がケルベロスをよくわかってないから、もっと長く付き合えば約束なんてないのと変わらなくなるよ。』

『変わった人間だ。でも、約束は守る。お前を困らせたりはしない。』


 俺が頷き、約束した内容をマナにも説明する。マナは直接ケルベロスに話しかけることはないが、すでに頭を撫でたり、尻尾をもふもふして遊んでる。


『俺が困る事は耐えるとするか・・・。』

『すまんな。』

『ケルベロスって種族っていうか総称だよな。』

『そうだが・・・?』

『個別の名前ってないのか?』

『名前はまだ無いな。』


 犬といえば・・・ポチ。うむ、いい響きだ。と、思ったのは俺だけだろう。安直なんだろうけど、この世界にポチって呼ばれている存在がどれだけいるのか。


「私が知っている限りだと、太郎の居た世界のようなペット感覚で魔物を飼う人って知らないわね。知らないだけで、それなりにいるんじゃないかしら?この世界だと、ペットというより奴隷に近いわ。命令を受けて行動するタイプ。曲芸団なんかがそうよ。」


 そういえばそんなこと言ってたな。


「ポチー。」


 マナがそう呼びながらモフモフしている。毛が柔らかくて気持ち良いんだろうな。俺もモフモフしたい。

 こうして太郎、マナ、ポチ、の、二人と一匹は旅を続け、ポチは本当に賢く、マナと太郎の会話を少しずつ理解していき、ほどなくダリスの町に到着した。

 王都の城下町までは山岳地帯を超えるか大きく迂回する海岸コースがある。かなり以前の話だが、山岳コースにはその名の通り山の盗賊、山賊が現れて商人達を悩ませていた。近年はしっかりとした舗装と、街道を照らす灯りが配置され、警備の巡回も増やし、夜でもかなり安心して歩けるようになった。一方の海岸コースは道中に港町が有るが、街道の整備は未だ建設中である。盗賊団の存在も確認されていて、護衛を雇わないと安心できないレベルだ。どちらの道を選ぶにしても、王都の城下町を目指すには、それなりの準備が必要だった。


 ダリスの町は鉱山が在り、一年中活気に満ちている。鍛冶屋が多く店を構え、多種多様の道具が作られていた。ここから、国境の名もなき商人の町へは護衛を雇う商人が多く、道案内と護衛、道中の安全を守る為の討伐や退治、探し物や宅配、人探し、それらの依頼をまとめて管理しているギルドが存在し、魔王国の公認の商工ギルドと、非公認の冒険者ギルドがある。非公認でも国営からの依頼が出ることもあり、正規依頼として一般には位置付けられている。

 闇ギルドという、裏家業を生業とする者達が訪れるギルドもある・・・のは、公然の秘密となっている。しかし、妙に人探しや物探しが巧い者がいて、裏とか影とか呼ばれながらも、意外にも利用者は多い。

 その町の入り口付近に到着すると、すでに人は多かった。旅立つ者や町に入る者達で広い道路が半分くらい埋まっている。

 城塞都市という程ではないが、町の周りを壁で囲っているらしく、勝手に入る者が現れないように制限しているようだ。


「入場制限とかってあるのかな、通行料とか、手形とか。」

「手形って何のこと?」

「ん、あぁ、俺の世界の昔の通行手形で、関所とか通るのに必要だったらしいよ。」

「ん~?許可証とは違うの?」

「そう、それと似たようなもん。」


 マナには理解しにくいモノなのは当然だろう。ほとんど移動しないで生きていたのだから。しばらく眺めていると俺の後ろに人が立っていた。一人ではなく数人で。


「あんたら入らないのか?」


 ごつい鎧を身に纏った3人の男達。俺たちを見て少し苛立っているようだ。それもそのはずで、後から気が付いたのだが、入場する者は右側を歩き、出る者は左側を歩く。俺達はその右側に居て、ぼーっと立っているだけなのだから。道を外れて後ろの人達に譲る。そのついでに話しかけた。


「すみません、ちょっと聞きたいのですが・・・この町に入るのに何か特別なものが必要ですか?」


 俺達の服装で旅人だと思ったのだろう。犬も連れているので珍しいと言えば珍しいのかもしれない。俺自身はあの当時のおっさん顔もしておらず、若い二人が何か理由があって旅をしている・・・と、想像の翼をバタバタと羽ばたかせたと思われる。


「若いのに遠くまで歩いてきたのか、ご苦労なこったな。」


 意外と優しい声だった。幼体のケルベロスを見てもなんとも思っていない。ただの犬だとでも思ってくれたとしよう。


「お前らハンハルトから来たんだろう?」

「あ、え、えぇ。」


 あながち間違ってはいない。方向としては同じなのだから。


「何処のおぼっちゃまか知らないが、身分を証明する物が有れば基本的には無料で入れるぞ。」

「・・・無ければ?」

「だろうと思ったよ。世間知らずで旅に出るなんて無謀過ぎる。」


 説教されてしまった。とは言え、初対面の相手を心配してくれるような人ならもう少し聞いてもいいだろう。


「通行税とか、手形とか、何か必要な物が・・・?」

「通行税と手形は商人達だな。あいつらは武具も運ぶ事が有るから高いんだぞ。お前・・・は、なんだ、変わった犬を連れているが、暴れたりしないよな?」

「それは大丈夫です。ケ・・・ポチは賢いんで。」


 マナが屈託のない笑顔でポチに抱き付く。


「いい子だもんねーぽちー。」


 マナの笑顔は凄い。男達の厳しい表情が少し緩んだ。流石、可愛いは正義だ。


「ま、まぁ、それなら問題はないだろ。」


 男が指を差す。その方向を見ると入り口の門の横に大きな建物があった。兵士の詰め所とはちょっと違う。人種も様々で、獣人の姿もある。


「冒険者ギルドは知っているだろう?」


 知りません。


「・・・はい。」

「嘘が下手な奴だな。お前ら先に行っててくれ、こいつらに常識を教えてくる。」


 他の男達が笑っていた。いつもの病気とも言っていたが何のことだろうか。二人が片手をあげて立ち去っていくと、残った男がこちらを見て、大きく息を吐いた。


「戦争が減ってきて平和になるとこういう輩が増えるのは、仕方がないことか。」

「戦争ってまだやってたの?」

「嬢ちゃんの方が常識がありそうだな。そうさ、まだガーデンブルクとやっているぞ。魔王軍も兵士の募集をしていてな。にわか勇者が現れたって騒ぎになってるんだ。」

「あ~、花と緑の良い国だったのにもったいないわねぇ。」

「俺は城下町までその募集に応募しに行くんだ。」

「確かにオジサン、ちょっと強そうだもんね。」


 会話をしているマナと男に入れないでいると、ポチが寄ってきて俺に頭をぶつける。何か喋りたそうだが我慢してほしい。約束したじゃないか。俺がしゃがむと耳打ちするほどの小さな声が聞こえた。


『こいつちょっとどころじゃない、俺達じゃ勝てないくらい強いぞ。』


 ポチの言う俺達にマナが含まれていない。実際の強さを知らないのもあるが、ポチはマナを普通の女の子だと思っている。まだ説明する時期じゃない。


『強いってことは色々詳しいんだ。二人が何喋っているかよくわからないが、ぼーっとしない方がいいぞ。』


 それもそうだ。しかし、見ただけで強さが分かるのか。ポチ凄いな。俺ってかなり弱く見られてるんだろうけど・・・。実際そうだからなんも言えない。二人の会話を要約すると、聞きたい事の殆どがその会話に詰まっていた。間に世間話が入ってもマナは動じない。これだと俺はマナの従者扱いかな。

 冒険者ギルドの前まで一緒に歩き、男は「気を付けろよ。」と言って立ち去った。このまますぐに城下町を目指すらしい。俺はというと、マナと同時にこの町に少し滞在しようと思った。だが冒険者ギルトである。受付らしきカウンターまで行くとすぐに気が付かれた。


「ちょっ、そいつも一緒に?!」


 カウンターを飛び出してきたのは受付のおっさん。若い女性もいたが、驚いているのか怯えているのか、動かなかった。

 ポチに抱き付いて安全を訴えたマナに負けたようだ。


「ケルベロスがこんなに懐いてるなんて初めてではないですけど、ちっちゃいと暴れるからしっかり管理してくださいよ!」


 ポチは・・・目を閉じてマナの頭ポンポンに耐えている。


「そ、そのままでお願いします。」


 カウンターに戻ったのでそのおっさんのところへ行く。他の受付は別の人と話をしていた。やはりどの世界でも受付は美人が多い。


「依頼の受付ですか?」

「いや、ここでカードを作ってくれると聞いたので。」

「ああ、新規だね。」


 木板のようなものを取り出すと、変わったペンでガリガリと書き込んでいる。不思議な筆記用具だ。


「パーティ登録するのかな?個人登録だとそのモンスターは登録できないから。」


 ここで先ほどの優しい男の人の会話が生きてくる。新規だと面倒な事を言わなければならなかったりするから再発行と言うと良いとの事だ。身分を隠してるのならそうするべきだと教えてくれた。身分などないが余計な事をしなくて済むのならその方がいい。


「魔物に壊されてしまって再発行したいんです。」


 壊れたカードの一部を見せる。むろんその優しい人から貰った物だ。


「あー、こりゃ酷いね。じゃあパーティ登録でいいね。代表者が書いて。」


 書く・・・書く!?

 今更過ぎる困ったことに直面した。

 俺は字が書けない。

 この世界の文字は知らない。

 どうしよう・・・。

 ただ、それは杞憂に過ぎなかった。






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