第108話 適格者
突然現れたようで、実は少し前から様子を見ていたシルヴァニードは、ある決断をした。それは定められた運命とは関係なく、四大精霊たちが自分の立場と能力を正しく使ってくれる人物を常に求めていたというところに起因する。
目の前にいる人物はこれまでに見た事がないほど優秀な人物だったのだから、これなら他の精霊たちも納得するだろう。
「手を・・・。」
言われるがままに太郎が手を出すと、その手の上に両手を重ねた。
一陣の風が通り過ぎる。
目の前に居たシルヴァニードの姿が足のつま先までしっかりと現れた。
「以前は世界樹様のマナを特別にいただきましたが、これからは太郎様にお願いします。」
「どゆこと?」
マナの質問は俺の質問と同じだ。
「風の精霊として太郎様に従属します。」
「は?」
「え?」
「いきなりそんな事を言われても俺は何も出来ないよ?」
「特に何かしていただく事は有りません。私はこれからも普段通りにしていますが、いつでも私の事を呼んで好きに扱ってください。」
「もう少し詳しく。」
「・・・ハッキリ申し上げますと、太郎様の魔力量が、特に風に関係するものですが、私を超えています。存在で言えば私が風の精霊を名乗る立場ではなくなったという事です。」
「風の魔力?」
「はい。」
「あ~、四大精霊のやつね・・・えーっと、なんだっけ?」
マナの記憶力は期待できないな。
「水のウンダンヌ、火のサラマドーラ、土のグーノデス。」
「てか、そんなにあっさり俺のところに来てよかったの?」
「確かにあの子達の事は心配ですが、信仰をもらったので少し返しただけにすぎません。それに・・・世界中に信仰者がいるので、その全てに返せるわけではありません。」
「そんなもんか。」
「そんなものです。」
それよりも気になる事が一つ。
「風の魔力がシルバ様を超えたって事は、例えば水の魔力も超えたらやってくるの?」
「・・・・・・・・・来ます。」
今の間は何。
「あの、決まり事ではないので自分の意志で決められるのです。あと、シルバでもシルヴァニードでも、どちらでも良いので敬称を付けられると少し恥ずかしいです。」
「そんなもんなの?」
「そんなものです。」
いきなり過ぎて飲み込むのに時間が掛かるな。
「・・・じゃあ呼びやすいからシルバで良いか。てか、マナの事は世界樹様って最初から呼んでたよね?」
「世界樹様は我々の存在を超えていますが、人としての存在ではありませんので。」
「そーゆーもんなの?」
「そんなものです。」
マナもなんとなく考え込んでいて、これが一体どういうことかと言うと・・・誰か説明してくれないかな?
「キゃッ!」
エカテリーナの声だ。振り返ると、溜め池から水の柱が立っている。何なんだこれは・・・。
「ウンダンヌです。彼女も来たようですね。」
「水の精霊ね、初めて見るわ。」
「マナほど生きていて初めてって・・・。」
「太郎様~。」
一番近くで見ていたエカテリーナが、驚いて半ベソになりながらこちらに駆け寄ってきた。しゃがんで迎え入れると俺に抱き付く。
「あ~、多分怖くないから、ダイジョブダイジョブ。」
そう言って頭を撫でる。
なんでマナまで俺にくっつくの・・・。
「あらー、シルバがいるって、適格者なの?」
水柱から声がする。その姿が段々と・・・人の姿に変化していくのだが・・・なんでみんな裸なんですか。しかもすげー美人だ。
「あなたの名前は?」
俺を指さしている。
「鈴木太郎だ・・・けど・・・。」
「そんなに警戒しなくても何にもしないわ。」
「じゃあ、精霊って言われるあなたは何の用で?」
「わたしも面倒見て貰おうかなーって。」
「はぁ。」
なんかこの水の精霊・・・軽い。
何故かウェーブの髪形でふわふわしているようで、水が滴っている。足のつま先は水が流れるようにウニョウニョしていて良く分からない。そして何よりも無駄に胸がデカい。俺の頭ぐらいあるんじゃないか・・・。
「何でこの子、私の胸を凝視しているの?」
「太郎様は私達が裸なのが気になるようですね。」
「以前の主ちゃんがこの姿を好んでたからずっとこの姿でいた所為で他の形になりにくいのよ。」
主ちゃん・・・?
「そう言えばウンダンヌは他にも適格者がいたのでしたね。」
「でも6000年くらい前の話よ。」
「もうそんなに経っていたのですね。」
俺達の存在を無視するように会話をしている。
「ちょっとー!アンタたちココは私達の土地なんだから勝手な事しないでよ!」
「あれ・・・このちんちくりん・・・世界樹様?」
「ちゃんとアレ見なさいよ。」
マナが指さすのは大木の方の世界樹だ。
「あー、ゴメンゴメン、気が付かなかったわ。」
敬称を付けて呼ぶ相手にする喋り方じゃないな。仕草も、口調も、なんかギャルっぽい。ギャルってこんな感じだっけ?
「・・・あなたはどうするの?」
「どーしよっかなー・・・。」
「何かまだ納得できない部分が有るのです?」
「そーゆーワケじゃないんだけどぉー・・・。」
俺の顔を見てるのは何だ。
「私、子供の方が好きなのよねー。」
なに言ってんだコイツ。
「そんな趣味有りましたっけ?」
「主ちゃん可愛かったのー。」
「別に、無理して従属するもんじゃないだろ。」
「そーなんだけどねー・・・従属しないと魔力も自給自足だから。」
「信仰を貰うって、その姿を現せばたくさん集まるんじゃないの?」
「普通は特定の条件を満たさないと私達のことは見えないのよ。」
「普通に見えてるんだが・・・。」
「あんた、太郎から魔力盗んでるわね。」
「えへへー、バレちゃった。」
てへっ・・・てスンナし。
それにしても、全裸の美女に前後を挟まれている所為で、エカテリーナの教育にもなんか悪い気がする。・・・美女だけど人ではないし亜人でもないのか?
しかし、決定的な違いはある。
マナには有るので、思わずマナの顔を見ると察したようだ。
「乳首も穴もある私の勝ちね!」
言いにくい事をあっさりと言うマナに助かるけど、助からない。そういう意味だけど、そうじゃない、もうちょっと、なんていうか、ほら、柔らかく包み込んだような表現ないかな。
「そんなの必要ないもんねー。」
シルバは無言で微笑んでるが、何か威圧を感じるのはなんでだ。
いや、解るけど。
「とりあえず、見た目だけでも良いから隠してくれないかな。俺達だけなら・・・まぁ、まだ良いけど、他にもいっぱい居るから・・・。」
「ただいまー!」
ほら帰ってきた。フラグってやつだ。
スーがスキップしながらこちらへやって来た。良い事でも有ったのだろう。しかし、ふわふわと浮いている二人の存在に気が付くと目を丸くしている。
「・・・なんかすごいのが見えるんですけど。」
丁度ログハウスが邪魔で直接見えなかったので、カール以下、隊員達はまだ見えていないが・・・。
「太郎殿、なかなかいいモノが・・・なんじゃこりゃあ?!」
こんな驚き方する人だっけか・・・?
兵士達もぞろぞろとやって来て、不思議な存在を見て驚きを隠せない。
こら、股間を抑えるな。
「なんか、いかがわしい匂いがするわねぇ。」
「そう思うならその全裸をどうにかしてくれ。」
「んー、しかたないなー。」
シルバとウンダンヌの見た目だけはワンピースを付けたような姿に変わった。マナもそうなんだけどなんでワンピースなんだろう?
おい、あからさまにガッカリしないでくれ。
「太郎殿、この不思議な二人は一体?」
「こっちは、あのシルヴァニードですねー。」
「シルヴァニードって、噂だけで姿を見た事は無いが、本当に存在したのか。」
驚いたまま、まじまじと見詰めている隊長。やはり見慣れている所為なのか、全裸に驚いている様子はない。その部下達はダメだけどな。
「こっちの爆乳は知りませんけど。」
「アンタも結構デカいじゃないのー?」
「天然ですから!」
何を自慢してるんだ、ナニを!
エカテリーナが自分の胸を触って溜息を吐いている。まだ成長過程なんだから気にしないの。・・・マナは関係ないだろ、自由に姿形が変えられるんだから。
このままだとどうしても話題が危ない方向になりそうだな。気分良く帰ってきたスーに話題をフルとしよう。
「・・・そんなことより、何か良い報告があったんじゃないの?」
スーの耳がびくっと動く。
「あー、あまりの衝撃に忘れてましたけど、良い鹿肉が手に入りましたよー。」
「それは良いな。・・・でも、加工は誰が?」
「そのくらいは俺がやる。と言うか、さばくぐらいなら普通にみんなできるぞ。」
「そういうもんなんですか?」
「そーゆーもんだ。」
あれ、このやり取りさっきもやったような。
兵士達にとっては現地調達の技術が無いと生き残れない事もあるようで、食べられれば幸せな日も有るそうだ。俺は兵士にはなりたくないな。なりたくはないが覚えておいても損は無いし、今度教えて貰おう。
「そういや、戻ってくる途中に思ったんだが、この黒くて硬い土って道の補強に使って構わないか?」
足で地面を蹴りながらカールが言う。
「今のところ使い道もないし、今後増え続けるでしょうから構わないんじゃないですか。」
ん?
道の補強?
「大量の荷物を運ぶにしてもちゃんと整備した方が良いだろ。山越えの険しい道もあるし、道中に休憩所というか宿泊可能な施設も幾つか欲しいしな。」
「やる事がいっぱいありますね。」
「有るには有るんだが、とにかく材料が足りない。」
「木材もそれほど無いですよ。」
「それならここの森の木を伐採する。材質とか気にしていられないと思ったんだが、さすがにこの辺りに生えてるやつは植物でも根性があるらしくてな。」
「どういうことです?」
「太くて重そうな樹が多いんだ。」
スルスルっとシルバが俺に近寄ってきた。
「元々トレントが沢山いましたのでその影響だと思いますよ。トレントがいる森はトレントの力が周囲にも影響しますので。」
「前は沢山いたんだけど、みんな燃えちゃったから。」
「トレントって増やせないの?」
「成長に時間が掛かり過ぎるのよ。」
「あー、マナの力でも何ともならない?」
「今は無理ね。」
にゅるにゅるっとウンダンヌが寄ってきた。俺の身体に巻き付いてくる。
「私の力である程度成長は促進できるけど、グーノデスがいればもっと早いわ。」
「グーノデスは動かないで有名なので無理ですけどね。」
「有名かどうかも知らないのをまるで常識の様に言われても。」
「ん~・・・一部では有名って事で。」
マナが俺の頭の上に乗ってきた。
「ナナハルの所から少し分けてもらうってのも有りね。」
「アリかもしれないけど運ぶのはどうするんだ?」
「それは・・・ナナハルなら出来るでしょ。」
圧縮魔法が使えるって話だったな・・・。
「連絡する手段がないよ。」
「それなら私にお任せください。」
シルバなら移動は一瞬か。なるほど。
「場所知ってるの?」
「知ってます。」
「知り合いだったりする?」
「見た事は有りますが話をした事は有りません。」
「俺からの言伝って信じてもらえるかな?」
「太郎様の魔力を少し頂ければ。」
「良く分からないけどそれで信じてもらえるなら頼むとしようかな。」
「直接、太郎様の声を届けますので。」
「携帯電話みたいだな。」
「ケイタイデンワ?」
「いや、何でもない。」
それなら他の所にも連絡しておいた方が良いかな・・・ダンダイルさんも心配しているかもしれないし。
考え込んでいる俺に三つの顔が近寄る。エカテリーナは割り込めなかったようだ。
「ナナハルさんにトレントを分けて貰えないか頼むとして、ダンダイルさんに予定より帰るのが遅れるってのも連絡してもらおうかな。」
「俺達の家もちゃんと欲しいしな。」
隊長が問題にしているのは、兵士達が大きなペンションに無理矢理詰め込まれているダケで、ちゃんとした宿舎を建設するには材料が足りないだけでなく、帰還するまでの日数も絶望的に足りない。足りないのだが・・・何故かここに居る人達は不安に思っていない。
メッセージについて考えようとした時、俺の頭の上で会話を始めた。
「ねぇ、この子の魔力ってなんか気持ちいいわね?」
「太郎様の魔力は世界樹様に似ていますね。気持ち良いというか心地いいというか、安らぎますね。」
「太郎の魔力は私の影響を受けてるからねー。」
「私も従属しようかなー?」
「それも良いと思いますよ。」
俺の意見は無視されるんだろうな。
見ているだけで飽きてきたのだろうか、隊長が欠伸をする。会話に割り込みたいが割り込めずに待ちくたびれたのだ。
「・・・解散するかー。」
他にも報告したい事が有りそうだったが、諦めたカールがそう言うと、兵士達は名残惜しそうに狩りで獲た鹿肉を抱えて、ペンションの方へ向かって行った。それに全く気が付いていない人間ではない三人が、あーだこーだ言い合っている。
その場に慣れたエカテリーナが思い出したように洗い物を再開する。スーがそれを手伝う。その日は太郎以外は平和だったようだ。
「俺の頭の上で会話するなー!!」
俺の書き方に問題が有る事を初めて知ったけど
もう、マンドクサイ\(^o^)/
「」内に句点使っちゃダメなんだってー
知らなかった\(^o^)/
以前に商業投稿した事あるけど指摘されなかったもんな・・・




