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第105話 第一号

 休息と怪我の手当ても終わり、一応の全員回復となった。ただし、夜間見張り要因として兵士5名は今寝ている。昼間の気温はそれほど高くないが何しろ日蔭が無い。風は少し涼しいが、歩き回れば汗が出るくらいで、動かずにテント内に居れば快適かもしれない日中に、作業は始まった。


「資材に番号まで・・・なるほどなあ、これなら素人でも作れるって訳だ。」


 隊長のカールが説明書を見ながら感心している。

 スーとマナとポチは別行動で川の方へ、エカテリーナは太郎の傍で建築作業を見ているだけで、食事の準備以外はやる事がない。遠征中は三食きっちり食べる事は無く、昼拭きどころか、状況によっては晩も食べない事が有るので、エカテリーナとしては何も起きずに自分の仕事が出来る事を祈っていた。何でも良いから太郎の役に立ちたいと思っていて、今の自分に出来て満足してもらえたのは食事だけだった。

 ちなみに夜の方は・・・エカテリーナの方から身体を擦り付けたら抱き寄せてキスをしてくれた。ただし、それ以上はしてくれない。待っている間に寝てしまうのだ。


「ここに居る全員分の食事を作るんだから、それだけでも十分助かるよ。」


 大きな鍋を使って毎日の食事を担当しているエカテリーナは、バタンキューって成るぐらい働いている。もしかしたら奴隷時代より過酷な労働かもしれないが、健全さで言えば今の方が良いに決まっている。スーや太郎が手伝おうとすると、残念そうな表情になるので、完全に任せている。使い終わった食器類の洗い物は、太郎の水魔法で洗っている。そのまま水遊びになってしまう事も有るが、それはそれで楽しいので良し。たまに兵士が参加するのはなんでだ?




 この地に到着して三日目の夕方。ログハウスは7割ほど完成していて、屋根も有る事から交代で使用する事になった。平屋だが4LDKで、一応トイレと風呂場も有る。トイレは汲み取り式なので・・・処理が大変だ。風呂で使った水は栓を抜くと家の外へ排出されるが、そのままだと汚く感じるので大きな溜め池を作ってそこに流し捨てた後、火の魔法で蒸発させるという荒業で処理した。兵士の何人かは火の魔法が得意らしく、率先してやってくれたので助かる。・・・臭いが凄いらしいので終わったら蓋をするか。うん、もう少し何とかしたい。

 ちなみに溜め池を作る作業は太郎が一人でやった。なぜならあの黒い土を剥がす事が簡単に出来たのは太郎だけだったのだ。それは道具の所為でもある。


「太郎殿の道具は我々では使えないし、普通の土なら掘れるので広さだけ決めていただければ後はやります。」


 剥がせない訳では無いのだが、もの凄く苦労している上に、畳一枚分でも小一時間かかってる。

 それ以前にクワもスコップも太郎が神さまから貰った道具としては一つしかなく、他は普通のクワとスコップで、大工道具なども魔王国で買い集めた普通の道具だ。特に太郎専用という訳でもなかった道具が幾つか有るが、兵士が使うと何故かもの凄い疲労感に襲われるので普通の道具を使う事となった。

 ログハウスは6人で生活する事を想定して少し大きめに。と思っていたのだが、寝室は3段重ねで手作りのベットを頑張って21個設置した。部屋ギリギリいっぱいだ。もちろんベッドを作る資材は不足していたので、ベッドに寝袋を使って寝ている。木材は他の用途で使う予定だったものをベットに必要な形にカットした。このカット作業は太郎がやると一瞬だが、兵士達はノコギリで凄い苦労していた。


「建築土木の訓練もしましたが、ノコギリやノミとかカンナを使った訓練は数回やっただけです。基本は戦闘訓練でしたから・・・。」


 確かに訓練と言えば戦闘の方が重要なんだろう。てか、大工道具としてのノミはまだ解るけど・・・カンナってあったんだね。

 結果、内装で不足した材料などは太郎が作る事になり、洗濯物を干すスペースやテラスなども作った。

 洗濯もエカテリーナがやろうとしたが・・・量が多い上に力仕事なので、普段通りというのか、兵士達が交代で行っていた。

 女性グループ・・・と言うべきか、マナ、スー、エカテリーナの三人の洗濯物はスーが、こちらもいつも通りである。マナの場合は着替える事が殆ど無いので洗濯の必要は無いのだが。




 なんだかんだ一週間でログハウスは完成した。しかし、そのままでは全員が寝泊まりできない。しかし、テントで寝る兵士達が流石に可哀想なので、3部屋が寝室となり、ベッド数も35にして、女性専用の寝室も用意した。今のところ女性として扱うのはスーとエカテリーナの二人だけだ。マナは太郎のベッドかポチを枕にして寝ている。正確に言うと寝る必要が無いし、寝るという行為も模倣しているに過ぎないのだけども。


「これが第一号となる訳だ。」


 隊長が腕を組んで完成した家を眺めている。広い平地にたった一軒なので、ポツンとしているだけでなく、かなり寂しい。草も木も無いし、ぼぼ黒い大地なのだ。逆に言えば凄く目立つ。

 畑用に耕し始めた所だけは茶色い土が露出していて、マンドラゴラを植える準備は既に整っていた。・・・もう雑草が生えてるんだけど、なんでだ?


「次に来る時は宿舎も欲しいな。」


 そう言って俺の方を見ている。・・・定住というか駐屯するおつもりで?

 理由は簡単だった。

 小物なら魔法の袋で用は足りるが、資材関係は大量に必要となる。それらを入れる事の出来る袋を持っているのは俺だけという事だ。


「ダンダイル様にはすでに許可を得ていてな、ここに来るまでの道をある程度整備するように言われている。通るたびにあれだけの魔物に襲われていては困るだろ。」

「確かにその通りなんですけど、俺が何度も往復するとマナが・・・世界樹が定着しないのでは?」

「木材などは現地調達で、10年計画で整備する予定だ。」


 馬車が通れる程度の広さが欲しいという事なのだが・・・なんか話が大きくなってない?


「ここに街が在った当時も、色々な旅人が訪れていたという事だ。世界樹はかなり巨大だったらしく、目の良い奴なら城の見晴らし台から見えたらしい。結局は隠しても無駄だし、隠せないのなら、全面的に協力する事で牽制する意味もある。」


 なるほど・・・ね。

 そんな時ポチに乗ったマナがものすごい勢いで空から降ってきた。

 あぶなっ。


「太郎!見て見て!」


 マナが持っているのは何かの根っこのようなモノで、いや、どう見ても根っこだ。


「ナニコレ?」

「これね、トレントの根っこなの。」

「じゃあ、これで復活できるのか。」

「そーなんだけど、ちょっと枯れる寸前なのと、今の私の魔力量だと苗木にするのが限界で、役には立たないのよ。」

「普通に育つとどれくらいで役に立つ木になるんだ?」

「300年くらいかな。」

「俺死んでない?」

「神気魔法が使えると長生きするってナナハルが言ってたじゃない。」


 そー言われればそんな事を言われた気がする・・・。


「とりあえず、ポチもマナも泥だらけだから、風呂入ろうな。」

「うん!」


 ニコニコしながら俺の腕を引っ張る。確かに今は俺じゃないと風呂の用意はできないけども・・・、ちゃんと洗うだけだからな!




 マナの持ってきたトレントの根っこは、妙に白くて太い。まるでうどんの様だ。水を吸い上げるから根も太いのだろう。白いのは綺麗に洗ったかららしい。


「なんで洗ったの?」

「毒素を含んだ沼地の近くにいたから。」

「毒?!マナとポチはその毒大丈夫だったの?」

「ちょっとむせた。」

「あんまり無理するなよ。」

「あぁ、分かってる。」


 何処に植えるかを相談する。水の浄化作用が有るのなら、風呂の排水に使う溜め池の近くが良さそうだ。何かを決める時に隊長に話をしたのだが。


「なんで俺に言うんだ。この街は太郎殿のモノだ。好きに決めたら良いじゃないか。」


 俺、どんどん責任者になってきたんだけど。


「世界樹の管理人だろう?」

「管理人?」


 俺の立場どーなってんだ?


「違うわよ。太郎はね、私の愛人なの~。」

「・・・太郎殿の趣味に口を挟むつもりは無いが、幼女趣味はどうかと・・・。」


 俺の立場ぁ~。


「太郎はこの姿の私でも愛してくれたんだから。」

「もっと大人の姿の時もあったじゃん。」

「もっと大人が良いの?」


 マナは身体を変化させて、顔はそのままにスーに負けない巨乳スタイルになった。


「それは俺に効く。」


 この隊長は女癖が悪いとか言ってたなあ。

 と、思っている間に元の幼女に戻った。


「無駄にマナを消費するのは良くないわね。」


 俺は力強く肯いた。




 トレントはの根っこを埋める為に溜め池の横の土を引っぺがす。まだまだこの広大な土地の殆どが黒い大地だ。畑と家の周囲が茶色だが、既に雑草も生え始めている。植物って凄い。


「こんな感じで良い?」

「うん。」

「じゃー、頼んだ。」


 埋めた根っこに土をかぶせ、そこにマナが何らかの魔法を加える。エルフの村以来の光景だ。

 小さな若葉がびょこっと顔を出したかと思うと、ニョキニョキと伸びていく・・・なんか心太みたいににゅるにゅると。

 ある程度伸びると白かった色が茶色へと変色していく。

 若葉もいっぱいだ。フサフサだな。


「10年分ぐらいは成長させたから、喋れると思うんだけど。」


 トレントの知能ってどこに蓄えられるんだろう。


「おーい。元気?」


 周囲ではいつの間にか皆が集まっていて、興味津々に見詰めている。


「あ、世界樹様。」


 喋った。しかし、この音は何処から聞こえてくるんだ・・・。


「仲間が・・・みんな・・・。」


 このトレントにとってはあの時の記憶が最後なのだろう。その後もずっと枯れる寸前の状態でいたのだから、悲しい記憶しかない。


「大丈夫よ、ちゃんと逃げ出して他の土地で元気にやってるわ。」

「・・・。」


 なんか泣いているように感じるんだけど。あ、ちょっと喜んだ。マナもにっこりしているから、俺の感覚は間違っていないと思うのだが、隣で見ているスーもエカテリーナにも、特に変化はない。不思議そうに、興味深く、まじまじと見詰めているだけだ。

 みんなにもこのトレントの声聞こえてるよね?

 マナはまだ小さいトレントの頭(?)の部分を撫でながら俺を見て言った。


「この子にも名前つけてあげてよ。私みたいに。」


 たまたま、聞いていなかっただけの太郎が、感想のように呟く。

 心太じゃない・・・これはアレだ。


「なんか"うどん"っぽいんだよなあ・・・。」

「うどんですか。わかりました。これからは"うどん"とお呼びください。」

「へ?!」

「名前を付けていただけるなんて嬉しいです。」

「よかったわねー。」


 ちょっと、マナもうどんの意味知ってるだろ。

 ほら、他に考えるから・・・。

 えーっと、ん、うーん。

 やば、凄い喜んでる・・・どうしよう。


「うどんさんですかー。」

「うどんちゃんかも?」

「うどんってなんだ、お前知ってるか?」

「しらん。」


 俺の周りでは勝手に会話が進んでいる。

 結局、俺以外は納得してしまい、うどんという名前が定着する事となった。

 俺は名前のかわりに神気魔法でゴーレムに成れなかったドロドロの土と、誰もが絶賛する水を愛情を込めてうどんの周りに注いだ。

 うどんがなんかすげーキラキラしてる。


「あ~っ、うどんばっかりずるぃ!」


 あー、ハイハイ。

 マナが俺の指をガブリ。

 俺はその場から動けなくなり、野次馬達は自然に解散となった。

 畑作業は明日にしようか・・・。

 暫くはそんな感じでのんびりとした日々が続いていた。






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[一言] 「うどんがなんかすげーキラキラしている」 この一行だけだとただの茹でたてで輝くうどん(?)なわけだけど… うどん=トレントって知ったら…なんか神秘的だけどうどんって…ってなりそう(?)
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