番外 古代詠唱魔法と魔道具
時代はググっと遡ります・・・
「それって確認の取れた事実なの?」
「はい。」
「でも、若い子達に問題は無かったじゃない。」
「後天的に魔女に目覚めた者達だけが妊娠しないとの事です。」
生まれながらにして魔女として目覚めた者は子供を何人も残していた為に、はっきりとした確認が可能になるまで50年を要していた。
「マリアも妊娠しないわよね?」
「性行為なんて100年はしてないから分からないわね・・・。」
戦争に多忙を極める身としては興味も失せていて、男を見ても戦力としての能力しか評価していない。それどころか魔法を使えない男には更に興味が無い。戦争の道具として使えれば良いとしか考えていないのだ。
「まぁ、私達の後継者を考えるにはまだ早いわ。マナを効率よくコントロールすれば不老長寿も可能かもしれないしね。」
そう言っているマリアは既に普人としての領域を超えた年月を生きていて、周りにいる仲間の魔女も最低でも100年以上生きている。すでにいろいろと狂った感覚なのだが、彼女達には常識として浸透していた。
「それより、魔道具の開発は進んでるの?」
魔法の力を利用した、誰にでも使用可能な道具。それは魔女達があまりにも役に立たない者達をどうにか使える状態にして戦争に送り込む準備の一つである。
「今開発している詠唱魔法はかなり良い感じで進んでいるわ。誰でも一定の効果のある魔法を放てるようになれば、この世界は本当に魔法主体になりそうね。」
「それを防ぐ盾も同時に作ってるわよね?」
「一般レベルの武具にマナを注ぎ込むのはちょっと無理ね。ミスリル銀という不思議な金属は他の金属に比べてマナの含有率が高いみたいだけど。」
「そんな金属よく見つけたわね。」
「銀鉱山に偶然存在していたみたいだけど、知らない人が見たら普通の銀と変わらないからね。今までにもそういう金属が他にも見つかっていたかもしれないけど、気が付かない人が殆どでしょうから。」
「オリハルコンはどうなったの?」
「ぜんぜん採掘できないらしいわ。海に沈んだ古代都市に有るって言う噂なら聞いたけど。」
「それってどこの話?」
「えーっと、ギンギールよりもっと向こうだって聞いたけど。」
「硬質過ぎて加工できるのかしらね?」
他にもいろいろと議論や報告などをするこの場所は、魔女達が占拠した町の一つで、前線に最も近い。いつ敵が攻めてくるか判らない場所なので魔女達の中でも優秀な者が中心となって守っていた。
魔女50人。魔術師250人。通常兵士1000人が駐屯し、常に敵の攻勢を監視している。
「ドラゴンが邪魔しに来ることはないわよね?」
「あいつら話を聞いてくれる奴もいるんだけど、基本的に邪魔さえしなければあまり動かないって教えて貰ったわ。」
「あなたドラゴンと会話したの?!」
「空を飛んで遠くまで偵察してたら偶然空を飛んでいるドラゴンに出くわしちゃって・・・怖くて逃げられなかったんだけど、そのドラゴンは優しかったわ。」
「ドラゴンって昔に出てくる物語だと悪いイメージしかないんだけどねぇ。」
「っていうか、御伽噺だと信じられていた事が現実に現れてくるようになったのが私には恐ろしいわ。これから先まだ未知の生物が存在するかもしれないし。」
「ゾンビの話も面白そうよね。」
「本気で言ってるの、それ。」
「割と真面目よ。だって、意のままに操れる死の軍団を創ったら、脳みそに筋肉しかないような男どもよりも使えるんじゃない?」
「それも、詠唱魔法で何とかなるかもね。」
「本当?!」
「魔法で傷を治癒する力を持った魔女がいたでしょ?それと逆の事が可能なら、死者に何らかの影響を与えることも出来るんじゃないかしら。」
「マリアの発想は常に私達の先を行ってるわね。」
「誉め言葉だと思っておくわ。」
魔女達の研究は多岐に亘り、新金属の開発、それに伴う鍛冶技術。魔法の威力の調整、広範囲に影響を及ぼす大規模魔法。治療薬の開発と不治の病の治療法。誰にでも使える詠唱術と魔力の吸収と開放。魔力を動力源とした道具や、新技術。
その中で最も注目し、多くの魔女達が心血を注いで開発した詠唱魔法。
だが、問題も発生していた。
開発された不思議な文字を特定の条件で並べると、刻まれた板でも発動する。
詠唱する事で発動するのだが、言葉の意味が理解できなくとも魔法が発動してしまう。 魔法言語として外部に漏れないようにしているが、魔法を他人に教えるのが難しい。
だが開発は進み、数か月後には実戦に投入可能な人数が揃っていた。
数千の敵兵が攻めてきたとき、詠唱魔法の効果を試すべく送り込んだ兵士100名が圧勝
した。誰一人傷つく事なく敵をすべて殺したのだ。
そして周囲の地形も大規模に変化した。山が平地に。森が更地に。湖が小さな池に。
無邪気に喜んでいる仲間の魔女にマリアは釘を刺した。
「昨日まで魔法の使えなかった者達がここまで破壊的な活動ができるなんて恐ろしいわね。」
「威力は確かに高いけど連発は出来ないみたいね、なんでも凄い疲労感が来るとか。」
「その程度で済むのなら人数を増やせば良いだけだけど・・・それは魔法を一方的に使えるからよ。」
「まさか、相手の中にも使える者が現れるって事?」
「魔女の中で裏切り者が出たという話は聞いていないけど、兵士達は大規模に裏切り者が出ているわ。それはもう、国単位で裏切っているのよ。」
「魔法言語はそう簡単に・・・使えてしまうわね。」
「開発した時に気が付けなかったのが悔しいわ。」
「読めなければ問題ないから道具として開発したモノはそのまま残せるわよね?」
「そっちもある程度制限を付けましょう。」
「もう少しで転移装置が完成しそうなのだけど、これはどうします?」
「開発禁止にして頂戴。個人的に使用可能ならばその人だけが独自の判断で使用しても構わないけど、誰でも自由に転移が可能になったら世界が混乱するわ。」
「平和な町が、次の日には戦地に成るって事ね・・・。」
想像して背筋がゾッとする。
「魔法は万能という程ではないけど、魔法技術がこの世界に与える影響が大きいのは理解できたわ。」
少しどころではなく、大き過ぎる・・・。
この結果を受けて詠唱魔法は瞬く間に広まり、世界の各地で多様されるようになってしまったのはたった10年後であった。
山が崩れ、森が燃え、湖が干上がり、各地各所で被害は続出し、それは絶対必要な生産をも失わせ、消耗戦になるどころか飢餓と貧困に耐える戦いへと移り変わった。
魔法技術だけが異様に進み続ければ、世界が崩壊するより早く人類が滅亡してしまうと肌で感じた魔女達は、市街地での詠唱魔法の使用を禁じていたのだが、守られるはずもなく、村が燃え、町が消滅し、国が崩壊し、各地へと飛び火していく。
詠唱魔法が魔女達にも向けられたが、そもそもの魔法の威力が違うので負けはしなかった。だが、数で押されれば流石の魔女達も魔力が尽きて逃げるしかなくなり、逃げる国も故郷も失った魔女達はバラバラで逃げた。
詠唱魔法の使い手がいなくなるのは少し待てば分かる事だった。魔女達が教えていたのだから教えられた者達は戦いで敗れ減っていく。教わる者がいなければ増える筈もなく、詠唱魔法の使い手は数年の勢力で消え去った。それは同時に数多の命が失われたという事で、その後の数十年は戦争の無い僅かな平和が訪れていた。
魔女達は帰る国を失っていて、生き残った魔女達だけで国を創っていた。魔女達が再び勢力を盛り返したころ、魔女達の間で問題になったのが意思の疎通であった。
「あの子達なんて言ってるの?」
「ギンギールがどうとか・・・。」
「ギンギールって人なんか住んでたの?」
「戦争孤児や難民達が避難してその土地に逃げ込んで住み着いたそうなんですけど、地元の人達と意思疎通が出来ずによく争いになったそうなんです。」
マリアの目の前にいるのは魔女に違いなのだが、言葉が通じない。詠唱魔法は呪文が詠唱できれば使えたため、戦闘では困らなかったのだ。
「で、そっちの彼女は?」
「海を渡って来たらしいのですが・・・。」
「魔女ってそんなに広範囲に存在するの?」
「マリアは知らなかったの?」
「ここ数百年は研究ばかりしてたから・・・。」
意思疎通や翻訳は困難を極めた。しかし、詠唱魔法は同じ言葉を発する為、戦闘や同じ行動をするときは困らなかったことから、少しずつ言葉を集め理解を深めていった。
「この文字は読めるのにこっちの文字は読めないの?」
「そうみたいですね。似ている文字も有るので、何となく解るみたいです。」
「この魔法文字は読めるのかしら?」
それはマリアが作っていた魔法文字を理解させる為の本で、原本しかなく、まだ完成していなかったが、魔女達の間で一部を書き写して使っていた。
「戦争で失われたモノは多いけど、この世界についてもっと調べないと、どこまで行けば世界の果てが有るのやら。」
「世界の果て?」
「探す必要が有るの?」
「ドラゴンの話ではどこまでも真っ直ぐ飛ぶと元の位置に戻るって言われてましたが、私達で確認した訳では無いので・・・。」
大地と空の関係は未だ不明なところが多い。戦争によって多くの国と関係を持ったが、その殆どが滅亡か併合か、場合によってはその土地に住む人達まで失われている。逃げた者達がその後にどうなったかはあまり良く分かっていなかったが、今の状況からすれば、この世界の何処かに生き延びているのも理解できる。
「いつまでも高みの見物をしているドラゴン達にも協力させようかしら?」
「ドラゴンを従わせるのですか?」
「あの化け物と戦いたくはありませんよ?!」
ドラゴンは最強の生物として君臨していて、世界最強と云われた英雄もドラゴンに挑んで死亡している。魔女達はドラゴンと友好的な関係は持っておらず、敵対していないだけの中立関係だった。
「私達魔女の中でも生死が不明な者が沢山いますので、どこかで生きていて魔法を教えているかもしれませんね。」
「魔法を通じて・・・そうよね、詠唱魔法なら何が起きたかよくわかるから、言葉をそのまま理解できる。・・・なるほどね。」
考えたマリアは各地に散った魔女達を探し、現地の言葉を集め、魔女達の使う魔法文字を使って少しずつ統一させた文字を広めた。しかし、魔法言語をそのまま使うと魔法が暴発する恐れがあったため、少しずつ変化させ、彼女達の出身地であるワルジャウ地方の文字と混ぜて、その後の世界に深く浸透する言葉となった。
文字と言葉が完成するまでに100年ほど掛かったが、それを広めるのには更に数100年が経過した。
統一した言語と、世界の広さと、いつまでも続く戦争で疲弊しきった人々。
魔女達は数百名以下に減少し、魔法技術の価値と科学技術の価値が拮抗する。それでも魔法は便利だったので、失われつつある魔法言語は文字としてだけ残り、それを理解できる者は殆どいなくなった。
ただ、魔法文字の組み合わせで作られる装置は、魔法を理解していない者にも使いやすく、そして利便性が高く、魔力の消費も少ない。宝石や鉱石に含まれる少ないマナでも反応して作動するように苦労して作り上げた。
残念な事に実際に作りたかったものとは少し違う物が完成したが、それでも魔女達の間では利用され続け、そしてさらに残念な事に、その技術すらも少しずつ奪われてゆく。
「マリア様、彼の地の者より手記が届いております。」
「そう、なんて?」
「私達はもうダメ。マリアだけでも生きの・・・。」
「続きは無いの?」
「ありません。ですが、他の手記が届いております。」
「・・・読んで。」
「魔女狩りは成功した。もはや残っているのはお前たち数人だけだ。素直に魔法を我らによこせ。」
読み上げた者はマリアの下で魔法を学ぶだけの普通の子供で、すでに戦争はしていない。そして、この手記が届けられた装置こそ、魔女達が苦心して作り上げた転送装置だった。
海を渡り、遠征する者達にはとても価値の高いモノだったが、それを作る技術が彼等には無い。転送装置は物質を遠くに移動させるが、生物を転送させると死んでしまう上に、大きな物を転送する事が出来なかった。ただ、紙のような厚みがなく小さいモノなら問題なく転送できたので、手紙を送る事に使われていた。
転送装置自体の大きさは人の頭ほどで、特に重くもなく、持ち運びも可能なので世界各地に配置されていたのだった。
もちろん、その利用方法は魔女達同士で状況の報告をする為に。
「私以外の魔女がこれほど減るなんて思いもしなかったわ。」
1000年を超えて生き続ける魔女は彼女しか存在しない。他に生き残っている魔女も存在するが、それは彼女の認識しない魔女で、面識もない。
その魔女達もマリアの知らないところで逃亡生活を送っている。僅かながら協力する魔女も存在したが、魔女というだけで最期には殺されている。
最も魔女を苦しめ、多くの魔女が命を落とした相手は、何度殺しても復活して現れる勇者と呼ばれる存在だった。各地に現れた勇者の数は不明で、それがすべて一人によるものなのか、数多に存在するのか、今のマリアには分からない。
マリアは楽しく過ごしていたあの頃を思い出しても涙は出ない。悲しさよりも悔しさが滲む。元々はただの兵士として活動していた頃は多くの仲間とともに多くの仲間を増やし、より強くなる事だけを考え、多くの人に喜んでもらえればよかった。
自分が権力を握り世界を滅亡に導く考えなど無かったのだが、今の彼女は違う未来を見据えている。
マリアは多くの魔道具を作るだけの生活を送るようになり、いつかそれらが自分だけではなく、生き残った他の魔女に利用してもらい、そこから昔のように魔女達が集まって、他の者に邪魔をされない、魔女達の楽しい世界を創ろうと、ヒッソリとした生活をつづける。
それは、勇者の存在と、新たに現れたスズキタ一族、そして脅威のドラゴンと、謎の巨大樹木が現れる事で、計画はどんどんズレていく事になった―――




