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第11話 旅

「」 ←普通の言語(共通言語

『』 ←通常の言語以外







 旅を続けて一週間。森や山を迂回しながら、道なき道を街道目指して歩いている。マナの力のおかげで魔物どころか人も寄ってこないが、この不思議な魔法にも限度がある。


「明確な意思を持って移動している相手には効果が無いのよ。」


 簡単に言えば街道を歩いている生物を全く別の方向に向かわせるのは無理だということだ。相手の強さなどは関係ない。この魔法を使える者がマナ以外にどれだけ存在するかもわからないので、旅をするのに効果は保証できないという事だ。


「じゃあ野宿するとき以外は要らないな。」


 雨はまだ降っていない。降っても魔法で傘のような幕を作ればいいので濡れる心配はない。相合傘したかったなー。

 手作りの干し肉はしょっぱいだけで美味しくはないが、食糧が不足する心配も暫くは無い。魔王国の城下町を目指す途中にある町で買えば良いし。今は予想外の平和な旅を続けている。

 最初に目指す町はマナの知識として知っているだけで、行ったことはない。目指すべき目的地も方向が分かるだけで、街道があるかどうか分からない。大規模な戦争が発生する前は各地に繋がる街道が何本もあったと言っているが、それは何年前の話ですか。というぐらい大昔の事だから、やっぱり地図ぐらい買えばよかったと思う。最終目的地はまだまだ先の話だ。


「それにしても、スズキタ一族って何者だったんだ?」

「さあ?」

「・・・神さまに認められたぐらいだから、優秀だったんだろ?」

「そうね。それは間違いないわ。ドラゴン以外の敵なら撃退するぐらいは強かったし。」

「それでも、ドラゴンは別格の存在なのか。」

「もちろんドラゴンに勝つ者もいるけど、稀有な存在なのは確かね。」

「ドラゴン級の強さを持つ者がそんなにいたら困るなあ。」

「太郎だってスズキタ一族の子孫なんだから、資質はあるの。まだ未完成だけどね。」

「強くなるのは敵を増やすだけだっていう・・・どこの世界でも共通の認識だと思うが。」

「・・・過去にたった一人でドラゴンを退治した勇者がいたけど、魔女100人がかりで呪殺されたわ。」


 それは知りたくもない歴史だな。忘れたい。


「・・・魔女って今もいるのか?」

「滅亡したって噂も聞かないから、どこかに存在しているでしょうね。」


 恐ろしい存在ばかりだな。そんな会話をしているうちに喉が渇く。魔法で作りだした水を水筒に溜めた物を持ち歩いている。しかしこの水、ちょっと違う。


「甘くておいしいわね。魔法の水なのに。なんか太郎の魔法がレベルアップしてる。」

「俺が昔飲んだみかん水ってやつだ。水魔法で味まで作れるとは思わなかったけど、やってみるもんだ。」


 マナが飲み干してしまったので、また水を入れる。今度は透明な色の葡萄ジュースだ。ちょ、あー。全部飲まないで、俺の分もとっといて。作るのに結構疲れるんだから。

 そんな俺の個人的なステータスというか、特技をまとめると、―――



 剣術がちょっと出来る(対人経験は無し)

 狼を燃やす程度の火の球が投げれる(なぜかよく当たる)

 蛇口から出る程度の水が出せる(真水をほぼ無制限)

 500ml程度の味付きの水が出せる(かなり疲労する)

 マナ保有量が不明(疲れると魔法が出なくなる)


 ―――こんな感じだ。強さ的にはどのくらいかを訊くと。


「んー・・・ゴブリンくらい?」


 ゴブリンって強いのかな?


「個々の強さはたかが知れてるけど、集団戦となると割と強いわよ。ただ、戦争に巻き込まれてだいぶ数を減らしたっていう話なら以前に聞いたわね。」


 以前って・・・何年前だろうか。


「ゴブリンって人間より短命で30年位が寿命な種族なんだけど、増えるのはものすごい早いらしくて、5年で大人になるの。ほらほら、あんな感じで―――


 歩く先とは少しずれた場所をマナが示す。そこにはゴブリンが1.2.3・・・10・・・え、結構いるぞ。何かと戦っているようだ。


「あれこっちに近づいてないか?」

「あ、うん・・・そうみたいだけど、なんか苦戦してるみたいね。助ける?」

「ゴブリンって魔物とか敵とかの扱いじゃないのか?」

「人間同士でも戦争するんだから、種族が違うからって敵対する理由にはならないわ。ただ、ゴブリンはなんでも食べる、人間も他の種族も時には仲間も食糧とみなす事が有るから、あまり好かれている種族とは言えないわね。」

「節操ないな。」


 とはいえ、やられている姿を見ると助けたくなる。しかし、自分にその力量があるのかというと・・・。


「もう少し様子を見ようか。」


 結果、ゴブリン達は、たった一匹の・・・犬?にやられている。その犬も傷だらけで、身体のあちこちに矢が刺さっていた。壮絶だ。


「あれ、あれ。珍しいわ。ケルベロスの幼体じゃないかしら。絵でしか見た事がないけど。」

「ケルベロスって頭が三つある、あれ?普通に一つだけど。」

「ゲームと一緒にされても困るんだけど、こっちの世界のケルベロスを太郎に分かり易く言うと、めちゃくちゃ強い犬ね。もう、とんでもないレベル。」

「俺に勝てるとおもう?」

「逃げましょう。」


 今のマナでも相手にしたくないようだから、相当な強さだろう。だが、そのケルベロスと戦っているゴブリン達は・・・。どうして戦っているのかは分からないが、ゴブリン達は逃げ腰で、接近しようとはせず、矢を放ち、森に逃げ込もうとしている。


「うげぇ・・・腕を食い千切ったぞ。」


 血を浴びてさらに戦意を喪失したゴブリン達は、武器を捨てて全力で逃げだした。逃げ遅れた者が一人、また一人と食い殺されるが、どうやらケルベロスも体力の限界だろうか、追いかけるのを止めた。生き残ったゴブリン達は取り残されて血の海に沈む仲間を見ても助けはしなかった。いや、助けても無駄だろう。あの時の俺と同じように。


「凄惨だな。」


 血だまりと食い千切られた肢体。その中に座り込んでいる。


『・・・タスケテ・・・ダレカ・・・。』


 自分の耳を疑った。


「なあ、ケルベロスって賢いのか?」

「えぇ、かなり賢いわ。独自の言語もあるくらいだし。」

「じゃあこれはあいつの声なのか・・・助けてって聞こえるんだけど。」

「私も音は聞こえるけど何を言ってるかまでは・・・あぁ、そっか。神さまから貰った能力ね。それ私も欲しい。ずるい。べんきょーして言葉を覚えた私の苦労を返せー!」


 マナが俺の身体を揺さぶる。そんなことを言われても、ねぇ。これって俺がそのまま話しかけても通じるのかな?マナに訊いてもむくれていて教えてくれない。動けなさそうだし遠くから・・・ゴブリン達は逃げ切ったようだ。ヨシ、ヨシ。指差し確認終わり。


『大丈夫かー?』


 耳がビクッと動いた。驚いているようだ。俺も驚いている。


『・・・言葉が分かるなら助けて・・・何もしない・・・。』


 恐る恐る近づく。身体は傷だらけで、血が乾いてこびり付いている。袋の中から取り出したのは救急箱で、包帯やガーゼ、消毒薬が入っているが、薬はない。擦り傷や切り傷は諦めて、矢の周りの毛をハサミで切ってから矢を抜き、血が出てくる前に消毒とガーゼと包帯を使う。少しきつめに包帯を巻き、同じ作業を刺さった矢の数だけ繰り返す。痛いだろう。犬の表情は分かり難いが苦しそうだ。包帯に血が滲むが、出血が止まるかどうかは分からない。しばらく様子を見て酷くならなければいいが・・・。


「ここじゃ休めないし、少し戻ろうか。」


 マナは頷いた。これが人間同士の争いだったら助けずに逃げて隠れたかもしれない。幼体のケルベロスを持ち上げる。意外と重い。ゴブリン達の死体を背に、頑張って今しがた進んできた道なき道を1キロほど戻る。元々人気のない所を歩いていたから、周囲には何もなく、少し乾いた土と、背の低い草が生えている場所に、テントを張ることにした。水は魔法で出せばいいから、水不足で悩むことはない。

 休ませた犬の横で焚火をする。暖かいものが飲みたいが、スープの素なんてもうない。味付きの水が魔法で出せるが何度か試してもドロドロとした水が出るだけで、コーンスープのような味は出せなかった。しかも疲労度が半端ない。マナにも試してもらったが、こちらも無理のようだ。謎の物体が鍋の中に溢れたので、捨てた。諦めて、干し肉を炙ってかじる。陽が落ちて辺りが暗くなると眠くなる。マナの魔法のおかげである程度の安全は確保できているとはいえ、警戒心が無さ過ぎる気がする。寝込みを襲われた事がないのと、マナがいると安心してしまう事が、警戒心を成長させていない。うとうとしてきたのでテントで一晩を過ごした翌朝、犬の姿はなくなっていた。


「元気になったなら良いか。」


 しばらく辺りを見回してたが、すぐに戻ってくる様子はなく、出発する準備をする。どこへ行ったのか少し心配にはなったが、マナは心配ないと言った。元々少数で行動することが多く、一匹で生きているのが普通らしい。幼体でも今の俺より強いのだから。朝食を食べようかと思ったが、荷物をまとめおわると、歩きながら食べればいいと思って朝食を作る手間を省く。まあ、準備をするほどの物もあまりないわけだが。歩き始めた時にあの犬が戻ってきた。表情から見て取れたりはしないが、なぜかしょんぼりした感じがする。足取りが早くないのは、昨日の疲れなのか、傷が癒えていないからなのか、ちょっとわからない。


「どうしたんだろうね?」


 マナにも分からないのだから、俺にわかるはずもなかった。






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