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第96話 別れと旅の再開

 町中を歩くと、貴族の居住区画の方は多くの兵士が集まっていて、足りない人手は一般の人達も集まっているようだ。城は崩壊していて、瓦礫の撤去で多数の兵士が動き回っていた。

ピュールの攻撃で一瞬にして火葬された無謀な冒険者達の墓は誰が誰だか分らないほど真っ黒になった遺体も有って、どう処理するのか困っている。

死人が出ているんだから、本来ならあんな環境でのんびり会話しているような状況ではなかったはずなのだが・・・マナの波動は全てを平和にしてしまいそうだ。

だからこそ恐れられているのかな?


 途中でマギの妹は港の両親の所へ向かったので別行動となり、フレアリスを先頭に歩いていたのだが、ギルドに着くなり後ろから声を掛けられた。


「あれ、あの人はもういないのか?」

「フーリン様なら帰ったわ。」

「そうか・・・で、太郎君達はギルドに何の用だい?」

「ダリスの町に行こうと思うんですけど馬車で連れて行ってくれる人はいないかと思いまして。」

「馬車か・・・君達に護衛が必要だとは思えないから買った方がいいのでは?」

「馬の面倒が嫌で・・・。」


 ジェームスが苦笑いをする。確かに面倒だが何度も使うとなれば所有した方が便利なのだ。少し考えてから言った。


「そうか。じゃあ俺が引き受けよう。最近は魔物が出るという騒ぎは無かった筈だが、野盗は何処にでもいるからな。馬車も俺が持っているのを使えばいい。」


 ギルドに依頼を掛けてから受けた方が依頼の達成にも繋がるが、ジェームスは気にしていないようだ。


「貰えるモノさえ貰えれば構わない。達成数なんて意味はないしな。」


 そう言うジェームスのギルドカードはシルバーカードだった。いったい何の依頼を達成しているのか少し気になる。スーはグリーンだったような・・・。


「あ、あの出発はいつですか?」

「マギ君も行きたいのか?」

「ご迷惑でなければ・・・。」

「私はパスするわ。」

「フレアリスさんは仕事してましたね。」

「流石に始めたばかりで休めないわ。」


 俺が会話に参加しない間に話が勝手に進んでるんですけど。


「あのー・・・。」


 話を進める三人の間に入る。


「相場とか知らないんですけど一日いくらくらいなんですか?」

「魔物の出現頻度や、依頼を受ける人の人気や信頼度、移動する場所にもよりますが、平均すると1日1金ですねー。あ、馬車を借りたりするのはまた別料金ですよー。」

「私は半分以下でも十分です。ご飯とか頂けるだけでも有り難いので。」

「マギは彼氏とのデートの約束はどうしたの?」


 完全に忘れていた表情である。


「いろいろあって忘れてました・・・まぁ、あの騒ぎでデートしてたら逆に凄い根性だと思いますけど。」

「そうね。」


 フレアリスとマギが笑っている。


「それにマギも親のところに戻った方がいいわ。その服も借りものなんでしょう?」


 結局、マギは諦めた。なぜかこの人達と見ていると一緒にどこかへ行きたくなってしまう自分がいる事に気が付いたのだ。

 

「この子の事を宜しくお願いします。」


 エカテリーナの頭を撫でた後、太郎達に丁寧なお辞儀をして、しばらく見つめた後、フレアリスと共に人混みに消えた。マギは何度かこちらを振り返ったのは寂しさを感じたのだろうか、それとも・・・?

 二人の姿が見えなくなるとジェームスが話しかけてきた。

 

「じゃあ俺は準備してくるが、直ぐに出発で良いんだな?」

「はい、宜しくお願いします。」


 軽く手を挙げてジェームスはギルドの中に入っていく。入ったとたん、幾人かに話しかけられているようで、人気者なのが良く分かる。

 待っている間しばらく暇になってしまったが、特に何かする用事もないし、ここから離れるわけにもいかず、たまたま空いている近くのベンチに座った。

 周囲の声はうるさいが、天気は良好で潮風も心地いい。ぼーっとしていると膝にはマナが座る前にエカテリーナが顔を赤くして座った。悔しそうに隣に座るマナもやっぱりかわいい。頭撫でとこう。

 ポチは俺の目の前に座り、スーはベンチの横で立っている。警戒心はいつでも持っているようで周囲をさりげなく気にしている。暫く気にもならなかったが、やっぱりポチは視線を集めている。そんなに怖くないよ?




 ジェームスが馬車に乗ってやってきた。(ホロ)馬車を馬が一頭だけで曳いている。


「ちょっと待たせちゃったかな。」

「それ程でもないですよ。」

「荷物が載っているがそれ程邪魔にならないだろ?」


 後ろから中を覗き込むと馬用の枯れ草と樽が3個ある。樽はそれほど大きくない。中身は何だろうと思っていると、行ったついでに蜂蜜を売るそうだ。なるほどね。

 マナが乗り込むと、エカテリーナも続いて乗り込む。俺、ポチ、スーが最後に中に入ってきた。


「けっこう広いね。」

「これだけ大きいと馬一頭じゃ辛くないですかー?」

「ゆっくり行くさ。それに、町を出るのは俺達だけじゃないようだしな。」


 ゆっくりと動き出した馬車の後ろから外を眺めると、他にも馬車が何台も追って来るように見える。一列に並んでいないのは焦っているからだろうか。


「馬車も大きいし馬も二頭とか三頭で引いてるなぁ。」


 手綱を握るジェームスが応じてくれた。


「アレは殆どが貴族様の馬車だ。何しろあれだけの被害だろ?一時的にダリスの町に避難するらしいぞ。」

「いっぱいいるわね。」

「マナ様、あんまり身を乗り出すと落ちますよ。」

「大丈夫~・・・。」

「意外と揺れないもんだね。」


 ゆっくり走っているからなのか、道が整備されているからなのか、それほど大きな揺れは感じなかったが、直ぐに前言を撤回する事となった。


「ん゛ん゛か゛か゛か゛か゛か゛・・・・。」


 エカテリーナは初めての体験で怖いのか、太郎にしがみ付いている。なぜかポチも動かない。そっかポチも初体験だった。


「私もあまり利用しないのですが、いつもお尻が痛くなってしまって。」

「あ、そうか。」


 太郎が枕を・・・座布団がある。俺は何でこれを買ったのかすでに記憶がない。記憶は無いが有るのなら利用しよう。


「クッションですか?」

「お尻に良いよ。」

「これ柔らかくていいですねー。」


 ジェームスにも渡すと使い心地がすごく良いと喜んでくれた。中身の綿の質が違うんだろうか・・・中身は・・・これ低反発のスポンジだ。この世界にあっちゃまずいものかもしれないから見なかった事にしよう。うん。


「後ろの馬車が先に行きたがってるから譲るぞ。」


 ジェームスが俺達にそう言って道を横に少しずれると、何台もの馬車が通り過ぎていく。通り過ぎるどの馬車にも装飾が付けられていて、高級感がある。小窓が付いている馬車もあるし、最初から内部に椅子が取り付けられた大きい馬車もある。速度も速いから・・・かなり揺れてるんじゃないかな。


「良い馬車にはバネが付いていて揺れが抑えられるらしいぞ。」


 スプリングは有るんだ・・・。この馬車は何で付いていないのかというと、元々荷物を運ぶ荷馬車で人を乗せるつもりは無かったからだそうだ。バネは凄く高級品で、急ぐのでは無ければゆっくり移動すればいいのだから。俺の袋の中にバネは入っていないぞ。


「ホロが付いているだけでもマシだと思ってくれれば。あんな屋根までガッチリと造られたモノは高くて手が出せん。」


 そう言えばこの馬車はジェームスの所有物だ。ホロの布も自分で付けたとのこと。苦労して買った割には移動に使う事があまりなかったので、馬は借りている。今回は貴族達に優先した為、借りられる馬が少なくて、一頭借りるのがやっとだったとの説明だ。


「急いでいるんだったか?」

「んー・・・。」


 フーリンが先に戻っているだろうから、出来れば早くダリスの町に行きたいところだが、空を飛んで行くにしてもずっと飛べるわけではないし、目立った行動をして狙われるのも避けたい。


「どのくらいかかりますか?」

「馬一頭で予定通りは無理だな。休ませなければならんし、10日ぐらいは必要だ。」

「フーリンなら大丈夫よ。心配なら迎えに来るだろうし。」

「そういうもんかな・・・。まぁ、暫くは問題が無いと思いたい。」

「商人の町に着くまで途中で何度か野営になるしな。」


 フーリンさんには申し訳ないが、俺ものんびりとした旅をしたい。今までが今までだったし。

 初日はそれ程の移動も出来ず、陽が落ちた為に終わってしまったが、翌日からはずっと馬車の中だ。道幅は広く、すれ違う冒険者や馬車も少なくない。


「ひまねー。」

 

 マナの言う通りで、景色を眺めるのも飽きている。暇すぎるだけじゃなく、腰と尻が痛い。暇でないのはスーとジェームスで、馬の操作を午前と午後で交代していた。


「馬が操れるって凄いな。」

「そうですかー?」

「護衛の依頼を受けると必要になる技術だからな。俺は商人の護衛を受けるようになった時に覚えたぞ。」


 スーが御者台(ぎょしゃだい)に居る時はエカテリーナが横に座り、ジェームスの時はマナが面白がって横に座っている。特に理由はなく、横に居るだけで何の役にも立たない。

 食事は朝と夜以外は特に食べず、水に困らない事も有って余分な荷物が減っている事がジェームスには喜ばしい事だった。


「長旅に水を持たなくていいのはかなり有利だぞ?馬にも負担は掛からなくて済む。」

「確かにそうか。」


 それは夕食や朝食でもいかんなく発揮される。温かいスープが飲めるのは水が大量に有るからだ。太郎の場合はほぼ無制限に出る。そして無制限に入る大きな袋。これだけでも商人は喉から手が出るほど欲しいだろう。魔王国ではカジノの目玉景品にもなっている小さな袋でさえ、旅人や商人は欲しいのだ。・・・事情があって今は仕入れがないと言う噂が流れている代物だ。


「夜の見張りはいらないのか?」

「大丈夫よ。」


 久しぶりにマナの不思議な力が発揮されているようで、夜は馬車の中で寝れる。太郎が布団を出すのでいつでもふかふかだ。流石にイチャイチャはしないが、魔物に突然襲われる心配が少ないので平然と寝ているが、ジェームスはいまいち信じていない。

 時々目を覚ますと外の様子を窺うが、確かに気配は感じない。


「不思議な連中だ・・・。」


 ジェームスが特に不思議と感じているのはそこの世界樹様なのだが、だらしがなく仰向けで寝ていて、その姿を眺めていると、片目だけ開いてこちらを見る。


「私を信じてアンタも寝なさい。」


 その日の夜は自分でも驚くくらいぐっすり寝てしまい、まさか太郎君に起こされるとは思いもしなかった。寝坊をするなんて仕事中では初めての珍事だった。






 

 

 

誤字報告や感想待ってます\(^o^)/

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