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第95話 これから

「本当は甘えたかった、構って欲しかっただけなんだよね。」


 マナの言葉はいつの時代でも存在する、ありふれた事を言っているに過ぎない。しかし、それを初めて体験している者には重い意味がある。勘当されて、一人で生きていたところを良い様に使われている自分が情けなかったのだろう。しかも、純血というプライドも邪魔をしていて、誰に頼ることも出来なかったのだから、荒んでいる心には強過ぎる効果かもしれない。


「素直なイイ子じゃない。」

「それを言えるのはマナ様だけですよ。普通の感覚ではただの迷惑ですから。」

「迷惑って言うか・・・城も壊れて結構な人数が死んでいるんですけど・・・。」


 マギが言ったのは一般人(ふつう)の感覚代表だろう。しかし、マギもエカテリーナも波動の影響の所為で涙を拭いている。ポチですら穏やかな表情になっているのだから、フーリンもスーも、色々と力が抜けてしまっている。

 たいした変化を感じないのはマギの妹だけだ。ちゃんと親の愛情を受けていたんだろうな。

 ・・・別に素直ではないという事ではないと思う。


「世界樹は恐ろしいと親に言われていた理由が分かった。こんなに・・・。」


 周りから妙に優しい視線を送られていて急に恥ずかしくなったのか、鼻をすすりながら服の袖で涙を拭っている。誰からか渡されたハンカチを受け取ると耳障りな音(ちーーん)が響く。


「まだ私を燃やしたい?」


 ピュールは無言で俯いている。何かを考えているようだが、答えが思いつかないといった感じだ。


「俺には判断できそうもないが、少なくとも今は暴れたい気分じゃない。それは確かだ。」

「そう、それならいいわね。」


 ピュールから離れてちょこちょこと歩くと、今度こそ太郎の膝に座る。エカテリーナが遠慮してなかなかできない事をマナが簡単にやってしまう。


「あ・・・ぅ。」


 気が付いた太郎が頭を撫でてやると少し微笑んだ。


「太郎君って優しいけど、なんか子供といるのが妙にしっくりこないのよね。親子って感じもしないし。」

「そうなんですか?まぁ、子供を育てた事はないんで、そう言われても仕方ないですけど。」

「私と並んで歩けばきっと家族に見えますよー。」


 エカテリーナが無言で太郎の脇に頭を擦り付ける。耳がぴくぴくしていて、私も入れてと言っているようだった。

 それを羨ましく思うドラゴンの子供が視線を外してスッと立ち上がる。


「帰る。」

「そう、気を付けてね。」


 引き留めて貰いたかったのだが態度には表さないように注意しながら、マナには視線を合わせず、太郎に向けた。


「俺はまた必ず来るぞ。」

「なんで俺に言うんだ。」

「お前がどこに居ようとも必ず行く。忘れるな。」

「今度は戦わないなら良いんだけど。」

「それは確約できないな。」

「・・・あんまり面倒な事は勘弁してほしいんだけど。」

「それ程の強さを身に付けていたら無理だろ。」

「何とか生き残っただけで強さに自信はないんだが・・・。」

「なら自信を付けろ。そうでなければ俺が会いに行けなくなる。」

「なんか、楽しいライバルでも見つけたような会話ですねー。私は折れた剣の恨みは忘れませんよ!」


 フーリンが微笑んだが、それは失笑に近かった。


「どうせスーちゃんの事だからたいした剣じゃなかったでしょ?」


 高値が付くモノは大事にするというスーの悪い癖を見抜いている者の発言だ。しかし、勝負事には貪欲で、勝つ為なら思い切った行動をとる事も有る。有るが・・・失敗も多いだろう。

 そう言われたのでフーリンに折れた剣を見せると、表情が少し変わる。


「あら、こんなの良く手に入れられたわね。」

「スズキタ一族の村にあったんですよ。」

「あぁ、そういえば他にもいろいろ持ってたわね。・・・でも、そんな高級なモノを?」

「使わなきゃまともに斬れないですよ。使ってもたいして斬れませんでしたけど。」

「その程度の武器でドラゴンの鱗が簡単に斬れても困るわ。・・・相手がドラゴンじゃなければかなりのモノなんだけど、折れちゃったんじゃダメね。」

「素材は有るんだけど俺は鍛冶とか知らないから。」


 今度は明らかに吃驚(びっくり)した。


「・・・あるの?」

「ありますよ。」

「それならダリスに行けば不貞腐れた鍛冶職人が喜々として修復してくれるわ。」


 なんか色々と捻くれた人物なのかな。


「そんな折れた剣の事なんかどうでもいいだろ。」


 ピュールが不貞腐れてるんですが。


「あら、まだいたの?生かしてあげたんだから、じっくり感謝して、さっさと帰りなさい。」


 フーリンさんのピュールに対する態度が怖いです。


「・・・フン!」


 鼻息も荒く、扉を蹴飛ばして出て行った。もちろん扉はそのまま隣の家の壁に激突して家屋ごと破壊し、周囲にまだ残っている兵士を驚かせた。

 驚いている兵士達を無視して、ピュールは人の姿のまま走って行った。もの凄いスピードで土埃が残るほどなんだからあの能力を戦闘で活かしたら良かったのでは・・・?

 既にピュールへの興味を失っているフーリンが俺の心配をする。


「太郎君はもう大丈夫?」

「はい、体調なら大丈夫です。」

「ちゃんと歩けるの?」

「無理なら太郎は俺に乗ればいい。」

「ポチの背中はマナの特等席だからなあ・・・。」


 ポチが俺を頼れと言わんばかりの表情で尻尾を振っていて、立ち上がる為にマナとエカテリーナを離した時に家外から近付く足音が聞こえた。周囲を確認しつつ中に入ってくる。


「あれ、なんで扉が壊れてるの?」


 その声の主はフレアリスだ。


「ドラゴンもいないし、こっちも終わったのかしら?」

「えぇ、終わったわよ。」


 フーリンの声を聞いてまた頬が赤くなる。憧れの人が強くて美人とか、最高過ぎて困っているようだ。まあ、強いから憧れたんだろうけど。


貴女(あなた)の相棒はどうしたの?」

「あ、ジェームスならギルドの連中に何やら頼まれて連れていかれちゃいました。」


 フレアリスさんのキャラが変わってますよー。


「じゃあ、良いタイミングだし解散しましょう。」

「えっ・・・帰っちゃうんですか?」

「そりゃあ、いつまでもここに居る理由も無いし・・・色々と考え直さないとイケナイ事も増えたから。」

「フーリンの背中に乗っていく?すぐに帰れるわよ。」


 ドラゴン姿のフーリンさんは見てみたいが・・・。


「それは流石に・・・でも肩車なら良いですよ。」


 タイミングを見計らって、空気と同化していたような存在が動き出した。


「あ、私と妹も町に戻りますね。それと、タロウさん。」

「うん?」

「服を返したいのでまた来てください。それまでには私、ちゃんと強くなります。」

「あ、うん、頑張ってね。」

「はい。」


 マギは丁寧に頭を下げたあと、太郎の横に居るエカテリーナの前に膝をついて座る。いつも真面目かつ真剣なのだが、この時の瞳には複雑な感情が込められていた。


「あなたは子供だけど、これからする質問の答えは子供として扱わないから、真面目に答えてね。」


 エカテリーナはマギの目を見つめ返して頷いた。


「行くところが無ければ私の家でもフレアリスさんの所でも良いから、一緒に帰りましょ?」

「おとーさんもおかーさんもキライだもん。」

「でも、いつか家に帰るんだよ?」

「ヤダぁ。」

「・・・ドラゴンに殺されたって言えば親も諦めるんじゃないかしら?」

「そういう問題ではないのですが・・・。」


 エカテリーナを買う予定だった貴族がどうなったかは知らないが、商品そのものが存在しなければ諦めるのは間違いない。生活に困って子供売った漁師はそれなりに存在していて、港さえ復活すればいつか買い戻すチャンスはあるかもしれない。あのドラゴンは城や町の一部は破壊したが、港と住宅街や商店街には一切攻撃をしなかったからだ。


「別にお金が心配なら俺は気にしないよ。」

「500金なんて大金すぎて、こっちが気にしますよ!」


 フーリンは無言でやり取りを見ていて、何か言いたそうではあったが黙っている。奴隷としてどのくらいの影響を受けているのかは不明だが、少なくともあの子は太郎の存在しない場所での生活は考えていないだろう。しかし、冒険に連れて行くにはまだまだ幼すぎた。戦闘経験も自活能力も無いのだ。


「困ったらフーリンが再教育するから問題ないわ。」

「えっ?ちょ・・・それは、世界樹様?!」

「スーだってちゃんと治したんでしょ?」

「それはそうですが・・・。」

「それに暫くは危険なところに行く予定もないし・・・。」


 将来的には有りそうな事を言わないでほしいな。

 フーリンさんも困ってるし。


「どんな予定になるんですか?」

「ダンダイルちゃんが待っている筈だからとりあえず合流しましょう。」

「何処で待ってるんです?」

「ダリスの町だけど・・・移動にかかる日数を考えるのを失念してたわ。」

「徒歩移動なら・・・えーっと・・・。」


 フーリンさんが悩んでいる。


「歩いて移動なんてした事ないから分からないわ。」


 代わりに答えてくれたのはフレアリスさんだ。


「私も馬車でなら移動したとはあるけど、商人の町で一泊したのを含めても一週間以上かかるわよ。徒歩なら・・・四週間はかかるんじゃない?まあ、そんなモノ好きは少ないから、馬車で移動するのが普通だと思うけど。」


 風魔法で飛んで移動した事も有って、太郎も移動の時間的感覚はあまり理解していない。風魔法の移動は一般的ではないのは当然だろう。

 案内標識とか、ないですよね。


「太郎さんなら馬車を買った方が早いのではないですか?」

「特に急ぐ必要が無ければ徒歩でも構わないのではないですかー?」

「馬とか世話とか面倒だし借りるだけがベストなんだけど。」

「・・・ダンダイルちゃんを無理やり引っ張ってきちゃったから・・・私とした事が失敗したわ。」

「フーリンだけ一人で帰ればいいじゃない。」


 フーリンさんが半ベソ状態だ。


「世界樹様、なんか今日は私に厳しくないですか・・・。」

「い、一緒に帰りたかったんですよね?」

「えぇ・・・。」 

「先に帰ってダンダイルに伝えといてよ。」

「世界樹様・・・。」


 マナの言う事が当然なのであって、フーリンは一足先に帰る事になった。フレアリスとマギとその妹は、太郎一行と暫く行動を共にして、馬車の手配をする為にギルドへ向かった。

 フーリンは太郎一行を寂しそうに手を振って見送っていた。






 

 

 

俺も書いててフーリンがどうやって帰るつもりだったのか失念してた\(^o^)/

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