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第93話 事後処理

 ジェームスに言われれば素直に従うくらい有名なのだろう。家の外に兵士を追い出してから会話を再開する。聞かれたら困る内容が多すぎて困るからだ。


「国王も事情を知りたがるだろうし、面識が有ってまともに話せるのは俺とフレアリスなんだ。」

「それで詳しく知りたかったわけね。」

「あぁ。そちらの処理は任せて良いんだろう?」


 縛られている男に一瞥してからフーリンに視線を向ける。


「このまま手放しで逃がすのがベストだわ。」

「正気か?」

「誰に命令されたとしても、個人的に来て暴れただけでも、負けたとなってはドラゴンの恥だわ。世界樹が存在している事を話しても信用はかなり低いし。」

「ピュールってそんなに信用されてないの?」


 フーリンは世界樹相手だと妙に畏まる。たまに普通に喋るが、ピュールが勝てないフーリンが気を使って話す相手なのだから、マナの凄さが分かり易い。


「私の知る限りになりますが、純血のドラゴンでは最年少です。子供だから信用しないという訳ではないですが、最初に甘やかしすぎたのが原因ではないでしょうか?」

「ふーん。」

「むしろ恥ずかしくて誰にも話せないでしょう。」

「魔女に命じられて来たとしたら、そいつには話すんじゃない?」

「太郎君の指摘は間違っていないわ。でも、それなら生かして返した方が良いのよ。」

「そうなの?」

「殺したら逆に利用されるわ。死んだら何も言えない。魔女にとって都合の良い理由を作れるじゃない。」

「あぁ・・・なるほど。」


 ドアがノックされた。外で兵士が待っているのを忘れてた。


「そっちは国王相手なのに自信有るのね?」

「シードラゴンの討伐に直接相談された事が有るくらいは信用されている。」

「そう、それなら安心ね。」

「どうする、残るのか?」


 質問された者は少し悩んだが立ち上がった。


「生きているのが分かっただけでも私にとっては大収穫だわ。それに今はちょっと恥ずかしいし。」

「気にする事ないのにね~。」


 マナがくすくす笑っている。マナが笑うと、可愛いってだけでなくその場の空気も和ませる。こういうところは流石だなって思う。

 ドアを開けると外で待っていた兵士が増えていて、ジェームスは今回の件について国王との謁見を求める事を伝えると兵士が慌てて走って行った。やはり有名人は違う。

 マナは意識しているのか無意識なのか不明だが、二人に手を振る。


「またね~。」


 二人も手を振って応えてくれたのだが・・・またね?


「ジェームスとはまた会う事になると思うわ。勘だけどね、スズキタ一族の子孫みたいだし。」

「俺と同じ?」


 マナは首を横に振った。


「純血なのは太郎だけ。でも、もしかしたら・・・可能性は低いけど逃げれた子達もいたみたいだから。」

「まぁ、世界樹様も一族のその後を知りませんしね。」

「そうねぇ。」


 空白の時間が500年ほど有るので仕方のない事だ。そして話題はピュールの事に移ったのだが、良い匂いに胃袋が負けた。


「ごった煮ですけどいい出汁(だし)ですし温かいうちに食べてくださいねー。」


 スーに渡されて、テンコ盛りの煮物を箸で食べる。箸で食べているので不思議そうに見られたが、一人を除いて全員分が配られる。スーはフーリンにアイコンタクトをしているようで、フーリンが何も言わずに頷くとピュールの前にも置かれた。


「もう少し訊きたい事が有るから、もっと素直になるなら食べてもいいわ。」

「俺は敵だぞ。」


 しかし、胃袋とは弱いものだ。湯気が鼻を突くと、涎が出ている。


「アンタに変な入知恵したのってどうせマリアって魔女でしょ。」


 マナはハフハフして食べている。誰だそんな食べ方教えたのは・・・俺か。


「・・・。」


 マギとその妹、エカテリーナの三人も食べているがこちらはスプーンだ。


「ドラゴン姿は太郎さんも気に入っているみたいですしねー?」


 いつの間にか横に座っているスーも肉を美味そうに箸で食べている。

 その太郎は乾いた笑いを吐き出した。確かにちょっと恰好良いなって思ったのは事実だが、死にそうになった事で少し考え方は変わっている。ポチ?まだ熱いって。平たい皿に肉をメインに盛られていて、フーフーしている。なんか珍しい光景だ。


「わ、分かった。」


 三大欲求の一つである食欲は生きる者すべてに共通なのだ。どんなに強くても逆らえない何かがある。フーリンがワイヤーを外すと、ガツガツと食べた上にお代わりまで要求してきた。やはり胃袋を掴むのは大事だな。


「で、何を知りたいんだ。俺が知っている事なんてたかが知れていると思うが。」

「詠唱魔法についてもう少しね。」


 これは研究家としてのフーリンなのだろうか、眼力(めぢから)が凄い。





 城に向かったジェームスとフレアリスが町の中を歩いている。兵士数人に囲まれての移動だったから異様に目立ったが、周りの人達からは何も言われなかった。勝ったのか負けたのか、兵士達に訊ける様な雰囲気はなく、崩れて消え去った城を無意味に眺めている者もちらほら確認できた。


「勝ったんですよね?」


 通りすがりの人が訊くぐらいだから、事の深刻さを物語っている。正確な人数は不明だが死傷者が100人を超える上に将軍2名が死亡している。城だけではなく周辺の貴族の館も崩壊していて、多数の兵士だけでなく街の人々も手伝っていた。危機に際して身分の上下関係など小さなことだ。


「詳しい事は国王様に直接な。知らない方が身のためだぞ。」


 吃驚して頷く。本当に世の中には知らない方が良い事が多い。それは自分にも言っているのだ。フレアリスが小さく笑ったのだから、そう言う事なのだ。

 商店街を抜けて港へ向かう。太郎達が泊まっていた宿屋を通り過ぎて、港が見下ろせる位置にまで来ると強い風が吹いた。兵士の示すところには式典を行う予定だった建物があり、フレアリスは知っているのでさっさと進んでいく。リズミカルに階段を降りると、待っていたのは歓喜の声ではなく、疑いの目だった。






 出迎えた将軍達は鋭い眼付きで二人を睨む。フレアリスは理解できるが、ジェームスには分からない。何も知らないまま直接助けに行ったからで、フレアリスとマギが一度国王に会っている事は知らないのだった。


「詳しい事を知りたい。」


 開口一番。

 国王は危機管理能力が低く、暇なときには話し相手をさせられた事も有ったくらいには親しい間柄なのだが、普段のような気の抜けた声でない事から、事態の重さを感じる。

 あのボロ小屋での会話はジェームスにとって驚く事ばかりで、魔女、世界樹、ドラゴン、詠唱魔法。一つ一つを脳内で分析しつつ記憶していた事を思い出す。


「城から飛んで街の外へ向かったことは判っているが、その後が解らんのだ。あの強さのドラゴンをお前達だけで倒せるのは俄かに信じられん。」


 フレアリスは待遇の悪さに不満を持っているが何も言わない。ジェームスは何を疑われているのか理解するのに苦労していた。自分の強さも理解していて、ドラゴンに勝てないと思われても否定はしない。


「あのドラゴンの強さにはムラが有りました。」

「では退治したのだな?」

「・・・ここから先は国王様だけにお話ししたいのですがよろしいですか?」

「ジェームスの功績は理解している。脅威がないと確約できるのなら。」

「あのドラゴンが襲ってくることはもうありません。」


 見詰め合った時間は僅かで、国王は頷いた。


「良いだろう。」


 手を小さく振って合図すると戦闘に参加せずに生き残った10名の将軍達は外へ出て行く。ジェームスが視線を送る事で、フレアリスは溜息を吐いて背を向けた。二人になった事でジェームスは国王にゆっくりと近づく。


「あのドラゴンが世界樹を探していたのはご存知ですか?」

「あんなデカい声だ。国民の殆どが知っているだろう。」


 呼吸を整えてトーンを落とし、ゆっくりと声に出す。


「世界樹は存在します。」


 国王が大きく目を開いた。もはや伝説のように伝えられているあの事件以降、世界樹どころかスズキタ一族もこの世から消滅している。書物にはそう書き残されているし、幾つかの資料もこの国には残っている。それは逃げ延びた一族の子孫がこの国に住み着いているからだ。血は薄くなり誰がスズキタ一族の子孫なのか分からないが。


「それが事実ならあのドラゴンは世界樹を燃やしに来たという事か?」

「いえ、正確には確認に来たというところです。どうやってその情報を得てハンハルトにやって来たのかまでは分かりません。」


 魔女が関わっている事を隠したのはジェームスの独断だが、どの国でも魔女と勇者には困り果てている。ハンハルトで勇者による被害が少ないのは、貿易国としての特色いろが濃くなったからで、兵戦力としては低下が著しい。その為他国で活躍する冒険者が多く在籍していて、シードラゴンの事件さえ起こらなければ海兵戦力も安定していた。今の兵力はコルドー神教国よりも低くなっているだろう。


「世界樹にこのままハンハルトに居座られると困るな。」

「それもご安心ください。」

「なんだと?」

「ここに留まる事はないです。」

「それは信用できるのか?」

「出来ます。」

「・・・フレアリスがドラゴンと計画して事件を起こしたという疑いが有るのだが?」


 ジェームスが吃驚して国王を見た。

 なるほど、国王が疑う理由はそこにあったという訳だ。


「我が国の将軍が二人も死んでいるのだ。あのフレアリスがいくら強いと言っても鬼人族の女だ、まともにドラゴンと戦えるはずもない。」

「・・・それでは私の言う事は信用していただけないのですか?」

「信用に値する何かが有れば・・・な。」


 ジェームスは床を睨み付けた。

 なにか信用に値する物的な証拠・・・ない。

 あのフーリンについて話すか・・・ダメだ。

 焼けて短くなり過ぎた頭髪(あたま)を触りながら悩む。


「フレアリスが疑いを掛けられる理由は何なのですか?」

「奴は我が国の奴隷制度にかなり不満を持っているのは知っているだろう?」

「・・・。」

「ドラゴンと共謀して我が国を混乱に陥れれば、奴隷を開放できると考えるかもしれん。」

「ドラゴンが鬼人族の言う事を素直に聞くとは思えませんが。」

「利害が一致すれば、あるいは・・・。」


 一度不信感を持たれてしまうと、それを覆すのは難しい。自分も信用して貰えない状況では、言えば言うほど疑われる気がする。


「分かりました。では、私の言う事は戯言だと思ってください。そして最後にこれだけ言わせてください。」


 言い方としては国王相手にする言葉使いではない。それでも国王が許したのはジェームスの人柄かもしれない。


「なんだ?」


 呼吸を整えて言う。


「世界樹が復活したという事実は変わりません。そして私も、奴隷制度には大反対です。仕官のお誘いを頂いても断り続けた本当の理由です。」

「お主は我が国の財政を知らんからそんな事が言えるのだ。」

「知っています。そして、キンダース商会とも深いつながりが有るのも。あの商会はガーデンブルクとも繋がっているという情報が有ります・・・ですが、今の私では信じてもらえないでしょう。」


 キンダース商会とガーデンブルクが繋がっているのではないか?

 その疑惑は国王の耳にも届いていたが、確証は無く、大規模な資金援助も受けていて、国の財政を支える重要な位置に入り込んでしまっている。借りた金は返さなければならず、たとえ国家権力を持ってしても無視することは出来ない。


「根拠があるのか?」


 実際のところジェームスも噂の一部を調査したが確証は無かった。しかし、ガーデンブルクからの荷物が魔王国を経由して運び込まれたところを何度か目撃した事が有り、ハンハルトのギルドに意味不明な依頼が発注されている事も何度かあって、何らかの関りが有るだろうと考えていた。ただし、その程度の事しか判らなかったが。

 ジェームスはそれ以上何も言わず、一礼して一歩後ろに下がる。


 無言の時間はたっぷり3分ほど続いた。








なかなか、納まらないもんだ...\(^o^)/

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