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第92話 いろいろと

 マナが俺の口を見ている。スーやポチだけでなく、他の者も耳を掻きはじめた。フーリンですら困っているようだ。


「今なんて言ったの?」

「え?だから・・・お前の母ちゃんデベソ。」

「耳がムズムズします。」

「・・・マナ様は分かりました?」

「無理。」

「お前の母ちゃんデベソ。」


 するとピュールが立ち上がって叫んだ。


「やめろ!暴発しても知らんぞ!!」


 フーリンが脇腹を殴って座らせる。苦痛に歪んでいるピュールはそれでも太郎を睨んで言った。


「お前、なんでその言葉を知っているんだ!?」

「そう聞こえたから同じように言っただけだが・・・これが呪文?」

「そうみたいね。」

「だとしたらそれを教えたのは魔女しかいないと思うけど、あのバカ女(マリア)は呪文を知っているのかな?」

「古代に造られた詠唱魔法を発動させる呪文だ。」


 ピュールがそう言うと、元々研究家だったフーリンが驚く。


「発言する事で発動する魔法なんて危なくて使えないじゃない。」

「俺が魔法を覚えるのに苦労していたら誰でも使える魔法だからって教わったんだ。」

「へ~、急に素直に喋るじゃない。なんで?」


 マナの質問は二つの意味が込められている。


「俺は魔女しか知らない魔法だと言われてたんだ。それを正確に発音できる者もいないってな。このおんn」


 フーリンが正確に同じ箇所を殴った。


「こ、このフーリンが言った通り、正確に発音すればある程度は発動する。そして暴発の危険もある魔法だから、封印されたんだ。一万年ぐらい前の事らしい。」


 一万年前ってこの世界どうなってたんだ・・・?

 以前にフーリンさんから聞いた魔法文字とは違うのかな?

 昔の事より、今の事。太郎が少し考えてその危険性を想像する。


「まさかとは思うけど寝言でも発動したとか?」

「・・・そうらしいな。」

「危険極まりない魔法じゃないの。てか、なんで太郎はその呪文が喋れる・・・あぁ、言語加護かー。」

「そんな筈はない。いくら言語加護が有ったとしても独自に開発した魔法言語(オリジナル)だぞ。聞いただけで正確に発言出来てたまるか!」

「なるほどね、それで急に素直になったってわけね。」


 あれ、俺なんかやっちゃいました?

 って、漫画で読んだ記憶が有るなー。まさか俺がそう思う日が来るなんてね。

 そのことは言わずに別の事を訊く。


「俺にはまだ足りない何かが有るから発言しただけじゃ発動しないんだろうけど、その条件は教えて貰えるのかな?」

「教えるわけn」


 フーリンが三度(みたび)正確に同じ個所を殴る。

 マギとその妹とエカテリーナは苦しむドラゴンの表情よりもフーリンの方に恐怖を感じた。まるでドラゴンに恨みでもあるかのように容赦がなさすぎる。


「会得するのに100年かかったんだぞ、それを簡単n」


 今度はもう少し強めに殴った。笑顔が恐いですフーリン様。


「ふ、封印されているらしく普通は使えない。解除する方法は魔女しか知らない。」

「封印ってこの世界に生きる者すべてにその封印がかけられているの?」

「・・・知らん。」

「もし魔女がそんな強力な封印魔法を使えるとして、太郎にその封印がかかるはずないんだけどねぇ・・・。」


 異世界人だからというのは隠しているが、マナはひょんな事で言いそうだから、ハラハラする。


「詳しい事は俺も教わってない。それを知られて解除されても困るとは言っていた。」

「そうね。誰でもあんな強力な魔法が使いたい放題なんてたまったもんじゃないわ。」

「魔力は消費するから連続で使いたい放題という訳でもないが・・・死ぬ覚悟があるなら魔力が無くても連発できるらしいからな。」

「それは封印しておきたいね。」


 会話はそこで止まった。それは家の外が騒がしくなったからで、兵士達が辺りをウロウロしているのだろう事が分かる。エカテリーナでも気が付くくらいなのだから、それなりの人数が集まったという事だ。

 窓から外を見ると、崩れた壁に集まって騒いでいるようだった。






 ドラゴンが暴れた所為で城下の景色は一変している。そしてその犯人がここに居る。一同がピュールを見るが結論は出ていない。


「俺が訊いていいかどうかわからないが、知りたい事がいろいろと有る。」


 ジェームスがそう言ったのは助けてもらった感謝を示したいという理由が有るが、それ以外にここに来た理由も知りたいのだ。どうやって倒したのかも。

 視線を向けられると、その視線の横にいる女性の方に向けた。なぜかモジモジしたり、ソワソワしたり、フーリンをチラチラと見たり。落ち着いているフリをして隠そうとしているのも丸分かりだった。


「答えられる事なら・・・でも、どちらにしても今すぐに移動するつもりもないわ。太郎君が回復しないとどうしようもないしね。」

「座っていると平気だけど、まだちょっと頭がくらくらする・・・。」

「そりゃあ・・・あれだけ血を出せばね。」


 今は少し綺麗になっているが、洗っていないので頭の血は渇いてこびり付いている。服の肩部分もどす黒く変化していた。着替えればいいと思うのだが、太郎はその袋の中から別の物を取り出そうとしている。


「それにしても、袋が本人しか持てないってのも面倒だな。」

「今回の件でスーにはもう少しいろいろと持ってもらう事にします。」

「スーちゃんにはなんで持たせなかったの?」


 もっと信用してあげて。とは心の声かもしれないがすぐにフォローが入る。


「私が遠慮したからですよー。それにそんな高級なアイテム持ち歩きたくないです。」

「歩く財宝みたいなもんだしな。」


 ポチが袋をそう評した。なるほど、確かに色々な物が詰まり過ぎている。この袋の中には家を一軒建てられるだけの建材も食糧も詰め込んだしなあ・・・。魔石に金塊、ポーションも高級な奴がゴロゴロ入っている。ただ、いま取り出しているのは食べ物だ。


「なんか安心したらお腹が空いちゃって。」

「ここの(かまど)ってまだ使えるんでしたら何か作りますけど。」

「燃やすモノが有れば。」


 マギがそう言ったので薪と鍋を出しながら、ナナハルの所で食べたお米が食べたいと、頭の中でホカホカのご飯を妄想する。いくらそう思っても無いので、買い足した調味料と肉と、まだ新鮮な野菜を出す。根菜類は乾燥させればそれなりに日持ちするので、たくさん買っておいた。


「で、何を聞きたいのかしら?」

「そいつをどうやって倒したのか、どうしてここに来る事になったのかだな。何にしてもタイミングとしてはギリギリだったようだが、助けに来るつもりにしては軽装だし・・・。」

「空を飛んでくるわけにはいかなかったものでね。」

「飛べなかった・・・?」

「夜にドラゴンが空を移動するのはそれほど不思議な話ではないのよ。太郎君が旅立った後にも空を飛んでいるドラゴンはいたし。でも、そのバカ息子が夜に空を飛んでいる事が不思議だったのよ。」


 フーリンが一瞥をくれる。

 夜に空を飛んでるドラゴンが見えるってどういう目をしているんだろう?と、そちらの方が疑問に思う。

 スーはフーリンの話の途中で立ち上がり準備を始めた。太郎は立ち上がれないので代わりにエカテリーナが手伝おうとして立ち上がる。マギとその妹は立ち上がるタイミングを探していたが、スーに手招きされてその場から離れる事が出来た。

 その動きを目で追って、隣の部屋に移動するのを見送ってから言葉を続ける。


「まだ若くて夜に空を飛んで移動するような用事がある筈もないし、ガーデンブルク方向からハンハルト方向に移動しているし、その翌日にはハンハルトの港が再開されるという話も聞いたし、太郎君達がどういう理由で移動しているかは謎だったけど、せか・・・マナ様と合流していて、こっちに戻ってこれない理由が有るとしたら・・・。」

「それで飛ばずに走って来たと。」

「えぇ。」

「その推測だけでここまで来るとはねぇ・・・今や伝説のドラゴンなんだろうに。」


 世界樹が燃えた件では一緒に死んだ事になっているという意味での伝説だ。生きているのを知っているのはかなり人数が限られている。


「だから、姿を隠しながら来る為にね。」

「空を飛べば他のドラゴンに気付かれるという事か。」

「そう言う事。」


 こちらを気にしているようでなかなか喋ろうとしない女性にフーリンが視線を向けると、恥ずかしそうにモジモジしている。どう見ても鬼人族なのは間違いない。鬼人族と言えばもう少し態度がデカいイメージが有ったフーリンだったのだが・・・。


「ほら、会いたかったんだろ?」

「そ、そうだけど・・・さ、いざ・・・ね。」

「あぁ、わたしに会いたがっている人がいるって言うのは知ってたわ。ギルドの依頼でも流れて来たしね。立場的に無視するしかなかったけど・・・ごめんなさいね。」

「あっ、いえ!・・・その、はい・・・。」


 吃驚するほどしおらしい。何だこれ。


「立場的に・・・と言うと、今の状況はまずいのでは?」


 ジェームスに指摘されると、困ったように溜息を吐いて答える。


「まずいわね。」


 フーリンにしてみれば世界樹の方が大事ではあるが、自分が原因で世界樹が再び危険に晒されてしまっては困る。しかし、それ以上に思うところが有っての事だ。

 そこへマナが一人だけで戻ってきた。椅子やテーブルは既に無いので、みんなが床に座っている状態だから、フーリンの肩に手が届く。体重をかけるように肩に両手を乗せるとあっさりと言った。


「そっちの男は大丈夫だろうから、このドラゴンの口を封じたら秘密は守れると思うわよ。」


 それを聞いたピュールの表情がみるみる変わっていく。口を封じるという事は生かしておかないという事だ。


「アンタなんか殺したら後が大変で困るわ。」

「それなら監禁か、封印か、俺をどうするつもりだ・・・。」


 殺されない事に安心したのか語気が強くなる。単純な男だ。しかし、フーリンが睨み付けると顔を強張らせて何も言わなくなった。だから、フーリンさん恐過ぎですって。


「私もあんまり隠し事って得意じゃないし、フレアリスとマギ、それに奴隷の娘も知ってるでしょ。」

「だね。」


 ここに居るメンバーで直接知らないのはジェームスとピュールとマギの妹だ。てか、エカテリーナって呼んであげて。マギの妹の名前は知らないけどな。


「あえて言わせてもらうが、嬢ちゃんが世界樹で良いんだな?」


 マナはフーリンの首に腕を回して抱き付いた状態で頷いた。


「うん。」


 フーリンが俺を見ている。なんか視線が痛いけどなんでだ。気が付いたらエカテリーナが俺の横に座っていた。何故か少し遠慮しているらしく、ぴったりとくっ付かない。頭を撫でると顔を赤くしてぴったりとくっ付いた。女の子は良く分からないな。


「・・・奴隷の娘って?」

「エカテリーナは奴隷だったんだけど、太郎がお買い上げしたのよね。」

「買ったの・・・?」

「事情がいろいろあって・・・ですね。」

「太郎君のことだから可哀想だと思ったんでしょうけど、敵を増やすだけなんだから注意しないとダメでしょう。」


 自分の事を棚に上げて心配している。ただ、フーリンの場合はある程度の事なら自力で排除するだけの力が有るが、俺はそうでもない。一人だったらこの世界で何度死んでるんだろう・・・。いや、一度死んだんだからもう死にたくはないけど。




 ドアが突然開かれた。開いた方が吃驚していて、先ほどまで激しい戦闘が行われていた筈の場所でのんびりしているように見える。


「アンタたちこんなところで何やってるんだ・・・?」


 兵士の疑問は当然で、城での戦闘に参加していたフレアリスと、傭兵冒険者のジェームスはこの国ではそれなりに有名人なので、兵士の視線がそちらに向いた。説明を求められていると感じたジェームスが立ち上がった。




 





知っている人と知らない人と、知っている事と知らない事。

いろいろ交差してきて整理するのが大変になったけど、読んでくれている人に違和感が無ければよいなあ・・・。


呪文を詠唱する事で発動する魔法って怖くね?

でも、詠唱や技名を叫ぶのって中二心をくすぐるんだよなあ(コチョコチョ


俺も例外なく中二に侵されていました\(^o^)/

あ、今もか/(^o^)\

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― 新着の感想 ―
本話は一見すると軽妙な掛け合いが中心に見えますが、重要な設定やキャラクターの関係性がじわじわと掘り下げられており、読者にとっては“情報整理と人間模様”の確認タイミングとなっています。 序盤の「お前の…
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