表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/402

番外 心配しているドラゴン

 

 

ちょっと長くなってしまった…

フーリンとダンダイルがメインです。


 

 あれから・・・。


いつものように日常を過ごしているが、空を見上げる事が増えた。あれ以降連絡は一切ない。手紙が送られてくる事も無く、あの子達が何処にいるのかも全く分からない。信用して送り出したのだから、信じて待つしかないのであり、ガーデンブルクで問題が起きればなんかしらのアクションも有るだろう。


「心配のようですね。」

「スーちゃんはともかく、世界樹様と太郎君がね。」

「世界樹様は・・・もう太郎君にしか見つけられないでしょう。」

「あれほどの状態でも世界樹様の事の方が重要なのね。」

「まぁ・・・それは太郎君でなくとも。」

「ドラゴンに見付かったりしなければ良いのだけど。」

「その心配をしていたらキリがないですぞ?」


 フーリンが淹れた紅茶は仄かに湯気をたてていて良い香りがする。もちろん、味も悪くない。


「太郎君の水じゃなくてただの井戸水よ。」

「本当はそれだけでも美味しいモノだったんですがね。」


 ダンダイルはそれ程の見慣れていたわけではないから、影響は少なかったが、フーリンは毎日太郎の神気魔法による水で料理をしていて、風呂どころか庭に撒く水まで任せていた。それは魔法の訓練という意味も有ったのだから、ことさらコキ使っていたわけでもない。太郎自身も率先してやっていた事だ。


 ダンダイルは紅茶を飲んで、世間話をして、帰った。特に話す事も無いので、一時間と経過していない。毎日ギルドからの情報待ちをしているが、そう簡単に情報は入ってこない。特に大きな事件でもなければギルドの情報技術を使った伝達は行なわれず、依頼を出して情報を集めるようなこともしていないので、スーが気が付いて手紙を送ってくれなければ何も分からないのだ。

 わからないのだ。


「もう少しスーちゃんにきつく言えばよかったかしら・・・。」


 ダンダイルは毎日フーリンの店に来ているわけではなく、暇な時間が有って気が向けば来る程度だ。彼には新しい仕事が山積していて、国境付近で行われた防衛戦の事後処理をしていた。

 一番の問題になったのは兵士の数よりも個々の戦闘能力で、連携や行動が問題なく行われていたとしても、敵の方が強ければ簡単に瓦解してしまう。陣形や戦術など、圧倒的な力を持つ個人がいれば無駄になるという理不尽とも戦っているのだから、ダンダイルの苦労は計り知れない。勇者が一人いるだけで計算などするだけ無駄なのだ。

 しかし、前線の指揮官がそれでは困る。ドーゴルは魔王として今一つ能力が足りないとの評判が蔓延しているが、それはある意味ダンダイルの所為でもあった。

 では、なぜドーゴルが現魔王として君臨しているのか・・・。


「みんなやりたくないからに決まっている。」


 それはダンダイルが魔王に成った時と辞めた時に魔王候補者達が集まって話をする秘密の会議で必ず話題に出る。そして、その話をダンダイルから何度も聞いているフーリンは、その度に「魔王国は大丈夫なの?」と問いかけている。

 実際に魔王国は幾つもの小国を潰していて、ガーデンブルクとは領地をめぐって何度も戦っていた。フーリンにしてみればバカバカしい領有権争いである。

 (まつりごと)には参加せず、遠くから眺めていただけだったフーリンが色々と言うように成ったのはここ200年ぐらいの事で、世界樹が失われた事で300年ぐらいの間は落ち込んでいたのだから、ダンダイルは彼女を慰めるのにそれなりに苦労はしていた。


「まぁ、だいたいダンダイルの所為ね。」


 と言うのも、世界樹が喪失する以前のフーリンは世界樹とスズキタ一族以外には厳しかったのだ。それを正しく導いたのがダンダイルであって、フーリンが暴走しない様に、陰から横から後ろから、色々と援助していたのだから。

 ダンダイルとフーリンの関係は恋人とは言えない。親友と呼ぶには種族差が有り、フーリンがドラゴンと人間のハーフというのも色々とやりにくい時代だから、良く言って友好的中立。しかし、それにしては二人はお互いを良く知っている。

 既成の用語では表現しきれない関係は、世界樹を中心に回っていたと言えば納得するのかも知れず、魔王だった時のダンダイルにしても、世界樹と会わなければもう少し関係は悪くなっていたかもしれない。





 フーリンはいつものように店を開け、いつものように食事をし、いつものように店を閉め、いつものように就寝している。ここ数年は彼女の周りでの記憶に残る事件が多く、特に世界樹が訪れた事と、スズキタ一族に生き残りがいた事は、彼女に新しい生甲斐を見つけるに十分な要素だった。

 それが、今は自分の手の届かないところに行ってしまっているのだから、自分の力の無さを実感している。もちろんドラゴンであることを隠さずに行動すればかなりの事が可能になる。ただし、それは自分に危険が及ぶだけでなく、世界樹の今後の運命をも決定づけてしまいかねない。

 だから、普段通りの生活をしつつ、スーが店番をする以前の、来る客の少ない雑貨屋は余計なほどの静かさを作っている。

 心配するだけ無駄なのは分かっているし、世界樹様が簡単に失われるような事は無いとも思っている。それでも暇な店を閉店させ、気晴らしに散歩する事にした。足は勝手に決まった方向へ向かっている。


「地震が有ったの?」


 ギルドに訪れているフーリンが係員から聞いた話だ。何でもいいから近々に発生した事を教えて欲しいと訊ねたら返って来たのだ。


「はい。コルドーの中心付近で大きな地震があったそうです。特に被害は出ていないようなのですが、強いマナを感知したようなのでギルド各地に情報が伝わっています。」

「強いって・・・どのくらい?」

「さすがにそこまでは・・・ただ、火の柱が出現したとはありますね。」

「火の柱って・・・噴火でもしたの?」

「噴火でもないようです。地震も火柱もすぐに収まった様なので、詳しい情報も殆ど無いのですよ。」


(あの子達・・・コルドーまで行ったのかしら・・・でも、あの国って入国は厳しい筈よね・・・。)


「どうされました?」


(リバウッドまでは行けるでしょうけど、出国となると・・・ハンハルトに行くよりもこちらに戻ってきた方が都合が良い筈なのに・・・。)


「お客様?」

「あ、いぇ、ちょっと考え事をね。」

「何か気になる事が有れば調べましょうか?」

「・・・その情報源ってどこなの?」

「リバウッドのギルドからですね。地震は4日か5日前くらいです。」

「最近の割にははっきりしないのね?」

「逃げてきた冒険者や商人達からの情報なので、誤差が大きいらしいです。それに、正式な依頼からの情報ではないですし、向こうのギルドもたいして調べていないのでしょう。」

「地震って・・・それほど被害が無かったって事なのかしらね。」

「そのようですね。」


 コルドーで戦闘が起きた事までは情報が伝わっていない。これに関してはマリアが情報を操作していたが、コルドーはある意味閉鎖されている国なので情報がなかなか外に出ないのだ。

 結局、世界樹についてそれらしい情報は得られなかった。地震がそのことに関連しているのだが、気が付くには情報が不足している。

 フーリンの心配は解消される事なく蓄積されていて、スーも太郎も心配なのだが世界樹の事が一番気になるのは仕方がない。ポチ?忘れてます。


 フーリンは美人過ぎるので街を歩いているとそれなりに声を掛けられる。フーリンの事はあまり知られていないので、雑貨屋を経営している美女がいるという事は知られているが、それはスーの事を指す場合が多いからだ。

 男に声を掛けられても考え事をしていて気が付かないし、無視された男達が肩を掴もうとするが歩みを止められずに引きずられる。こっそりとフーリンを見守る命令を受けた兵士が近くに居る事に気が付かないのだから、()()()()なのだろう。フーリンに声をかけた男達は兵士の手で追い返されている。




 太郎達がグリフォンと戦い、コルドーの国境に在る砦を破壊し、九尾と仲良くなり、天使に出発を邪魔されるという濃い冒険を経験している間、フーリンは世界樹についての情報を得ることは叶わなかった。

 ダンダイルも忙しくしていて店に顔を見せる事も無く、天井を眺めている時間が増えた。彼女らしくもなくぼーっと過ごしている日々は、珍しく普通の客が来店しても気が付かなかったくらいなのだから、見守りを命じられた兵士が心配してダンダイルに報告していた。


 それから数日が経過し、フーリンが自室のベッドに潜る前に空を眺めていると、明らかな異変を感じた。それは夜空をドラゴンが飛んでいただけで、実はそれほど珍しい事ではない。無駄な騒ぎを起こさない為に、ドラゴンは長距離を移動するときに普通の人の目では見えないほどの高高度を飛行しているが、フーリンや世界樹なら見える。スーやポチも視力が良い方だが、流石にあまりにも遠いと気が付かない。

 空を飛んでいたドラゴンは若く、フーリンは面と向かって話をしたことは無いが1000年ぐらい前に生まれた純血のドラゴンと言う事が珍しく、それは記憶に残っていた。


「あれは確かピュール?・・・でも、なんであの方向に飛んでいるのかしら?」


 方向で言えばガーデンブルクからハンハルトへ向かっているように見える。優雅にのんびりと飛行を楽しんでいるかのような飛び方で、焦っている訳でも急いでいる訳でもない。だが、それだからこそ気になった。


「あのバカ息子って、悪戯が過ぎて親に勘当された筈よね?」


 フーリンの疑問は何もない空間に投げられた。悩みつつも夜を過ごし、翌朝、久しぶりにダンダイルが店に来ても、彼女の気力というモノは弱々しくなっていたのだが、それをこの一言が変えた。


「ハンハルトの港が復活するそうです。」

「本当に?・・・確かシードラゴンに海を支配されていた筈よね?」

「何者かは不明ですが撃退したようです。」

「シードラゴンを・・・誰が・・・太郎君じゃないわよね?」

「緘口令によって何者かは不明です。しかし港が再開されるのですから退治したか討伐したか、いずれにしても何者かが達成したのです。」


 ハンハルトのシードラゴンについて、フーリンは太郎達にほとんど話をしていない。用のない国であったし、元々魔王国領の外へ行く予定も無かったのだから。傭兵冒険者達が魔王国に集まっていた原因の一つでもあるが、シードラゴンはむやみやたらに手を出すものではなく、放置していればいずれどこかへ行ってしまう。そういう存在という認識しかなかった。戦えばドラゴンでも苦労するのは水中戦だからで、流石のドラゴンも水の中では本領を発揮できないのだ。


「もしかして昨日のドラゴン・・・!」

「ドラゴンがどうしたのですか?」

「ピュールって知ってるかしら?」

「いえ・・・初耳です。」

「1000年位前に生まれた純血のドラゴンなのだけど、昨日の夜ハンハルトに向かっていたのよ。もしかして、ドラゴンが何かを掴んで・・・って思ったのだけれど。」


 ダンダイルがその言葉を続ける。


「それにしては若すぎませんか。ハンハルトに太郎君達がいるとして、そこに世界樹様がいるのでしたら、もっとしっかりとしたドラゴンが来るのでは?」

「そうよね、わたしもそう思っていたのよ。でもあのピュールって悪戯好きで親に何度も叱られているっていう話があってね。」

「ハンハルトで暴れるかもしれないと?」

「可能性として否定はしないわ。なぜ?という事を考える必要が有るのは分かっているわ。でも・・・。」


 もし、コルドーの砦を破壊されたという事件を知っていたら確信したかもしれない。


「ダンダイルちゃんもそれなりに準備した方がいいかもね。」

「ダリスで待機した方が良いという意味で?」

「魔女の存在も気になるでしょう?」

「それはガーデンブルクの方では?」

「そのガーデンブルクからハンハルトに向かっているのよ。」


 ダンダイルは現在、ある程度の実権を握っていて、ダリスの町に兵士を集めることは可能であるが、理由なく集めるとなると100名程度、しかも自身の護衛という名目の限界人数だ。安定している町に兵を集めるというのは不安しか生まない。冒険者も多いし、魔王国にとっての重要な施設も有る。悩むダンダイルに言った。


「少し時間が掛かるけどあのドラゴンを追ってみるわ。やんちゃな坊やが暇なだけで採るような行動にしては過激すぎるし、子供とはいえ純血のドラゴンなのだから、それなりに情報は持っているはず。」

「まさか飛んで?」

「出来る限り走るわ。」

「・・・ドーゴルと相談してきます。流石に勝手には動かせない。」

「もしもの時に太郎君達を隠してくれるように準備してくれるだけでも助かるわ。」

「世界樹様は?」

「太郎君達が直ぐに戻ってこれない理由が有るとすれば、世界樹様と合流した上で追われているか、合流できなかった・・・もしくは消されてしまって当てもなく逃げているか・・・。後者の可能性を完全に否定できないけど、世界樹様が存在していないのならドラゴンが行く理由としては薄すぎるし。」


 フーリンの中でも考えは纏まっていない。しかし、決断すれば行動は早かった。会話を続けながらも店を閉じ、戸締りを確認している。人数的には三人と一匹がいなくなって2ヶ月が経過しているのでどこも閉じたままだから、直ぐに終わった。大した荷物を抱える事も無く、押されるようにダンダイルと店の外へ出ると、街の外へ向かって歩き・・・小走りになり、完全に走って行った。

 ダンダイルが何も言えずにその背を見送った後、慌てて城へ向かった。ダリスの町の視察申請を提出する為である。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ