第1話 不思議な木と俺
初投稿です、よろしくお願いします。
異世界っていいよねー。俺も行きたい\(^o^)/
一人暮らしをして18年。20歳で上京し、実家には一度も帰ってはいない。仕事で必要だからと、車の免許を取ったが車は持っていない。25の時できた彼女とは付き合って3年で別れた。タバコは吸っているが、酒も呑まなければギャンブルもしない。休日はゴロゴロしているか、インターネットをやっているかで、何が楽しくて生きているのかと、一人でいると無駄な思考を巡らせる。
仕事は可能な限りの定時退社。高卒の営業マンでは就職できただけマシと思えば、出世にも無縁で、上司との付き合いもほとんどない。携帯電話は仕事以外で使うこともなくなり、帰りたくもない実家の電話番号は登録されていない。
実家の思い出は、常に酒を飲んでいて素面の顔を見た記憶がない父親と、浮気癖のある母親が知らない男とイチャイチャしている姿。家族の会話なんてほとんどなく、自宅での無口は学校でも無口になり、今思えばグレて不良にならなかったのが不思議なぐらいの悪い家庭環境だ。
そんな家庭環境の中で不釣り合いな植物がある。夏でも冬でも関係なくいつも青々としていて、最初は観葉植物だと思っていたのだが、ある日を境に父親がはっぱを一枚むしって食べるという、不思議な光景を毎日見ていた。飲んだくれになる前の父親は今よりは少しまともで、まだ中学生になったばかりの俺は父親に訊ねていた。
「なんでその葉っぱ食べるの?」
「このはっぱを食べるとどんなに酔っていても酔いが覚めるんだ。」
「・・・この木なんて名前なの?」
「・・・そういえばなんて名前だったかな・・・。」
父親と母親は共に19歳の時に駆け落ち同然の状態で、実家から逃げるようにして田舎から都会へやってきた。都会といっても東京とは比べられないが。その時に嫌がらせするつもりで実家に有ったこの木を持ってきたのだという。父親が子供の時から大して育っていないらしく、嘘か本当か、300年以上変わっていないらしい。葉っぱも数枚程度なら毟っても次の日に元に戻っているという。実際に毟った痕を見ると次の日には葉っぱがあった。いつ生えるのか気になって徹夜したこともある。それは、夜明けとともに急速に葉っぱが生えて元に戻るという、とても不思議な・・・不気味な光景だった。
俺は、それを、父親を困らせるつもりで持ってきていた。葉っぱを食べる気にはならないが、忘れない限りは少しの水やりと、日の当たりやすい場所に置いている。図鑑やインターネットで調べたが、名前はいまだにわからない。
いつもの休日。前日は少しゲームをやり過ぎていたが、少し遅いくらいで普段と変わらない朝のはず・・・だった。
「おはよう。」
俺の顔を覗き込む子供の姿が見える。声も聞こえた。寝ぼけているのだろうか?布団から半身を起こし、その子供の姿の頭をポンポンする。ふわっとした。
「・・・どこから入ってきたんだ・・・?」
「ずっとここにいるよ。」
少し混乱したが、窓も玄関もカギが閉まっている。窓を開けっぱなしにすれば少し寒い季節だ。子供の返事など耳に入ってなく、少し考えるとやばい気がしてきた。
(これって誘拐とか監禁とかしてる事になるんじゃ・・・。というか、夢か?)
両手で自分の頬を叩く。1回ではなく3回ほど。しかし、変化はない。子供を見るとにっこりとほほ笑んだ。可愛いと思った俺はたぶん変なんだろうと思う。いや、思いたい。冷静な判断ができるとは思えない状況で、妙に心が落ち着く。まるで昔から知っているような、そんな気がするから。
「驚いてもっと慌てると思ったけど、意外と冷静なんだね。」
「・・・そりゃ、どうも。」
子供の姿からは想像もできないしっかりとした口調で、さらに言う。
「すぐには信じられないと思うけど最初に言っておくね。」
「?」
「私はね、マナの木なの。」
言われて、木を見る。いつも水をやっているあの木だ。そこに木は生えているが、寝る前と比べると半分ぐらい小さくなっている。頭をポリポリと掻いて子供を見る。頭をボリボリと掻いて木を見る。なんかおかしい。それ以上に何かがおかしい。もう一度子供に視線を向ける。
「えっと・・・少し信じられるように言うと、あなたの名前は鈴木太郎。母親は男をとっかえひっかえしててー、父親は私の葉っぱをよく食べてたわね。」
流石に吃驚した。吃驚して固まっている俺に色々と説明を始めた。その内容はとても信じられない事だったが、目の前の子供が話す内容とは思えない。簡潔にまとめると、ちょうど500年前にこの世界とは異なるところから俺の祖先はやってきたらしい。元の世界では大きな戦争があって、争いの元になったというマナの木をドラゴンに焼かれて、どうにかこうにか枯れ果てる前に根本の一部をこの世界に持ち込んで苗木として育てたという。500年前といえば戦国時代だ。・・・というか異世界から来たのか、俺のご先祖様は。本当か?
「だから太郎が生まれた時から知ってるよ。」
無邪気に笑う。可愛い。いや、だから、そうじゃない。そうじゃなくてだ。
「あ、安心していいよ。私の姿は太郎以外見えないから。・・・太郎の父親とかおじーさんとかなら見えるかもしれないけど。」
「それは安心していいのかわからんな。それより、マナの木だとしてだ、なんで元の木を小さくしてまで俺に話しかけてるんだ?」
「それね、本当はもっと早く姿を見せられたはずなんだけど、葉っぱを食べられたりしたから出るのが遅くなっちゃって。」
「そういうことじゃなくて、なんで俺の前に姿を見せたんだ。」
「そろそろ元の世界に戻ってちゃんと育ててもらおうかと。」
「お前にとっての元の世界は俺にとって異世界なんだが。ん?育ててもらう?」
「だって私だけじゃまた燃やされちゃうかもしれないから、守ってもらわないと。それにこの世界にはマナがほとんどないからこれ以上成長しないのよね。だからさ、私と一緒に行こうよ。」
普通に考えると、このままだと異世界に連れていかれてしまう。両親には会いたくもないし、彼女もいないし、生きていて楽しいことなんてこれっぽっちもない。ネットにあった異世界に行く方法とかを試したこともあるが、俺は今の世界でそれなりに生活している。結婚を考えていた時期もあって貯金だってある。
「ちょっと待て。お前の話を全部信じると、そっちの世界ってかなり危ないんじゃないのか?」
「ん~、こっちの世界に来た時も人間同士で争ってたくらいには危ないけど、それは私がある程度は守ってあげるから。」
「さっきは守ってほしいといって、今度は守ってあげるとは、随分ご都合主義だな。」
「それは、ほら、この世界にはマナがないけど元の世界に行けばマナが吸収できるから、それなりに私の力も元に戻るのよ。ついでにいうと太郎にもマナはあるの。だから私が枯れずにいられた理由なんだけどね。それでも僅かしかないから、子々孫々少しずつもらってきてたってわけ。」
親父にもマナがあったということか。そうだよな、葉っぱ食ってたしな。
「・・・まあ、異世界とやらに行けるなら行ってみたいな。戻ってくる方法もあるみたいだし。」
「あ~、残念だけど戻る方法はないのよね。こっちに来る時に戻る方法を作ってきたけどマナがない世界じゃ行くだけしかできないの。もし戻るだけのマナを稼ぐとしたら5億年ぐらいかかるわ。」
「・・・は?」
俺の理解を超えた。・・・少し考える。
「成長したら元の力が手に入るんだろ、その力で元の世界に俺を戻せばいいじゃないか。」
「異世界に行くのは禁忌魔法なの。それに元の世界に戻る手段を作っただけで、どこの世界に飛ばされるのかは自由に決められないのよ。その所為でほとんどのマナを使い果たしたし、神さまにもちゃんと説明しないといけないし。」
「神さまがいるのか?」
「こっちの世界にもあっちの世界にもいるわよ。ただ、生命を構築するのに神としての力を使い果たしているから、やっている事といえば監視ぐらいね。」
「見ているだけなのか。」
「太郎にわかりやすく言うと、マンションの管理人みたいな。」
「あー、用事があっても腰が重くてなかなか対応してくれない感じか。」
「あながち間違ってないから困るのよねー。もう50億年ぐらい管理人やってるみたいだしね。」
「お前はいくつなんだ?」
「私は・・・8000年くらい・・・かな。こっちに来て500年経ってるから8500年か。」
「随分長生きだな。」
「マナの木だからね、神さまがあんまりにも地上とコンタクトをとれないからって私を創ったみたいだけど、結局それが争いの元になっちゃって・・・。」
とりあえず面倒な事に巻き込まれたというのは間違いない。異世界に行くのは、行けるというのなら別段問題はない。だがその前にやりたいことと確認したいことがある。
「すぐに行くわけじゃないよな?色々と聞きたいこともあるし、条件によっては準備もしたい。」
「一緒に行ってくれるのを約束できるんなら少しぐらい待ってもいいわよ。500年待ったんだしね。」
朝飯を食べ、風呂に入って、落ち着いた後、その異世界について詳しく話をする。結婚の為に貯めた使う当てのない日本のお金は、異世界へ行くための資金となった。
誤字脱字など見つけたら修正します。
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