表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

ハロウィン


 ハロウィンに、街が浮かれている。


 ーーー俺が菓子をもらえた季節は、とっくに通り過ぎた。


 道路を包む楽しげな奴らの喧騒を眺めながら、タバコの煙を吐く。

 馬鹿騒ぎと言う名の甘い菓子は、さぞかし美味いのだろう。


 小脇に抱えた、バイクのメットを飾り付けたカボチャ頭を撫でながら、俺はタバコをもたれた壁に押し付けた。

 ポトリ、と吸い殻を落とすと、不意に声をかけられる。


「ポイ捨ては良くないな。後で街を掃除してくれる人々が拾うゴミが増える」

「俺からのプレゼントさ。街を守るヒーローたちにな」


 苦言に対して軽口を叩きながら顔を上げると、そこにはピエロが立っていた。


 おどけた剽軽な化粧。

 ニコニコと笑っていながら、目の下には青い涙のメイク。


「ハロウィンの魔物が乱痴気騒ぎをした後、何事もなかったように掃除してくれるその行為には、頭が下がる」

「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ、って?」


 白いツナギで全身を着膨れした男は、血に似せた塗装をした牛刀を握った手を広げ、大げさに肩をすくめた。

 

「目立つ格好で現れて、菓子を脅し取るんだから悪辣だよな」

「それは同意だけど、今の僕らはむしろ目立たないと思うね。今日この場では、ビジネススーツ姿のリーマンの方がよっぽど目立つ」


 どいつもこいつも仮装して騒いでいるのだから、ピエロの言う通りかもしれない。

 俺はカボチャ頭を被ると、横に立てかけていた蛍光塗料を塗った大カナヅチを手に取った。


「さぁ、行くぞ。タバコの吸い殻なんか些細な汚れだ。……アスファルトに飛び散る血糊に比べればな」


 今日この場で、俺は奴らを殺す。

 前のハロウィンで路地裏に引きずり込んで俺を殴り倒し、目の前で彼女を犯した男ども。


 彼女は自殺した。


 友人だった彼女の兄と一緒に、俺は奴らを見つけ出した。

 今日もこの場に、同じメンツで現れる。

 

「トリック・オア・トリート。ーーー俺が、奴らにそう問いかけることはない」


 俺に甘美な時間(お菓子)をくれる女は、もう死んだのだから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ