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第二十三話 『負けん気』

「それでは第一回戦、ミカ VS(バーサス) パイロン! 開始!」


 戦いの火蓋は切られた。


 ミカの本当の意味での最初の実践だ。


「うぃー、ぱっぱとやっちゃうよー」


 いつものあっけらかんとした様子でミカは両手にナイフを構える。


 ナイフは武道大会仕様になっていて、刃の部分にはガードがついている。


「くふーっ。まさかこんな可愛い女の子と対戦できるとは格闘家冥利に尽きますなー。知っていますかな? 人間の肉というのはとても柔らかい。人肌に拳がめり込むときの感触と言ったら極上のデザートのようなものですぞ」


 パイロンは鼻息を荒くしてまくし立てる。


「うわー、なんかキショいし」


 ミカはすぐさま攻撃に移った。


 サイドステップを踏みながらパイロンに近づいていき、右手のナイフで顔を目掛けて一閃。


「ほほお、見た目以上に素早い動き。これは殴りがいがありそうですなぁ」


 パイロンはさらりとミカの攻撃をかわした。


 町一番の拳法家というのはどうやら伊達じゃないらしい。


「このー! まだまだ行くってのー!」


 今度は左手のナイフでパイロンの左脇をえぐるように振り上げた。


 ――ブニョッ


「あれっ!? 当たったのに手ごたえないし……」


「くふふっ、狙った場所が悪かったですな。私の腹回りは分厚い脂肪で守られていますのでね」


 パイロンは好機とばかりにずっしりと腰を落とし、正拳突きをミカのお腹に叩き込んだ。


「うぐっ――」


 思わず嗚咽を漏らすミカ。


「予想以上に良い肉ですな! 興奮してきましたぞ! ふんっ!」


 またしても正拳突きがミカの腹に入った。


「ごへぇっ」


 ミカは苦しさのあまり目に涙を浮かべている。


 俺は見ていられなくなって叫ぶ。


「ミカ! 無理せず降参するんだ!」


「……しないし。うちも戦えるところ――――見せるし!」


 必死の形相でミカはナイフを用いた反撃をする。


 しかし振り払ったナイフが当たった場所はまたしても脇腹だった。


 パイロンは下卑た笑いを浮かべて再び正拳突きの構えを取る。


「くふふふふっ、三度目の肉の御馳走――いただきますぞ!」


「――させないっての!」


 パイロンが腰を落として一瞬止まる瞬間をミカは見逃さなかった。


「とやぁっ!」


 ――チーン


 ミカが振り上げた足はパイロンの股間を捉えた。金的である。


 パイロンは声を上げる余裕すらなく白目をむいて倒れこんだ。


「うぇーい! ざまーみろー!」


 さっきまで悶えていたとは思えないほどにミカのテンションは高い。


 脳内麻薬がドバドバと出ているのだろう。


 それにしてもミカの奴、あえて脇腹への攻撃をすることで正拳突きを誘発するなんてやるじゃないか。


「勝者はミカ! お色気遊び人のミカさんが見事ノックアウト勝利!」


 興奮した様子で司会が絶叫する。


 ミカは観客席にひとしきり手を振った後、リングから降りてきた。


「へへーん! うち凄かったでしょ!」


 屈託のない笑顔で俺を見る。


「ああ、凄かった。俺も次の試合頑張らなくちゃな」


 ミカとハイタッチを交わし、俺はリングへと歩を進めた。

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