私の旦那様はとても
私の旦那様はとても美しい。
旦那様との出会いは私のデビュタントのとき。
初めて会ったとき、とても驚いたわ。
世の中にこんなに美しい人がいたなんて。
私はとても美しいって皆に言われて育ってきたし、私自身も自分をとても美しいと思っていたの。
デビュタントでも男性たちは私に釘付けだったから。
絶世の美女だ、まるで女神だ、地上に降りてきた天使だ、皆そう言ったわ。
だけど、彼はそんな私より遥かに美しかった。
絹のように滑らかで太陽のように常に輝く鮮やかな金髪。
世界中の綺麗な青色を集めて閉じ込めたようなキラキラと光る瞳。
綺麗に整った顔は、女性的でもあるけれど男性的な魅力も持つ。
肌は雪のように白く艶やかなハリがある。
背は高く、一見華奢に見えるその細い体はよく見ると鍛え上げられているのが感じられた。
私は一目見て彼を気に入ったわ。
だから、私を見つめていた彼に向かってにっこり微笑んだの。
そしたら彼も私を気に入ってくれたみたい。
私を見つめる顔は無表情だったけれど、耳がとても赤くなっていた。
美しいだけじゃなくて可愛いところもあるなんて、なんて素敵な人。
彼は私にダンスを申し込んできたから、私は喜んでそれを受け入れたわ。
彼とのダンスはとても楽しかった。
デビュタント後、私には沢山の婚約の申し込みがあったの。
そこには彼の名前もあったから、私はお父様にお願いしたの。
彼と婚約したいって。
お父様は私を嫁がせたくなかったみたいで渋っていたけれど、娘のお願いには勝てなかったみたい。
彼は私の婚約者になったの。
婚約してからも私は彼に夢中だった。
そして彼も私に夢中だったわ。
彼はあまり感情が顔に出ない人で普段はとても無表情。
私と過ごしている時もよ。
だから彼はよく怖がられていたわ。
でもやっぱり彼は美しい人だから、女性にとても人気だった。
私はそのたびにとても不安になったけれど、すぐに彼の顔をみて安心するの。
本当は旦那様はとても感情豊かな人よ。
私が触れればすぐ赤くなるし、私が体調を崩すとすぐ青くなるもの。
そして私にだけ、甘く微笑んでくれるの。
だから彼がどんなに女性に人気でも、私は安心して過ごしていられたわ。
そのまま私たちは順調に愛を育んで、結婚して夫婦になったの。
彼は私の旦那様になり、私は彼の奥様になった。
初夜のときは本当に幸せで、今でも忘れられない私の大切な思い出。
旦那様はとてもとても優しいの。
だから私は旦那様を愛しているわ。
私の旦那様はとてもそっけない。
ここ数週間、ずっと私にそっけない態度をとるの。
旦那様が怪我をしてからだったかしら。
私が話しかけても返事もしてくれない。
前みたいに触れてもくれない。
私を求めてくれないの。
寂しくて寂しくて泣いてしまうこともあるけれど、それでもいいの。
きっと今はとても落ち込んでいるから。
とても大きな怪我で、旦那様は今日もベッドに横になっているわ。
怪我をしてからずっと、ベッドから起き上がれないの。
軍人だった旦那様は仕事も怪我で出来なくなってしまった。
旦那様はとても誇りを持って仕事をしていた方だから、ショックなんだわ。
旦那様が怪我をしてから沢山の人がお見舞いに来てくれたわ。
皆旦那様を気遣ってくれているみたいで、あまり長居はしていかない。
旦那様に何か話しかけていくのだけれど、旦那様はだんまり。
せっかくお見舞いに来てくれた人たちにあまりに失礼だから、私がかわりに対応するの。
だけど私を見て皆悲しそうな顔をするのよね。
何故かしら?
旦那様は愛を囁いてくれなくなった。
だけど旦那様がどんなに私にそっけない態度をとっても、瞳に私を映してくれる。
旦那様はよく愛を囁くときに瞳に私を映していたの。
そして愛しているよって恥ずかしそうに言うの。
態度はそっけなくても、愛の言葉を囁かなくても旦那様の瞳に映るのは私だけ。
今も愛してくれているのね。
だから私は旦那様を愛しているわ。
私の旦那様はとても冷たい。
私はいつも怪我で動けなくなってしまった旦那様に寄り添って眠るの。
旦那様は体温を失ってしまったみたいにとても冷たい。
だから、私が温もりを分けてあげるの。
旦那様は私と寄り添って眠るのが好きだったから、私に触れるのが好きだったから。
これ以上旦那様が落ち込んでしまわないように私にできることはこれだけ。
旦那様と一緒に眠って起きると、いつも使用人たちは悲しそうな顔をしているの。
何故かしら?
旦那様は怪我をしてから感情が抜け落ちてしまったみたい。
あんなに感情豊かだったのに。
私は悲しくて悲しくて旦那様がいないところでこっそり泣いたわ。
使用人が泣いている私に気付くと、いつもそっと背を撫でてくれるの。
そして皆辛そうな顔で私を見ているの。
もしかしたら旦那様が急に変わってしまって私が愛されなくなってしまったと思っているのかしら。
私は今でも旦那様に愛されているわ。
どうしてそんな顔をするのかしら。
確かにあんなに私を愛してくれていた旦那様が急にそっけなくなるのには傷ついたけれど。
今でも旦那様は私を愛してくれているわ。
ある日、お父様たちが私に縁談を持ってきたの。
私はとても怒ったわ。
旦那様がいるのにどうして縁談なんて持ってきたの!って。
だけどお父様もお義父様も悲しそうな顔をするばっかりで、何も言わないの。
お母様たちは何故か泣いていたわ。
弟や義妹は痛ましそうにしていたわ。
皆してなんだというの。
泣きたいのも悲しいのも私の方だわ!
旦那様という人がいるのに私に縁談を持ってくるなんて、旦那様と離縁しろというの!
結局縁談はなかったことになったわ。
よかった、私は旦那様と愛し合っているのに引き裂かれてしまったら私死んでしまうわ。
死んでしまう?
そういえば弟が帰り際に「お義兄様はもう死んでしまったんだよ」って言っていたわね。
何を言っているのかしら。
今だって旦那様は生きているのに。
おかしな子だわ。
私は旦那様と絶対に離縁なんてしないわ。
これからも旦那様と愛し合って生きていくの。
旦那様の怪我が治ったらまた一緒にお出かけしたいわ。
美しい湖畔へ行って、二人寄り添って愛を囁き合いたい。
また私を抱きしめて欲しい。
私を瞳に映すだけじゃ、やっぱり寂しいもの。
私は旦那様を愛しているわ、これからもずっと。
旦那様の身体が腐食していないのは魔法によるものです。