弘美の大切な宝物
「先ほど○○市の○○公園のトイレから女性の遺体が発見されました――」
「おい! この公園うちの近くじゃないか?」
ソファに座りながらニュースを見ていた孝之が、隣に座っている弘美に問いかける。
「そうね」
携帯ゲームに夢中になっている弘美は興味がなさそうに答える。
「遺体には複数の凹凸の付いた物で殴られた痕跡があり、全身に鉄串が刺されているようで――」
あまりもの残虐さに耐えきれなくなりチャンネルを変える孝之。そしてあることに気が付く。
「弘美、その右手どうしたんだ?」
「ああ、これね。昨日、私の大切な宝物を盗ろうとした猫を追い払ったときに痛めちゃって――でも、大丈夫よ! 大切な宝物はちゃんと取り返せたわ」
そういいながら微笑む弘美。
「ご飯作るわね」
ダイニングキッチンの方へ行き食材を準備している弘美。
「今日は何を作るんだい?」
「焼き鳥を作ろうと思うの! すぐ作るから待ってて」
さっきのニュースが気になりチャンネルを戻す孝之。
「以前、犯人は捕まっておらず――」
肉叩きで鶏肉を叩く音が孝之のいる方まで響く。
「それ俺がやろうか? 手痛めてるんだろ?」
「ありがとう。じゃあお願いするわ」
肉叩きを孝之に渡す。
「そういえば――あなたに聞きたいことがあるの」
「なんだい?」
「これで3人目よね? もうしないって約束したのに」
「え、えーと――肉はどのくらい叩けばいいの? なんかこの肉叩き曲がってない? それに少し赤い気がするんだけど」
「赤いのなんてあたりまえじゃない! 肉叩いてるんだもの。それより浮気したの? してないの?
「すみません。浮気、しました――」
「今度こそはって信じてたのに、裏切ったのね」
「もうしない! 絶対だ! 今度こそ約束する!」
「わかったわ。あなたを信じるわ」
弘美の言葉にほっとする孝之。
「ありがとう。さっ肉叩き終わったよ。次は何をしたらいいんだい?」
さっきまでとは違い明るくなる孝之。
「じゃあ、その肉に、後ろの引き出しに入ってる鉄串を刺してくれる?」
「任せてよ!」
引き出しを開けると、そこには引き出しにびっしりと鉄串が入っていた。
「弘美。なんでこんなにたくさん鉄串が入ってるの?」
汗をものすごく掻きながら弘美に問いかける。
「昨日買ったのよ! これからたくさん使うんじゃないかな~って思って」
なぜだか全身の震えと汗が止まらなくなる孝之。
「もしかして、昨日買い物の他にどっかに行った?」
恐る恐る弘美に問いかける孝之。
「買い物に行って、そのあとは近くの公園に行って、そのあとは真っすぐ家に帰ったわ」
弘美から少し離れる孝之。そして弘美の前で土下座をする。
「本当に悪かった。このとおりだ。許してくれ。だ、だから――」
「どうしたのよいきなり。さっきもう許すって言ったじゃない。なんでそんなに震えてるのよ」
涙や鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を上げる孝之。
「本当かい? 本当に許してくれるのかい?」
「もちろんよ。だってあなたは私の――大切な宝物なんだから」
こんにちは。
ざき島ココアです。
最期まで読んでいただきありがとうございます。
夫の浮気に対する妻を描いた短編になります。