跳ね返り
山本の拳が秋吉にヒットする。秋吉は攻撃を受けながらも余裕の表情だった。
「ハッ」
しかし山本が力を込めた次の瞬間、秋吉が後方に向けてぶっ飛ばされる。壁に背中を強打し、そのままダウンした。
「能力だ・・・ あれが彼の能力なんだ」
パンチで相手を吹き飛ばす能力、単純ながらも強力だ。たしかにパンチ一発でこの威力なら、秋吉を倒せるかもしれない。
「スゲェな。こんなスゲェ能力があんのか」
秋吉は嬉しそうだった。おそらく自分を吹き飛ばす程の相手に出会った事自体、初めての経験なのだろう。
「でも残念だったな、お前の弱点は見切った」
そう言って秋吉は吹き飛ばされた先に落ちていた消しゴムを拾うと、山本に向かって投げた。
「ハッ」
山本は能力で消しゴムを弾き返す、弾き返された消しゴムは物凄い勢いで秋吉の方に跳ね返されていった。
「グッ」
消しゴムを避けずにガードする秋吉。ガードした秋吉の腕からは鮮血が流れ、血が地面に滴り落ちる。
「消しゴムを跳ね返しただけでこの威力か、たしかにスゲェよ。でもな、何を跳ね返そうと俺を倒す事は出来ない・・・ それこそもう一度直接跳ね飛ばされたら分かんないけどな」
秋吉は相手の攻撃を誘っているようだった。山本は再び秋吉に向かって拳を構える。
「ハッ」
ステップで間合いを一気に詰め、パンチを繰り出す。しかし秋吉は間合いを詰められた瞬間、山本の横に回り込むと背中に回し蹴りを放った。
「しまった」
山本の拳は蹴りの勢いで壁に打ち込まれる。次の瞬間、山本は壁に跳ね返され、先程の秋吉と同様吹き飛ばされた。
「ウッ」
壁に背中を打ち付けられ、山本は衝撃で前に倒れた。動く事は出来そうにない。
「いい勝負だったが、とっさにコントロール出来ないとはまだまだな能力だな」
それだけ言い残すと秋吉は帰っていった。野次馬たちも決着がつき満足したのかゾロゾロと散っていく。
「助けないと」
千春は慌てて山本へ駆け寄る。山本と千春はクラスメイトだ。クラスメイトの痛々しい姿に千春は冷静さを失っているようだった。
「待って、私達が連れて行く」
柳生さんと平野さんが山本を抱えて保健室への向かう。千春は呆然と立ち尽くしている。
俺はどうする事も出来なかった。喧嘩を止めるどころか、止めようとすらしなかった。
「勉強すれば強くなれる学校か・・・」
俺はすぐに帰宅した。帰宅後、やりかけだった英単語帳と教科書を出し、家庭学習を始める。
入学して最初の統一模試まで後一週間。そこで好成績を取り、次こそは秋吉を止める。俺はそう決心した。
俺なんかが勉強したところで秋吉を止められるかは分からない。事実二年で成績も良い平野さんですら歯が立たなかった。秋吉の強さは勉強による能力の強化とかそんな次元でどうにかなる存在ではないような気もしていた。
それでも何もやらないのは嫌だ。俺はその一心で机に向かった。