最強の運動部
翌日、防衛委員会の教室に行くと、柳生さんと安野さんが二人で話していた。明らかに柳生さんの方はイライラしていて、安野さんはそれを必死でなだめている。
「あのような蛮族を野放しにするつもりですか。それでも防衛委員会の委員長ですか」
「いや、あの平野がやられちゃった以上打つ手がないんだよ。それに千春が言ってたけど彼は運動部以外の一般生徒に手をだすことはしないんだろう。だったら今どうにかする必要はないんじゃないか」
確かに昨日はどちらかというとこちらが一方的に仕掛けた感じだった。悪行三昧の運動部のみを狙うことがわかった以上、彼と戦う必要はないのかもしれない。
「私が負けちゃったのが悪いんでしょ」
頭に包帯を巻いた平野さんが部屋に入ってくる。
「まあ不良運動部倒して回ってるうちはいいんじゃない。そうじゃなくなったら厄介だけど」
平野さんは秋吉に何かいやな予感を感じているようだった。平野さんはいつも以上に気だるげにパソコンを立ち上げる。重苦しい空気が流れ、しばし室内は静寂に包まれた。
「大変だ」
静寂を破ったのは千春の叫び声だった。
「秋吉君がバスケ部の山本君と喧嘩に」
「バスケ部・・・ やっぱりか」
平野さんは立ち上がると、一目散に教室を飛び出して行った。
「追うぞ」
柳生さんも後を追う。後ろから俺、千春、今回は安野委員長も。千春と秋吉が所属する一年F組の教室前に到着すると、すでに野次馬で人だかりができていた。
「行け!やれ」
「潰せ山本」
野次馬たちは普段の勉強のストレスをここぞとばかりにヤジにぶつけていた。ヤジの向こうでは山本と呼ばれた男が秋吉のパンチを必死にかわしている。
「なあ、やめにしないか」
「何言ってるんだ、これからだろ? 楽しいのは」
秋吉は昨日と打って変わって楽しそうだ。一方相手の山本は戦う意思は薄いらしく、防戦一方だ。
「まさかこんなに早くバスケ部を狙うとはね」
平野さんによるとバスケ部はバトミントン部と並び唯一真面目に活動している運動部らしい。去年はインターハイベスト8。戦闘力も全運動部トップクラスなのだが、暴力などを振るうことは滅多にないという。
「罪のない一般生徒を狙うとは、許せん」
「待って、最強の運動部であるバスケ部ですら苦戦する相手に俺たちが加勢しても無駄だ、かえって彼の邪魔になるだけだよ」
安野さん曰くバスケ部の戦闘力は例外なくトップクラスで、防衛委員会よりも戦力ははるかに充実しているらしい。もしバスケ部が本気を出せば、全運動部相手にバスケ部だけで互角に渡り合えるという噂があるぐらいだそうだ。
「だがあやつは新入部員だ、バスケ部だから強いとは限らんぞ」
なお柳生さんは食い下がる、しかし安野さんも平野さんも動こうとはしない。おそらく闇雲に向かっていっても秋吉には勝ち目がないことを悟っているからだろう。
「攻撃してこいよ。お前がクラスで一番強いのは一目見たときから分かってたんだ」
秋吉は山本の攻撃を誘う。山本の表情が少し変化した。
「本当にいいんだな、本気を出して」
初めて山本が拳を構える。ニヤリと笑う秋吉。
「バキッ」
山本の拳が秋吉の顔面をとらえた。