運動部キラーVS野球部員
「あの、さすがにこの人数での尾行ってバレないですかね」
「あれだけの人数が喋りながら移動していれば気づかんだろう。それとも私の作戦が信用できんのか」
柳生さんは自信満々で僕らにいう。しかしいくら何でも岡村の尾行なんて・・・。
柳生さんの案は至極単純だった。これから狙われそうな運動部員を付け回し、現場を押さえるというもの。そして肝心の誰を尾行するかは議論の末、万一バレて戦闘になっても平野さんさえいれば何とかなる岡村に決まったのだった。
「しかし現れるんですかねえ」
岡村はどんなに少なくとも部下を三人は引き連れている。平野さんのように複数人を一気に無力化できる能力があるのならまだしも、普通に挑めば数の暴力で返り討ちにあうのは目に見えている。
「現れますよ、まだ狙われてない主要な運動部は野球部とバスケ部、あとは相撲部ぐらいなんですから」
千春はとても楽しそうだが、だからって俺を巻き込まないでほしい。しかしあそこまでしつこく、かつ目を輝かせながら誘われると断れない。
しかし回復能力というサポートにピッタリな能力を持つ千春はまだしも、俺がいたら足手まといになるんじゃないだろうか。正直この作戦への同行は、あまり乗り気ではなかった。
「しっ、誰か来た」
平野さんの指示で全員が岡村たちの方に注目する。岡村たちの前には筋肉質な190cm近い大男。
「あ、秋吉くん」
千春が反応した。知り合いなのだろうか。
「クラスメートの秋吉くん。見た目は大きくって怖いんだけどすごいいい人でさあ、この前も一緒にゲーセン行ったんです」
千春の友達だったようだ、なら岡村達に絡まれているということも考えられる。どちらにせよ戦闘を覚悟する必要がありそうだ。
「なんだ、どけよデカブツ」
岡村の手下が秋吉に触れたその時だった。
「グシャッ」
秋吉の拳が野球部員の顔面に突き刺さる、4、5メートルは吹っ飛ぶ野球部員。
「何してくれとんじゃゴラア」
岡村がブチ切れる。一気に場の空気が張り詰める。
「お前が野球部のキャプテンか、サッカー部の溝口より弱そうだな」
秋吉は平然と岡村を挑発する。口ぶり的にサッカー部とはすでに交戦済みらしい。
「サッカー部の溝口も運動部キラーの被害者。奴が正体でほぼ間違いないようだな」
柳生さんは早速臨戦態勢に入ろうとするが、平野さんに止められる。もう少し様子が見たいのだろう。千春は驚きで声も出ないようだった。
「ウホオオオオオオオオオオオオ」
岡村がゴリラの化け物に変身する、そのまま猛スピードで秋吉に突っ込んでいく。
「効かねえんだよ」
秋吉は岡村の突進を片手で受け止めると、もう片方の腕で渾身のパンチを放つ。
「グチャッ」
岡村の気持ちの悪い顔面がさらに醜く歪む。渾身の一撃を喰らった岡村はその場に崩れ落ちた。
「さあて、次はどいつだ」
他の野球部員たちは完全に恐怖に呑まれ、足は小鹿のように震えている。遠目に見ている俺ですら少し怖いぐらいだ、無理もない。
「待て、次は私が相手だ」
「戦いたくないんだけどなあ」
柳生さんと平野さんが秋吉の前に立った。完全に戦闘モードだ。