美しき処刑人
窓から外を覗くと金属バットで武装したチンピラが二十人ほどいた。後列には岡村と例の三人組もいる。
「まさか野球部の方からここを攻めに来るとは」
安野委員長は動揺しているようだった。あれだけの数のチンピラに囲まれていれば最もなのだが。
「私が出る」
柳生さんが腰の刀に手をかけ、扉の方に向かう。
「待て、ここは平野に任せるんだ。俺たちは万一教室内に侵入された時に他の生徒を守る役割がある」
「しかし」
柳生さんの言うとおりだ。あれだけの数相手に一人じゃ厳しい。ましてや平野さんは女性である。いくらなんでも危なすぎる。
「はあ、めんどくさいなあ」
平野さんが気だるげに立ち上がる。彼女は迷いなく扉の前に行き、扉を開いて外に出た。出た瞬間に柳生さんが扉を閉める。
「やあ、野球部の皆さん。防衛委員会に何か御用ですか」
窓から外を覗くと平野さんが二十人以上いる野球部相手に対峙している。明らかにやばい状況なのだが、平野さんに微塵も焦る様子はない。
「だからさっきから言ってるだろうが、杉田俊とかいう一年坊を出せって言ってるんだよ」
苛立つ岡村。今にも襲いかかってきそうな野獣の眼光を平野に向ける。周りの野球部員たちもジワリ、ジワリと平野さんとの距離を詰める。
「やれ」
野球部員が一斉に襲いかかる。次の瞬間だった。
「終身刑」
彼女がそう唱えると右手から急に縄のようなものが現れ、野球部員達を縛り上げた。バランスを崩し、倒れていく野球部員たち。
「くそ・・・ 舐めるな」
岡村はまた醜いゴリラの化け物に変身した。体にまとわりついていた縄もあの時の壁のように溶けていく。
「マジか、終身刑を破るほど強くなってたのか」
平野さんの表情が若干こわばる。能力を破られることは予想外だったようだ。
「お前の縄なんて怖くないウホ。俺の能力は触れたものを溶かすことができるウホ」
喋り方までゴリラになってきている。目も完全に野獣と化しており、全身を覆う気持ち悪いオーラも相まり、もはや人間が元になっているとは思えない。
「ウホオオオオオオオオオオオオオオオ」
平野さんにゴリラが襲いかかる、しかし平野さんはゴリラの攻撃を紙一重で避けた。
「ハア、仕方ない・・・か」
平野さんは心底嫌そうな表情で構えた。構えた箇所に岡村が突進する。
「絞首刑」
平野さんが唱えるとジャンプし、岡村の背後に回る。そして両腕を岡村の首元に絡みつかせ、首を締め上げた。
「グアアアアアアアアアアアアア」
「うう、臭い・・・・」
首を締め上げられ苦しむ岡村。しかし溶解液に触れているせいか平野さんも苦しそうだ。
「処刑」
平野さんが最後の力を振り絞り、腕に力を込める。岡村の体は元の醜男に戻り、地面に崩れ落ちた。