防衛委員会
「この部屋までくれば安全だ」
俺は広い大部屋に連れて行かれた。かなり広い教室で、中にはパソコンがずらりと並んでいる。
「勉強がしたいなら奥の自習室を使うといい。さらにその奥の部屋にはゲームや漫画が置いてあるから、暇にはならないだろう」
「待ってくれ、俺はすぐに帰りたいんだけど」
特に用事があるわけではなかったが、あまり遅くなると母親が心配する。
「完全下校になる8時まではここにいた方が身のためだと思うよ」
やや大柄な美少女が教室に入ってくる、身体はやや筋肉質で引き締まっているが胸は大きい。後ろには気弱そうな生徒が複数名。
「平野殿、帰られたか」
平野と呼ばれた少女は周りの生徒を奥の部屋に入れると、自分はパソコンを立ち上げてインターネットを始めた。
「平野さん・・・ですか? 8時まで帰れないって本当ですか」
「8時までは不良たちが部活動という名目で校内に残っているからね。抗争に巻き込まれるだけでも危険だし、この時期は特に何も知らない一年狙った犯罪も多いから」
「そうですか」
平野さんはパソコンから目を離さないまま答えた。
「その通り、我々防衛委員会の使命は貴様のような数少ない一般生徒を不良の毒牙から守る事なのだ」
眼帯の少女はドヤ顔だった。防衛委員会とかいう聞きなれない単語が出てきた気がするが、そんな事はどうでもいい。
「何とか帰れませんかね」
「厳しいな、野球部に目をつけられた以上は」
眼帯の少女は急に険しい表情になった。この学校の野球部ってそんなに恐ろしいのだろうか? 前いた中学では友達も居たし、不良だらけの中学の中じゃあ結構いい奴らだったのだが。
「そういう君も大して知らないでしょ、柳生さん」
「安野委員長」
「お疲れ様です」
小柄な男性が教室に入ってきた。さっきまでパソコンに夢中だった平野も席を立ち、挨拶している。この人がここで一番偉い人なのだろう。
「えーと君は確か新入生の・・・杉田俊君かな?よろしく」
「なぜ僕の名前を」
名乗った覚えはない、しかもこの人とは初対面だ。なぜフルネームがわかるのだろうか。
「ああ、防衛委員会では新入生のことは毎年必ず調べるようにしているんだ。どんなやばい奴がいて、どんな人を守らないといけないかをちゃんとチェックしないとね」
「まあそれでも全員の名前と顔が一致する人は安野委員長と太田副委員長ぐらいですよね」
眼帯の少女・・・もとい柳生さんがドヤ顔で説明する。安野委員長は謙遜しながらも深刻な表情だった。
「最近野球部の被害が多くってね。特に三年の岡村はかなりやばい能力を持っているからね」
確かにあの気持ち悪さは尋常ではない。おまけに壁を溶かすパンチとかもはやこの世のものとは思いたくなかった。
「岡村くんは確かに恐ろしい能力の持ち主だったんだけど馬鹿だったから去年まではそこまで脅威じゃなかったんだ。でも3月に行われた三学年合同総合模試で偏差値68を叩き出した」
確かに偏差値68と言ったら十分高い、しかしこの学校の偏差値自体が68である。そこまで大したことがあるとは思えなかった。
「あ、一年生二人のために一応言っておくけどこの学校でよく学力の目安にされる総合模試は一般的な偏差値よりもかなり低く出るからね。おまけに三学年共通の問題だから一年生なら偏差値50もとれれば上出来ってレベルだから」
心の中を読まれたようだ。しかし一年生が二人とはどういうことなのだろう。
「そうだったのか」
いかにも初めて聞きましたという反応をする柳生さん。
「え、まさか柳生さんって一年生なの」
明らかに「防衛委員会」のメンバーという感じだったし、貫禄もある。学力に応じて強弱が変わる「能力」も、岡村を怯ませるほどの力があった。まさか同学年だったとは。
「いやあ、まさか一年生が入学式直後に入会書を持ってくるなんて前代未聞だよ。おまけに僕たちのことまで完璧に調べてきているし」
「はい、貴方達は私の憧れでしたから」
入って二日でここまで馴染めるのもすごいが、受け入れる方はもっとすごい。喋り方といい顔つきといい、安野さんはかなり優しい人だなと思った。
「とにかく、岡村を放っておくと大変なことになる。平野、討伐に行ってくれ」
討伐とかいう物騒な用語が飛び出た。改めてこの高校は異常だと思う。
「いや、一人じゃ厳しいですよ。岡村は最低でも三人、下手したら十人以上も手下を引き連れてるんですから」
「さすれば仲間が三人の今こそ、絶好の好機です」
柳生さんがさっきの状況を事細かに説明する。安野さんは少し考えた後、平野さんと柳生さんの二人でパトロールがてら、岡村を探しに行くことにしたようだ。
「二人とも頑張って。後杉田君、君は怪我をしているようだししばらく放課後はここにいなさい。野球部も岡村君だけではないからね」
右腕の怪我を見抜かれていたとは、正直俺はかなり驚いた。昨日の千春君の能力のおかげかかなり痛みは引き。自分でも動かそうとしなければ忘れてしまう程度まで回復したからだ。医者には行ったが放っておけば治ると言われ、軽く包帯を巻いたぐらいである。
「とにかく暇だろうから勉強でも教えようか? それともゲームでもするかい」
先輩の優しさに俺は逆に申し訳なくなった。しかし次の瞬間・・・
「おい! 杉田俊とかいう新入生を出せ! ここにいるのはわかってるんだ」
岡村の声がした。最悪だ・・・