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「ダメって言ったのに」


 再び遊園地の世界に行くと、真由は不機嫌そうな顔で私を見た。


「そうだな。すまない」


 私がここに来るたびに、妻の容態は悪化する。ならばもちろん、私は二度とここに来るべきではない。その為に真由は私の事を止めたのだから。


「今日で、最後にするつもりだ」


 そう言うと、真由は少し驚いた顔を見せた。自分から来るなと言っておいてそんな反応を見せる真由が微笑ましくて、私は少し笑った。


「だから最後に、確認させて欲しい」

「確認?」

「ああ。この前の言葉だ。お母さんは、俺のせいで悪くなってるって。そうなんだよな?」

「……うん」


 真由は頬をかきながら俯いた。


「真由」

「……何?」

「お母さんが体調を崩してるって、いつ知った?」

「え?」

「いつ知ったんだ?」

「それは、お父さんとここで会ってから……」

「俺がお前に、お母さんの話をしてからだよな」

「……」

「それを教えたのは、結構前だよな。なのに、お父さんのせいでなんて言い出したのは、つい最近の事だ」

「……」

「分かってたなら、もっと早くに言えたんじゃないか?」

「それは……私にも、お父さんがここに来てる事と関係してるなんて、思ってもなかったから……」

「それをどうやって知ったんだ? 何故俺のせいだって」

「それは……」


 真由はずっと頬をぽりぽりと掻き続けている。


 ――やっぱりか。


 本当に、分かりやすいな。


「真由」

「……」

「もういいよ」

「……え」

「嘘なんだろ。お母さんの事」

「……」


 真由の手が止まった。

 あの日病室で紗雪が見せてくれた頬をかく動作。嘘をつく時のサインだ。


「……ごめんなさい」


 真由が頭をぺこりと下げた。

 嘘は、これでもう終わりだ。


「お母さん、もう長くないから。だから……私の所に来る時間があるなら……お母さんのそばにもっといてあげてほしいの」

「……ああ」

「私はもう死んでるから。死んでる私が、生きてる二人に迷惑をかけたくないから。だから、お願い……」

「……っ」


 父親失格だ。

 娘にこんな事を言わせてるようじゃ、ダメだ。


「その為に、嘘をつこうとしてくれたんだな」

「……バレちゃったけどね」

「お前の嘘は、生きてる時から分かりやすかったからな」

「ひどいよ、お父さん」

「すまん。でも」

「……」

「お前の嘘は、優しい嘘だ。お前は、死んだ今も本当に、素敵な私の娘だよ」


 娘の顔が霞んでいく。涙のせいか。この世界との別れのせいなのか。

 頬が濡れている。視界はどんどんと暗くなっていく。

 さよならだ。

 もう私はここに来てはいけない。バレようとも、その嘘は私の為だ。娘の優しさを無下にしてはいけない。


「またな、真由」


 その時は、ちゃんと死んでからだ。その時まで、私はもうここには来ない。


「またね、お父さん」


 やがて、視界は完全に黒一色となった。


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