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「お母さん、調子はどう?」

「ああ、今も頑張っているよ」

「そう……心配だね」

「そうだな……」


 真由は暗い顔で俯いた。

 ここに来ると真由はいろいろな話を聞きたがった。私の生きている世界で、今何が起こっているのか。私達はどう過ごしているのか。

 紗雪の事も真由には話していた。病気になり、入院状態が続いている事。ここに来てまで暗い話はしたくはなかったが、変に取り繕ってもいずれは死して全てを知ることになるであろうと考えれば、偽る必要はないと思った。

 真由はいろんな事を知りたがったが、逆に私が知りたいことはあまり知れなかった。というより、真由もあまり分かっていないらしい。ただ自分が死んでいる事は自覚していて、普段は違う場所にいるが、私と会う時は何故か気付くとここにいるんだと、そういう事らしい。

 分からないなら仕方がないが、状況としては異常なのは間違いない事なので、出来ればこの不可思議な現状の答えを少しでも知りたいのが正直な所ではあったが、真由に会えれば十分ではないかと、そこまで深く疑問を引きずる事はしなかった。


「そろそろ戻らないとかも」


 だいたい別れは真由から切り出す。何がそろそろなのかと聞いても「なんとなくそろそろ戻った方がよさそう」という言うだけでやはりこの世界のルールは良く分からなかったが、そう言われてしまってはあまり強く引き留めるのもの悪く思い、名残惜しくはあったが毎度真由の言葉に従っていた。


「じゃあ、またな」

「……」


 しかし、いつもならまたねと手を振ってくれる真由が、今日は無言で下を見つめていた。


「ん? どうした?」

「……お父さん」


 真由は顔をあげたものの、頬をしきりにかきながらどこか気まずそうで、こちらと目を合わさそうともしなかった。

 何を言われるのか、言おうとしているのか私はとてつもなく不安になった。

 

「もう、来ちゃダメだよ」

「……え?」


 唐突な宣告。一気に全身の温度が下がっていく。

 いつか終わりが訪れる事をどこかでは分かっていたし、覚悟はしていた。だがあまりにも急な通告だった。

 しかし、次の言葉こそが、私の想像していなかった本当の通告だった。


「お母さんが悪くなってるの、お父さんのせいだよ」


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