遭遇、回顧、全力回避。
何でもOKな心の広い方はどうぞ暇潰しにでもどうぞ。
入学式、と言えば人々は何を思い浮かべるだろうか。華やかに咲き誇る桜、行き交うバームクーヘン、そして期待と不安に胸を膨らませた新入生。実際の彼らが何も考えずにぼーっと座っていようが、あー便所行きてーとか思っていようが、そこから物語が始まるのであれば主人公は基本的に彼ら一年生の中から選ばれるのが普通であり、この場合後ろの方に座っている上級生達は大方名前もつかないモブ集団、もしくは背景の一部といった所である。
そんな中にあって、黒川柳という名の2年生はじつによく周りに溶け込んでいた。校則通りに着こなした制服、目元全体をすっぽりと覆い隠す長い前髪はまさしくモブ生徒CかDといった感じであり、その見かけに相応したごく普通の高校生活を満喫していた柳は今現在、震えそうになる手足をなんとか押さえつけながら元から薄めだった存在感をさらに薄めようという謎の努力に余念がなかった。
何故そこまで怯えているのかといえば、その理由は保護者や来賓達が入ってきた時から感じている見知った気配にある。他を圧倒する驚異的なカリスマ性と身内の者すら恐怖で支配するのに十二分な威圧感、少し離れた場所にいてもはっきりと感じられるそれには嫌というほど覚えがあった。
(ヤバい、ヤバい、)
まざまざと脳裏に浮かぶ地獄のような光景。二度と味わいたくない恐怖と屈辱。相手方の記憶が有るのか無いのかは分からないが、この平和な時代にまで彼と関わり合いになるのは是が非でも避けたかった。
(何で、何で、)
というか何故こんな所で相見えそうになっているのか。今は新入生の誰かしらの親にでもなっているのだろうか。
(何で此処に織田っぽいのおるんー?!)
黒川柳、16歳。前世では明智光秀として戦乱の世を生きた生徒の、高校生活始まって以来最大のピンチが今、訪れようとしていた…