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この世で最もおぞましき屈辱と絶望。

「あ、静かにしてね。わかってると思うけど」

 彼女の手には拳銃があった。よく見るとそれは、ユリシーズが枕もとに置いていたものだった。少年は歯噛みし、灼熱の憎悪とともにスマイルを睨みつける。

「何しに来た……!」

 圧し殺した、しかし力のこもった声でユリシーズは言う。スマイルは微笑みながらゆっくりとベッドに腰かけた。

「ユーリィを笑顔にしてあげようと思って」

「帰って」

「ユーリィってば、ずっと緊張したような、張り詰めた表情してるから」

「か――むぐっ?!」

 『帰れ』と怒鳴りかけた少年の口に、スマイルの片手が素早くのびて、柔らかい布が押しこまれた。ユリシーズは目を見開いて身をよじるが、ベッドがわずかに軋むだけで手足のロープはほどけない。

「怖がらないでよ、傷つくなあ」

 スマイルが銃口をユリシーズの眉間に押しつけた。彼の脳裏に眠る前に見た弾丸の鈍い輝きがよぎる。ユリシーズは口の中の柔らかい布を噛みしめ、黙った。スマイルは満足げに頷く。

「うんうん。よしよし、怖くないよ〜」

 少女は拳銃を膝の上に乗せ、おままごとのようにユリシーズの肩を叩いた。

 ユリシーズは歯がゆい思いでスマイルを睨みつけている。むりやりに大声を出したら、もうひとつの寝室からアングレカムが飛んでくるだろうが、同時に自分の命が無くなる。もし自分が死んだら彼女がどうなってしまうのか、ユリシーズには想像するのも恐ろしかった。だから彼は、耐えることにした。

「心配しなくても、ユーリィを殺したりなんかしないよ」

 するとスマイルはベッドに上がった。彼女はユリシーズを跨いで、遥か上から彼を見下ろす。

「だって私、ユーリィが好きだもん!」

 屈託のない笑顔で少女は言った。ユリシーズは思わず口の中の布を喉奥に食いこませそうになった。怒りと屈辱に歪む少年の顔を見下ろし、スマイルはくすくす笑う。

「ねぇ、今ユーリィがくわえてるそれ、なんだかわかる?」

 ユリシーズは困惑した。口の中を占める柔らかい布の塊はわずかに異臭がし、少年の唾液を吸って湿っている。舌を使って押し出そうにも、一部が歯に引っかかっているようで不快だった。

「教えてあげるね……」

 そう言うとスマイルはドレスのスカートの端をつまみ、そのままゆっくりと、焦らすように引き上げはじめた。綺麗な布の下から少女の白い足が徐々にあらわになっていく。まるで劇場の緞帳のように上がっていくスカートの裾に、ユリシーズもつい、息を止めて目を奪われてしまう。

 幕が上がりきった。ユリシーズは目を疑った。

「私の下着だよ」

 スカートの下、スマイルは何も履いていなかった。彼女の秘所は剥き出しになっていて、しかもそこからは液体が溢れているのだった。液体はいくつもの筋を引いて彼女の内腿を走り、カーテンの隙間から部屋に漏れ入る僅かな光を反射している。ユリシーズはそれを見た瞬間、彼女の目的を理解して恐怖し、吐き気を催した。

 急いで舌を使って下着を吐き出そうとするがうまくいかない。耐え難いほどの気持ち悪さとおぞましさに、声を出せない苦しみが輪をかける。悶えるユリシーズを見て、スマイルはサディスティックに微笑した。

「ほら、そんな顔しないで、笑ってよ!」

 スマイルはスカートから手を離し、その場に――ユリシーズの体の上に――へたりこんだ。自分の腰を動けない少年の腰の上に乗せて、スカートを円形に広げる。ユリシーズは恐怖と嫌悪に激しく頭を左右に振るが、スマイルは片手で拳銃を彼に突きつけたまま、楽しそうに含み笑いをする。

「ちょっと待っててね……今準備させてあげるから」

 少女は空いている方の手を、自分のスカートの下に挿し込んだ。ユリシーズが目を見開き、びくりと身を震わせ、体を縮める。スマイルの手がもぞもぞ動くと、だんだんと彼の頬が紅潮し、呼吸も浅くなってくる。スマイルは彼の表情が少しずつ柔らかくなっていくのを楽しげに観察していた。

「ほら、できた」

 スマイルがそう言うと、彼女は腰を浮かす。弛緩していたユリシーズの表情が、さっと青ざめる。少年は目に涙を浮かべながら小さく首を振って懇願するが、少女は無視して瞳を細める。

「上より先に下でキスしちゃったね。じゃあ、いくよ……」

 少女が腰を落とした。ユリシーズは初めての刺激と、おぞましい事実と、気が狂うほどの拒絶感に体をのけぞらせ、歯を食いしばった。頭蓋骨の内側で脳内麻薬が弾け、同時にこの世で最も忌々しいことをしてしまったことに対する黒い衝動が暴れまわって、自分の周りの世界が崩れていくような感覚をおぼえる。絶望が、ユリシーズの心を鉤裂きにしようとしていた。

 少年の上で、少女は腰をくねらせ続ける。蒸し暑いスカートの下でスマイルの悪意がユリシーズの魂をズタズタにしていく。ぐちゅぱちゅという液体と空気の音が暗い部屋に響く。スマイルの顔はすっかり蕩け、夢見るような表情をしている。息は荒く、熱い吐息が溢れている。金の髪が踊り、赤いリボンが暴れる。艶のある唇の端からよだれが糸を引いて落ちる。完全にエクスタシーのとりこだった。

 ユリシーズは限界だった。かろうじて守っていた最後の誇りすら、今にも奪い取られそうだった。スマイルは苦痛に耐える彼の表情からそれを察知すると、突然体を倒して少年に覆いかぶさる。額と額を突き合わせると、同じ色の瞳同士がすぐ目の前で互いを覗きこんだ。ふたりは互いに異性としての体臭を吸い込みあい、それが麻薬のように脳をしびれさせた。

「ほら、笑ってよ……ユーリィおにぃちゃん」

 その言葉が、ユリシーズにとどめを刺した。ふたりは同時にぶるりと身を震わせた。

「あっ……はぁ……ふぅ……ああ……」

 スマイルが再び体を起こして息を整えはじめた。ユリシーズは、自分の犯したあまりにも絶望的な行いに、力なく笑っていた。

「ん……しょっと」

 スマイルが立ち上がって、ベッドから降りた。彼女はユリシーズをふりかえると、彼にこびりついている精液を指先で掬い、舌先で舐め取って綺麗にする。それから彼の衣服を正してやり、ついでのように口の中の下着を引き抜いた。ユリシーズの唾液でぐしょぐしょに濡れそぼったそれを再び彼女は履く。

「ああ、気持ち悪い……」

 言葉とは裏腹に、嬉しそうに彼女は言った。スマイルは放心状態のユリシーズの見下ろしてにっこりと笑う。

「笑顔になったね!」

 少年の表情は、どこか遠くを見たままの、力ない笑顔だった。



「それじゃ、また明日会おうね! ロープは片手だけ解いておいたから、あとは自分でできるでしょ? 銃も返すね」

 スマイルはそうしてユリシーズの頭の横に銃を置く。ユリシーズはただそれを見つめたまま、何もしない。

「バイバイ!」

 少女は笑顔で手を振って、窓から外へと飛び出し消えた。床には、彼女の体から垂れ落ちたユリシーズの子種が、いまだ床に染み込まず残っていた。

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