第三章 家出少女に叱責と強がりな誓いを 2
ここから少しR15要素が強くなります。
「すいませーん。ドリンクバー二つとトマトオムライス二つにトッピングにチーズとそっちの子にだけハンバーグも乗っけてください」
「そんな私だけ……」
「いいのいいの。七日が食わないんだからその分金が浮いたんだし、冬奈ちゃんの分くらい奢るよ」
「でも……」
「遠慮なんかしなくたっていいって」
「いえそうじゃなくて私お肉とか苦手でハンバーグはちょっと……」
「…………。すいませーんやっぱりハンバーグはなしでお願いします」
七日が居なくなってから統南はそのまま冬奈と別れるのもなんなのでオムライス屋に残る事にしたのだ。
統南は冬奈に聞きたい話があるし、恐らく冬奈も統南に聞きたい話があるだろうから。
「飲み物持って来るけど、冬奈ちゃんは何がいい?」
「ありがとうございます。でも結構です。それよりさっきの話の続きを聞かせてください」
冬名はずいぶんとそわそわした様子だ。
「さっきの話? さっきのって俺と七日がどういう関係かって事? まあそんな慌てないで。飲み物でも飲んで、ゆっくり話そう」
そう言って、統南が立ち上がろうとすると、
「いいから早く話してください! あなたが私の妹とどう関係なのかちゃんと教えてください!」
冬奈がムキになった声で統南に怒鳴る。
統南はそんな冬奈の目を見る。怒っているのにどこか目に怯えがある。きっと統南が怖いのだろう。もしかしたら冬奈は人と接するのが少し苦手なのかもしれない。それでも統南に怒鳴ったのはきっと七日が心配だったからだ。
統南は冬奈に出会って少ししか時間は経ってなく、大した事は何も知らないが、妹のために怒鳴れるなんてのは妹が好きだからという事くらいは分かる。
統南がそんな事を考えていると、冬奈はハッとした顔になり、すぐに統南に頭を下げる。
「すいません。急に大きな声出しちゃって……。そのなんだか私焦っちゃって……」
「謝る事なんかないよ。俺だってきみに聞きたい事もあるし。そのためにとりあえずお互い落ち着こうよ。なんか飲み物持ってくるから。冬奈ちゃんは何がいい?」
「……じゃあアップルジュースで」
冬奈がそう言うのを聞き終えると、統南は今度こそ立ち上がり、互いの飲み物を持ってくる事にする。
統南はすぐに飲み物を注ぎ終え、冬奈にアップルジュースを持って来て、統南はコーラーを飲む事にした。なんとなく炭酸が飲みたい気分だった。
すると丁度オムライスも出来上がったようで、トマトソースにチーズがかかったオムライスを店員の女の子が持ってくる。
「いただきます」
そう行って統南をテーブルに置かれたスプーンを手に取り、食べ始める。
「……いただきます」
冬奈も遠慮したようにオムライスを口にして行く。
「それで」
統南はオムライスを食べながら冬奈に聞く。
「冬奈ちゃんは俺と七日がどういう関係なのかを聞きたいんだよね」
「はい」
冬奈はすぐに頷く。
「正直に言うけど、俺はアイツをただ拾っただけ。いや拾ったっつうのとはちょっと違うけど、まあ家出したって言うから俺の家に泊めてるだけで俺はただの同居人。俺以外にも親身になって協力してくれる人たちが居るから七日は特に今の所は問題なく暮らしていけてると思うよ。もちろん冬奈ちゃんが心配するような事は一切してない。それだけは嘘じゃないって誓うよ」
「…………」
冬奈はまるで統南を見定めるかのように統南を見つめる。そして数秒してから柔らかな笑みを統南に見せ、小さく呟く。
「良かった」
心から安心した顔つきで冬奈はそう言った。妹が無事なのを安堵している様に見える。
冬奈はそのまま言葉を続ける。
「……統南さんがいい人で良かった」
「いい人って冬奈ちゃんまだ俺に会ってちょっとしか時間経ってないのにそんなの判断出来ないだろ」
統南は『いい人』という言葉を否定するが、冬奈は断言するように言う。
「いえいい人です統南さんは。だって七日の事を話してる時の統南さんは優しかったから。だから私とりあえずは統南さんを信じる事にします」
「…………そっか。ありがとう」
冬奈の言葉に統南は色々と思うことがあるが、とりあえず自分を信頼してくれるという冬奈に礼を言う。
「いえ。感謝するのは私の方です。私のせいで傷ついた七日を統南さんがこうして面倒を見てくれて、また会える事が出来たんだから。統南さんのおかげです」
「冬奈ちゃん」
統南は冬奈に一つ訊ねる事にする。先程から冬奈は七日が家出したのは自分のせいだと言っているが、原因はなんなのかが統南は知りたかった。あの元気で生意気な少女が自殺までしようとした事に関係あるかもしれない原因を。
「七日はなんで家出しようとしたの?」
だから統南は無礼は承知な上で冬奈に聞く。
「それは……」
冬奈は口ごもる。余程言いにくい事なのかもしれない。
「じゃあ冬奈ちゃんはやっぱり七日に帰って来て欲しいの?」
統南は冬奈に次の質問を訊ねてみる。
「それは……帰って来て欲しいんだと思います。でも私にはそれを言う権利も願う権利もないんです」
冬奈は泣きそうな顔になる。
こうなるとなかなか原因を聞きだすのは難しくなるかもしれない。それでも統南は七日が家出した原因を知りたい。統南だって七日が家出した原因を知っても解決出来ないなんて分かってるし、七日だって統南に家出した理由なんて知らないでいて欲しいのかもしれない。
だけど統南は思う。自分という人間は面倒くさがりなくせに、とんでもなく面倒くさい人間だという事を。
統南は本当は七日の事情など聞きたくなんかない。知れば情がさらに湧くから。七日を大切な人になんてしたくないから。それでも口は勝手に動いてしまう。心はどうしても七日の事を知りたがってしまう。
「あのさ、これは言っても七日も冬奈ちゃんも喜ばない事だと思うけど、七日が家出して、俺に会う前に何してたか知ってる?」
「…………いえ分かりません。七日はケータイも持って行ってなかったから、連絡も出来なかったし……」
「そう」
統南はそう言って少し考える。今から言おうとしている事は統南の目の前で悲しそうにしている冬奈をもっと傷付けてしまうかもしれない。いや絶対に傷つくことになる事だ。
だからと言って統南の中に伝えないという選択肢はすでに消えていた。
冬奈は七日の家族だから知る義務がある。知らないといけない。七日の問題を解決出来るとしたら統南ではなく、冬奈たち家族なんだから。何よりその事を伝えれば冬奈もきっと原因を教えてくれるという打算もあった。
それ程までに統南は七日の事情を知ろうとしていた。自分がつくづく偽善者だという事を理解して、統南は善人の仮面を付けて、親身な声を作り、冬奈に伝える。
「この事はさ、俺はただの目撃者なだけの部外者なんだけど、七日は今から五日前に自殺しようとしていた」
「え……」
統南が言った言葉で冬奈は先程まで悲しそうにして今にも泣きそうだった表情さえも凍りついてしまっていた。
「七日が本気かどうかだなんて聞いてないし、アイツが自分から話すなら別だけど聞く気もない」
統南は気付けば、まるで冬奈を責めるような声色になっていた。もしかしたら冬奈と過去の自分を重ねているのかもしれない。
「ただ七日がやろうとしている事は別に間違いだなんて言える程、俺は物事を知らないし言う権利もないよ。でもそれでも七日は俺が一番気に入らない事をやろうとしていた。もしもその原因が冬奈ちゃんにあるっていうなら俺はそれを知りたい」
冬奈は統南の話に先程は凍りついていた表情が次第に崩れて行き、涙がポロポロと流れている。ただ泣き崩れはしなかった。涙を流しながらも泣くのを堪えるように冬奈は歯を食い縛っていた。
統南はそんな冬奈に優しい言葉をかけない。いくら自分が偽善者だと自覚している統南にもこんな時まで本心を隠す訳にはいかない。
「別に俺はその原因を聞いてどうかしようなんて思ってない。ただ本当に知りたいだけなんだ。だから教えてくれ。頼む」
統南は頭を下げて頼み込むと、冬奈は涙声の震えた声で答える。
「……分かりました。でもその前にちょっと待ってください。すいませんなんだか急に何か分からなくなっちゃって」
「もちろんいいよ。俺はお願いしてる立場なんだからいくらでも待つよ。まだオムライスも半分も残ってるし、ドリンクバーだって金払ったんだから十杯くらい飲まないともったいないしね」
統南は冗談めかして言うと、冬奈も僅かだが笑ってくれた。
そしてしばらく時間が経過し、統南がオムライスを食べ終わる頃に冬奈は落ち着いたのか、
「もう大丈夫です」
と笑みが一つも無い顔つきで答える。
「じゃあ話してくれるの?」
「はい」
冬奈は力強く頷くとそのまま話し出す。
「ウチの家族は私と七日を含めて、五人家族なんです。私と七日に、父と母。……それに兄が居ます」
「ふーん。お兄さんね」
統南は冬奈が一瞬兄と口にする時に躊躇うのを見逃さなかった。もしかしたら七日が家出した原因は冬奈と兄にあるのかもしれない。
「私は昔から今現在も体が弱くて、実は今通っている高校でも入院とか色々して、結局出席日数が足りなくて、一回留年して今も高校一年生をやっています」
「……てことは今冬奈ちゃんの歳は」
「一応まだ十六なんですけど、来年の二月で十七になっちゃいますからクラスのみんなとは歳が離れちゃいますね」
「そっか」
統南はコーヒーを飲みながら、相槌を打つ。統南の目を見ながら冬奈はそのまま話して行く。
「それでウチの家族は昔からそんな病弱な私に気にかけてくれました。そのせいか妹の七日を誰も気にかけませんでした」
「……ありそうな話と言えばありそうだよね」
「それでもみんなお互い仲が良かったんです。たぶんその頃はみんなで笑って楽しく暮らしていけました」
「その頃は、って事は今はどうなってるの?」
統南は自分でも失礼だなと思いながらも、冬奈に早く話を促すような事を言っていた。しかし冬奈はそんな統南に対して眉を顰めもせず、話し続ける。
「実は三年前に父が勤めていた会社からリストラに遭い、職を失いました。元々母が働いていて、収入もそこそこもらっていた様なので生活には困ってはなかったと思います」
「……」
統南は無言で頷き、そのまま冬奈が話を待つ。
「でも父はなかなか職に就けず、就けたとしても前みたいな仕事と違うのか長くは続きませんでした。その頃から両親は不仲になり、兄は父を見下す様になり、みんなはさらに七日の事をほったらかしにしてしまいました」
冬奈は少しだけさっきみたいな泣きそうな表情になるが、そのまま口を開く。
「私はそんな七日が不憫に思い、よく一緒に遊びました。体が調子いい日なんかは一緒に買い物に行ったりしてました。七日が着ていた服も私と一緒に買った物なんです」
冬奈は寂しそうに笑う。まるで後悔でもするかのように。
「……そうなんだ」
統南は冬奈にこんな事しか声をかけられなかった。それでも気休めに何か言おうと、統南は口を開く。
「本当に七日と仲が良かったんだ」
統南が言うと、冬奈は寂しそうな笑みすら無くなり、もう声に覇気がなかった。
「そうですね……。確かにあの頃はまだ七日は私を慕ってくれていたと思います。でももう嫌われちゃいましたけどね。もちろん私のせいですけど」
「なんでそう思うの?」
気休めで言った言葉で冬奈を落ち込ませた事に統南は責任を感じながらも、七日が冬奈を嫌っているとは統南には思えなかった。
だって七日と冬奈が再会し、冬奈が膝をついた時、七日は真っ先に冬奈の元に行き、冬奈の容態を案じていた。そんな行動をする七日が冬奈を嫌いだとは考えられなかった。
「言ったじゃないですか。七日が家出したのは私のせいだって」
冬奈は自ら自分の心の傷を抉り出すように自嘲する。
「言いましたよね。私には兄が居るって」
七日は統南に確認するように訊ねる。
「ああ、言ったよ。居るって」
ここで冬奈は兄の事について語り出す。
「兄は私と歳が一つしか離れてなくて、小さい時から仲が良かったんです。小さい頃は両親が共働きだったので、病気がちな私の面倒は兄が見てくれていました」
幼い頃の思い出話を冬奈は大切そうに語る。
「兄は私と同様に七日の事も可愛がっていました。といっても病弱な私のせいで兄の目は私に行きがちでしたけど、それでも七日の事を大切にしていたと思います」
でも、とそこで冬奈は顔を曇らせる。
「父が職を失ってからはさっきも言ったように父をそれこそゴミでも見るかのように見下し始めて、父のリストラがストレスになったのか今までに七日に優しかった兄が急に七日に冷たくなりました」
「……うん」
冬奈の話を聞き、統南も表情が曇っていく。七日の心情になって考えて見ればきっと辛かったはずだ。
「それでも兄は私だけには変わらず接してくれていました」
そう言う冬奈の顔は嬉しそうにも見え、悲しそうに見える複雑な表情だった。
「私はその時安心してしまったんです。七日が冷たくされても兄は私には優しくしてくれるって。嬉しかったんです。たぶんそれは私の中にあった汚い独占欲なんです。……つくづく私は姉失格だと思います。いつまで経っても兄の妹としての自覚しかないんですから」
「…………」
統南は別にその事はおかしい事だとは思わない。だってその感情は少なからずみんな持っている事だと思うから。
「そして一年前……」
そこで冬奈は一旦喋るのをやめ、数十秒間黙り続けていた。
「…………」
その間統南も何も言わずに、ただ冬奈が喋り出すのを待っていた。
そして冬奈は再び語り出す。
「その時私はかなり高い熱で、お風呂にも入れないでいたから代わりに兄が体を拭いてくれてたんです」
「…………」
そこで統南は大体この話の結末が分かってしまったが、そのまま話を聞く。
「兄に体を拭かれるのは幼い時からしてもらってたし、あたり前の事の様に思ってました。でも兄が体を拭いていた時突然私を抱きしめてきました。そのまま私は兄に押し倒されました。そして……」
「肉体関係になったと」
統南は口を挟んで言う。さすがに女の子が自分みたいな他人の男にそのような事を口にするのはかなり精神的にも辛いと統南は判断した行動である。
「…………はい」
冬奈は本当に申し訳なさそうに頷くが、別に統南に謝られても困るだけである。冬奈が何をしようが、それは冬奈の自由であり、少なくとも統南には関係のない事だから。
しかしそれも今では事情が変わってくる。もしその事で七日が自殺なんかを決意したというのなら、その行為は統南にとってはた迷惑なものでしかならない。
「それは一年前の事って言ってるけど、今も続いてるの?」
統南は出来るだけ自分の感情を抑えて冬奈に聞く。
「……はい」
と冬奈は申し訳なさそうな表情を崩さないまま言って、言葉を続ける。
「最初は嫌だったんです。怖かったし、兄妹でそんな事間違ってるし、絶対におかしい事だってのはよく分かってました。でも私は結局は兄を受け入れてしまいました。それはもしかしたら私が望んでいた事なのかもしれません」
冬奈は懺悔するように言う。
「私は生まれた時からお父さんやお母さんに、兄に迷惑ばかりかけていましたし、そのせいで七日には寂しい思いもさせてきました。だから今もずっと思ってるんです。私は別にこの世界に必要ない人間だって」
「……」
統南に冬奈の言葉に何も反応せず、ただ冬奈を見つめたまま話を聞いている。
「そんな時に兄は私の体を求めてきました。私はたぶん嬉しかったんだと思います。だって兄さんに体を求められている時だけは私は兄さんに必要とされているはずだから。私みたいな迷惑ばかりかける人間でも生きていいんだなと思えるから」
いつの間にか冬奈の呼び方は兄から兄さんに変わる。統南は冬奈の言葉に色々と反発したい所も出てきた。でも自分には反論し、誰かの価値観を変える事は無理だと分かっていたのでただ黙り続けていた。
「たぶん兄じゃなくても良かったのかもしれない。もちろん兄は私によくしてくれるし、私にとっては大事な家族で、大切な人です。でもきっと私は兄じゃなくても、私なんかを求めてくれる人なら誰でも良かったんだと思います」
「……そりゃあずいぶんと自分を見下しているんだね」
思わず、苛立ちが口から出る。冬奈は言い返すかもしれないと思ったが、力なく笑いながら統南に言う。
「そうですね。でも本当の事ですからしょうがないんです」
「しょうがない……ね」
しょうがないという言葉は自分もよく使うが、つくづく都合のいい言葉だ。
統南は冬奈の話を聞いて、この少女はずいぶんと脆くて、このままでは冬奈は壊れてしまうんじゃないかと心配になってくる。が、今は冬奈の話を聞く事だけに専念する。
「そのまま私と兄の行為は続きました。そして統南さんと七日が出会って五日前に七日にもこの事がバレてしまって、そのまま七日は家を飛び出してしまいました」
そこで冬奈の話はようやく終わる。
「……それできみの家族は七日を今まで捜そうとしなかったの」
「……はい」
冬奈は搾り練ったような声で言う。
「そもそも母や父は七日が家出した事さえ、知りません」
「どうして?」
「……兄さんが七日はしばらく友達の家に泊まるって言ったからです。私たちがそういう行為をしているのを両親はもちろん知りません。でも七日が家を出た原因は私たちです。だからもし七日が家出したと正直に話したらその原因の私たちは、とてもじゃないですが全部隠す通す事なんて出来ません」
まるで言い訳する子供のような口調で冬奈は言葉を探している。
「だからバレないために兄と私は嘘をつきました。もしバレてしまったらこの家族は本当に全部壊れてしまうから」
「それは本心?」
統南は聞く。すると冬奈は薄笑みを浮かべる。
「いいえ、違いますよ。違うに決まってます。ただ私たちは怖かったんです。お母さんたちの悲しむ姿を見るのが。気持ち悪がられるのが。七日や家族のために嘘をついた訳じゃなくて、結局は自分たちのために嘘をついたんです。七日の事なんか見捨てて」
「ふーん」
統南は心底興味が無いような返事をしてみせる。そうでもしないと冬奈の事を殴ってしまいそうだから。というより七日の家族全員に統南はムカついていた。
七日の兄にも、母親や父親にも。だって普通に考えれば気付くはずだ。七日が五日間も学校にも行ってないのだから、学校は家に連絡しているはずだろうし、気付く箇所ならたくさんあるはずだ。なのに七日の家族は何もしない。
七日が死のうとしていたのにだ。
「……クソ」
小さく舌打ちする。自分が怒ってもどうにもならない事は分かっているのに、怒りは収まらない。統南は静かに立ち上がり、財布を手に取り、食事代をテーブルの上に置く。
「帰るよ」
統南は静かに告げて、そのまま統南は買い物のために持って来ていたバッグの中から黒ペンと今日のスーパー松本の広告品が載っているチラシを取り出し、それに自分の家の住所とケータイの電話番号を書き、冬奈に手渡す。
「……これ俺んちの住所と俺のケータイ番号。これをどうするか冬奈ちゃんが好きににしてくれていい。両親に言ってもいいし、兄ちゃんと一緒に訪ねに来てくれても構わない。いつだっていい。それまで七日は責任持って俺がちゃんと面倒は見るから。……それじゃあまた今度」
それだけ言い残して、統南は冬奈の前から去って行き、七日が待つ軽トラックに向かう。