第三章 家出少女に叱責と強がりな誓いを 1
「……お金無かったんじゃないの?」
統南の横に座っている七日は無愛想な顔で統南に言う。
統南と七日に、そして七日の姉である冬奈は現在スーパー松本の駐車場からそのスーパー松本の中にあるオムライス屋に移っていた。
「冗句に決まってるだろ。昼飯代くらい出すさ。まあ一番安いやつしかダメだけど」
「……そう」
いつもならここで七日は文句を言うはずだが、今日は何も言わない。ただ無愛想な表情で座っているだけだった。
「…………」
対する七日の姉と言っている冬奈は統南と向かい合う席に座るが、後ろめたそうに七日から目を逸らしているだけで、さっきからずっと黙っている。
統南は冬奈と七日を少しだけ交互に見てみる。さすがに姉妹だけあって、目元などはよく似ているなと思う。
しかし雰囲気はあんまり似ていない。七日は全体的に明るくハキハキと活発そうな感じだが、冬奈は背の高い七日と違い、小柄で綺麗で長い黒髪に、色白な肌にまるで触れただけで消えて無くなりそうな儚い感じの女の子だ。雰囲気だけならどちらかというと七日より美春に似ていると思う。
統南は冬奈を見て素直に可愛らしい子だなと思う。
紺色のシャツにその上から白いカーディガンに、その下からピンクの花柄のスカートを穿いた冬奈はTVで見るアイドルたちとはまた違った魅力を持つ女の子で、七日も可愛らしい顔をしているが見栄えだけなら冬奈の方が上だと統南は思う。
「えっと冬奈ちゃんはなんでも好きなもん食っていいからね。そんくらい奢るからさ」
「いえ、統南さんと七日と一緒のでいいです。それに一応自分の昼食代と七日の分くらいならありますから心配しないでください」
丁寧な口調で冬奈は統南に言う。
先程統南は冬奈に自分の名前と歳くらいは紹介したため冬奈はちゃんと統南の名を呼んでいる。だが七日はそんな冬奈の態度が気に入らないのか目の前にあったテーブルを強く叩き、冬奈を睨みつける。
「勝手に人の面倒を見ようとしないで! あたしは今、統南にお世話になってるの! 姉さんの世話になろうなんて思ってない。だからもう家にでも帰ってよ! 姉さんの顔なんかもう見たくないの!」
「おい七日!」
統南はいきなり喧嘩腰の七日を注意しようとするが、冬奈がそれを止める。
「いいんです統南さん。実際七日が家を出て行ったのも私が原因なんです。だから七日を叱らないでください」
「原因……?」
その言葉が強く気になったが、とりあえず今は口を挟まず、七日と冬奈の二人の姉妹の様子を見る事にする。
「七日」
冬奈は困ったように笑みを浮かべながらもその笑みには優しさも含まれているのは見ているだけで分かった。
「その服ちゃんと着ててくれたんだ」
冬奈は七日の服を見て言いながら、そのまま話を続ける。
「確か去年の秋の終わりごろにこの服七日と一緒に買ったんだよね。七日は最初嫌がってたけど、私が七日になら似合うって言って強引に買ったんだったよね」
「…………」
冬奈は懐かしそうに思い出話を語るが、七日の反応は無愛想な表情から眉を顰めるくらいしか変わらなかった。
「姉さん。そんな思い出話なんか誰が話してって言ったの。あたしはそんな話を聞きたくないの。そんな事を話すだけなら本当にもう帰って。第一この服はたまたまこの家を出て行く時に着てたから今もしょうがなく着てるだけ。勘違いしないでくれる?」
七日はただひたすら姉を拒絶し続ける。
「七日いくらなんでも言い過ぎだ」
今度こそ統南は七日に注意するが、また冬奈が統南を止める。
「いいんです。私なんかを庇わなくたって。それより統南さんに一つ聞いていいですか?」
「何かな?」
「あの統南さんと七日は一体どんな関係なんでしょうか?」
冬奈は心配そうに訊ねてくる。それもそうだろう。家出した妹がこんな怪しそうな若い男と一緒に居るんだから家族なら当然心配もするだろう。それじゃなくても最近は物騒な事件も多いのだから、七日くらいの年頃の子を持つ家族なら心底心配するだろう。
「それなら安心して。俺となな、」
「姉さんには関係ないでしょ!」
統南が冬奈を安心させるために話そうとすると七日がその話を遮り、激しい口調で冬奈に言う。
「あたしと統南がどんな関係だなんかなんて姉さんに関係あるの! じゃあもしあたしと統南が姉さんの思うような関係じゃなかったら姉さんに文句を言う権利なんてあるの!」
「それは……」
七日の言葉に冬奈は顔を俯かせる。
「ないでしょ! じゃあもう人の勝手にさせてよ。あたしはもうあの家が嫌いなの! 姉さんが大嫌いなの!」
言うだけ言って七日は立ち上がるとそのままどこかに行こうとする。
「七日どこ行くの!」
「…………」
冬奈は訊ねるが七日は何も答えない。
「七日」
しょうがなく統南が七日の所まで行き、腕を掴んで捕まえる。
「離して」
七日は要求するが統南は首を横に振る。
「じゃあどこに行こうとしてんだ。それくらいの事も話そうとしないならこの腕は離す訳にはいかない」
統南がそう言うと、七日は苛立ち気に統南を見つめ、ボソリと呟く。
「車」
「車ってお前運転も出来ないのに乗ってどうすんだよ」
「寝るの」
「寝るって買い物は?」
「要らない。なんなら統南が勝手に買ってくればいい。あたしはもう姉さんと一緒に居たくないだけ」
その言葉に冬奈は胸を痛めたような顔をするが、統南は何も声をかけられず、ただ七日が軽トラに向かうための後ろ姿を見送る事しか出来なかった。




