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第二章 紹介と再会 4

次の日。統南たちは急遽七日の服や生活用品を買いに行く事になっていた。現在は信号の色は赤で、統南の愛車である軽トラックも止まっている。


「ねえ統南、どこの店に行くの」


「……はあー」


「ねえ統南ってば」


「あー」


「統南聞いてる?」


「金が……」


「統南っ!」

 

 統南がため息をついて嘆いていると今後の生活費について考えていると突然耳元で七日からデカい声で自分の名前を呼ばれる。


 声は耳に響き、統南は堪らず耳を押さえて、七日に文句を言う。


「なんだよいきなり! 運転中に危ないだろ!」


「運転中って今信号は赤なんだから別にいいでしょ!」


「だからって耳元でデカい声出すなよ。耳が潰れたらどうしてくれんだ!」


「いきなりじゃないもん。統南が何回呼んでも無視するからでしょ。ため息ばっかついて」


 七日も統南に言い返しているが、統南はさらに不満を七日にぶつける。


「そりゃあため息もつきたくなるよ。ただでさえ金がないのに、義隆さんたちから七日が普段使うものくらい揃えとけって言われて、こうして七日の日用品を買いに行くために出かけてるんだから」

 

 昨日のあの後、統南は義隆から子供の風香と七日を夜の店にずっと居させる訳もいかず、店のすぐ傍にある義隆の家に七日と風香の二人を留守番させ、仕事が終えた後七日を迎えに行く時に義隆と美春の二人から七日がずっと男物のジャージなどを着てるのもなんだからすぐにでも生活に必要なものを揃えろと命じられたのだ。


「はあー。また貧乏地獄だ」


「いいじゃん元から貧乏なんだし、貧乏が貧乏になっても大して変わらないって。それにヨシタカさんたちから前借りさせてもらったんでしょ」


 七日は励ます様に言う。七日の言う通り統南は昨日義隆に給料を前借りするのを申し出て、許しをもらった。

 

 逆に言えば、お金を援助してくれるとかじゃなく給料を前借りといった所が、義隆たちの厳しい所でもある。

 もちろん前借りしてくれるだけでもありがたいので文句は言えないが、それでもため息は勝手に出てしまうのだ。


「大体なー、今日使う金はお前のためなんだからありがたく思え。つーか敬意を表して統南さんって言いなさい」


「嫌よ。この前は別に付けなくてもいいって言ったじゃん」


「あれはあれだよ。美春さんの前だからいいカッコ付けたかったの。今は美春さんの前じゃないからカッコ付けなくていいんだよ。ほらさっさと統南さんって呼べ」


「……器小っさ」


 どうやら統南はついに中学生に器を小さいとまで称されるになってしまった様だ。


「う、うっさいな。じゃあいいよ普段通りで。でもあれだからな。予算は三万までだからな。それ以上はダメだぞ」


「はいはい。でも今日はお昼お店で食べるんでしょ」


「えっ?」


 思わず統南が疑問の声を上げてしまう。


「お前何言ってるの?」


「何って、だって普通買い物の帰りはどこかお店でご飯食べるでしょ。ハンバーガとかお寿司とか。あっ! ていうかもう時間的には買い物よりも先にお昼済ませるんだよね」


 現在十二時十五分。確かにお昼時だが、統南は七日の発言を笑い飛ばす。


「ハハハ、何を言うかと思えば、ウチにそんな他人が作った飯を食う余裕なんてあると思うのか? スーパーの安い食材を買って、自炊だよ」


「…………こんなにケチでダサいから彼女が居ないんだよ」


「……うっせえ」


 統南は思う。中学生に男としてダメだしされる自分とは一体なんのかと。そして赤だった信号の色は青に変わって行く。


 

 それから十分くらいして七日はまた訊ねてくる。


「で結局、どこの店に行くの」


「んー『スーパー松本』」

 と統南は答える。

 

 スーパー松本とは統南が住んでいる町から車で三十分くらいの場所にあり、スーパーと言っても店自体はかなり大きく、食品から服や本など色々なものがあり、最近は映画館まで出来たらしい。しかも色々なものがあるだけでなく、安いという事でも有名で統南も食料を買い溜めする時にはよく利用しているスーパーだ。


 七日もスーパー松本ならたくさんの物が売っているので喜ぶと思ったが、

「えっ……」

予想に反してその反応は青ざめていた。


「なんだよいきなり幽霊でも見た顔になって?」


「…………」


 統南は聞くが、七日は何かを考え込んでおり、何も答えない。そしてしばらくして七日は統南に真面目な声色で言う。


「ねえ、統南そこはやめて他のとこ行こうよ」


「なんでだよ? スーパー松本だったら何か不都合でもあるのか」


「……別にそんな事ないけど、とにかく他のとこに行こうよ。昨日行った服屋でいいから」


「服屋ってお前なぁ。今日は服だけじゃなくて、他の物も買うんだぞ」


「いいからそこには行きたくないの」


「だから理由は?」


 統南がそう聞くと七日は突然怒鳴りだす。


「じゃあもういい! 勝手にすればいいじゃんっ!」


「お、おい七日」


「…………」


 そのまま七日は呼びかけても答えなくなる。


 統南はそんな七日に動揺を隠せないでいたが、車を走らすのは止めずに、とりあえずはスーパー松本に向かう。





「おい着いたぞ」


 それからしばらくしてスーパー松本に着き、駐車場に車を止め、統南は七日に声をかけるが、


「…………」


 反応は返って来ない。七日は無言で車を降りて行く。


「なんでそんなに怒ってるんだよ」


「別に」


 七日は無愛想な声で言いながら、どんどん店の方に歩いていく。七日が怒ってるのはスーパー松本に行きたくないのに、無理矢理統南が行ったからだろう。


 しかしなんでそれが嫌なのかが分からない。スーパー松本に何か嫌な思い出でもあるのだろうか。


 原因が分からないまま、七日を見る。


 七日に買った服は昨日義隆たちのとこで着て行き、今日は洗濯中なので、七日の服装は統南と七日が初めて出会った時と同じダボダボのパーカーにジーンズとスニーカーという服装だった。


(なんつーか七日ってあんまりそんな服装とか好きじゃなさそうだよな)

 と統南が思っていると、


「あっ!」

 突然ある推測が思い浮かぶ。


 七日があんなにスーパー松本に行くのが嫌なのは最初はスーパー松本に原因があるのではないかと考えが、もしかしたらそうではなくこの統南たちが居る町こそ七日の住んでいたとこなのかもしれない。


 つまりこの近くに七日の家族が居るかもしれないという事だ。統南はそれを確かめるために自分より前に歩いていた七日に声をかけようとする。


「七日!」

 ――――その声は統南のものではなかった。


 統南よりも先に七日を呼ぶ大きな声があったのだ。ずいぶんと柔らかい女性の声だった。その声の主は恐らく統南の真後ろに居る。


「っ!」


 七日はその声で足は止まり、振り向き、そしてすぐに表情は固まる。統南もそれに合わせて後ろを振り向くと、そこには一人の女子高生くらいの少女が立っていた。


「姉さん……」


 七日は呆然としたように呟く。七日から姉さんと呼ばれた少女は少し声を出しただけで息を荒げていた。


「よかった……」


 少女は本当に安心したような表情でそのままよろめくように地面に膝がつく。

「! 姉さんっ!」


 七日は急いでその少女に駆け寄る。


「……大丈夫少し目眩がしただけだから」


「……そうなんだ」


 七日は安堵の息を吐いたかと思えば、突然走り出す勢いで少女から遠ざかろうとするが、


「ちょっと待った」


 統南が七日の腕を掴み、それをさせなかった。


「七日、これは他人の俺が聞くべきじゃないのかもしれないけど、この女の子が誰なのか教えてくれないか」


「……っ」


 七日は躊躇う表情でそのまま少女の方に視線を向ける。少女はその七日の視線を後ろめたそうに逸らす。


「この人はあたしの姉さんよ」


 七日は吐き捨てるように口を開き、そう言う。

「そうか……」


 統南は予想していた事だが、それでも驚きを隠せないで七日の姉という少女を見る。


 少女も統南に視線を合わせ、遠慮がちに口を開く。


「あの……こんにちは。私は七日の姉の田中冬奈たなかふゆなです」

 七日の姉、田中冬奈は自分の名前を言った後、そのまま頭を下げる。


 統南は一瞬だけ七日の方に視線を移すと、七日は今にも泣きそうな顔になっていた。


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