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1-07 友達になりました(済)

 いまさらですがこの作品のテーマは『愛』です。ウソじゃないです。

 



 あの忌まわしい原因不明の“異界昆虫大発生事件”から数ヶ月が経ち、あと二~三ヶ月で私も四歳になるのです。

 あの頃、私はちょっと落ち込んでみんなに心配かけましたが、もうすっかり元気で、身体も心もだいぶ成長しました。

 召喚魔法の使用は封印しましょう。私は魔法陣の研究に生きるのです。

 

 あの事件のせいで忙しかったのか、お父様が二ヶ月程来られない時期がありました。ひさびさにお越しになったお父様に私がゴロニャンしにいくと、お父様は唐突に王都の“お茶会”に行かないかと誘ってくれたのです。

 お茶会? なんで? 私って今まで会話した人物は10人程しかいない、引き籠もりの純血種ですのよ?

 

「そのお茶会には、ユールシアと同じくらいの歳の子が何人か来るんだよ」

 要するに、大人としか会ったことのない私を心配して、“お友達候補”を紹介してくれるようです。……子供と遊ぶのってどうすればいいんだっけ?

 とりあえず、お父様のお顔を潰す訳にはいかないので出席しますか。

 

 

 そんな訳で、私は今、馬車に揺られています。

 もちろん私の席はお父様のお膝の上。お父様、頑張ってくださいね。私は15歳くらいまではお膝に乗っかりますわよ?

 まぁ、そんな半分本気の冗談はともかく、お茶会は三日後で、王都まで馬車で二日程掛けて行くみたい。……どうしてこんなに日程が詰まっているの? 了承したらすぐに馬車に乗せられたんですけどー?

 お母様も来てくれないし……。王都見物するなら、親子三人でしたかった。

 

 とりあえず私のお世話に、ヴィオとフェルが付いてきてくれた。

 荷造りも簡単最小限。そんなんでいいのかと思ったけど、私の服も身の回りの物も、全部現地に揃えてあるんだって。うちはお金持ちなんだねぇ。

 お父様のお仕事って何なんだろ? 誰も話題にしないし、三歳児が聞いても不審に思われないかな? 四歳になったら平気かな?

 

 王都まで馬車で二日と言っても、森を通ったりする訳じゃないから野宿はない。当たり前だね。お父様に野宿は似合わないから。

 街から出たら通る道は畑ばかりで、夕方になる前に宿場町に到着した。家を出たのお昼過ぎですよ? 朝からだったら、頑張れば夜中には着いちゃうんじゃないの?

 行き帰りで一週間……。お母様と半日以上離れたことがないから、ちょっと不安。

 でも楽しみもある。今日はお父様が一緒に寝てくれるらしい。うふふ。

 

   *

 

 人が住んでる場所しか通ってないから、山賊などのイベントもなく無事に到着。

 あっても問題ないよね。護衛の人が10人以上いるし。新たな甘やかし要員の一人になった執事のお爺ちゃんも居るし。

 みんな、こんな子供の為に大変だなぁと思ってお礼を言ったら、お爺ちゃんに号泣された。……何なの? 情緒不安定なの? 後で肩でも叩いてあげよう。

 

 

 さぁて、お茶会です。

 これがこちらの普通なのか、どっかのお屋敷のデッカい庭園に、テーブルと椅子が幾つか並べられ、子供は6人くらいしか居ないのに、とんでもない量のお菓子とお茶と、沢山のメイドさん達と、なんと楽団も用意されていた。

 

 もしかして貴族? これが“お貴族様”って奴? お父様は何のお仕事しているの? もしかして、お父さんが勤めている会社の、社長の子供とかいるの?

 いや、会社はさすがに無いな。でもお得意様のご子息ご息女かも知れない。そうでなければ、お父様があんな日程で私を連れ出したりしないでしょう。

 これは……やばいかな。お父様の出世に影響してしまう。

「……お、おとうさま?」

「大丈夫だよ、行っておいで。ここは身分の関係ないお茶会だから」

 そんな事を言われましても……。社長に無礼講だと言われて本気に出来るほど世間ずれした子ではありませんわ。

 わたくし、見事に“深窓の令嬢”を演じきって見せましょうっ。

 

「………えっと…」

 どうしよう。見事に誰も私に近寄ってこない。

 子供たちは男の子二人に、女の子四人。歳はみんな私よりも上だけど、全員が同じ歳ではないみたい。

 男の子達はずっと二人で話しているから女の子達のほうへ向かったんだけど、女の子達は私に気が付くと、口を開けて固まっちゃった。

 奇麗な黒髪清楚な女の子も、残念なほどに大口を開けている。

 また怖がられた……。

 精霊やシグト君も怖がっていたし、私ってそんなに怖い外見しているのか……。まぁ私だって夜中に精巧な西洋人形を見たらビクッとするから、気持ちは分かる。

 これは挨拶をしたら拙い流れかな?

 でもここまで来て黙っていたら失礼になるのかも。

「………」

 ギリギリの案として私は出来るだけ怖くないようにニコリと微笑み、若草色のドレスの裾を摘んで、ちょこんとお辞儀をして、そのまま少し離れたテーブルに着いた。

 

「……(ふぅ)」

 声にならないように気を付けて小さく息を吐く。

 

 私も緊張していたのか、私が息をついたと同時に、やっと周りの音が聞こえてきた。

 すぐにメイドの人がお茶とお菓子を私に盛ってくる。持ってくるじゃなくて盛ってくるんですよ、山のようなお菓子をっ。

「あ、ありがと…」

「い、いえっ!」

 私の緊張が移っちゃったのか。申し訳ない。このお菓子は、あなたが持って帰って食べていいわよ? え、出来ないの? フェルだったら私が渡したら、その場で全部食べきるよ?

 このお茶も高級そうだけど、私にとっては白湯と大差なくて、しんどい。

 ちらりと子供達のほうを見ると、みんながジッと私を見てる……。く、空気が重い。みんなの会話が止まっているよ。

 

「………あ、あの」

 

 そんな時、可愛らしい声が聞こえた。おや? と思い、顔を上げると、そこに私と同じか少し上の、可愛らしい女の子が私を見つめていた。

 

「………はい」

 私に話しかけているのだと思って、威圧しないようにゆっくりと返事をする。

 うわぁ……この子、めっちゃ緊張している。こんなちっちゃくて可愛い子が、怖い人に話しかけるのは大変だよね。

「……あの、良かったら、向こうでお花を摘みませんか……?」

 お花摘み…? おトイレじゃなくて本当にお花を摘みにいくのね。何て優しい子なんだろう……ボッチな私を見かねて誘ってくれたんだ。

「うん……いきます」

「…よかったぁ」

 その子は私の返事にホッとしたように笑った。可愛いなぁ。お母様みたいなふわふわの金髪で、その青い瞳が私とは違って、良い意味でお人形さんのような子です。

 

 私が、少し高めの椅子から落ちるように降りると、その子は慌てて支えてくれた。

「ありがとぅ」

「う、ううんっ」

 その子はブンブン首を振ると、私の手をしっかり握って歩き出した。ちゃんと小さい子のお姉ちゃんが出来るんだぁ、可愛い。

 私が実は、ひ弱で軟弱だと気付いてくれたのだろうか。でも抱っこするとか言い出さないでね。お願いだから。

 

「私、シェル…、シェリーです。お、お名前を聞いてもいいですか……?」

「……? 私はユールシアです」

 

 なんで敬語? すんごく良いお家の子なのかしら? 子供同士なのに年上から敬語を止めてくれないと、目下としてはこちらも敬語を止められない。

 貴族なら家名でも聞いておこうかと思ったけど、ふと気付いて止める。あぶないあぶない、よく考えてみたら私って自分のフルネームを知らないじゃん。

 まぁ、身分関係無しのお茶会なら、聞くのも野暮かも知れない。

 

 お花畑はテーブルのすぐ近くにあった。

 庭園にこんな雑草まみれのお花畑を残しておくとは珍しい。でも私はこっちのほうが好きかな。バラもあるけど、そっちはトゲで怪我をしないように、メイドさん達がしっかりガードしている。

 

「ユールシア様、こちらで花冠を作りましょうっ」

「……ユ、ユールシアでいいですよ? シェリー様」

「分かりましたわユールシア様っ、私はただのシェリーと呼んでくださいまし」

 この子、話を聞いてくれないわ……。

 

 この手のタイプには言っても無駄だ。私の周りにはお父様とお母様を除いて、真面目に変な人しか居ないから、ある意味慣れている。

 真面目に考えて変な人ではなく、真面目にしているのに変な人だ。

 

「……わかりました、シェリー。このお花でいいの?」

「そうですわ、ユールシア様。こちらの花をこう折って…」

 

 うん、もういいわ。諦めた。とりあえず初めての友達だし、貴族って色々とストレス溜まるんだろうし、それ以外は面倒見の良さそうな可愛い子だから文句はありません。

 ……本当に良いのですか?

 とりあえず私は、シェリーに教わりながらお花の冠を作っていく。私のぶきっちょスキルが発動したけど、その度にシェリーは私の手を取って修正してくれた。

 シェリーは優しくて人懐っこいなぁ。

 すぐに私の手を握って、ほんわかした笑顔を向けてくれる。

 

 ざくっと音が聞こえた。草を踏む音だと分かって私が顔を上げると、男の子達二人が私達のほうへ歩いてくるのが見えた。

「シェリーのお友達です…?」

「い、いえ…あの、」

 確かにちょっと違うかも。私がもうすぐ四歳でシェリーが一個上だとしても、男の子は六~七歳くらいに見えたから。

 

 シェリーが緊張している……? 偉い子か怖い子か。もしくはアホの子か。とにかく可愛いシェリーを怯えさせるなんて、とんでもないふてぇ野郎だ。

 私が威圧するようにジッ…と睨むと、近づいてきた男の子達は足を止め……そうになりながらも、先頭を歩いていた男の子だけが、そのまま私達の前までやってくる。

 ほほぉ、よくぞ私の眼力に耐えたな。褒めてやる。この私が初めて作った、ボロボロの花冠をかぶる権利をやろう。

 

「……お前がユールシアか?」

 

 その赤みがかった金髪の男の子は、尊大な態度でそう言った。このガキんちょ……。

「……そうですけど」

「お前のことは……叔父上から聞いている」

 叔父上? 誰のこと?

「おじ…」

「おい、ちゃんとこっち見ろっ」

「あ、」

 突然、腕をつかまれて、見上げると男の子の顔が間近にあった。

 びっしょ~ね~ん…だけど、ダメだ。女の子を親切に扱えない奴はダメだ。やっぱりガキんちょじゃなくて、しっとり美形なおじ様でないとダメだ。

 私がまたジッと睨んでやると、男の子は一瞬怯んですぐに私を睨み返してきた。子供に睨まれても怖くないよーっだ。あ、そうだ。

 ポンっと、持っていたお花の王冠を男の子の頭に乗せてやる。

 

「あげる」

 お山の大将には、そのボロボロの王冠がお似合いよ?

 

「……おまえ…」

「うん?」

 何か言いたげな男の子に、私は『何のことだか分かりませんわ』と言うように、首を傾げてみせる。

 それでも男の子のプライドがあるのか、ちっちゃい女の子である私に手を出さず、私から手を放して背を向けた。

「おい、行くぞっ」

「は、はい」

 硬直していたもう一人の男の子は、彼と私を見て、呆気にとられた顔をしながら返事をして彼の後を追いかける。……おやびんと子分か。

 

 何故か頭に花冠を乗せたまま、草花を踏み散らすように歩き出した男の子は、数歩踏み出した後、不意に足を止め。

「俺はリックだっ。明後日、俺の誕生パーティーがある。お前も来い、ユールシアっ」

「…え? ちょ、」

 勝手に宣言して、リックは私が止める間もなく、足早に歩き去ってしまった。

 ……ええぇ~~~~~~~~~~?

 

「………………」

「……ユ、ユールシア様……?」

 何言ってんの、あの子? 私は明後日の朝には帰るんだよ? 明日はお父様とウキウキ王都観光しながら、みんなのお土産選んで、ほっくほくで帰るつもりなんだよ?

「ユールシアさまぁ~……」

 誕生日? 明後日? 一日で終わるとしても、私とお母様との再会を一日も遠ざけるなんてあり得ない。そもそもあの子は誰? そんな権限があの子にあるの?

 

「ユールシア様っ!」

「え? ……あ、ごめんなさい…」

「いえ、いいのです。でも……大丈夫ですか?」

「ありがと……シェリーは優しいね…」

「ぁ、ありがとうございます…」

 この子は本当に癒しだね。出会えて良かったわ。

「シェリー。……あの子、だぁれ?」

「え? ……いえ…その…」

 知ってるの……? でも言い淀んでいる様子を見るに、怖い職業の家の子か……。

 そんな子が何で私の名前を知っているの……? 叔父上って人? 良く分からない。お父様がそんな人達と関わりがないことを祈りましょう。

 とりあえず、あのガキんちょ、許すまじ。

 

   ***

 

 オルアレン伯爵家令嬢・シェルリンド・ラ・オルアレン。

 夏中の月・十六日。先月五歳になった彼女は、父の書斎に呼ばれ、おかしなことを言われた。

 

『シェリーの初めてのお茶会が決まったよ。四日後、カイル宮の庭園で行われるので、その会に参加する子供達と、お近づきになっておきなさい』

 

 五歳になれば、貴族のお茶会に一人の淑女として参加できるのだが、シェリーの初めてのお茶会は、伯爵の妹であるブレイ子爵夫人のお茶会と以前から決まっていた。

 幼いながらもシェリーは、断ることの出来ないお茶会であると理解するが、四日後とは急すぎる。おそらくは、一名か二名……特定の参加者の都合のみが優先され、残りは急場の数揃えに過ぎないのだろう。

 新しいドレスを注文する為に慌ただしくする母の様子に、不安になったシェリーは父にその思いを口にすると。

 

『すまんなシェリー。だが、怖いお茶会ではない。家名を言うことも聞くこともしない、身分も関係ない、子供達だけの自由なお茶会だ。楽しんでくるといい』

 

 身分の関係ない。……すなわち身分を隠さなければいけないような人物がいる。

 そして、おそらく子供だけと言っても、五歳になったばかりのシェリーは最年少であろう。そんな中に何も知らない自分が参加して、何を話せばいいのか分からない。

 その事実に自分で辿り着き、さらに泣き出しそうな顔で怯える娘に、伯爵は視線を合わせて苦笑を浮かべながら“お願い”をした。

 

『実はね。私も友人に頼まれたのだ。彼のお嬢さんも急に参加することになった。その子は病弱であまり外に出たこともなく、しかもシェリーよりも年下なのだよ』

 

 まだ四歳にもならない、小さな女の子が参加する。

 その事実に安堵すると同時に、ずっと妹が欲しかったシェリーは、その子を守ってあげようと一人奮起した。

 

 お茶会の当日、シェリーは一人の“天使”と出会った。

 きらめく陽の光のような黄金の髪。人ではあり得ない天使のような美貌。

 心構えもせずにその姿を見たすべての者が息をするのも忘れ、その様子に目を伏せ、優雅にお辞儀をした彼女が誰も居ないテーブルに着き、小さく息を吐いてようやく全員が息を継ぎ、楽団員や侍女達が自分の仕事を思い出して慌てて動き始めた。

 

 小さな淑女達は天使のような彼女の姿に溜息をつき、その中でシェリーは、彼女が目の前のお菓子にも手を付けず、寂しそうな様子に気付いて心を痛めた。

 おそらく彼女が父の友人の子なのだろう。その子を守ってあげようと思った自分の決意は何だったのか。

 そんな思いで話しかけてみると、彼女は年下とは思えないほど聡明で、給仕にお礼を言える良い子で、お人形のように冷たい印象がコロコロ表情の変わる、とても愛らしい女の子だった。

 

 彼女の名はユールシア。シェリーは彼女をすぐに好きになった。

 まるで悪魔にでも魅了されたかのように……。

 

 二人で遊んでいると、男の子が近づいてきた。

 彼はシェリーをあまり知らなかったが、シェリーはその男の子を知っていた。我が儘で乱暴な年上の男の子。

 怯えるシェリーが何も出来ずにいても、ユールシアは怯えた様子も見せず、あの優しい金色の瞳で彼を見つめ、小さな花冠を与えることであっさり彼を諫めてしまった。

 シェリーは、その様子に感動すると同時に、見つめ合う二人に嫉妬した。

 あの可愛いユールシアは、自分が護らないといけない。

 彼の誕生日パーティーなら、伯爵家である自分にも招待状は来ていたはず。

 シェリーは再び奮起する。彼女に近づく悪い虫を全て排除しようと決意して。



 

 物語が動きはじめます。

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幼女と幼女の持つ使命感が微笑ましい。
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