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悪魔公女 〜ゆるいアクマの物語〜【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第三章・獣の花嫁

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3-16 暗い獣 ②(済)

2-11 夜の子供達 ① :足りない冒頭部分を追加しました。

3-15 暗い獣 :全体的に多少の手直しを加えました。

3-16 タイトル修正しました。

 



 やってきた彼らの先頭を駈けるのはリックとノエル――ではなく、三人の聖騎士さん達だった。

 神殿と呼ばれる場所で修行を積み、防御系の神聖魔法を使う歩く重戦車。

 それ故に悪魔系の知識もあるらしく、【彼】を見てその正体を察し、無意識に足を止めた横をすり抜けたリックとノエルが駆け寄ってくる。

「ユールシアっ、無事か!?」

「ルシア、下がってっ!」

 リックが(また)私の腕を掴んで引き寄せ、ノエルが私を庇うように前に出て剣を構えた。

「……なんだ、アレは……」

 掠れたようなリックの声が漏れて、ノエルも顔色が悪くなり嫌な汗を流す。

 私達が随分と削ったけど、【彼】の存在感……その気配は、この世界の生物とは比べものにならないほど凶悪だ。

 

『………』

 そんな私達を……いえ、“私”だけを【彼】はジッと見つめている。

 今、【彼】は何を思っているのだろう……。私を『壊して』でも連れて帰ろうとする想いは、本音を言えば少しだけ嬉しいけど、そんな一方的な我が儘には応えてあげられない。

 

「リュドリック様、ユールシア様っ、お下がりくださいっ」

 少し遅れて騎士達が私達の所に到着する。聖騎士3名と王宮騎士8名。ブリちゃんやサラちゃん達の護衛騎士7名……。さすがにヴィオ達は置いてきたようね。

 聖騎士の一人……ロマンスグレーのおじ様が、緊張した面持ちで【彼】に盾を向けながら注意してくる。

「アレは、かなり高位の悪魔です。おそらく魔獣かと思いますが……、ユールシア様のお力で抑えていたのですか?」

「う、うん……まぁ、ね」

 

 さて……どうしましょ? いくら弱体化しているとしても兎に獅子は倒せない。存在そのものの“格”が違うのだから、人間の騎士程度ではどうしようもない。

「ここは我々、騎士が引き受けます。あなた方は退避を……」

 もう一人の聖騎士が悲壮な覚悟で、私達に笑みを見せた。ブリちゃん達でさえ、盛大に引き攣った顔をしていたけど、引くつもりはないみたい。

 

『…………』

 人間達の中で『守られる』私の姿に、【彼】が苛立つように気配を見せ、その魔力が次第に高まっていくのに気付いた。

 正直に言えば、私も【彼】もそんなに魔力は残っていない。

 私を連れ帰るために、【彼】はここにいる邪魔な人間の魂を喰らって、魔力を補充しようとするでしょう。

 じわじわ苛んで強制熟成させた魂ならともかく、ただ殺しただけの魂では、ほとんど回復出来ないと分かっていても【彼】はやる。

 ……心が折れない限り、【彼】は私を諦めない。

「………」

 仕方ないなぁ……。みんなを巻き込んで悪いけど、ここで【彼】を折らせて(・・・・)貰う。

 

「……『護りの光在れ』っ」

 突然、聞いたことのない呪文を唱える私に、リックとノエルが驚いた顔で振り返る。

「『輝聖盾(きせいたて)』…っ!』

 

「「「!?」」」

 人間達全員の身体が“黄金の光”に包まれ、神聖魔法を使う聖騎士達は、自分達が受けた“最上級加護”のデタラメな強大さに目を見開いた。

 そこに、

 

『グォガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 私が“人間”を守護するのを見て、【彼】が怒りの咆吼を放つ。

 凶悪なまでの威圧の咆吼は、普通の人間程度なら簡単に即死させるほどの力があったが、私の【輝聖盾】の加護は、それを防いでなお人間達の気力を高めた。

 

「全員っ、聖王国の騎士として誇りを見せよっ!」

「「「はっ!」」」

 リックが声を上げて騎士達を鼓舞すると、それまで悲壮な顔をしていた騎士達が戦意を漲らせて剣を掲げた。

 

「………あ、」

 またやっちゃった……。

 悪魔の威圧に対抗するために【戦意向上】の付加を【輝聖盾】に付けたけど、効き過ぎちゃったみたい……。

「我々が彼らの援護をします」

「あ、うん……、お願い」

 空気を読んでくれた従者達が、そう言ってくれたのでお願いして、私はこっそりファニーから貰った非常食の魂を囓りながら、彼女にもう一つの指示(・・)を出した。

 

 

『グァオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

 咆吼を上げ、【彼】が地を駈けるが、もう先ほどまでの速度はない。それでも人間の騎士程度なら、戦車の如く挽き潰せるのでしょうけど。

「私が受けまーす」

 緊張感のない声で、聖騎士よりも素早く前に出たニアが、黄金魔剣(ニヤンコけん)で【彼】の突進を受け止める。

 従者達の魔力も尽きかけているけど、【吸収】持ちのニアなら、今の【彼】を受け止めることが出来た。

「「「おおおおおおっ」」」

 12歳ほどの少女騎士が魔獣を受け止める姿に、騎士達から驚愕の声が上がる。

 被害を出さないために仕方がないと言っても、目立ちすぎるとボロが出るから、さっさと決めないといけない。

 

「ノエルーっ、戻って!」

「ルシアっ?」

 前線に出ようとしていた彼を呼び止めると、ノエルは訝しげにしながらも素直に戻ってきてくれた。

「ルシア、何か問題がっ?」

「ううん、ちょっと待ってね。……ファニー」

 私が呼ぶとファニーが、予備で作っていた黄金魔剣を恭しく差し出す。

「ユールシア・ラ・ヴェルセニアの名において、この【聖剣(・・)】をあなたに授けます。受け取りなさい、ノエル」

「……はいっ」

 一瞬だけ呆気にとられていたノエルは、地に片膝を突いて【聖剣】(仮)を騎士のように受け取ってくれた。

 近くにいたリックが何故か渋い顔をしていたけど気にしない。

 

 騎士達は意外と善戦していた。

 私の【輝聖盾】の加護もあるけど、ニアが【彼】の攻撃を受け止め、ノアとティナが上手い具合に、普通(・・)に魔法で彼らを援護しているので、当たり前と言えば当たり前の展開である。

「ユールシア様、私も行く?」

「まだいいわ。それより喉が渇いたから、お茶ちょうだい。あ、魂多めで」

「はーい」

 リックも前に出て指示をし始めたので、私も観戦モードに移行して、準備が整うのを待つとしましょう。

 

 聖騎士達が戦いながら神聖魔法の【治癒】を使って仲間を癒し、従者(あくま)達がそれを援護しながら【彼】の魔力を削っている。私も重傷を負った人には即座に癒しを掛けてタイミングを計っていると、ついにその時がやってきた。

 

「…【μυα】…ッ!」

 

 ノエルが以前使った『光を意味する精霊語』を使い、黄金魔剣に光の力を宿らせて、わずかな隙を見せた【彼】に剣を振り下ろす。

 

「『切り裂く光在れ、輝聖剣(きせいけん)』…っ」

 

 その瞬間を狙い澄まして、私がノエルの黄金魔剣に【輝聖剣】の魔法を重ねた。

 神聖魔法に【聖剣】は存在するけど、私の魔法はそれの最上位で、その威力は桁違いに大きい。

「滅びよ、悪魔っ!」

『グオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 ノエルの振り下ろす剣の光が強い輝きを放ち、巨大な黄金の剣となって【彼】を数十メートルも後退させた。

 ……あの攻撃でも、そんなにダメージになっていないとか、本当に規格外だね。

 

『……グゥ……』

 それでも想定外の威力があったのか、【彼】が初めて人間を警戒するように、黄金魔剣を構えたノエルを視界に入れる。

「……あいつ、まだ…」

「ノエルっ、効いているぞ、まだいけるか!?」

「はい……っ!」

 ノエルに声を掛けたリックが彼の横に立ち、リックも自分の剣を構えた。

 

「………」

 ちょうどお茶を飲み終えた私は二人に悠然と近寄ると、彼らの真ん中で二人に守られるように一歩引いて、誰にも気付かれないように『あっかんべぇ』と【彼】に舌を出す。

 

『………ぐぐ…』

 そんな私に【彼】が歯ぎしりをするように唸り声を漏らすと、ようやく不利に気付いて上空へと飛び上がり、距離を置いて私を睨み付けた。

 怒りは感じるけど、もう【彼】から戦意は感じない。

 自分を拒絶した(ペツト)に一度は敗れ、私が守護して従者達が援護したとは言え、たかが人間を一人も倒せず、そんな彼らの間で【人間】のように振る舞う私の姿に、ようやく【彼】が折れてくれた。

 色々な意味でしんどかった……。

 このまま素直に魔界に戻ってくれたらいいんですけど……。

 そんな思いで【彼】を見つめていると、一度背を向けた【彼】は、最後に私のことを【金色の獣】ではなく、初めて私の【名】で呼んだ。

 

『ユールシアッ――――ッ! 次は絶対に、魔界に連れ帰るっ!』

 

 ……まだ完全に折れませんか。



 

次回、三章最終話です。

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― 新着の感想 ―
何かもう「お父さん」な暗い獣さん。 「お前に独り立ちはまだ早過ぎる!お家に戻ってきなさい!お婿さんもお父さんが探してくるから!!」みたいな? 彼の声は悪魔以外にも聞こえたのかな?
[一言] とんでもない所に邪魔が入りました 勘違いが酷くなる一方
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