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閑話 メイドから見たお嬢様(新)

 補足回です。短め。

 



 リアステアの専属侍女であるヴィオは、学院を卒業した17歳の時からこのお屋敷に勤めている。

 平民であるが優秀な成績と貴族にも劣らぬ教養から、学院の職員や貴族のお妾まで表から裏から色々と誘いは来ていたが、ヴィオは全てを蹴ってリアステアの侍女となる道を選んだ。

 全ては大恩あるリアステアのため。

 平民でありながら貴族が多く通う王都の学院に通うことを許されたヴィオは、肩身の狭い思いをしていたが、学院の先輩で貴族の令嬢であるリアステアに目を掛けてもらい、歳の離れた妹のように可愛がってもらえた。

 それだけでなく【神聖魔法】の才能のせいで教会の一部から宗派に入ることを強要され、それを断り実家の商店が嫌がらせを受けると、リアステアはお店の手伝いをして、司祭長に直訴までしてくれたのだ。

 そんな大恩あるリアステアが子供を授かったと聞いて、卒業間際だったヴィオは頼み込んでまでリアステアに仕えることを望んだ。

 

 産まれてきた子供は死産だったが、運良く蘇生し今は元気に育っている。

 リアステアや屋敷の皆はヴィオが治癒魔法を掛け続けたおかげだと言ってくれるが、ヴィオは自分の魔法が効果を発揮したとはとても思えずにいた。

 

(本当に神が居るのでしょうか……)

 

 教会のせいで神を信じなくなったヴィオだが、リアステアとその子が神に祝福された“愛し子”のように思えたのだ。

 

 その子――ユールシアと名付けられた子は、あまり普通の子とは言えなかった。

 あまり泣かない。夜泣きもほとんど無い。吃驚するほど手間が掛からない赤ちゃんにヴィオは不思議な違和感を覚えた。

 極めつけはその容姿だろう。産まれたてはともかく、数ヶ月もすると驚くほどに可愛らしくなった。リアステアも旦那様も容姿は優れているし、赤ん坊はそれだけで可愛いものだが、ユールシアはその範疇を大きく超えていたのだ。

 ヴィオより後に雇われた一つ年下のフェルとミンは、魂でも抜かれたようにデレデレに可愛がっていたが、ヴィオはユールシアの、お伽話に出てくる天使のような容姿と、意思を感じさせるその強い眼差しに、わずかな畏れを抱くようになる。

 

 その日からヴィオの、ユールシアの観察が始まった。

 

 ある日ユールシアは、掴まり立ちを試みたのか、ベビーベッドの枠を掴み、なかなか起き上がれずに反動を付けて立ち上がろうとしたところ、ベッドの柵に全力でヘッドバットして悶絶したため、ヴィオが慌てて治癒魔法を掛けた。

 

 ある日、音がしたのでユールシアの居る部屋を見てみると、デタラメな鼻歌のようなものを歌っているらしく、思いっきり大口を開けていたせいで、窓から飛び込んできた虫が口に入って盛大に咽せていたのを見て、メイド総出で虫を吐き出させる作業をすることになった。

 

 ある日ミンが丹精込めて作ったソフトクッキーをユールシアに与えてみたところ、珍しく気に入ったユールシアが口一杯に頬張り、歯が生えてないので噛むことができずに頬をリスみたいに膨らませて、困った顔をしていた。

 

 ある日、絨毯の上をハイハイさせていたユールシアが、一瞬だけ目を離したすきにいなくなり、屋敷の家人総出で捜したところ、見つかった時には居間のゴミ箱に逆さまに埋まってもがいていた。

 

 それらを見てヴィオは思う。

 神に愛されたような幸運な子供。知性を感じさせる神が使わした天子。天使の如く愛らしく可愛らしい子供。それなのに……

 

「……とても残念なお嬢様です」

 

 せっかく色々と神から贈り物を受け取っていながら、ユールシアは何と残念なお嬢様なのだろう……。

 そう理解すると同時に、ヴィオの中からユールシアに対する畏れは消えていた。

 見た目の行動のギャップだろうか、ユールシアが生まれてから屋敷の中が明るくなり笑顔に溢れるようになった。

 

「ユル様は、本当に天の使いかも知れませんね」

「どうしたの? ヴィオ」

 

 不思議そうに問い返すリアステアの髪を梳かしながら、ヴィオは嬉しそうに微笑む。

 このけっして幸せとは言い切れないリアステアに、ユールシアは幸せをもたらすために舞い降りた本当の天使のように思えたのだ。

 

「ヴィオ。これからもユールシアのこと、よろしくね」

「はい、リア様。この屋敷の皆は、ユル様のことが大好きですよ」

 

 リアステアとヴィオはユールシアを思い出し、顔を見合わせて笑い出す。

 そうしてこのお屋敷に小さな“お姫様”が誕生した。

 誰もが美味しいと思う料理人の料理よりも、メイドが思いを込めて作った簡単なおやつのほうを喜ぶ彼女は、きっと素晴らしいお嬢様となるだろう。

 

 ……ただし、あまりにもユールシアが可愛らしくも危ういので、常に誰かが彼女の側に居るようになり、どこへ行くにも抱きかかえ、乳母車さえ使わない過激なまでの過保護状態に陥ることにもなった。



 


新作、『悪魔のメイドさん。』始めました。

こちらは自重していない、コメディ色の強い作品になっておりますので、宜しかったらお気軽にお立ち寄りください。

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― 新着の感想 ―
怪しみ訝しんでるのかと思ったら、残念がってるんかい!? 変だな………。中身はそれなりの年齢だろうに、何故こんな事に? はっ!? これが残念という気持ち…………。 歯の生えていない子に、柔いとは言え、…
[良い点] 笑えてかっこよくてホラーっぽいところもあって・・・最高です。 [一言] 「教会の一部から宗派に入ることを強要され、それを断り実家の商店が嫌がらせを受ける」 作者様のお話の中で、良い宗教団…
[一言] >>「……とても残念なお嬢様です」 このころから残念だっかか ……そっか~
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