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2-07 六歳児の華麗な日常 ①(済)

この世界の半分は、優しさと勘違いで出来ています。

 



 私はつい先日、六歳になりました。

 もうお父様以外の男性のお膝には乗りませんわよ。あ、……お祖父様が見てる。

 

 六歳の誕生日は、特に変わったことはありませんでしたわ。

 また王城開催しようとするお祖父様を、お祖母様やエレア様の前でしくしく泣いて嫌がって困らせたり。

 トゥール領のお披露目で、馬鹿息子(おつさん)と婚約させようとしたアホ貴族を、ヴィオやサラちゃん達と囲んで【威圧】したり。

 ティモテくんとほわほわしたり。

 抱えきれない程の百合の花束で、抱えきれなくて潰れたリックを生温く見守ったり。

 シェリーのふわふわをもふもふしたり。

 来てくださらなかったお姉様方に、泣いて嫌がる風の下級精霊を脅して、夜中に窓をガタガタさせたり。

 ホント、問題のない幸せなお誕生日会でしたわ。

 

   ***

 

「ユル……本当に私やヴィオ達がいなくても大丈夫……?」

「うん。……がんばります、お母様」

 出掛ける寸前まで心配そうな、お母様や婆や達に見送られて私は馬車に乗り込む。

「ブリちゃん、お願いね」

「はいっ、お任せください、姫様」

 

 私はお父様との約束通りに、地方の視察に行くことになった。

 もちろん一人でではなく、護衛騎士のサラちゃん達15名が付いてきてくれる。

 ブリちゃんは、ブリジットと言う名前の、私の護衛騎士団の隊長さんで、王城でサラちゃんと一緒に剣を捧げてくれた、あの鼻血騎士さんなのです。

 サラちゃんがヅカの【女役】だとすると、ブリちゃんは【男役】の外見だね。いつか突然踊り出しそうで怖いわ。

 

 お母様が心配しているのは、私のお世話をしていた、ヴィオや婆や達が来ないこと。仕方ないよね。お母様のお世話をして貰わないといけないし。

 それにこれは、私の【公爵家令嬢】としてのお役目なんだから、私は私の“部下”を、きちんと使ってあげないといけないのです。

 つまりは、あの四人の側近見習いが、今回の私のお供なのですっ。

 

 どうして悪魔の私が、胃の痛みを感じるのでしょう……?

 

 

「「「「……………」」」」

 ……か、会話がない。

 大きめの馬車に、私とあの四人が乗っているんだけど、私が特に話すことがないから会話が弾まない。

「森が見えるーっ」

 一人空気を読まない侍女のファンティーヌが窓を見てはしゃいでいるけど、他の三人は反応も見せず、クリスティナは本を読み、ノアトスは懐中時計をいじり、ニネットは自分の剣を見てニヤニヤしている。

 みんな自由だな……。

 

 でも、ここは中間管理職として、私が何とかしないとダメなんです。

 話しやすそうなのは……護衛見習いのニネットか。

「ニネット、その剣がお気に入りなの?」

「……え? あ、はいそーですねっ。すっごい剣ですよ、わざわざ王都の武器屋から、公爵家の名で取り寄せただけはありますねーっ」

 ……ん? お父様がそれを許したの?

 私の“目”で見ても、魔力を帯びてる剣だと分かるけど……。

「それって…」

 私が言いかけると、執事見習いのノアトスが私の声にかぶせるように喋りだす。

「お嬢様、ニネットの剣はお嬢様を守る為の物です。その為に必要な物も含めて、ユールシア様のお名前で注文させていただきました」

「お嬢様、ありがとーございまーす」

 

「………」

 あ、ダメだ、こいつら。

 その剣ってブランド品だよね? 聖王国(うち)の聖騎士団の隊長クラスしか持ってないよ? あんたの年俸、何年分よ、それ。

 まさかノアトス、必要な物って……あんたのその銀の懐中時計も、そうじゃないんでしょうね? 昨日は金の懐中時計を使ってたよね?

 

 そんな双子を無視するように、侍女見習い二人は自分のしたい事だけをやっている。

「ねぇ、クリス……何を読んでいるの?」

「私はクリスティナです。図書室の本を借りました」

 くっ……まだ愛称はダメですか。……でも、その本って。

「その本は、お父様の…」

「知りませんでした」

 鍵が掛かっている書棚の本ですよ……?

 

「ファンティーヌは楽しそうねぇ……」

「うん? 楽しいよーっ。お嬢様も一緒におそと見よーよ」

「う、うん」

 ホントに、この子とだけはギリギリだけど会話にはなる。もしかしたらお友達になれるかも知れないから、お呼ばれには応じましょう。……あれ?

「あなた、……その靴は」

「あ、これーっ? お屋敷に落ちていたんだよ、綺麗でしょ」

 

「…………」

 そりゃ綺麗よ。私のパーティー用の靴だもん。

 なるほどねぇ……この子達は、そういう子ですか。……良く分かったわ。

 

 私は動いている馬車の中をずかずか歩いて、勢いよく馬車の扉を開く。

「サラちゃーんっ、お馬に乗せてーっ」

 

 私に中間管理職は無理でしたっ。

 

   *

 

 あいつら、次は絶対に連れてこない。一人でも逞しく生きてみせる。

 

「…『光在(ひかりあ)れ』…っ」

 そんなストレスの溜まりまくった【再生】の魔法でもちゃんと発動して、鉱山夫さんの無くなった足がにょきにょき生えてきた。……やだ、きもい。

 

 『おおおおおっ』……と、領主の館の前に集まっていた人達からどよめきが起こる。

 でも、そんな事はどうでもいい。

 私は生えてきた脚に、すでにスネ毛がボーボーなのが気になって仕方がない。

 

「ハゲも治せるのかな……?」

 私が漏らした微かな声に、数人の男性の肩が微かに震えた。

 

「ぁ、ああ、あぁ、あ、ありがとうごじゃいます、聖女さまっ」

 あらあら、鉱山夫のおじさん、何を怯えているのでしょうか? ちょっとストレスで無表情になっただけですのよ?

 どうしてサラちゃん達も離れているの? 護衛なんだからもっと側に居なさい。

 

「ユ、ユールシア様、ありがとうございます」

 領主のおっちゃんが、おっかなびっくり寄ってきた。領主と言ってもこの人は正式な貴族ではなく、お父様の家臣で一代限りの準男爵さんです。

「いいえ。お役に立てて嬉しいです」

 そろそろ拙いからニッコリ微笑んであげると、あちらこちらから安堵の溜息が聞こえてきた。……ごめんなさい。

「えっと、他に怪我をされた方はいますか?」

「重傷は彼で最後ですよ。軽傷の者達には、街の教会にコストル教の司祭様が居られますから」

 

 むぅ……ストレス発散に【祝福の宴】でも使おうかと思ったけど、まぁいいか。

 今やったら、【人】として見て貰えなくなるような気がする。

 街中を光の天使達がパレードしながら舞い踊るとか……。

 

「本日は私の屋敷に滞在なさってください。フォルト様のお話もお聞きしたいですし」

「ありがとうございます。では、それまで街を見学させていただいても……?」

「もちろんです、ユールシア様っ。誰かに案内させましょう」

 

 ちゃんとストレス発散させていただきますわ。

 

「ブリちゃーんっ」

「はいっ、姫様っ!」

 私の声にブリジットがダッシュで駆け寄ってくる。

 念の為に言っておくけど、私が彼女のことを“ブリちゃん”と呼んでいるのは、相棒のサラちゃんと一緒に、“(サラ)”と“(ドンブリ)”で覚えやすかったからではない。

 それにブリちゃんは、私がサラちゃんばっかり呼ぶと拗ねちゃうのよね……。

 そんな彼女に私が要望を伝えると。

「だ、駄目ですっ、姫様っ、危険ですっ」

「ダメぇ?」

 まぁ断られるのは分かっていたので、子供らしく上目遣いで、小さく首を傾げながら可愛らしく“おねだり”してみる。

「ひめ、さ、ぶぁっ」

 突然ブリちゃんが顔を押さえて蹲る。

 六歳児のおねだり、あざとい。そしてブリちゃんは相変わらず鼻の粘膜が弱い。

 幼い少女におねだりされたから鼻血出してるんじゃないよね……? 彼女は熱血だからそんなこともあるのでしょう。

 

 私の要求は単純明快、街の散策にお供を付けずに歩きたいだけだった。

 だって全員で出歩くと、あの四人も来るでしょ……? そうなると私の繊細な神経が全力で摩耗するんですよ。

 何度かブリちゃんに【治癒】を掛けながらおねだりした結果、護衛を一人付けてなら出掛けていいことになりました。そして……

「私に決まりましたっ」

 勝者、ブリジットちゃん。

 

 正直に言いまして、どうしてそこまで私なんかに……とは思うんですけど、私のお供に騎士さん全員が手を挙げて、最終的にはブリちゃんとサラちゃんの殴り合いの結果、ブリジットが付いてきてくれることになりました。

 ……誰が、殴り合ったあなた達に【治癒】を掛けると思っているの?

 

 

「……ど、どうされましたか、ユールシア様」

 戻ってきた領主のおっちゃんが、怪我はないのに服装が乱れまくっている女性騎士達を見て目を丸くしていた。

 その隣には小姓らしき男の子を連れていて…… あ、そう言えば案内する人が来てくれるんでしたね。

 

「……せ、聖女さまっ」

 

 その子――私より少し年上のその男の子は、真っ赤な顔で私をそう呼んだ。

 また聖女様ですか……。こんな子供にまでそんな噂を……って、あら?

「……あなた…」

「覚えていらっしゃいますか? この子はあの“事件”で、あなたと一緒に捕まっていた子供なんですよ」

「あ……っ」

 

 そうです、思い出しました。あの子です。

 第二次悪魔召喚事件で捕まり、虐待されて死にかけていた『死にたがっていた子供』です。

 

「あ、あの時は…ありがとうございましたっ」

「うん…」

 痩せていた頬もふっくらとして、着ている服も綺麗になって笑顔を浮かべていた。良かったわねぇ。……あの時は、あんなに素敵な“瞳”をしていたのに……。

 ま、仕方ないわね。私が“それ”を許さなかったんだから。

 

 話を聞いてみると、彼は元々難民の子で、結局親を見つけることが出来ず、お父様はそう言った子供達を、余裕のある家臣達に預けていったんですって。

 さすがはお父様、素晴らしいですわ。

 

「僕、ノエルです。僕ずっと……聖女さまにお会いしたかった……です」

 あら可愛い。モジモジしてる。

「この子は優秀ですよ。魔術師の素質もあったようで、将来は色々やってもらおうかと思っています」

 おっちゃん、邪魔です。ノエルの茶色のサラサラな髪とか、綺麗な紅茶色の瞳とか見えないじゃないの。

「聖女さま、本日は僕が街をご案内しますっ」

「うん、ありがとー」

 

 最近、子供同士の人間関係で荒んでいたから癒されるわ。

 ノエルは素直で可愛くて、思わずニッコリしちゃう。

 でもその『聖女さま』はやめようね? それ、すんごい恥ずかしいからね。



 

再会です。ノエル君はモブから抜け出せるのでしょうか。


次回はデート回?

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― 新着の感想 ―
この子達は、そういう子ですか > 小さな犯罪者集団。悪気無し。何かやらかしても、何が悪いの?と本気で聞いてきそう。駄目なタイプの貴族のボンボン。 お父様、見る目無し?
[良い点] ノエルあんた結局捕まってたんかw
[一言] そもそも中間管理職じゃないよw いやーこれは酷い、これからどうなるか期待しかない
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