2-02 姫様になりました ②(済)
そろそろ『恋愛?』と『ほのぼの?』の『?』を取ってもいいでしょうか。
「おちゃかい?」
お祖父様ばかりをかまってはいられない。
私は現在、王妃であるお祖母様、王太子妃であるエレア様、お母様、ついでに従兄弟のリックと、あの庭園でお茶をいただいているのです。
「そう、お茶会よぉ。ユルももうすぐ五歳でしょ?」
いつものゆったりとした声でエレア様が微笑む。素敵です。
この庭園は元々王家縁の者がお茶を飲む場所で、ここにお呼ばれされること自体が、大変名誉なことらしい。あの花冠を作ったお花畑はお祖母様の趣味で残されたとか。
そして、そんなお祖母様のお膝の上が、本日の私の“席”となります。
「それなら、私のお茶会に参加しましょ? ねぇ、ユル」
お祖母様が私の髪に頬をスリスリしながらそう仰る。お祖母様は少女のような人だ。そして今日の私は少女のヌイグルミだ。
お茶会って……今、やっているのは“お茶会”じゃないの? それに……。
「初めてって、この前、ユールシアはここに来たじゃないか?」
おお、リックが私の思っていたことを言ってくれた。褒めてやる。後でそのほっぺをプニプニしてやろう。
「リックは馬鹿ねぇ。五歳になってからの【初めてのお茶会】は特別なのよ?」
エレア様はまた息子に容赦ない。
貴族の女の子は、五歳になると正式に【淑女】としてお茶会に参加する。
母子で参加する場合もあるけど、それは家族ごと付き合いのある極親しい家同士の場合で、基本的には一人で参加し、友好関係を築き、貴族同士の情報の共有を行う。
まぁ、それが建前だけど、基本的には“女子会”のような感じみたい。
でも五歳の子だから手は掛かる訳で、ほとんどの場合、幼いうちは親戚のお茶会に参加するんだって。
「だからユルはねぇ、私とぉ、お義母さまのお茶会に参加するのがいいと思うわぁ。ねぇ、リアもそれでいい?」
「はい、お姉様がそう仰るのなら」
エレア様の言葉に、お母様も嬉しそうに微笑む。
お母様がエレア様を“お姉様”とか呼んでいるのは、親戚関係になったからそう言ってるのではなくて、お母様はエレア様の魔術学院時代の後輩で、当時からそう呼んでいたとか。
別に女神様から家政婦ばりに見られていた訳ではない。
そう言えば……私はまだ、実の“お姉様”と会ったことないわ。……だから何故に?
お茶会は“女子会”みたいなものだから、男性は少々肩身が狭くなる。
お父様も家族だけの時しかお茶に来ないし、前回のお茶会は、私とリックの顔合わせが主な目的だったようです。
すると……今回リックが来ているのは、そういう意味かな……?
「……なんだよ?」
「何でもありませんわ、リック様」
少しふて腐れたようなリックが、私の視線に気付いて声を掛けてきた。
まぁ親戚関係だけとは言え、女性陣ばかりの中に混ざると、子供のリックでも居心地の悪さは感じているんでしょう。
少しは同情するけど、私に対してだけ妙にぶっきらぼうなんだよねぇ、この子。
本当なら子供同士の会話で和ませるところだけど、私は心が狭いのですよ。ふふふ。
でもそこに空気を読まない明るい声が掛かる。
「まぁまぁ、ユルったら、どうしてリックに“様”を付けているの? リックはあなたの“お兄様”みたいなものなのよ?」
お祖母様でした。
「……で、でもぉ」
ガキんちょを【お兄様】とか、なんの羞恥プレイでしょうか?
「お、俺は、……ユールシアなら呼び捨てでもいいぞ」
うん、さすがにリックも恥ずかしいよね。初めて気持ちが一緒になった気がするわ。
でも呼び捨ては拙いなぁ……。
一応、リックは“王子様”で、私は公爵の娘だから、彼との間に“壁”を作るという意味でも“様”は付けさせてもらいたい。
「それでは王妃様、外では【リュドリックお兄様】で、このような場では“様”付けずに呼ばせてはいかがでしょう?」
「まぁ、それは可愛いわね。そうしましょう。それとリアも私を【お義母様】と呼んでちょうだいね」
「はい、……お義母様」
「「………」」
油断していたら、のほほん二人組に呼び名を決められてしまった。
内容はこんなだけど、これって私に拒否権無いよね……? ちらりとリックを見ると彼も何か思うところがあったのか私を見ている。
……仕方ない。これでも私は、世界で一番空気が読める悪魔ですのよ? この程度の苦行には負けない……くっ。
「……り……りっく…?」
「…ぉ、おう」
リックもいきなり照れないでよ。私まで緊張しちゃうじゃない。
そこに、クスクス……と、堪えるような含み笑いが聞こえてくる。
「…………」
ちらりと視線を向けると、声の主は、私とリックを見て時折ニヤニヤしていた。
やっぱりですか……エレア様。
最初のお茶会の目的は、お祖父様や伯父様の計画による、【親戚の子供同士の内緒の顔合わせ】だった。
その中でエレア様の目的だけは違っていた。
エレア様は、可愛がっていた【後輩】であるお母様の娘を、自分の【義娘】にしようと画策していたのです。
立場上、本気でないとは思うけど……。
そもそもリックと私は【婚約】出来るような“立場”ではないんですよ?
順当に行けば、第一王太孫であるティモテくんが、次の次に王位を継ぐ。
そうなると第二子であるリックは、新しい領地で家を興すか、今ある公爵家に婿入りする事になると思うんだけど、私と一緒になると、生まれてくる子の“血”が濃くなりすぎることが問題になる。
伯父様の【武】と、お父様の【智】の、両方の“血”が入った【王家の純血】が、王家以外に生まれてくる訳だね。
そりゃ問題だ。大問題ですよ。
そんな訳で無理。
可能性があるとしたら、私がティモテくんに嫁入りすることだけど、歳が離れているのよねぇ……。ティモテくんが結婚適齢期に入っても、私は十歳かそこらですし。
私個人としてもあの兄弟はご遠慮したい。彼らは『良いお友達』ですから。
実はもう一つだけ可能性はある。
それは私の二人のお姉様のどちらかがティモテくんに嫁げば、“血の濃さ”は同じになるはず。そうだ、どうせなら二人いるからリックにも嫁げばいい。
それをそれとなくエレア様に話してみると。
『あははっ、ユルはまだ小さいのに、面白い“冗談”が言えるのねぇ』
と真顔で言われた。
いったい何をやらかしたんですか、まだ見ぬお姉様方……。
それと似たようなことを、護衛の女性騎士さんからも言われたことがある。
『ユールシア様は、我らのただ一人の【姫様】でいらっしゃいますから』……と。
どういうこと……?
基本天然系と残念な人しか居ません。





