開戦前 前編
一九一四年、九月二日。
各国は動員をほぼ完了させた。ただし、ロシアでは未だ六割程度しか進行していなかった。
チャーチルとキッチナーが首相アスキスとお茶をしているところに、わたしも呼び出された。
「エリー、大陸に部隊を派遣させようと思うんだけど」
チャーチルはそう言って、わたしに意見を求めた。
「海軍はでないの?」
チャーチルはわたしの質問に
「まさか、出るわ。流石にクイーンエリザベスを出すわけにはいかないけど、取り敢えず五割くらいを地中海に送るつもり」
旗艦クイーンエリザベスはイギリス海軍の象徴的存在であり、最新鋭の軍艦だ。
「キッチナーはどういうつもりなの?」
陸軍大臣は、カップを置くと
「取り敢えずは、ベルギーに少し送っておこうと思うの。だけど、チャーチルが送るなら大部隊を送れって」
それを聞くとチャーチルの顔が歪むが、アスキスが宥める。
「三個軍ね」
え、とチャーチルとキッチナーの声が重なった。
「ドイツのベルギー侵攻を待たずに三個軍をベルギーに派遣するべき。その後、追加でフランスへ送れば良いと思う」
三個軍、百五十万人の大部隊だ。
「わかったわ、そのあとの派遣についてはもう少し志願兵が集まったらまとめるわ」
防衛陣地構築は順調に進んでいる。まずはドイツ軍を食い止め、フランス、スペインの援軍を待つ。イタリアの動きも少し不安だが、まあアルプスを越えることはできないだろう。この辺りを取り持つのは、北軍と北東軍の二個軍で、一応予備軍団も用意してある。さらに、東軍、南東軍と国境線を囲む。要塞を中心に塹壕を繋ぎ合わせて、大量の機銃と固い要塞壁で防衛する。攻勢ありきの防衛ではなく、防衛するためだけの陣地だ。
「司令補佐、一つよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「もう一個軍派遣していただけないでしょうか?我らの防衛線が広すぎて人手が足りません」
北東軍司令はそう訴える。現場の声は大事にしなくてはならない。戦うのは彼らなのだから。
「わかった。すぐに総司令閣下に進言しよう」
「ありがとうございます」
今はまだ志願兵が続々と集まっている。人手には余裕があるだろう。ジョフルにはあれだけ防衛と言って聞かせたから、大丈夫だろう。
「イギリス軍の大陸派遣を支援するために、海軍から一部北海へ艦隊を出してもらう。同時に陸軍は、二割をフランスへ、残りを地中海からシチリア島へ上陸させる。まず我らは、イタリアを堕とす」
我らがスペイン軍は、騎兵が圧倒的に少ない。なので、身軽に行動でき、海上輸送も楽だ。
「具体的にはフランス派遣軍が二個軍と予備兵団二軍団。イタリア攻勢軍が二個軍だが、志願兵を編成次第、順次拡大して、最終的には七個軍まで膨らます予定だ」
七個軍……三百五十万人近い数だ。それほどに志願兵が集まっているのか?だとしたらすごい数だ。
「総司令次長、何か意見は?」
「いや、特にないよ」
相変わらず掴み所のない男は、
「では決定です。各軍の司令部編成については追って連絡します」
さて、忙しくなるぞ。
思ったより資料が少なくて困ってます。まあ、もう関係なくなりましたが。




