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碧山弥

言っておきますが、当然この物語はフィクションです。実際の人物、故人、出来事、組織はなんら関係ありません。

だから性格が変とか、性別が違うとか私の知るところではありません。

一九一四年八月二日。ドイツ帝国皇帝ヴィルヘルム二世はロシア帝国皇帝ニコライ二世との対話でロシア帝国の総動員を解除するに至らず、ドイツ帝国は、ロシア帝国へ宣戦を布告した。また、翌三日フランス共和国へも宣戦を布告した。


一九一四年八月四日。フランス共和国、パリ。

「どういうことになったんだい?」

フランス軍総司令官ジョフルは、ズラリと並んだ政府高官の末端に座り、右側手前から三番目に座る外務大臣に優しく問いかけた。

「ドイツ帝国が宣戦を布告した。ロシア帝国からの共同戦線敷設の要請も来ている」

それぞれの大臣が自らの立場にたって、ドイツ帝国との戦争を思い描く。

「どうするつもり?」

誰かが私に問いかけた。

「うちには、対ドイツ戦の作戦『プラン17』がある」

低いどよめきが室内に満ちる。

「ただし--」

そのどよめきを切り裂いて、

「そのためには、政府が国家の実権を握らないといけない。議会に振り回される訳にはいかないんだ」

一番奥の席に着いていた堅苦しそうなハゲ頭は、

「問題ないさ。きっとバルカン戦争のような誇り高き騎士道精神に彩られた短期決戦で終わるだろうから、議会もその間は文句を言うまい」

あのハゲが言うならなんとかなるだろう。一応行政のトップであるわけだし。

「それじゃ、議会は頼んだよ。私はここで失礼するよ」

「な、もう行くのか?」

不満げな財務大臣を睨み返し、

「やることは山積みだよ」

優しく言葉にして、大きな部屋を出た。

すたすた廊下を歩いて、角を三回曲って、しばらく行くと外に出る。既に車は回されていて、私はその後部座席に飛び乗った。シートに押し付けられる加速感を感じると、風景が動き出す。

私は、ハゲが言ったような騎士道精神溢れる短期決戦になるとは全く思っていない。短期決戦になるとすれば、そのときはフランスが降伏するときだ。ドイツはおそらくヨーロッパ最大の帝国だ。だからこそロシアとフランスの二正面作戦に出ることができる。

ロシアの動員には時間がかかる。ドイツはその時間を見逃すことはないだろう。

そんなことを考えている間に、つかの間の減速感。停車。降り立った先には我がフランス軍司令部の建物がある。

その建物に入り、左、右、右の順に曲がり、右手に扉がある。別に特段変わったものではない。ノックと共に、

「入るよ、ワタル」

おう、という返事を待って入る。さして広くもない殺風景な部屋。

「どうだった?」

「議会はなんとかなるみたい。あとは、総動員をかけて鉄道課と調整をしなくちゃ」

要点をかいつまんで話すと、ワタル--碧山(わたる)はすぐに

「まずやらなきゃならんのは、時間稼ぎだ。イギリス、イタリア、スペイン、ポルトガル辺りを取り込むためにも、防線は強固なものにしなくちゃいけない」

これだけ頭が回るんだから大したもんだ。私が拾ったときはぼーっとして使い物にならなかったのに。

「そうだね。そのためにも早く国境に部隊を送らなきゃ」

私の言葉にうーん、と唸ったワタルは

「いや、弾薬も食糧も鉄道があった方が圧倒的優位だ。既存の路線を活かすためにも、要塞に戦力を集中させよう」

確かにそうだなあ。人送れば終わりじゃないもんなあ。

「わかった。すぐに支度しよう。ワタルは総司令官補佐で入ってね」

私の提案に、ワタルはわかったと言いながら、でぇ〜という顔になった。

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