ニートの事情・その2
「ルールをおさらいしようか。この束からカードを2枚引いてテーブルに置く。後はお互いテーブルの上のカードを1枚ずつ引いて数の強い方を引いたヤツが勝ち。異論は?」
「無いよ。本当に恐ろしく単純ね」
私が勝ったら大上はもう二度と私には関わらない。どこまで信用できるか分からないけど一応誓約書も書かせた。後はちゃっちゃとこの茶番を終わらせるだけ。本当に単純で、簡単な話だ。
「手札の強さだけど、分かりやすくA、K、Q、Jといった順番にしようか。最弱は2だな。例外としてジョーカーだけはAより上。ってことで」
「いいよ。引き分けの場合はどうするの?」
勝負を始める前にきっちりしておかないと、勝負の後で色々とゴネられたりしたら面倒臭い。
一体どんな悪巧みをしてまたここに来たのかは知らないけど、コイツから言い出した勝負なんだし、どうせ「私に勝てるわけが無い」んだから出来るだけ後腐れなく、サッサと済ませてしまいたい。
「その時はまた2枚カードを引きなおせばいいだろ。他に質問が無いなら、早速始めようぜ」
そう言って言葉通り、早速カードを引いてテーブルに置こうとする大上の腕を咄嗟に掴む。相手の用意してきたトランプでそのままスタートするなんて、流石にそこまで私もお人よしじゃあないよ。
「そのトランプ。一回こっちで確認させて。そっちで用意してそっちでシャッフルして勝負するなんて幾らなんでも都合がよすぎるんじゃない?」
ワザと皮肉をこめて言ってやる。大上の反応を見てみても特に困ったようなリアクションも無く、都合が悪いといった様子も無い。カードに細工をしている訳じゃないのかな?それとも簡単にバレるような事はしていない、なんていう自信だろうか。
…それとも、もしかして私がガチで勝負をすると思っているんだったら…ないか、それはないない。
「…なんだ、勝手に見つめるな。見物料取るぞ」
目の前でテーブルを挟んで対峙する男は性悪と言う言葉を3日3晩大鍋で煮詰めたような悪人顔の毒舌魔人だ。フェアな勝負なんてするようには見えない。
私は手渡されたカードをひとまずチェック。ざっと広げて裏表、特に何か細工がされていないかを確かめる。…とくにこれといっておかしな点は無い。ごく普通の、どこにでもあるトランプだ。
けど、一応念のために魔術を仕込まれていないかもチェックしておく。大上自身に魔力が仕えなくてもウリが少なからず関与しているなら、彼女が細工をしている可能性もある。
(もし、彼女がそういう手助けをしてるんなら…、裏切られた、とか思えば良いのかな)
つい、ガラにもない事を考えてしまう。彼女の気持ちが分からない訳じゃない。
正直に言えば罪悪感だってある。でも、だからといって彼女を言い訳にする気はないし、それだけは絶対にしちゃいけないと思う…。
(魔術式構築開始。探知術式起動。…魔術式の反応は無し…。53枚のカードに絵柄以外の相違点も無し。本当に、何の小細工も無いみたいね…)
魔力の無い大上には、私がただトランプを並べてじっと見ているだけに見えるのだろう。魔術を使用する際には普通、術式構築の際に使用される魔力が体外に洩れ、それが淡い光となって周囲に術式構築中だという事を認識される。当然熟練の魔術師だったり、小規模の術式なら魔力の漏れを抑えたり隠したりする事が出来るが、私は違う。
探知術式程度の術式規模なら周囲に悟られる事も無く、ほぼ抜き打ちで起動する事が出来る。
魔力というのは、いわば言語のようなものだ。一つ一つの単語では意味を成さないが、術式という文章に汲み上げてやれば意味を成す。通常は頭の中で単語を組み立てていき、文章を構築。その際ちゃんと意味を成す文章になっていないと術式は発動されない。効力の高い魔術になるほど、その術式は難解に、長文になる、というわけだ。
魔術師としての優劣というのは、結局のところこの「構築速度」と「理解力」に尽きる。より速く、正確に術式を組み立てること。そしてより多くの魔力を知っていれば組み立てられる術式のバリエーションも広がる、という訳。
もっとも、これはあくまで一般論。…要するに、「私以外」の話。
私の場合、何の因果かその一般例から完全に逸脱しているらしい。術式を構築する際などパッと頭の中に浮かんだものをそのまま発動させているだけだし、魔力量に至っては一昨年の健康診断で測定した際、医療施設からわざわざ運ばれた測定器を悉く壊してしまった。お陰で私の学内評価欄には「魔力」の部分だけ空白になっている。それじゃあまるで魔力が無いように見られてしまうが、真逆だ。
…魔力が無いヤツなら、今目の前にいるしね…。
そんな訳で、自慢話になってしまったけど、用は私は「他の人には出来ないような事が簡単に苦労も無くできてしまう」ということだ。トランプに細工が無い事が分かったことだし、だったら、こっちが細工をさせてもらっちゃおう。
テーブルの上に並べた53枚のカードを、まずは1枚ずつ手に取り指でカードの表面をなぞる。
「何やってんだコイツ」といった顔で大上が見ているが、無視しよう。どうせまだ私がカードに小細工されていないかしつこく確認していると思っているのだろうし。
(魔術式構築開始。標識術式起動。術式を指先の表面にのみ展開。10数分程度の効力に限定してカードの表面から裏地に浮かぶように魔力による刻印を加筆、と…)
我ながら、ちょっとえげつないやり方とは思うけど、相手は性格最悪の毒舌魔人だ。完膚なきまでに叩きのめして追い払ってストレス解消させてもらおう。
カードをチェックするフリをしながら1枚ずつ、絵柄の数字をカードそのものに書き込んでいく。
もちろん魔力によるマーキングだから、大上には何も見えない。それどころか、私の魔力で描いた印は私にしか見えない。こういったトランプゲームのイカサマぐらいにしか利用できないような使い道が限定された術式なので、まだどこにも公表していない。いわば私のオリジナル術式の一つ。
「はい、特に怪しい点は無かったわね。一応私がシャッフルさせてもらうよ」
並べたトランプを集めて束ねる。纏めて今度は私がシャッフル。コイツみたいにショットガンとかは出来ないから、普通に前後に抜き差しするだけのスタンダードなカード切り。・・・あ、こぼれた。
「…不器用すぎだろ」
「うるさいっ!こんなの出来ても何の得にもならないでしょっ!!」
「マジシャンとかディーラーの存在意義を完全否定したな。宴会芸とかにやったらウケるのに」
「アンタ宴会芸のために覚えたの?」
…まあ、どーでもいいけど。とりあえずシャッフル完了。ちょっと折れたカードとかあるけど、文句は言わせない。大上は案の定、私が何をしたのか全然察知出来ていない様子で乱雑に纏められたカードの束に呆れたような視線を向けている。…トランプが上手に切れるからって何だってのよ。
「汚ね…。ま、いいか。じゃあ並べるぞ?」
私がテーブルに置いたカードの束に手を伸ばす。上から2枚引き、裏返しのまま絵柄が見えないように向かい合って座る私たちの丁度中心あたりに並べる。
(…Kと2、か…。なんか、皮肉な数字)
王様と最弱。流石に自分が「王」とまでは言わないけど、常人離れした能力を持った自分と、魔力を持たない大上。何となくカードの数字を重ねてしまう。
傲慢なつもりはないし、そうなりたくないからこそ、こうした環境下にいるんだけど…。つい、こんなつまらないゲームですら自分と、自分以外をつい比較してしまうような私自身が、どうしようもなく嫌になる。
魔力の高さを買われて学園に招かれて入学して、普通の学生生活なんて1年にも満たずにすぐに自分の特異性を思い知らされて、あとは研究室や企業に毎日毎日、新術式の開発やら研究やら仕事が山のように持ち込まれて…。何もかもが嫌になって、全部放り出したくなって、逃げたくなって…。
(でも、それで結局…)
「さてと、じゃあどうする?先手は俺からにするか?」
大上の言葉に我に返る。いけないいけない。勝負開始というところなのにボーッとしてたら大変だ。
自己嫌悪は後回し。裏のままのカードの数字が分かっていても、大上がKを引いたら意味が無い。
「私から引かせてよ。こんな茶番に付き合ってあげてるんだから、それぐらい構わないでしょ?」
大上から持ちかけたゲームなんだから主導権はこちらに。そんな主張をしているフリを装う。大上は
案の定、そんな私の演技に釣られて軽く首をすくめただけ。掌を向けて無言で「ご自由に」、と私の引きを促す。
「…念の為に言っておくけど、後になって「イカサマだ」とか負け惜しみを言わないでよ?卑怯とか、反則だとか言い出されたらうざったいから」
「こっちのセリフだよ」
はい。それだけ聞けばもう十分。これで大上に言い訳の余地も無くなった。あとは簡単。目の前のカードを1枚捲るだけ。それでこの妙な男と関わる事も金輪際無くなる。
(…これで終わり。これでこのおかしなヤツともオサラバできて、今まで通り…)
カードを掴む。もちろん、Kのほうだ。ワザと負ける理由なんて、私には無い。
「ショウダウン。おしまいよ」
一瞬だけ、なぜかウリの顔が頭に浮かんだけど、もう私の指はカードを引き、キングの絵柄が描かれた表を向けてひっくり返していた。
間違えようが無い。いきなりやってきて、散々嵐の様に人の穏やかな生活を掻き乱してくれたけどこれで終わり。
「はい、K。どうする?」
引いたキングのカードをぽいっ、とテーブルの上に放る。当然、何も知らない大上は伏せられたままのもう1枚のカードがAかジョーカーなら勝てるのだが、さっき魔力でマーキングしたカードは伏せられたままでも私の目にはハッキリとその隠されている数字が最弱の2である非情な現実が見えている。
「勝率は随分低いけど、確立は0じゃないし、引いてみたら?勝負は最後まで分からない、ってマンガとかではよく描かれてるしね」
散々言われ続けた皮肉の仕返しだ。大上は私が引き当てたKのカードを拾い、フッ、と小さく笑ってそのKをテーブルに戻す。
「流石は最強サマ。引きも強いな。AじゃなくてKを引くってところが、らしいと言うかなんというか」
「…負け惜しみはいいから、さっさと引いてよ。それともギブアップ?」
とことん、こちらがカチンと来る言葉ばかりを言ってくる…。何より気に入らないのは、大上の様子が全く悔しそうに見えないところだ。もしかして、本気でまだ勝てると思っているのだろうか?
確かに確率的にはAとジョーカーを引ければ勝てるけど、テーブルの上に残っている伏せカードは2だ。間違いなく。大上の負けは確定している事は確定している。当然、私だけが知っている事だけど。
「…決め台詞まで言わせといて悪いんだが、もしかしてもう「自分の勝ちで決まり」とか思ってないか?」
大上の口元が歪む。冷笑や嘲笑といった類のものではなく、刺すような冷たい目で、まるで油断しきっている獲物が射程に入ったとでも言うような、そんな顔…。
途端に、一気に不安になる。大上の視線に、自分が何か致命的なミスをしているんじゃないかと急に思ってしまう。
…そんな筈無い。私の術式はしっかり起動してる。事実、ちゃんと私はKを引いてる。
けど、勝利が確定しているはずなのに、大上の視線が激しく不安を駆り立てる。
大手企業の重役やら、国立研究所の役員、果ては騎士団長など、今まで色んな相手と対面してきた。
所謂「大物」と言われる類の人達は流石と言うか、飲み込まれてしまいそうになる印象があったけど、大上のコレはそういったものとはまた違う「異質」さというか、上手く表現出来ないけど今まで自分が出合ったことの無いタイプ、とでも言えばいいのか…。
大上の手がカードに伸びる。2であることが分かりきっている、伏せられたもう1枚のカードに…。
あとは大上がそれを捲ってこの無意味な勝負は終わり。…その筈だったんだけど…。
大上は私が当たり前に想定していた予想に反し、その手は伏せられたカードを捲ることなく、テーブルの隅に雑に寄せられただけの片付け方をされた私の私物であるコミックに行く。
え、勝負放棄してマンガ読み出すの…?
「悪いな、お前のショウダウンじゃない。ここは俺のスポットライトだ」
大上はテーブルの隅に退けられていたコミックを掴んで持ち上げ、「その下に置いてあった」カードを取り、私の前に放り投げる。
「カードをシャッフルする前から既に用意されていた」カードが、私の手元にヒラヒラと落とされる。
ご丁寧に、絵柄を上にして。したり顔の大上はまるでイタズラが大成功したときの悪ガキのような笑みを浮かべている。…さっきの薄ら寒くなるような視線は元の半眼にいつの間にか戻ってるし。
カードの絵柄は、こちらをからかうような態度ばかりを繰り返す大上にピッタリの絵柄…。
「ジョーカー。俺の勝ちだ」
「ちょっ…、こんなの反則でしょっ!!」
カードはさっきチェックして53枚、ジョーカーもちゃんとあった。でも同じ絵柄のジョーカーがここに…。つまり、大上は最初からトランプを2セット持ってきていた…?
「反則、卑怯、なんて後で言うなって。自分のセリフを忘れたか?」
「でもっ、いくらなんでもこんなの…。2枚引いて、お互い1枚ずつ選ぶってルールじゃない!」
「俺は「テーブルの上のカードから」って言ったぜ?いつ「束から引いた2枚の中から」なんて言った?」
『ルールをおさらいしようか。この束からカードを2枚引いてテーブルに置く。後はお互いテーブルの上のカードを1枚ずつ引いて数の強い方を引いたヤツが勝ち。異論は?』
やられた…カードそのものにイカサマをしているんじゃない、ルールそのものに罠を張ってたなんて…。屁理屈みたいな手口だけど、こんな子供じみたトラップを見抜くことも可能性を考える事もできないほど、コイツのペースに乗せられていた事が物凄く悔しい…。
「お前さんは随分頭がいいみたいだけど自信家な上に短気だから、こんな簡単なサマに引っ掛かるんだ。どうせ俺が持って来たトランプに細工が無いかだけ確認して、後は何か自分が先に引けば勝てるような細工を魔術でしておいたんだろ?」
大上の皮肉たっぷりの笑みが益々私の神経を逆なでする。単純すぎるペテンに引っ掛かったカモがそんなに滑稽だって言うんだろうか…。
普通に考えればこんなのは反則以前の話だ。だけど確かに大上が提示したルールに乗っ取って勝負は行われ、この結果だ。しかも実際私の方もイカサマをしている分、強く抗議しづらい。
…多分、それも含めて計算していたのかもしれないけど…。
「…いつ、カードをこんな所に仕込んだの?」
「テーブルの上を片付ける時だな。ワザとゴミを撒き散らしてお前が拾っている隙に、な」
「…もし、逆に私が仕込んでいたジョーカーに気づいて引いたら、どうしてたの?」
「ああ、その時は…」
そう言って大上は私の前に放り投げたジョーカーのカードを再び拾い上げ、からかうようにヒラヒラとカードを振りながら平然と言ってのける。
「どうもしないさ。束から引いたカードの中にもジョーカーがある可能性もあったかもしれないけど、カードに細工をされるだろうから万一君が俺の隠していたジョーカーを引いたなら、束から引いた2枚はどちらもジョーカーじゃないって事だし、俺の勝ち目は0だな」
「それで、負けてたらどうするつもりだったの。どんな屁理屈で勝負を無しにしようと考えてた訳?」
さっきから質問ばっかりしてしまってるけど、私のこの質問に大上は初めて不本意だ、とばかりに眉を顰める。
「勝敗を後からグダグダ言ってケチつけるような真似するかよ。君の希望通り、負けたらそれで終わり。今回の件は無かったことにして俺は昨日までと同じ生活に戻るだけだったさ」
コイツの言葉なんて信じられないし、どこまで本心か全く持って怪しいところだ。けどもう1つ疑問が残ってるから、まずはそっちを解明したい。
「一番の疑問なんだけど、どうしてこんな勝負内容にしたの?」
「なんでって、単純なほうがいいだろ?」
「そうじゃなくて…」
確かに大上から持ちかけたルールでの勝負だった。トランプに細工はされていなかったのは魔術で解析されたらバレるから、という理由で説明できるけど逆に私に魔術で小細工をされたら、大上には何も出来ない。せめてウリを立会人にしてカードのチェックをさせるとか、そうじゃなくても、もっと自分に有利なゲームを用意する事は出来たはず。
「何事もリスクはあるだろ。自分が絶対に勝つ勝負なんて何の意味がある?」
皮肉でも何でもなく、平然とこちらの疑問を見透かすように言う大上。
「魔術を使えない俺を侮っていた上に自分の力を過信していたからこんな馬鹿馬鹿しい手に引っ掛かるんだよ。イカサマとも呼べない手だけど、かなりの確立でイケると思ったからやっただけだ。勝算の高い作戦を使った、それだけの話だ」
…馬鹿馬鹿しい。本当に、バカみたい。結局私は自滅も同然、って訳だ。勝負を挑まれたときにこっちからゲームを提示することも出来たし、勝負後にケチをつけるな、と自分で言ってしまった上に相手に見破れない一方的なイカサマをこちらだけがしたのだから、文句をつけることも出来ない。
「なんていうか…自分で自分の首を絞めて、そのまま窒息したような気分ね」
「上手い表現だな。実際それぐらいマヌケだしな」
つい自嘲気味に笑いが零れるけど、直ぐに大上の毒に笑みが引っ込む。うん、勝敗関係なくコイツは殴りたい。とりあえず20回ぐらい。
「さてと、じゃあ勝ったことだし。言う事聞いてもらおうか」
「私が勝負の結果なんて反古にするとか思わないの?」
「その時は生徒会長サンに手を貸してもらうさ。頼めばまた結界に指を焼いてくれるだろうし」
「…っ!アンタねぇ…!」
「俺の要求は一つだ」
大上のあまりのセリフに流石にキレそうになった。けど、出鼻を挫くように先に立ち上がりかけた私を手で制して大上が勝手に言葉を続ける。
「君がこうしてグダグダと引きこもっている「本当の理由」を教えてもらおうか。持ち込まれる仕事に追われて嫌になったとか、そういった「建て前」じゃなくて、実際の理由を」
それを聞いて、ようやく私が目の前のこの男が、本当はウリから何か聞いている上で、いちいち彼女のことを持ち出してくるのだと思っていた事が勘違いだと気付いた。
それと、もう一つ当然の疑問が一つ…。
「私に、部屋から出て来い。って言わなくていいの?」
「俺に言われたから、なんて「俺を言い訳」にされるのは真っ平ゴメンだ。責任を押し付けられたくないし、そんな事は言わねえよ」
呆れた…。私の世話係、なんて仕事を頼まれているのにこの言い様だ。正直ここまでくると清々しい。
「引きこもるのも、出てくるのも自分で選べよ。転んだ子供に手を貸すぐらいはしなくもないけど、起こしてやるほど暇じゃないんでね」
「自由意志を尊重するスタンス、とでも言いたいの?」
「意思の無いヤツに価値は無いってだけだ」
何となくだけど、大上という男がちょっとだけ分かってきた気がする。
単に口と目つきが悪い劣悪漢だと思っていたけど、律儀なところもあるし本人なりの美意識とでも言えばいいんだろうか、そういったものをちゃんと持っているらしい。
(だからといって、間違っても「いい人」とは口が裂けても言えないけど…)
「んで、こっちの質問には答えて貰えるのか?理由、聞かせろよ」
「…別に、話してもいいけど。それを聞いてどうするの?」
当たり前の質問を返してみるけど、大上は軽く首を竦めるだけ。え、ただの好奇心ならすっげぇムカつくんですけど。
「聞いた上で、どうにか出来るかもしれないし、どうにもならないかもしれないな。俺が知りたいのは要するに、「お前さんはどうしたいんだよ」ってことだ」
イカサマ合戦話。
ちなみに駅から学園までのバスの運賃は一律170円になっております。
ロータリーにはバスの乗り口が12箇所あるのでお越しの際は乗り口をよくご確認の上、経由先を確かめてご乗車下さい