ニートの事情・その1
視点変更回。
突然の嵐の様な来訪者にシャルトリュー・コレットは自室の中、まだ顔を真っ赤に染め上げたままシーツに包まり室内をゴロゴロと転がりまわっていた。
今までも何度か遠巻きに部屋から出てくるようにと教員やらかつての学友らが説得に来たことはあったし、学園や、今まで技術提供してきた外部の企業などからも様々なメールが届いてきた。説得するような内容もあれば泣き落としもあったし、開き直って脅迫まがいのメールを送信してきたヘボ企業には逆にウイルスを添付して送り返し、数日間その企業全社の魔力動力をストップさせてやったこともある。
(・・・あれは流石にやりすぎたかな。ついカッとなってやった。今は反省してる)
しかし、今日も「アレ」は流石に予想外にも程がある。と言うか、今でも思う。なんなんだ、あれ。
『あのなー、今度君の世話係にと隣の空き家に人を入れることにしたからー』
つい数日前のことだ。理事長が直々にこんなところまでやってきてメガホン(拡声器でいいだろ)でそんな事をのたまっていた。
『面白いぞー。そいつなんと魔力が無いんだとさー。君の張ってる結界もあっさり通過されちゃうかもしれないなー。どうするー?出てくるなら今のうちだぞー』
その場はムカついたので窓からペットボトルを投げつけて追い返したが、後々考えると「魔力の無い存在」というのが実際にいるのだとしたら興味深い。確かにそんな者がいるなら、自分が自宅に張り巡らせている結界など効果を発揮しないだろう。本当にいれば、の話だが。
この世界においてそんな話、都市伝説を通り越してもはやツチノコレベルだ。
当然その時はそんな話を信じていなかった。もっと言えば「ついさっきまで」は信じていなかった。
実際に結界など完全に無視してドアを開け、完全に無防備だったところにズカズカと入ってきたあの男…
「ぁぁぁぁあああああ~~~っ!!!!」
ダメだダメだ、また思い出してしまった。結界があるから誰も近づけないのでカギなんてかけたこともなかった。しかもよりによって相手が男とは…。ウルス教官が連れてきたときにこっそり覗いて見た時は後姿ぐらいでよく分からなかったし、さっきもあまりのショックでまともに相手の事など見ていなかったが、あの目つきの悪さだけはとても印象に残っている。
元々首都生まれ首都育ちで自分で言うのもなんだが育ちはそこそこ良いほうだ。だからあんなスラムや辺境の酒場にでもいそうな凶悪な目つきの男など今まで見た事も無い。魔力の無い人物というだけで、一体この学園はどんな男を連れてきたんだろう…あんなヤツが自分の部屋の隣に住むなんて、とてもじゃないが我慢できそうにない。というか、自分の身が危なすぎる。
いざとなれば攻撃魔術を使うことも出来るが相手はあれだけ凶悪な目つきの持ち主だ、きっと性根も獣のように攻撃的で粗暴で悪逆の限りを好む悪鬼羅刹の類だろう。実際、さっきインターホンも壊された。こちらが迎撃する暇も無くおそいかかってきたらどうしよう。何せ相手はツチノコレベルの獣だ。
もはや意味不明すぎる。
(しかも乙女の裸を見てああもしれっ、と…なんなのっなんなのっ!?まるで「ああ、そういうの興味ないんで、はい」みたいなあの顔…!!)
風呂上りにインターホンラッシュを受けた挙句裸でいるところをバッチリ目撃され、その上相手からは「そういった」反応を一切貰えなかった憤り。羞恥より、むしろ女としてのプライドが激しく傷付けられたダメージのほうが大きい事に時間が経つに連れて痛感してきている。
さっきは殆ど分けも分からず身近なものを投げつけて追い払ったが、相手は結界が通用しないのだ。
これから身の守り方を改めて考え直さなければならない。結界ではなく、今度は物理的な進入対策を講じなくては…。
(ほんと最悪よ…何とかしてこの学園から追い出さないと…。私の平穏が台無しになっちゃう…)
とりあえず、まずはドアのカギをかけよう。何もともあれ先ずはそれからだ。また、さっきのような事になってしまうかもしれないし…
「……っ!!」
つい、また思い出して熱くなる。羞恥と怒りの入り混じった感情。引きこもってからココまで激しい感情を抱いた事が無かったが、どうせならもっと別の感情を抱きたかった。
ガチャ、とひとまずドアのカギをかける。これでとりあえず突然ドアを開けられるような事態は免れるはず…。
ガチャ
「ん?ああ、服着たのか?」
鍵を掛けた約2.5秒後、カギが開けられてドアが開く。立っていたのはさっきの男だ。
「…ふへ?」
「さっきと同じリアクションだな。芸人失格だぞ」
履き古されたジーンズ、シャツもダウンジャケットも真っ黒なら瞳も髪も黒一色。改めてみても悪すぎる目つきはテンションの低さを現すように半分閉じられているようで、顔付き自体は整っているので目だけマシなら二枚目と言われる類のものだろうが、致命的に目つきが悪い。そして今気付いたが、口はもっと悪い。
「ああ、君の家の合鍵、理事長から預かってたんだ。どうせ結界なんて張ってるんだから業者を呼んでカギを替えるなんてことも出来ないんだろ?しかしまあ、改めてみても汚い部屋だな。さすがヒッキー」
「あ、あ…」
何の心の準備も無いままの再会。しかも相変わらずの言いたい放題だ。早口でまくし立てたりするわけでも大きな声で喚く訳でもなく、淡々と事実を並べ立てるような言い方なのが余計に心に突き刺さる。
「さっきは悪かったな。まさかあんなだらしない格好でいるとは「普通は」考えられなかったんだ。とりあえず説得に来た。お前外に出てこい。飴ちゃんやるから」
「だ、誰が出るかぁぁあ!!」
ようやく思考活動再開。被っていたシーツを投げつけてやる。とうぜん、速度も威力も無いのでボフッ、と目の前の男の頭から被されるだけ。
「とりあえず鍵返せっ!!そんでもって出てけ二度とくんなっ!!この色魔っ変態っ目つき悪いっ!!」
「鍵は俺が預かったものだから君にそんなこと言われる筋合いは無い。んでもって裸でいたのはお前の方だ。見たくて見た訳じゃない。ついでに言えば目つきは関係ねーだろ。気にしてるんだぞ」
被せられたシーツを払い、ご丁寧にそのまま折り畳み、私の頭の上に置いてくる。こっちは流石にいつまでも裸でいる筈も無く、ちゃんと着替え済みだ。同じ轍は踏まない。…まあ、ただジャージに着替えただけだけど。
「結界の影響を受けずに私の部屋に入れるやつに説得させに来たって訳ね…理事長もよくやるね、ホント。感心するわ」
「同感だな。わざわざこんな小娘一人の為によくもまぁ色々やるもんだ。エコヒイキされすぎだろ」
皮肉で言ったのに倍以上の皮肉で返された。ダメだダメだ、ここは冷静に…。無理矢理追い返しても何度も来るだけだ。キッチリとコイツを諦めさせる必要があるんだから…私の平穏な生活の為にも。
「…ま、とりあえず入ったら?お茶は出さないけど話ぐらいは聞いてあげる」
「汚い部屋で出される茶なんてコワイからな、ありがたい」
「む、ぐっ…!」
怒りを抑える、我慢我慢。とりあえずコイツといつまでも玄関先で言い合っていても仕方ない。
「…変なことしようとしたら、吹っ飛ばすからね?」
「引きこもりに手を出すぐらいなら出家して即身仏になるほうがマシだな」
「んぐっ…!!」
呼吸をするような自然体からの猛毒攻撃。ダメだ、会話をするだけで激しくこちらのHPが削られていく…。早めにさっさと切り上げて追い出さないと。本気で私の気力が持たない。
部屋に入れると、床の上に散らばっている雑誌を適当に退かせてスペースを造り、埋没していたクッションを放り投げてやる。埃まみれだけど、アンタなんてコレで十分でしょ。
「それで用件は?私はここを出る気はない。以上。終わり」
「ああ、そうかい」
渡されたクッションの埃を手でパタパタと払い、舞い上がったホコリで若干咽ながらお構いなしといった様子の男。…まあ、簡単に引き下がってくれるとは思ってないけど。
「っと、とりあえずは自己紹介しておくか。「目つき悪男」とか勝手なアダ名つけられるのは真っ平だし。大上忍だ。見ての通り人間種、東洋系だ」
「別に聞いてないわよ」
「歳は18で通ってる。出身地や誕生日の類は秘密な。特に理由は無いけど」
「聞いてないってば」
「コーヒーも嫌いじゃないがどっちかと言うと紅茶派だ。スティッくシュガーより角砂糖のほうがいいな。レモンよりはミルクを入れるタイプだ」
「アンタのお茶の好みなんて聞いてないわよ!!」
「ああ、納豆にタレを入れる前に混ぜて粘り気を強くするってヤツがいるけどアレってそんなに違いあるのか?個人的にはネギとかカラシは入れずにタレだけで食べたいんだが」
「納豆は醤油と卵っていつも決まってる…って違う!!だからちがう、さっきから違~う!!」
ええい、さっきからコイツのペースだ、ええと、なんだっけ、オオガミ?オオカミ?ああ、なるほど。
言われて見たら狼みたいな目つきだ。むしろ野良犬?所々跳ねた黒髪も犬の毛並みのようにも見える。
ま、どうでもいいけど。
「単刀直入に言うぞ。俺は学園からの「お前を連れ出せ」って言う依頼はあんまり気乗りしてないんだ。そりゃあまあ、正式な依頼だし報酬は魅力的だから遂行はしたいが」
埃を払ったクッションを無造作に床に置き、腰を下ろす大上。勝手に話を勧め始める上に座り込んでしまった。仕方ないので私もさっきまで自分が寛いでいた毛布と座椅子で作られた自分の「巣」に戻る。
背もたれに背中を預け、毛布に包まり、完全防御体勢だ。もしコイツが突然襲い掛かってきてもいいように、念のために毛布の下でいつでも攻撃魔術を使えるように術式だけ用意しておこう。
「気乗りしないなら、遠慮なくこんな仕事断ってよ。お互いのためだと思うけど」
「同感だな。そういえばさっきウリがココに来て俺に結界の存在を証明するためにドアに手を突っこんで指を焼いたんだが、気付いてたか?」
「…っ!」
いきなり、どうして彼女の名前を出すのよ…。大上はこっちの反応を伺うように言葉を切って、視線をジッとこちらに向けている。私が特に何も言わないままなので、更に言葉を続ける。
「露骨に痛々しく包帯巻いて、君の心配をしていたよ。もちろんペラペラと向こうから喋ったりはしてないさ。俺が勝手に邪推しただけだ。…で、どんなもんなんだ?心配してくれている友達を無視して一人でこんなところで現実逃避してる気分は」
とことんド直球で、ズカズカと人の中に踏み込んでくる物言いだ。馬鹿にするようにヘラヘラ言われてたらとっくに魔術を放って強制的に部屋の中から吹き飛ばしているものの、大上の表情はこちらを責めたり非難したりする訳でもなく、かといって馬鹿にしている様子も無い。どちらかと言えば、むしろ大上の方が何処と無く怒っているように見える。…気のせいかもしれないけど。
「それ、アンタに何か1つでも関係あるの?理事長のためじゃなくてウリのためって訳?あの子にホレてたりするの?それとも良い所見せたいとかって下心?」
「まさか、故郷に婚約者がいるんだ。この仕事が終わったら俺、その子と結婚するんだぞ?」
「え、何その死亡フラグ」
思わず声に出して突っこんでしまった。しかも鼻で笑われた。今まで色んな手段で私を部屋から出させようと様々な人達がやってきたが、ここまで全く媚びず、むしろ私を怒らせるようなことばかり繰り返す相手は幾らなんでも初めてすぎる。あたまいたい…。
「そうだなぁ…俺としても、そういう気分になった、って感じだから上手く言えないんだが…そうだな」
そう言って大上が私に向けて人差し指を向けて、ニヤ、と口元を歪める。そういう笑い方すると、目つきの悪さが数倍引き立つからやめたほうがいい。つーか怖い。
「君が気に入らない。俺が仕事を受けようと思った理由は、そういうことかな」
よりによって、全く予想していなかった答えが返って来た。どういうつもり?ようは報酬の為でもウリのためでもなく、私のことが気に入らないから嫌がらせ目的で来てる訳?
「なにそれ。それことアンタには関係ないじゃない」
流石にムカついたので会話強制終了の伝家の宝刀、「関係ない」発動。でもコイツ、大上はこんな返しも想定内だ、とばかりに不敵な笑み(似合いすぎて怖い)を浮かべたままだ。
「そうだな。でも、俺がどうしようが君にも関係ないだろ?」
揚げ足、へ理屈…。どうやら口では勝てそうにないらしい。悔しいけど、そこは認める。でも、かと言って言われるままに従うつもりは毛頭無い。気に入らないのはお互い様だ。むしろ悪感情しか抱いてない。見苦しく媚び諂われるよりはマシだと思ったけど…どっちもどっちかもしれない。
「お互い関係ないなら話はオシマイ。私は今まで通り、このままで。それでいい?まあ、「いい」なんて言うタイプには見えないけど…」
「分かってるじゃないか」
このままではラチがあかない。予想通り、話をしても平行線。お互い譲るつもりがないんだから…
ここは何かしら理由をつけてコイツがもう私に関わらないようにするしかない。
「だったら、こうしない?私はここを出るつもりがない。アンタは私を出したい。でもどっちも譲る気がないなら、ここは一つ…」
「「勝負しない?(といこうじゃないか)」」
突然、セリフが重ねられる。見ると大上は懐に手を入れ、トランプの束を取り出す。
「聞き分けの無いヤツだってのは予想してたからな。何となくこういう事になるんじゃないかと
思って用意してたんだ。最強の魔術師サマはカード遊びの一つも出来ない程ポンコツじゃあないよな?」
…ムッカつく…。なんだそのドヤ顔。思いっきりバリバリ引っかきたい。まるでここまで全部コイツの術中に嵌っていたようで物凄く腹が立つ。そこまで単純だとでも思われていたんだろうか…
「…私が勝ったら、誓ってもう度と私に関わらないって約束できる?」
「天地神明…ってこの世界で言うのもアレだが、誓うよ。この仕事を正式に断って、俺は学園から立ち去る。君とも関わらない。それでいいか?」
「オーケー。その言葉を信用できるかどうかは別として、じゃ、とりあえず誓約書書いて、ほら」
当然初対面の、しかも印象最悪の相手の言葉を鵜呑みにする筈が無い。しっかり記録として残しておかないと後々になって「只の口約束だ」なんて言い出されたら面倒臭いし。
「…デリバリーピザのチラシの裏って…」
取り合えず手近にあった紙を渡しただけなんだから一々文句を言うな、皮肉オオカミ。さっさと勝負してさっさと負かしておいだして、今まで通りの私だけの世界に戻りたいんだ。ほら、さっさと書け。
…うわ、字ぃ汚っ!!
「…ねぇ、ワザと読めない字で書いて誓約書無効、とか言わないでよ?」
「心外なっ、俺の田舎はこういう書体なんだよ」
嘘だ、絶対嘘だ。コイツの田舎なんて知らないけどぜぇ~~ったい嘘だ。あ、今そっぽ向いた。こっち向いて言ってみろ、オイ。
「…ほらよ。これで「大義名分」が出来たわけだ」
向こうから言ってきた。負けた後であれこれゴネたりしないようにこうして書面に残させたのも、勝負を持ちかけた魂胆もお見通し、って事か…。
なるほどね、ウリが任せただけのことはある、ってことなのかな…。
性格のほうは最悪すぎるけど。
「で?どんな勝負?ポーカー?ババ抜き?ホイコーロー並べ?」
「おい最後のなんだ、ローカルゲームか?」
え、知らないとかコイツのほうこそどれだけ田舎者?そんな事を思ってるうちに向こうが勝手にトランプを切り始める。慣れた手つきでチャッチャと小気味のいい音を立ててカードがシャッフルされていく。
妙に堂に入ったカード捌きだ。ご丁寧にある程度切ったカードを2つに分けて左右から交互に更に混ぜる。
ショットガン・シャッフルとか言う手法だ。それから更に再び前後に切っていく。
「単純明快にいこうぜ。ほら、テーブルぐらい用意しろよ。ゴミ屋敷でもそれぐらいあるだろ」
「ゴミ屋敷とか失礼な機能美といいなさい、機能美とっ」
「絶対言わせねぇ」
うっかり目の前の見事なカードテクに目を奪われてしまってた。その間に既に大上は近くにあった折り畳み式の簡易テーブルを見つけ、私と自分の間に置く。埃が舞い、テーブルの上に置かれていたポテチの空き袋やペットボトルが床に落ちる。テーブルとしてではなく物置き場所として使用されていたテーブルが久し振りに本来の用途に復帰した。おめでとう。流石に後で拭いてあげよう。
「ちょっ、散らかるじゃないっ!!」
「これ以上散らかりようがねえよ。むしろ綺麗になったんじゃないか?」
床に転がったボトルやお菓子の袋を(流石に)拾いながら大上に怒鳴りつけるが、悪びれた様子も無く申し訳程度に残っていたコミックを邪魔にならないようにテーブルの隅に寄せている。もしかして、それで片付けたつもりなの?…人の事言えないじゃない…。
「さてと、これでいいか」
テーブルセッティング完了。とは言っても上に乗せてあったものを多少別の場所に移動させ、コミックを隅に寄せただけの実にお手軽な準備だ。
「ルールはシンプルだ。このトランプの束から2枚、テーブルに置く。
お互いテーブルの上のカードを1枚ずつ引いて数の強い方が勝ち。単純だろ?引きこもりすぎて流行から置き去りにされっぱなしのダメダメニートでも出来るよな」
…うん、幼稚な挑発なのは分かるけど、どうにもコイツの言葉はいちいち不必要なぐらいに人の心に突き刺さる。
「…色々言いたい事はありすぎるけど、分かったから始めましょ。さっさとアンタを追い出したいしね」
「オーライ。なら開始といこうじゃないか、引きこもり娘さん」
わざわざカードまで用意してご苦労様。でも、すぐに思い知ることになるよ。トランプとは言え、私に勝負を挑むって事がどれだけ無謀で身の程知らずな事か、ね…。
カードに自信があるご様子のツチノコオオオカミ男がこの後どんな顔をするのか、散々な仕打ちを受け続けてきたこちらとしては含み笑いを堪えるのに既に必死だった。
数十分前、
-『エレメンティア』本館5階、生徒会室-
「カード勝負、ですか?」
「ああ、カードじゃなくてもいいけど、とにかく勝負事に持ち込む。どうせ何を言っても聞く耳持たないだろうし、向こうは向こうで俺を諦めさせる理由が欲しいだろうからな。「負けたらもう関わらない。諦める」とか言ってやれば乗ってくるだろ」
「それは、そうかもしれませんが…」
ウリはそう言って俺が見せた秘密兵器と俺の顔を交互に見比べ、困惑顔だ。まあ、不安に思うのも無理は無いと思うが…。
「とりあえずさっきのやり取りで何となくだけど、シャルトリューが気が強い性格だって言うのはわかった。ついでに言えばあの手のタイプは多分負けず嫌いで自信家な場合が多いな」
「まあ、当たってます」
「引きこもったりしてる事から見てもあんまり素直じゃあないな。ひねくれもので、気難しくて気分屋で、後結構荒っぽいな。攻撃的というか」
「…それは年頃の女の子が初対面の男性にあられもない姿を見られれば無理も無いと思いますが」
一旦、そう前置きをしてからコホン、と咳払いしてウリが続ける
「でも、それも当たってます」
「口も悪いな。結構キツい事を言うタイプだろ」
「…貴方ほどではありませんが」
ウリからのキツい皮肉。この娘も中々手痛い事をサラッと言ってくれる。まあ、別に気にしないが。
「…んで、口も態度もキツいクセに、悪ぶれないというか甘いというか、悪者になれないタイプだな」
「どうしてそんなことまで言えるんですか?ついさっき少し対面しただけなのに。しかもすぐ追い返された筈ですよね」
あてずっぽうで適当な事を言ってると思ったのだろう。ウリの視線がまた冷たくなる。いい加減なタイプがとことん嫌いなのだろうか。それとも友人への評価をいい加減にしてほしくないだけなのかもしれないが。
「俺の直感…とまではいかないけどな。さっき部屋から追い出されるとき、ペットボトルやら雑誌やら色々投げつけられたんだよ」
「仰るとおり攻撃的ですね。…シチュエーション的に無理は無いかもしれませんけど」
「だな。でも空のボテルしか投げてこなかったぞ?中身が入ったものもあったのに。後雑誌なんかよりもっと重くて分厚いコミックもあったのに。それに時計やらゴミ箱やら、硬くて攻撃力が高いものも他にいくらでもあったのにな」
そこまで言って、ウリもようやくこちらの言いたい事が理解できたようだ。そしてまた、こちらに対して呆れたような目を向けてくる。…女の子からそんな目で見られて喜ぶ趣味はないぞ?
「とっさに、貴方がケガしないような無難なものを選んで投げつけた、と?」
「考えすぎかもしれないけど、そういう「咄嗟の時」に限って本質ってのが出るもんさ」
はぁ…、とウリがまた溜息。彼女の中で俺の評価が上がってるのかだだ下がりしているのか不明だが、こちらのやろうとしていることをある程度理解してもらえたようだ。反対する素振りもない。
「それで、そんな彼女だからこそ、勝負事で解決できると?」
「解決できるってのは言いすぎだな。手がある、ってだけさ」
「でも、貴方が負ければ意味が無いのでは?言いたくはありませんが、魔力で不正行為をされれば貴方に勝ち目は無いと思いますし、おそらく彼女は魔力の無い貴方が絶対に見破れないような手を使ってくると思います」
ごもっとも。でもそれは最初から想定どおりだ。勝負事っていうのは決して常に必ずイーブンな条件で行われるものじゃあない。それに、確かに俺には魔力が無いが、だからと言って打つ手が全く無い訳でも
ないしな…。
「こっちはこっちで小細工するさ。別に何も考えずに勝負するつもりはないさ」
ついさっき売店で買ったトランプの封を切る。真新しいカードは汚れ一つ無い。まあ、汚れてたら不良品か。
さぁて、この好条件の仕事がパァになるか、あの引きこもり娘に一泡吹かせられるか、全てはこいつにかかっている。なかなかにリスキーなギャンブルだが、勝算があるだけマシってもんだろ。
カードをジャケットの内ポケットに仕舞い、これ以上ウリの冷たい視線を浴びないうちにと立ち上がる。
さぁ、イカサマ合戦といこうじゃないか、最強サンよ。
チートなニートの本格登場です。いやあ、性格の悪い主人公は書いてて楽しい楽しい。
エレメンティア内の飲食店エリアにも出店されている全国チェーン展開している
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連日大盛況です。初心者が訪れると大火傷しますのでご注意を