表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/47

学園来訪・その2

「我輩は主人公である。名前は大上忍(おおがみしのぶ)

ヒロインはまだ出ない」

自分をこの学園に呼び寄せた男、ウルス教官に連れられ建物の中に入った忍を出迎えたのは職員や学生達の好奇の視線だった。

当然のように居心地の悪いものを感じ、思わずウルスの後をついて歩きながらガラス戸に映った自分の姿を確認する。

安物のジーンズ、シャツ、ダウンジャケット。全部黒なのは別に中2病を煩っている訳ではなくファッション的に無難に色が合わせやすいからだ、他意はない。


 「ハッハッ。別にお前の服装がおかしいとか、そういうんじゃないさ。ただここじゃあ私服姿のヤツなんてまずウロウロしないからなぁ」


 「…ま、そりゃそうだ。世界一の『学園』に怪しいヤツがそうチョロチョロしてたら大事だろ」


 「お、自分が怪しいって自覚はあるのか。善哉善哉」


 「いいからさっさと案内してくれ教官様(クマオヤジ)


 実際、ウルスの言うとおり私服姿でいるのは外客である忍だけだ。当然学生も職員もそれぞれ指定された服装で統一されている。


 (学生はブレザー、教員はローブ、か。服装は人間界と精霊界がメインになってるんだな)


 改めて建物の中を見回してみれば造りとしては文献で見た精霊界の「宮殿」に近いようだ。

当然多用な文化が入り混じる地であるため、所々街並みと同じように世界観のおかしい場所もあるが…


 (自販機、ロビー…医療室は当然機械メンテナンス設備も完備、か。…売店もあるのかよ)


 「どうだ、色々あるだろ。学園の中そのものがちょっとした街みたいなもんだからな。バッティングセンターやボウリング場もあるぞ」


 「アミューズメントパークかよ。売店にペナント売ってるのは誰の悪ふざけだ?」


 他にも「エレメンティア饅頭」や「MSSひやしあめ」などと言った売り物が見えたような気がしたが…


 「食堂施設も充実してるぞ~?種族別のメニューは勿論、人間界からだけでも和食、中華、洋食、イタリアン、マクドヤクルト等々多種多様だ、ウチの自慢の一つだな!」


 「…あぁ、はい、ソウデスカ…」


 ツッコミが面倒臭くなったのでとりあえず生返事を返す。


 「ほら、この先が理事長室だ。とりあえずそこに皆さん揃ってる。お前の今後の身の振り方もあるし、色々お互い話があるだろ」


 結局ウルスに(無意味に)食堂エリアを一通り案内されてからようやく、ホールを2つ通り過ぎ、エレベーターで20階程上がり、直送エレベーターは無いということなのでそこから更に別のルートで上ってようやく最上階に辿り着く。


 「…まるでロープレのダンジョンだな。あの扉を開くのに各地のボスを倒さなきゃいけない、なんてオチは無いよな」


 「ねぇよ!お前ここを何だと思ってるんだよ!?」


 思わず学園長室、とプレートの張られた部屋の扉を指差しながらウルスに対して疑いの眼差しを向けてしまう。

何でこんなモノがあるんだよ、と思ってしまったモノにいちいちツッコミを入れ続けるながら来た為、ウルスの返しもそろそろ雑になってきている。


 「ここって一応学園のはずだよな…なのにここまでの道中で古着屋だの養鶏所だのレンタルビデオショップだの通り過ぎてきたんだ、自分が今どこにいるんだっけ、って疑問も涌くだろ」


 「これだから田舎者は。学生、教職員の要望にはなるべく応えるのがここのモットーなんだよ。いいじゃないかよ色々あった方が。楽しいだろ、ペナントとか!」


 「ペナントはアンタのリクエストかよ」


 何のメリットもない事実が判明してところで目の前の理事長室の扉が開く。


 「ほれ、もう待ちくたびれたってよ。さっさと入れ田舎物」


 「猟師に間違って狩られればいいのに、ヒグマオヤジ」


 「声に出てるぞ、おい!」


 「出してるんだよ」


 とりあえずこのムサ男に構っていると時間がいくらあっても足りないのでウルスを放っておいてとりあえず開けられた部屋へと入って行く。どんな種族でも入れるようにとの配慮だろうが、どこの部屋のドアもやたら大きい。ご丁寧にドアノブも3箇所ほど高さ違いに揃えられている。

…施錠が面倒そうな心配りだな。


 「待っていたよ。部屋の前で漫才が始まったときはどうしたものかと思ったが、ようこそ大上君」


 こちらがドアノブに気をとられているところに待たせてしまっていた相手のほうから声を掛けられてしまった。ごめんなさい。決して「ドアノブ>>>理事長>>>クマ」という価値観ではないです。


 「いえ、こちらこそ失礼しました。ところであの教官はこの学園に相応しくありませんね今日で辞めさせませんか?」


 「いきなりの挨拶で俺のクビ宣告とかお前本当に凄いな!!」


 おさえておさえて、と室内で待っていた男がウルスを制する。

ざっと室内を見渡せば壁のあちこちに賞状だのトロフィーだのが並んでおり、ファイリングされた書類が詰め込まれた棚が片面の壁を丸々埋めてしまっている。後は大きなデスクとやたら背もたれの長い椅子。

わかりやすい「ここで一番偉い人が座るんだぞ」感バリバリの椅子に座っている20代半ばほどの男。

 見ようによっては30代にも見えるだろうが、如何せんこの世界で見た目で年齢を判断するのは難しい。

実際、背中から白と黒の羽が生えているし、人間族ではないようだし。天使や悪魔なら100歳200歳でも納得の外見だ。


 「まあ、ウルス教官の辞任は後で考えるとして、だ」


 「考えるんですかっ!?」


 「クマ男、ハウス。話の邪魔だ」


 「えぇ~……」


 話の腰を折る邪魔者をとりあえず部屋の隅でいじけさせ、改めて理事長室の椅子に座っている男へと。

…理事長だよな?無断でここで座っている無関係者じゃないよな


 「ようこそ『エレメンティア』へ。私が理事長のイザヤ。見ての通り堕天使(ルシファー)だ。ウルス教官から大体の話は聞いているよ。君の事情も、非常に珍しい「体質」についても、ね」


 堕天使だとアピールしてるつもりだろうか、白と黒、合計6枚の翼をバサッ、と広げて見せながらイザヤと名乗る男がにこやかに微笑んでくる。男の微笑み、イラネ


 「大上忍。種族は人間、田舎出身でバスの乗り口に迷うのが今の悩みです。…それで?」


 「ふむ、それで、とは?」


 座っているのでハッキリ判断できないが、おそらく腰まであるだろう長い銀髪をワザとらしくかきあげながらトボけた返事を返すイザヤ理事長。…ウザヤとアダ名つけてやろう


 「俺の体質を知っているなら、どうしてこの学園に?正直場違いでしょう?」


 当然そう来るだろうと思っていた、とばかりにニヤリと口元を歪める理事長。椅子から立ち上がると、大きなデスクから回り込むようにして此方に近づいてくる。


 「大上君。このオルドで様々な種族がいるが、総じて唯一絶対の、共通点は何だと思うかね?」


 いきなり常識問題か。そりゃあ、世界が繋がった当初なら様々な「差異」があっただろうが、そんなことはもうずっと昔の話だ。

 今では言語だって方言程度の違いしか無いし、寿命や食事などは大きな差はあるものの、それだって「食べなきゃ死ぬ」「老いれば衰える」というのは人間でも獣人でもロボットでもあくまでもみんな同じ事だ。


 「…「魔力」、でしょう?そんなのオルドでは常識以前の問題だ」


 「うむ、そう。魔力。この世界の唯一無二の共通概念であり、誰もが持ちえるものだ」


 パン、と手を叩いて正解回答に喜ぶ理事長。クイズ番組の司会者か、アンタは。


 「人間も、我々天使、悪魔も。獣人達はもちろん精霊、ロボットも魔力を動力源にして活動している。人間界ではかつては「電力」という動力が主なライフラインだったようだね。今で言う「マテリアル(人工魔力)」のようなものだな。生きていく上でまさに色んな意味で無くてはならないものだ」


 「ま、常識ですねえ」


 イヤミを言いたいのか?この男は。けどまあ、「だからこそ」俺がここに呼ばれたのだろう。

結局まだ俺に何をさせたいのかは分からないが…


 「事前に受けてもらったテストの結果も拝見させてもらったよ。学科試験は実に優秀だね。歴史問題など特に点が高い。目つきは悪いが文学少年だったりするのかな?」


 「半眼なのは煩わしいものを極力見ないようにするためなので、あしからず」


 「実技については、まさ極端だね…。基本的な運動、格闘などは平均値より随分高いが魔術項目が見事に全滅だ」


 さっきからいちいち回りくどい言い方だ。きっと性格悪いな、コイツ。そんなんだから堕天したんだろうな…


 「で、要するに俺に何の用なんですか?魔力に関するあらゆる事情に関与し、術士を育成しているオルド1のエリート魔術師育成所の、ここが」


 らちがあかないのでこちらから切り出す。茶番に巻き込むのはキライではないが、巻き込まれるのは嫌いだ。きっと今の俺は只でさえ評判の悪い目つきが2割り増しになっているんだろうな


 「何より魔力を重要視するここで、よりによって「魔力の無い」俺を入学させて、何のメリットが?いい加減腹を割ってもらえませんかね、理事長さん」


 ふっ、と理事長が笑みを零したのを見逃さなかった。要するに、こういうリアクションも予想通りだったってことだろう。…お互い様だが。


 「分かりきっているだろう?「だからこそ」だよ。君はオルドというこの世界が成り立ってから初めての「魔力を測定できない」存在だ。君のようなタイプはオルド3000年の歴史の中でも無かった。大袈裟ではなく歴史上初めての事例なんだよ」


 「…モルモットにしたくて呼んだ、って訳じゃあ無いようだし、で?結局目的は?」


 「ふむ、実験体にされるかもしれない、という想定はしていなかったのかな?随分信頼されていたのだな、我々は。いや、信用されていたのは君を見出したウルスか?」


 「信頼、ね…」


 つい、今度はこちらが笑ってしまいそうになる。よりによって、そんな言葉を出すのか…


 「本気で俺をそういう扱いにしたいならこんな手口は使わないでしょうよ。探りあいはもう面倒だし、さっさと本題にいってくれ」


 「うーん…若いのに食えない子だね。友達いないだろ?」


 その言葉そっくりブーメランしてるぞ、と言いそうになったがこれ以上無駄に話を長引かせたくない。


 「魔力が無い君にしか出来ない事がある。だから君が必要になった。だから呼んだ。そういうことだよ」


 「おー、わかりやすい。でも具体的じゃあない」


 「心配ご無用。君に頼みたい仕事は実に単純な事だよ」


 この流れで単純、といわれて安心するような楽天的な主人公ではないぞ、俺は。イザヤ理事長の笑みがさっきから段々邪悪な笑みに変わってきているように見えるのは気のせいだと思いたいが…


 「君には明日から、ある女子生徒の世話係についてもらいたい。以上だ」


 「……はい?」



引き続き世界観説明回。


ちなみにオルド全国チェーン展開しているファーストフード店「マクドヤクルト」は毎週金曜日に携帯クーポンを発行しています

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ