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遠征祭・その1

唐突ですが登場人物の名前はそれぞれちゃんと由来があります。由来が無いのは作者の昔の作品の使い回しです。リサイクルです、再利用です。エコです


「え、ゴミ扱い?」

 「よく来たな。先方は既にお待ちかねだ」


 (ゲート)占拠事件の翌日、山賊中年(レガーシー)に呼ばれて騎士団本部にやってきた俺達をでむかえたのは、呼んだ張本人だった。アンタ第4部隊長だろ…?わざわざこういう小間使いをする立場じゃない気がするんだが。


 「騎士団の本部なんて普通じゃ来る機会無いもんねぇ。良い経験かも」


 「留置所ならすぐにでも簡単に入れると思うぞ?」


 隣にいるシャルはあくまで気楽そうに、まるで社会見学気分だ。


「…相手はそこそこの大物なんだが、その格好のままで来たのか」


 入り口で待っていたレガーシーに案内されるまま、騎士団の中を歩く俺達に先導するヒゲオヤジの非難がましい視線が向けられてくる。


 「制服なんだから問題ないだろ」


 「片方は思い切り着崩しているわ、もう片方はパーカー羽織っているわ…」


 「え、こういう格好じゃ駄目だったの?私今までも誰と会うときも制服とかジャージだったんだけど」


 制服はまだ良しとしてジャージは無いだろお前。今まで技術提供先の企業の人間とかにお前はジャージ姿で会ってたのか…。


 「つくづく残念な奴だな、お前って」


 「お前も人の事を言えぬわ」


 シャルの頭をグリグリしているところで山賊(レガーシー)の無粋な横槍が入る。どうやら到着したようだ。


 「ここが来客用の応接室だ。相手は既に待っている、くれぐれも失礼の無いようにな」


 特に貴様だ、とでも声に出さなくてもセリフの続きが聞こえてきそうな視線を向けられる。いいからさっさとドアを開けろ小間使い。俺は遅くならないうちに買出しにいきたいんだ。今日はキャベツが安いんだぞ?1玉78円を取り損ねたら騎士団を訴えるからな。







 応接室の中で私達を待っていたのはテーブルに座ってのんびりとコーヒーを飲んでいるグレーのスーツでキチッと身なりを整えた金髪の女性と、その後ろで立っている、私と同じくらいの背丈、年齢らしき女の子…。その子もスーツ姿だけど何故か男性用のスーツを着ている。


 「クロス社長。魔術技巧専門学園(エレメンティア)の2名が到着しました」


 レガーシー部隊長の言葉に、金髪の女性がカップをゆっくり置いてこちらに振り返る。長い長髪を編みこんでアップにしている、とても大人っぽい印象の女性。実際大人なんだろうけどさ。


 「あなた達が、ですか。はじめまして、クロス社で社長を務めています、アーシア・クロスと申します」


 「あ、ああ、えっと。魔術技巧専門学園(エレメンティア)のシャルトリュー・コラットと言います」


「その保護者です」


 おいちゃんと名乗りなさい。…(ゲート)を襲撃したテロリストたちのせいで受けた被害に資金援助した企業って、クロス社だったんだね…まあ、納得だけど。


 クロス社と言えば、オルドで一番有名な大企業。 建設業や貿易業、他にもオモチャメーカーや製薬会社などあらゆるジャンルを手がけている超大手企業。ウチの学園のスポンサーの1つでもあるし、私も何度か技術提供したことはあるけど流石に社長さんを直接こうして見るのは初めてだ。

しかも思っていたよりずっと若い。外見年齢ならマキナさんぐらいかな。20代前半といったところだろうか。まあ、天使や精霊だったら実年齢と外見なんて関連しないけどさ。


 「大上忍さんですよね、確か。シャルトリューさんはもちろんですけど、お2人揃ってすっかり有名人ですよ。テロリストを制圧した学生コンビって」


 「コレとコンビ扱いとか甚だ心外なんですけど」


 忍が私の頭をポムポム叩きながら、相変らずの減らず口を叩く。…コイツは誰が相手だろうが通常運転だよねぇ…ブレないと言う点は褒めるべきなのかな。


 「あらあら仲がよろしいことで何よりです。何はともあれ、あなた方が速やかに事件を収拾してくれたお陰で被害もさほど広がらずに済みましたし。運転停止された列車も私達の社の関連企業でしたから」


 「おやおやそれは何よりで。で、今日はどんな用件で?」


 「ちょっ、ちょっと忍。何でそんなケンカ腰なのさっ…」


 「別にケンカ売ってる訳じゃない。相手が相手だけに、警戒するなっていうのがおかしいだろ」


 そう言って忍は私を隠すかのように一歩前に出て、言葉通りに目の前のアーシア社長に対し隙のない視線を向けている。もしかして、知り合いか何か?


 「忍、社長さんの事知ってるの?」


 「知ってるも何も…「とある筋」じゃあ超有名だろ。クロス社の裏の顔、『ファランクス財団』は」


 思わぬところで思わぬ名前が出てきて、つい応接室のドアのところにまだ立ったままでいたレガーシーさんの方に振り返ってしまう。無言の視線に、同じように黙って小さく頷くレガーシーさん。


 「…え゛?」


 「オルド1の大企業クロス社=オルド1の経済系闇ギルド『ファランクス財団』。冒険者(スワロウ)やギルド関係者なら知ってて当然ってレベルの話だ」


 「あらら、嫌ですねえ。そんなに警戒しなくても。流石に傷ついてしまいますよ?」


 当のアーシア社長はコロコロと笑いながら、特に気を悪くした風も無く、コーヒーの入ったカップに再び口をつけたりしている。


 「え、えっと…。闇ギルドのトップがどうして、堂々と騎士団本部にいるのさ。掴まらないの?」


 「捕まえられねえんだよ。あまりに経済規模がデカすぎて」


 忍の説明を聞いても目の前で優雅にお茶している女性が『ロキの尖兵』に並ぶ悪名高い『ファランクス財団』だなんて、全然思えない。むしろ若すぎて社長と言われなかったら唯の美人受付嬢とか思ってしまいそうだし。


 「表向き(クロス社)のオルドへの経済貢献があまりに大きすぎて、捕まえようにもクロス社が崩れたら世界中に経済的な影響がどれだけ出るか分かったもんじゃねえ。交通機関も産業も医療も、どこにでもコイツらの息がかかってるんだしな」


 「…無論、裏の顔(ファランクス財団)としての武器密売等の行為を黙認している訳ではないが、明確な証拠も出さないのが尚更性質が悪くてな…。極めてクロだと分かりきっているのだが」


 「こうして実際目の前に本人がいても、騎士団は手出しできないのさ。しかもこうして良い様に使われてるぐらいだ。なあ?」


 耳が痛い話なんだろう、レガーシーさんが一際苦い顔をする。それは忍の毒舌のせいか、犯罪者を前にして何も出来ない事への憤りなのかは、私には判断できない。


 「まあまあ、物騒なお話はさておいて。…大上さん、私は只、こうして直接あなた方とお会いしてお話してみたかっただけですよ。それ以外に他意はありません」


 クロス社の社長…アーシア社長は目の前でこんな話をされているのに機嫌を損ねるそぶりも見せず、むしろ逆にニコニコと楽しそうに笑って聞いている。器が大きいのか、物事を気にしない正確なのか、分からないけど。


 「悪いがそれを鵜呑みに出来るほど平和に生きてきてないんでね。お近づきの握手は遠慮させてもらうぜ」


 「あら、つれない。まるでウチのボディガードさんみたいですね」


 「…確かに、服装やら外見は随分共通点がありますね」


 社長の後ろで直立不動で経っていた女の子が、初めて口を開いた。ちょっぴりイントネーションにクセのある喋り方が凄く印象的。


 「信じてもらえないようですが、お会いしたかっただけ、というのは本当ですよ。あの有名な天才魔術師シャルトリュー・コラットさんとは前々から一度お話してみたかったと思っていましたし」


 忍の後ろに隠れるようにしている私に、覗き込むようにして顔を見せるアーシア社長。小首をかしげながらニコッと笑いかけてくるその仕草は、やっぱり闇ギルドの人とは思えない。


 「…それに、まさかその付き人として『孤狼』(ベオウルフ)さんとも会えるとは思ってませんでした。お名前だけは耳にした事がありましたが、随分お若かったんですねえ」


 「それはお互い様じゃないか?こっちとしても、『ファランクス財団』のギルドマスター様の警護に『毒蜘蛛』を飼ってるとは思ってなかったしな」


 忍の言葉にピクリ、と社長さんの後ろの娘が肩を震わせて忍を睨みつける。…どうやら、あっちの娘も只者じゃあないみたい。この応接室の中、今ものっ凄い危険地帯じゃない?


 「…社長。そろそろお時間が。次のスケジュールが押しています」


 「あらあら、せちがらいですねえ…。すいませんお2人とも、出来れば今度はもっとゆっくり、お食事でもご一緒出来ると嬉しいです」


 護衛の娘に耳打ちされてアーシア社長が席を立つ。


 「食事の誘いをするなら、部屋の外にいる物騒な気配の奴を置いておかないことだな」


 「あらら、やっぱりつれない。…では、ワザワザご足労して頂いてお持て成しも出来ずに申し訳ありませんが失礼させて頂きますね。シャルトリューさん、また、いずれ」


 「えっ?あ、は、はいっ…?」


 何て帰せばいいのか分からなくて、つい可笑しな返事になってしまう。アーシア社長はクスクスと笑って私と忍の前を通り過ぎて…レガーシーさんが開けたドアから、応接室を出て行く。


 「…あれが、本当に『ファランクス財団』なの?」


 結局私達は席に着くこともないまま、簡単なやり取りをしただけの接触だったけど…。つい、忍に確認するようにそんな言葉が出てしまう。袖を引っ張ると忍はまるで私が無知なガキだとでも言いたそうな、呆れたような目(結構いつもどおりだけど)を向けてくる。


 「本名アーシア・ファランクス。表裏両方、親から継いだ立場だけどあの女社長が就任してから表も裏も業績が上がってる。若いから女だからって甘く見たらとんでもない目にあうタイプだな、あれは」


 「…一緒にいた人も、忍は何か知ってるみたいだったけど?」


 「アーシア社長の秘書、蓮華(れんげ)嬢のことか」


 忍の代わりに今度はレガーシーさんが解説してくれる。


 「元は護衛、警護専門のギルド『イージス』の団員で、通称『毒蜘蛛』と言えば中々の有名人だな。数年前にギルドを抜けたと聞いていたが、よもや『ファランクス財団』の専属になっていたとは」


 「ああ、そう言えば忍も何か何か変なアダ名で呼ばれてたよね?確か…ベーグルマフィンだったっけ?」


 「誰がファーストフード店の朝メニューだ」


あだっ!ちょっとしたジョークなのにオデコにデコピンとか古典すぎでしょ…。しっかし、相変らず自分のことは全然言いたがらないよね、コイツ…。まあ、私だってあまり言いたくない事はあるけど、自分のことを全然言わなすぎる気がする。後でマキナさんにでも聞いてみようかな?


 どうせ、本人に聞いたって適当な事言って誤魔化されるか煙に巻かれるか、鼻でも摘まれて有耶無耶にされるんだろうし。










 私達が部屋を出ると、騎士団本部の廊下の壁に背中を預けて待っていてくれた「彼」がゆっくりと近づいてきます。大上さんは流石に気付いていたみたいですね、流石と言うべきでしょうか。『星界の皇女』(エンプレシア)のサブマスターだっただけはあります。


 「お待たせしましたブレードさん。ごめんなさいね、お留守番みたいにさせてしまって。どこかでランチにでもしましょうか」


 「社長、そんな時間ありません。車中で食べられるようにサンドイッチを用意しておりますから」


 あらあら、蓮華ちゃんたら用意が良いこと。クロケット(人気パン屋)のツナサンドだったりしたら凄く嬉しいんですけど…。


 「…銀目(ブレード)が今日のスケジュールを聞いて、社長が時間をとられることなく食べられるように、と。…怪しいものは入っていないことはウチが確認済みです」


 「つまみ食いしたんです?蓮華ちゃんてば」


 「毒見と仰ってください。こんな素性の知れない男を雇っただけでなく食事まで作らせるとは、社長は些か無用心すぎます!」


 あらあらら、また蓮華ちゃんのお説教モードになっちゃいました。助け舟を期待して、待っていてくれた黒髪の青年に目で訴えて見ますけど当然のように知らん振りされます。と言うか、一言も喋ってくれないのは寂しすぎます…。


 「蓮華ちゃんの小言は車の中で聞きます。とりあえずブレードさんも、行きましょう?パン、ありがとうございますね」


 ランチの入った紙袋を蓮華ちゃんから乱暴に押し付けられたブレードさんは、表情を一切変えずに無言で小さく頷いただけで、私達から数歩後ろから付いて歩く。


 さっきお会いした大上さんもそうだけど、黒髪のショートとか黒ずくめの服とか、色々共通点が多いですね…。最も、あちらは燕尾服チックな制服に対してこちらは裾の長いコートですし、目つきの鋭さ(悪さ)も肉薄してますけどあちらは黒目、ブレードさんは世にも珍しい銀色ですから、違いは結構ありますけど。


 「…さっきの男、俺の気配に気付いてたな」


 あ、ようやく喋ってくれました。でもその視線は私にではなく、さっきまで私達がいた応接室のほう…。


 「あれが例の『孤狼』(ベオウルフ)だ。流石にこちらと事を構えるつもりはなかったようだが」


 「そうなっていたら、お前1人では手に負えないだろうな」


 「貴様のような馬の骨に頼る気は無いっ!」


 えー、頼ってくださいよ。私の身を守るのがお仕事なんですから、ね?ブレードさんも、あんまり蓮華ちゃんを刺激する事ばっかり言わないでください。ホントにこの2人はケンカばっかり…。あれ、ある意味仲がいいのでしょうか?


 「少女のほうはデタラメな魔力を感じたが、男のほうは一切魔力を感じない代わりに終始部屋の外の俺に気が向けられていた。…あの類は流石に初めてだな」


 「ブレードさんがそこまで反応を見せるなんて珍しいですね。…私との食事はいっつも即答で断るのに」


 「失礼とは思いますが、社長。あなた何やってるんですか」


 「寂しいんですっ、私だって。こんな仕事してるせいでお付き合いもできないしー、お嫁に行くどころか彼氏も出来ないじゃないですかー」


 「だからって用心棒に粉かけないでくださいお願いですから」


 「…どうでもいいが」


 どうでもよくないですよっ!私もう今年で26ですよ?同級生の中にはママになってる娘だっているのにっ!


 「例の「遠征祭」は予定通りでいいんだな?」


 「ええ、蓮華ちゃん。くれぐれもよろしく頼みますね?」


 「はぁ…、まあ、銀目1人に社長のガードを任せてしまうのは本意ではありませんが仕方在りませんね…」


 「結構。さあ、ではお仕事を続けるとしましょうか。今夜こそは日付が変わる前にベッドに入りたいですしね」









 「と言う訳で班分けしようか」


 「と、言う訳の前の説明が先だと思うぞ」


 アーシア社長との対談の後、忍に付き添って買い物に行った帰り、夕飯の並んだテーブルを囲みながら話題が週末の「遠征祭」になったところで、そういえばまだグループ分けをしていなかった事に気付いた。


 「遠征祭のだよ。遠征祭。毎年恒例の行事がまた今年もやってきたんだからね」


 「毎年恒例ならその年もやってきて当然だよな」


 うっさい揚げ足取るな。アンタはフライパンでも磨いてなさい。えと、話が逸れたけど私と同じように夕飯を共にしている(当然のように忍作だけど)モプシーとマキナさんに声を掛ける。


 「エと…ワタシはその遠征祭とヤラの知識ガ無いので、何とモ言えナいのでスガ」


 「わたしは知ってますけど…」


 モプシーは知識が在るみたいだけどマキナさんは「マスター、何の事デス?」と台所までわざわざ言って洗い物中の忍の袖を引っ張って「邪魔だ」と頭突きされてる。…なんなんだあれ。


 「まあ、簡単に言うと「職業体験付き遠足」だね」


 「見事にはしょりましたね」


 「でも一応正解だな」


 荒いものを終えた忍がエプロンで手を拭きながら戻ってくる。ついでにその後ろでおでこを手で押さえながらマキナさんも。


 「毎年学園の生徒が首都の5大エリアに出向く社会見学だな。異世界文化を学びながら職業体験をすることで実際に見聞きし、見聞を広める事が目的って奴だ。…ま、そこそこ有名な行事だからな。学園外でも」


 意外と詳しい忍。コイツのことだから何処かで職業体験の学生と関わったことでもあるのかもしれない。


 「去年は、獣人地区でしたものね…覚えてます、です。うちのご近所にも、農業体験、って生徒さんが来てましたし…」


 で、モプシーは近づかないようにビクビクと自分の家の中に隠れてたんだろうなあ…と、何となくその場の光景が頭に浮かぶ。


 「今年は精霊地区だってさ。で、これといって組別けされてない私達から2グループ作れって、そう言えばウリに言われてたのを今思い出したのよ」


 「前から言われていたことを立った今まで忘れてたんだな、流石ポンコツ。流石だ」


 流石を強調するな性悪コック。…って口に出すと磨きたてピカピカのフライパンで叩かれそうだから、忍が手に何も持っていないときに言う事にする。…ほっぺた引っ張られるだけになりそうだけど。


 「私達って言うけど俺も含まれてるのか?」


 「当然でしょ編入生。あとモプシーもね」


 「わ、わたしも、ですか?」


 「そだよ。編入手続きはまだ済んでないけど、来週にはモプシーもこの学園の生徒になるんだから。参加資格は当然あるんだもの」


 制服の採寸もしてあるから、明日、明後日にはモプシーの制服が出来上がるらしい。「気弱なウサ耳娘ヒャッホィ」とか理事長がやたら意欲的だったお陰で凄くテキパキと手続きが進んでる。ウリがしっかりブレーキを踏んでくれる事を切に祈りたい。


 「となると、俺とポンコツとウサギの3人か?グループは何人組だ?」


 「2人以上3人未満。まあ、コンビかトリオってことだね」


 「あノ…」


 それまで黙っていたマキナさんが、おずおずと手を上げて自己主張する。


 「ワタシは、どういう扱いニなっテいるノデしょう?」


 「家電」


 「嫌でスっ!せメてペットにシて下さイヨ!」


 やめてくださいとても危険な発言になってしまいます。子供(見た目)もいるんだから。

まあ、冗談抜きにマキナさんはこの学園での立ち位置がまだ決まっていない。種族によって年齢という概念があやふやなオルドの中では何歳だろうが入学できるらしいけど…。


 「デウス・エクス・マキナさんでしたら、大上さんの補佐兼学園事務員として採用する、と理事長からの伝言です」


 開けっ放しにしていた家のドアから、ウリが書類の入った紙袋を手に姿を見せる。夕食時はこうして何かと来客が多いので、忍も最初はウンザリしていたみたいだけど今ではすっかり諦めてこうしてドアを開けっ放しにしているので、来訪者も遠慮がなくなってきているみたい。


 「今夜はシチューだけど食うか?」


 「いえ、食事は済ませてきたので。今日は只マキナさんの学園での役職が決まった事と、モプシーさんの制服が明後日には仕上がるので配送されますから、明後日の日中は出来るだけここにいてください、とだけ伝えにきました」


 どうやらマキナさんは前から理事長にこの学園で置いてもらえるようにと頼んでいたみたい。忍に頼んでも取り合ってもらえないだろうから理事長に直接言ったんだろう。結構したたかなところがあるね、マキナさんて。


 「制服、ですか…」


 「ワタシも、制服にナるんでショうか?マスターとお揃イに出来れバ嬉しいのでスガ」


 制服と聞いて、目を輝かせる2人。モプシーもマキナさんも学生生活なんて縁が無かったようだし随分嬉しそうだ。でも、モプシーはともかくマキナさんが制服…。何か、頭の中で想像するとただのコスプレにしか見えない画が浮かぶ。


 「マキナが制服か。まるでキャバクラのコスプレデーみたいになりそうだな」


 「同じ事思った上に口に出しおったよこの男!」


 「さ、さすがに、酷い…です」


 「幾らなんデも傷つキマすよマスターッ!結婚してくダサい!」


 「断固お断る」


 「…いつもこんな賑やかなんですか、ここは」


はあ、と溜息をついて用事が済んだウリが「それじゃあ、私はこれで」と去っていくので、慌てて私も追いかけることにする。忍はマキナさんに掴まれてブンブンと揺さぶりまわされてるし、モプシーはそれを横目にチョコチョコと台所にいってシチューのお代わりをよそいにいってる。


 「ウリッ。ウーリーッ。ちょっと待ってってば」


 忍の家から出たところで、ウリはまるで私が追いかけてくるのを待っていたかのように立ち止まってこちらを向いていた。


 「どうしました?」


 「ウリってまだ遠征祭いってないよね。今年は参加するの?するよね、つーかしようよ一緒に組もうよ回ろうよ遊ぼうよ」


 「落ち着きなさい。最後只の欲望ですよシャル」


 「おっとと…。いや、だってさ?ウリと最近全然遊んでないな、って思って。黒いのが来てから色々ありまくってドタバタしてるし」


 機甲兵士(メタロイド)の着物美人とか二重人格同然の垂れ耳兎(ロップス)とか、アクの濃すぎる友人もどんどん増えるし、ね。


 「黒い人が来る前は貴女、引きこもってましたけどね」


 ニコッ、と笑いながらウリから物凄く鋭い言葉の刃が投げつけられて、私の胸に突き刺さる。ぐはっ…、誰かさんの毒舌をほぼ毎日受けてるから耐久力上がったと思ってたのに…思わぬ人物からの口撃が…。


「冗談ですよ。そうですね…確かに私はまだ参加していませんし、去年参加した副会長が学園に残るでしょうから、行けないことは無いでしょうが…」


「はいじゃあ決まりね。これでマキナさんも入れて5人か…。2人3人の組み合わせ、後はどうやって決めるかだね…」


 ウリの参加が決まった(と言うか私が今決めた)のでこれで5人。後はどういう組み合わせにするか。妥当に考えればくじ引きかな。各自の希望を聞いたりしたらマキナさんは絶対忍と組むって聞かないだろうし、その忍は「お前ら4人で俺1人って特別措置でよろしく」とか言い出しそうだ。…絶対言うだろうな、アイツ。






「お前ら4人で俺1人って特別措置でよろしく」


「うわぁ一言一句違わず当たったよ」


 ウリも私達のグループに入ることになったと伝えた途端これだ。まったくコイツは…。まったくもう。何ていうか、ブレないなあ、もう!


 「そういう訳にはいかないのよ。ま、みんなアンタと組むなんて罰ゲーム気分だろうけどさ」


 「あラ、ワタシはマスターと2人がイイんですガ」


 …訂正。約1名やたら妄信している信者がいるっけ。


 「え、えっと…わたしも、別に、その、嫌じゃあない、です…です?」


 「なんで疑問符?」


 モプシーまで…。(ゲート)の事件のときに何があったのかは教えてくれないから知らないけど、ちょっと前まで忍と目も合わせなかったもプシーが事件以降何となく忍に懐いている気がする。…モプシーは私のなのに。


 「と言うか忍は私の世話係なんだから私と組むのが妥当なんじゃないの?」


 「俺の仕事はお前の介護だ。ボディガードの必要もないんだし四六時中一緒にいる必要もないだろ。面倒くせぇし」


 「最後の一言が本音でしょ」


 ま、確かにそうだけどさ。忍に守ってもらう必要もなく、何かあっても私1人でどうにでもできそうだし。やっぱり、ここはくじ引きしかないかな。










「シレーナっ。もう時間が無いっていうのに…!何所にいるんだっ、放蕩娘っ!!」


 おや、ボクを呼ぶ無粋な大声。そんなに怒鳴らなくても聞こえているよ。下から聞こえるのは聞き覚えのある人の声。やれやれ、折角仕事の合間をに外の空気に触れて世界を感じていたというのに、もう俗世に逆戻りか…。慌しい事だね。


 「ここにいるよ。心配なくても逃げたりしないよ、姉さん」


 「いつの間にかフラフラして反省しろっ!」


 「あ痛っ!!」


 容赦無く振り下ろされたゲンコツがボクの脳天に直撃する。痛いじゃないか…ボクはこれから本番だって言うのに、自分の担当をもう少し大事に扱えないのかい?


 「ラジオ放送までもう時間が無いって分かってるのに何を呑気に屋上なんて来てるんだ野良犬かあんたはっ。ったくもう…」


 「まあまあ、そんなに怒ってばっかりいるとお嫁にいけなくなるよ?それに、魔の波動に乗せてボクの声を届ける前に少し、世界というものを感じておきたくてね…。ほら、見てごらん。色んな世界が混ざり合っても良い天気と言えば青空を差すのは共通なんだ、浪漫があるとは思わな痛ってば!」


 「時間が無いって何回言わせる気だ?それに誰が行き遅れだってぇ…?」


 「ちょっ、そこまで言ってな…待って、待って待って!ボク今からラジオの本番だって…!」


 仕事直前にこれ以上殴られるのは勘弁してほしい。ああ、スタッフさん、見てないでこの凶暴な人を止めてくれないかい?このままだと生放送に穴が空いてしまうよっ、由々しき事態だよっ!と言うよりまずボクの生命の危機だよっ!!と言うかここまで激怒するとかこの人どれだけ婚期気にしてるんだい?




「はーい今夜もやってまいりましたDJシグナの『威風堂々・電撃パープルラジオ』。司会は当然この俺、最近ハマっているのはニヤニヤ動画の生放送視聴、魔狼(フェンリル)シグナ・ガディフォール。そして今宵のゲストは巷で人気の若手シンガー、中二病煩ってるけど生暖かい目で見てやろう、シレーナ・カンタンテだ」


 「どうも。なかなか斬新かつ心に刺さる紹介ありがとう。多感な14歳の繊細なハートを砕くには十分すぎる言葉のハンマーだね」


 「放送本番直前までマネージャーにお説教されてた歌手もなかなかに斬新だからお互い様だ。さあ、近頃の話題はもっぱら「遠征祭」のようだ。しかも今年はこの放送局もある精霊地区と来たもんだ。魔術技巧専門学園(エレメンティア)の学生さんは社会見学で職業体験に来るそうだし、ひょっとしたらここにも学生さんが来るかもなあ。残念、遠征祭が今日だったら人気シンガーに会えたかもしれなかったのにな」


 「学生か…。ボクも一応精霊地区の学校に通っているけど芸能活動でほとんど出席出来ないよ。退屈な日常から脱したいとは思っていたけど、やれやれ。願いと言うのは叶えば叶ったで不平不満が出てしまうものだね。贅沢な悩みだというのはわかっているけど」


 「おうおう、噂どおり香ばしい痛々しさだなシレーナさん。リアル中二アイドルに、運がよければ会えるかも知れない遠征祭。魔術技巧専門学園(エレメンティア)の学生さんがた、精霊地区は歓迎するぜ」


 「このラジオ番組はゲストをズタズタにするのが趣旨なのかな?そろそろ泣くけど構わないよね。答えは聞かないけど」


 「人気アイドルをメソメソさせたとあっちゃあ俺のツィッターが炎上しそうなのでここで曲といこうか。今夜最初のナンバーはコレ、『ランザー&レイダー』で先週発表されたホヤホヤの新曲、『俺の靴にコッペパン』、ナウ、リーディング!」


 「泣こうか、リスナーがマジ引きするぐらい泣こうか、あ、ちょっと本当に曲に入ったね誤魔化すとかそれは無いだろう大人っていつもそうだこれだから…」








 「…何、これ」


 「貴女に頼みたい仕事内容です。このラジオに出演しているゲスト、シレーナ・カンタンテがターゲットです」


 「普通こういう時って写真や相手の情報を調べ上げた書類とかを渡さない?ラジオ聞かせて仕事の依頼とか流石に初めてなんだけど」


 「生放送なので。彼女の人となりを一番分かってもらうにはこれが一番かと」


 「…ま、いいけど。でも、なかなかややこしい以来みたいね。『ロキの尖兵』が関与してるんだって、ねぇ?」


 「ええ。それに恐らくは『ファランクス財団』も。ですからこの報酬額です。お引き受けしてもらえますか?イクス・ブラーエ」


 「…金を積めば何でもするとか思われてるなら心外だけど。ま、いいわ。受けてあげる。悪名ギルドをコケに出来る機会かもしれないしね」


 「貴女ならそう言ってくれると思いましたよ。…では、先ほどお伝えしたとおり決行日は「遠征祭」当日、週末に。シレーナには指定の時間に指定の場所に向かわせます」


 「了解。何でも屋(ジャッカル)イクスにお任せあれ。出来うる限り依頼主の意向に応えてみせましょ」






 「遠征祭」当日までは、学園に越してきたモプシーの畑をトラックで丸ごとシャル宅付近の空き地に移したりマキナとモプシー2人分の日用品を買い揃えたり、住居にずっと駄々を捏ねていたマキナを結局俺の家のすぐ傍にある道場のような古式家屋にすることで納得させたりと、ドタバタしているうちにあっという間に過ぎていった。


 「ど、どうですか…?制服って、初めてですから…に、似合います?」


 「だから何で俺に聞くんだよ」


 「マスター。こウ言う時、男子は唯「似合ってるよ」と言っテ上げルものデすよ」


 特注の制服に身を包んだモプシーがわざわざ宛がわれた寮の自室から俺の家までお披露目に来ている。一方のマキナだが、実年齢(11歳と言う事実)はともかく外見が大人なので制服姿にするとコスプレというか如何わしい匂いがする、と流石の理事長も思ったらしく制服は却下された。代わりに学園事務員の証である青い腕章が、着物の上から左腕につけられている。


 「おーい、他の生徒はみんなバスで移動したって。後は私達だけだよ」


 大人数の生徒が一斉に移動するため、数台ものバスを貸し切っての移送になるのも無理は無い。後は俺達も精霊地区へお出かけとしますか。


 「おっ、モプシー制服似合ってるじゃない。あはは、お揃いお揃いっ」


 「あ、あぅっ…わたし、20歳過ぎてるのに、制服おかしくない、ですか…?」


 「ワタシなんテ11歳なのニ制服NGでスヨ。傷つキましタ。マスター、撫でテくだサイ」


 「来世でな」


 わざわざチョコチョコやってきて見せに来たくせに制服姿が恥ずかしいのか、女心は意味わからんな、23歳のウサギさん。

 モプシーの制服はシャルと同じ特別製のようで、一般学生達と違う、シャル同様の白い制服だ。ウサギだから飛び跳ねるのを考慮したのかスカートではなくキュロットになっている。

 試しにウリに聞いたら「ウサギさんで真っ先に連想するのが人参(キャロット)だから」という、聞いたことを心底後悔する事実だったので、この暗黒の真実はせめて俺の胸のうちに留めておく。犠牲は、俺1人でいい…。


 「ウリはもうバスで待ってるってさ。ほら、グループ分けも出来たしチームコラット、出発するよ」


 「ニート新喜劇の間違いだろ」


 モプシーを抱きかかえながら早速歩き出したシャルが、こちらを振り返って催促してくる。


 「精霊地区は、ワタシも初めテですカらワクワクしまスネ」


 「ま、ただの遠足だ。何もなければいいんだが…」





 こういうささやかな希望に限って、無残に打ち砕かれるのが世の常というべきだろうか。


 ただの気楽な遠足だと思っていたこの学園イベントで、(ゲート)の時とは比べ物にならないほど複雑に色々な連中の思惑が絡み合う事件になるとは…。

第3章、遠征祭編開始です。そしてちょこちょこ出てきた悪役メンツ。名前だけは前から出ていた『ファランクス財団』のアーシア社長と秘書の蓮華。ボディガードのブレード。他にもこれから新キャラが増える予定です。

どんどん出番と存在が薄くなるね、ウルス教官。ヒャッハァー!!



一昨年の遠征祭は機界でした。参加した男子生徒は「男のロマンと言えばドリルか、キャタピラか」と言う事で終始熱い討論を続けていたそうで、当時の白熱した2派の論争は今でも機界で語り継がれているそうです。


 「学生って平和なんやね」


と。

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