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機甲兵士と垂れ耳兎と3色唐揚げ

前回の主人公の非道


「悪者がいます。斬ります。もっと斬ります。もっともっと斬ります。立て続けに斬ります。動かなくなりました」

 「広範囲の裂傷。傷口ハ広いでスガ浅いノで後遺症の心配モ無イでショう。痕は残っテしまうかモしれまセンが」


 「大の男が傷跡なんて気にするかよ」


 特殊繊維で出来た制服だったお陰でこの程度で済んだんだ、贅沢は言わない。袖を捲ってマキナに応急処置をされているのは、到着した騎士団にテログループを引き渡して一通りの聴取を受けた後の話だ。


 「流石に心配したよ。…それに、こう言っちゃなんだけどアンタもちゃんとこうして怪我したりするんだね。ちょっと安心したかも」


 心配したのか安心したのかどっちだお前。


 「お前な、俺だって怪我すりゃ血も出るし痛いんだぞ」


 「いやあ、何となく、アンタってどんなピンチになってもスマートに切り抜けたりしそうなイメージだったから」


 無茶言うな。そんなことできるのは本物チートのお前ぐらいだろ…。まあ、確かにさっきのピンチは斬って抜けたけど。…こんな事口にしたら流石にオヤジギャグか。


 「そっちは怪我も無いみたいで何よりだ。ビビリウサギにはトラウマ植えつけちまったかもしれないけどな」


 シャル達の方の話も既に聞いている。マキナの実力は知っているがポンコツニート娘のデタラメぶりは他人伝いとは言え驚きを通り越して呆れたわ。何なんだ、こっちはあんなに苦労したのに。


 「モプシーさんハ騎士団の医療班に任せテいまス。彼女は単に気が抜けテ今ハ気絶しテイるだけでスし、マスター以外はみんナ無事でスよ」


 「まるで俺1人ヘマこいたみたいだからやめろ、そういう言い方」


 「獣人の中でもトップクラスの身体能力の魔山羊族(ゴート)をズタズタにしておいて何を言うんだか」


 「半分以上はコレの手柄だ。あのチンピラ店主には改めて礼をしないとな」


 銘もつけられていない変形刀。説明書を読んだ時は「嘘だろ」と思ったがまさかの成果だ。あの刀匠、実はものすごい人物なんじゃないか?

 …嫁の趣味の電子音声は正直恥ずかしかったけどな。礼を言うより文句を言いたいのが本心だ。シャル達の前で使ったら赤っ恥だぞ…。


 「はイ、応急処置でスが完了でス。後でチャンと病院に行っテ下さいネ」


 包帯を止めて、簡易な医療器具の詰まった小箱を着物の袖に仕舞うマキナ。試しに軽く左手を握ったり開いたりしてみる。…流石に痛むが特に問題なく指は動く。そこそこ大袈裟な事件だったが被害らしい被害は俺の怪我ぐらいだし、結果としては上出来だろ。


 「おぅ、しぶとく生きてたようだようだな」


 未だに忙しなく騎士団の連中が走り回り事後処理を続けている(ゲート)正門前の事務室で治療を受けていた俺達のところにやってきたのは、騎士団の鎧に身を包んだ山奥にでも潜んで近隣の村を夜な夜な襲撃していそうな山賊だった。


 「おいテロリストの次は山賊が出たぞ。誰か通報しろ」


 「あ、デはワタシが」


 「待て待て待て待て貴様らワザとやっているだろ」


 「で、何の用だ隊長サン。金一封ならありがたく貰うからサイフ出せ」


 「貴様、世間一般にそれはカツアゲというのを知らんのか」


 …そろそろ冗談はやめておこう。シャルがポカンとしている。


 「まあ…貴様の言うとおり礼金ぐらいは出るやもしれんな。何せ重要設備である(ゲート)を防衛したのだ。この功績は決して小さなものではないぞ」


 「結果論だ。俺達はたまたま別件で来てただけだしな」


 「テロリストと戦っタのも、モプシーさンを助けル為ですもンね」


 お前は少し黙ってろ。マキナを小突こうと左手を持ち上げるが、やっぱりまだ痛い。


 「…シャルトリュー・コラット。それにデウス・エクス・マキナ。両名も協力感謝する。君達がいなければもっと大きな惨事になっていただろう」


 「おい、俺との対応に差がないか」


 「自分の言動を鑑みろ、チンピラが」


 山賊にチンピラ呼ばわりされるとは心外な…。で、ワザワザ礼を言う為だけに来た訳じゃないだろ?


 「で、本題は?」


 「愛想の無い男め…あの裏切り者(ウルス)はどんな教育をしているんだ?」


 「アンタに振りまく愛想なんてこの世に存在しないし、クマに教えられる事なんてハチミツの良し悪しぐらいしかないだろ。いいから本題話せ。そのヒゲ白く塗って季節はずれのサンタクロースにしてやろうか」


背後で「酷い」「酷いでス」と心外極まりない非難の声が聞こえるが無視しよう。


 「…明日、お前とコラット殿に騎士団まで来てもらいたい。そちらの理事長殿には、既に連絡済だ」


 「え、なんで?事情聴取はもう終わりなんじゃなかったっけ?」


 「今回の一軒の事後処理に多大な協力をしてくれた、とある企業の方が事件解決の功労者である君達に是非礼を、ということでな」


 うわあ、面倒臭ぇ。…でも、これほどの事件の事後処理を引き受けた企業と言われれば、たった1つしか思いつかない。…間違っても茶釜組ではないのは確かだ。


 「俺はこれでも怪我人なんだけどな」


 「知らんわ、そんなもの。確かに伝えたからな。時間はまた後ほど連絡する」


 …言うだけ言ってさっさと行っちまいやがった、あの山賊顔…。連絡といっても、俺アイツの電話番号着信拒否にしているんだが…。


 「事件って終わった後でも色々面倒なんだねえ。まあ、騎士団に行くなんてあんまり無い機会だし、それぐらいは構わないか」


 「マスターは、ドうすルおつもりデスか?」


 「そうだな…」


 携帯を取り出す。やれやれ、もう夕方近いじゃないか…。晩飯今から考えるのは面倒だな…。


 「とりあえずは、帰って飯食ってから考えるか」












 「まさか魔力中和機(フォースキャンセラー)なんてものまで提供していたとは思いませんでしたわ。しかもそれを(ゲート)で使用するとは…」


 薄暗いバーの中、テーブルの向かい側に座る白いスーツ姿の男性は私のそんな不満の声にも悪びれた様子を全く見せようとせずに、むしろ私がこうして面と向かって文句を言っている事すら楽しんでいるようにも見える。


 「お陰で一時的にとは言え、(ゲート)が停止するなんて事態が起きましたわよ。しかも、「誰かさんたち」がテロリストさんたちのお手伝いにとばかりに信号機器のハッキングやら鉄道の横転なんてパニックを起こしてくれましたし、わが社がどれだけ貴方達の起こした騒動で出費したとお思いですか?オグロさん」


 「いえいえ、こちらとしても貴女の会社にご迷惑をおかけするつもりは無かったのですが。思ったより上手くいってしまった、というのが正直な感想ですね、今回は」


 ほら、やっぱり予想通り楽しんでいるし、悪びれていない。白いスーツに身を包み、胸ポケットには真っ赤なスカーフ。シルバーフレームの眼鏡という姿はオルドで一番有名な闇ギルドの事実上リーダーと言うより、やり手の商社マンにも見える格好。スラッとした体系、口調通りに穏かそうな顔立ち。これで連日世間をにぎわせているオルド随一の極悪人なのだから、イメージじゃあないですよねえ。


 「それに、今回の騒ぎでまた他のグループが活性化するでしょうし、そうなればそちらの会社はまた大儲けできるじゃないですか、社長」


 「どうでしょうかねぇ…。それより目下世間の注目は来週末の魔術技巧専門学園(エレメンティア)の「遠征祭」でしょう」


 「どうせ、そっちにも一枚噛んでいるのでしょう?」


 見透かしたようにクスクスと笑いながらグラスを煽るオグロさん。落ち着き払った言動な分、白いスーツに白い髪と、寒色で統一された服装の中で一際異彩を放つ真っ赤な右目が特に際立つ。


 「ええ、それはもちろん。何せあの学園は今回の事件を解決した功労者さんがいるところでもありますしね」


 「なるほど、貴女も一度会ってみたい、と」


 「実は既に明日お会いする席があるんですよ。ふふ、今から少し楽しみです」


 私たちのテーブルに来たバーテンダー姿の女性に「注文は結構です」と一言伝えて、席を立つ。もう少しこの胡散臭い悪魔さんとお喋りしていたいところですが、私もなにぶん忙しい立場ですしね。


 「おや、もうお帰りですか?」


 「ええ、今度はこういう苦情ではなく、もっと楽しい話題でお会い出来る事を期待していますねオグロさん」


 「ええ、こちらとしても善処しますよ。『ファランクス財団』を敵に回す気はありませんから」


 「結構。…では、失礼します」


 頭を軽く下げて、もちろん、カウンターにいる店員さんにも。それから思い出して、もう一言追加。


 「ああ、そうそう。格好つけたいのなら、飲めるようになってからそういうポーズを取るようにしないと逆に格好悪いですよ?」


 「むぐっ…」


 グラスの残りを一気に煽ろうとしたところで、咽て吐き出すオグロさん。汚い…、さっきまでわたしが座っていた席まで飛び散ってるじゃないですか…。


 「今度はお互い、お酒の席で。では」


 未だに咽ているオグロさんを尻目にカラカラとドアのカウベルを鳴らして店を出る。店頭には律儀に直立不動の格好で私を待っていてくれた可愛い秘書の姿。


 「ご無事で何よりです、社長」


 「そんな心配は要らないって、言った通りでしょう?私に危害を加えてあちらにメリットなんて無いですもの」


 「そうは言いますが貴女は誰にいつ狙われてもおかしくないのですから、今度は自分の同行許可をお願い致します」


 つくづく真面目な娘ですねえ…。私の秘書になってからもう3年近く経つのに、もう少し砕けてくれても良いと思うのですが。


 「ふふ、考えておきます。さぁ行きましょう?明日の準備をしなくては。…「彼」は、また別行動ですか?」


 「…ええ。社長。差し出がましいようですがあのような男を手元に置いておくのは自分としては反対です。ろくにこちらの指示も聞かず好き勝手なことばかり…」


 あはは、真面目なこの娘には相性悪いタイプなんですね、やっぱり。彼のことですし、近くにいてくれているとは思いますが…っぱり彼女の言う通り傍にいてくれないのは少し寂しいですね…。


 







 『ファランクス財団』の社長…。我々『ロキの尖兵』と事実上オルドを2分する闇ギルドのトップだけあって、なかなか食えない方のようで…。社長の座を受け継いだのが若い女性と聞いたときはどうしたものかと思いましたが、彼女が就任してから益々勢力を、業績を上げているのだから、彼女は十分バケモノと言える類のものでしょう。


 「汚っ…ほら、拭きなよオグロ。…っていうかさ、いい加減酒飲めるようにならないの?」


 「これはどうも…げほっ、どうにも、体質的なものでしてね」


 「下戸の悪魔って珍しい…この世界で今一番悪巧みしている悪人がグラス1杯も飲めないとか、情けないわあ」


 女社長さんが出て行って私だけになった店内で、カウンターから出てきたバーテンダーの女性がタオルを渡しながら、人のことをズバズバと好き勝手に言ってくる。…いいじゃないですか。飲めれば偉い訳でもないでしょう?


 「それでレーヴァ。「あの方」は今回の件について何と?」


 「ん?ああ、(アール)?…さぁ?」


 「さあ、って。会ってないんですか!?」


 「だってー、アイツ基本的につれないしー。最近益々構ってくれなくなってさあ」


 はあ…思わず露骨に溜息が出てしまう…。今も既に別の計画でレックスとゲッシュには行動してもらっているのに、我々のトップがこの有様では…。


 「いいですか、我が主(マスター・アール)に気軽に会えるのは貴女だけなのですよ?ただでさえ貴女自身は私の言う事は聞いてくれないというのに」


 「私はアイツのモノだからねえ。まったく、オグロは本当にアイツにベッタリだね。彼女でも作って親離れしたら?」


 「あの方は親ではありません、私の神です」


 「うっわ、真顔で即答した気持ち悪い何この人引くわあマジ引くわあ」


 …ええい、相変らず彼女と話すと埒が明かないだけです。それに(アール)様も何も仰ってくださらないということは、またお気に召さなかったということでしょうか…。長年お使いしていますが、気難しい方です。


 「とにかくレーヴァ。貴女は主様とコンタクトを取ってください。こちらは既に次の計画を進めてしまっているのですから」


 「ああ、あの陰気娘と暴食バカを組ませて行かせちゃった失敗フラグ立ちっぱなしのやつ?実行しちゃったんだあ」


 「オブラートに包んだ発言をお願いします。それと、本人の前でその呼び方は絶対しないであげてくださいね。2人とも、意外とメンタルは弱いのですから」


 「闇ギルドの幹部でそれはどうよ…」


実力のほうは折り紙付きですからね、一応。どうにも、我々の組織は腕は確かなのに性格面に難がある方々ばかりで…。その最たる例が、今目の前にいますけど。


 「しかしゲッシュもレックスもしばらく留守かあ。じゃあ今残ってるのはキュロスと鈴蘭ぐらいなんだ…つまんないなあ」


 「いいから、貴女は主様と連絡を取ってください」


 「はいはい。まったく、バーをアジトにしてる癖にウーロン茶しか飲めないヘタレの癖に」


 「ぶっ…!レーヴァ、それは今関係ないでしょう!」


 「あはは、気にしてるんだよねえ、うん。知ってて言ってる」


 …本当にもう、これで我々のNO2なのだから、本当にどうしようもない…。闇ギルドのトップ『ロキの尖兵』と言えば聞こえはいいですが、その実態はこの通り性格面に難点がありすぎる連中の集まりですからね…。

 レーヴァに至っては「いっそ『劇団ロキ』とかに改名してコント集団にしちやったら?」と言い出す始末ですし…。


 「と・に・か・く!レーヴァ。貴女は早急に主様に連絡を取ってください。『七つの厄災(セヴンズディザスター)』として少しはまともに働いて戴かないと」


 「めんどくさいなあ…まあ、オグロが必死に構って欲しがってるよー、ってぐらいには伝えておくけどさ」


 「結構。それで十分です」


 これだけ念を押しておけば流石のレーヴァも動いてくれるでしょう。さて、では次は別件で動いているあの2人のところへいくとしましょうか。


 「あらら、もう行くんだ?忙しいねえ。ウーロン茶、もう一杯ぐらい飲んでいけば?」


 「お気遣い無く。生憎と問題児揃いですので、私としてもあまりゆっくりしている時間が無いのですよ」


 魔術学園(エレメンティア)の遠征祭も近い事ですし、のんびりしている余裕はありませんしね。


 「上手くいけば「歌姫」と「真祖(ノーブルレッド)」が一度に手に入れられる機会ですからね。流石に今度ばかりは邪魔させませんよ」











 「よー、悪かったな。気を使わせちまって」


 病院に寄ってから帰るとシャル達を先に帰した後、入れ替わるように姿を現したウルスが呑気な声で近づいてくる。


 「そんなに元上司(レガーシー)に会いたくないのか。ま、俺としてもムサッ苦しい中年が並んでる姿なんて見たくねえけど」


 「お前って基本的にオッサンにキツくないか?オッサンにはもっと優しくしたほうがいいぞ?どうせお前もそのうちオッサンになるんだから」


 「ならねえよ」


 いいからさっさと本題を言え。まったく、どいつもこいつも前置きが長いんだよ。蹴るぞ?爪先でスネを狙って蹴るぞ?


 「痛っ、痛い!蹴るなっ、ああ分かったさっさと言うから蹴るなお前靴に鉄板仕込んでるだろマジで痛いっ!!」


 おっと、悪い悪い。つい体が勝手に動いていた。悪いと本気で思ってないけど、悪い悪い。


 「…テロリストグループは5人全員逮捕だ。先に自白した3名はもちろん、残りの2名も随分殊勝に取調べを受けているよ。…手ごわそうだと思っていた主犯格のバフォーも随分とまあ弱々しくなってなあ。お陰で起訴まで早くいきそうだ」


 「5人?6人グループの筈だろ。確かシャルが1人逃がしたって」


 「その1人は、さっき(ゲート)から離れた所で見つかったよ。逮捕は無理だろうな、あれじゃあ」


 …なるほどね。確かにそれはシャル達の前では言いにくい話だ。


 「騎士団も当然知っている。大上、どう思う?」


 「どうもこうも、そいつが『ロキの尖兵』と繋がっていた本当の主犯だったんだろ。で、口封じか何かで用済みになったところを黙らされた…そんなところだろ」


 「騎士団もそう見てる。…『ロキの尖兵』は何が目的だったんだろうな、今回の一件。本気で(ゲート)を制圧する気なら自分達が直接手を出せばいいのに。こんな中途半端な真似をして…」


 「様子見か、観察…まあ、そんなところだろ」


 もちろん、そうだとしても「何が」標的なのかまでは分からないが…。モプシーが巻き込まれたのも偶然だし、一番考えられるの可能性はシャルだが…。


 「案外、元星界の皇女(エンプレシア)のサブマスター様が狙われてたんじゃないか?『ロキの尖兵』とは何度かやりあったこともあるんだろ?」


 「どんだけだよ。俺がそんな過大評価されてる訳ないだろ。こんな脆弱で温厚極まりない、か弱い一般人に向かって…」


 「お前今日テロリストめった斬りにしてその結果そのテロリストが留置所で「黒いのコワイ」って膝抱えてずっとガタガタ震えてるの知らないとは言わせないぞ」


 いや、流石に留置所のテロリストのトラウマなんて知らねえよ…自業自得だし。


 「…ま、ヤツラの狙いなんて今考えても分かる訳ないか。オグロってヤツは相当頭がキレるみたいだし、その上考えが読めないのが厄介だよなぁ」


 「そもそも『ロキの尖兵』はマスターと言われているヤツすら正体不明じゃねえか。(アール)と呼ばれている事以外知られてねえし。つーかなんだ(アール)って。ボスが匿名ってどれだけ人見知りだよ」


 「いや人見知りだからそう呼ばれているとは限らないだろ…」


 まあ、それこそ今ここで考えても分かる訳がない。と言うか、俺は本気でそろそろ帰りたいんだが…。


 「ああ、そうそう。話はもう1つだ。モプシー・ポターについてだ」


 唐突にウサギの名前が出てきたな。どうした、アンタの好みのタイプか?よーし騎士団を呼ぼう。留置所でクマとヤギ、仲良くしろよ?


 「どうして携帯を構える?…彼女についてだが、獣人地区の最高責任者(族長)からの提案でな。今回のような件もあったことだし。彼女の身柄を学園で預かってもらえないか、とのことだ」


 「…本当に唐突だな。どうしてそうなる?」


 「モプシーとかいう娘は1人暮らしなんだろ?戦闘能力も無い垂れ耳兎(ロップス)が1人暮らししていることを前々から気にかけていたそうだ。かと言って自分のところに来ないかと誘っても遠慮されていたそうでな」


 ふむ…随分族長サンには可愛がられていたみたいだが、あの性格じゃあ、そうなるだろうな。


 「聞くところによるとコラット嬢とは随分意気投合しているようじゃないか」


 「一方的にマスコットにされてるように見えるけどな」


 「無視する。でだ、折角仲良くなった友達が出来た事だし、保護も兼ねてそちらに「転入」させてもらえないかという話なんだよ」


 …そういうのは俺にじゃなくて理事長に言えよ。俺には関係無い話だろ、それ。

とりあえず人の話を無視したクマには一発蹴っておこう。スネは可哀想だから、今度はスネにしておく。


 「痛いっつーの!何でそうズボンの上から的確にピンポイントに泣き所を蹴れるんだ、何なんだその無駄な才能っ!」


 「いや、まあ。そう称え崇め奉るなよ」


 「ポジティブに受け取るな!」


 まあ、冗談1割はさておき。


 「ウサギがどこで何しようと俺の知ったこっちゃないだろ。何でいちいちそんな話をするんだ。どうせならシャルに言ってやれよ」


 「え?いやだってお前、彼女がもし今回の一件で心傷でも負ってしまったら「店」で引き取るつもりだったんだろ?今まで通り」


 「…スネは嫌だったんだよな。じゃあ…」


 「おいおいおいおいおいどうして人の股間を狙って足を振り上げる。まて、そこはヤバい。本気でヤバい。貴様俺だって命を持った1人の尊い存在だと知っているのか?」


 「ああ、お前の尊い犠牲は瞬きするまでは忘れないでいてやるよ」


 「俺の生前の思い出数秒しか残らないのなっ!?」


慌てて後ずさりして距離を取り警戒するウルス。そんな本気で構えなくても、こっちだって本気じゃないっつーの。0割冗談だ。


 「…お前、星界の皇女(エンプレシア)にいた時の事は一切みんなに教えないつもりか?」


 「わざわざ言う必要ないだろ。余計な事を言わないようにな」


 マキナが口を滑らせる事は無いだろうし、ウリも今のところ俺が何処のギルドにいたか程度にしか知らないままだ。色々面倒臭そうなシャルには、このまま何も知らないままでおちょくり続けさせてもらおう。


 「…まあ、お前が今まで通りのやり方を通すって言うなら、余計な口は挟まないがな」


 「だったら最初からつまらない事言うな」


 「なんだよ、図星だったからってスネるなって痛ぁぁい!!」


 減らず口が止まらないようなので、股間は勘弁する変わりに尾骶骨を爪先で蹴り上げる。ガタイの大きな良い歳こいたオッサンが一瞬、宙に浮いた。







 「あ、帰ってた。戻ってるなら一言連絡ぐらい入れなってば」


 「帰ったぞ」


 「今?遅っ!!」


 自宅に戻ろうとすると隣の家に明りがついているので、覗いてみれば案の定、家主である黒服黒髪黒目腹黒真っ黒黒介が台所に立っていた。上着とネクタイを外してエプロンを腰に巻いた、いつもの定番のスタイルでボウルに手を突っ込んで何かをグニグニと混ぜこねている。

 …って言うかアンタ怪我人なんだよね…?ああ、右手でこねているから安心。ってそういう問題かバカッ!


 「おーい、そこの怪我人。何やってんの?」


 「お前は俺が今本格ミステリー映画の撮影をしているようにでも見えるのか?」


 「肉を調味料に混ぜてるように見えるよ」


 「良かったな、目は正常だ」


 「あラ、お帰リなサいマスター。仰って頂けレばお迎えニ行きまシたのニ」


 「あぅ…」


 私の後ろからマキナさん、モプシーがヒョコヒョコと顔を出してくる。ええい、2人して私の腕を掴まないで。3人揃って人ん家の入り口で溜まってるとか、何この状況。…ああほら、家主が可哀想な物でも見るような顔をしてるし。


 「少し遅くなったけど食ってないなら夕飯食ってくか?ポンコツ1号2号V3」


 「ん、まだだから食べる。…って誰が1号かポンコツか」


 「頂きマす。…さしズめワタシはパワーの2号でスカ」


 「あ、あの…わたしも、いいですか?…ぶいすりー…?」


 「よし、じゃあ手ぇ洗って席につけポンコツーズ」


 ゴロ悪すぎでしょ、そのチームネーム。とりあえず保父さんの言うとおり、まずは洗面所で手洗いうがい。戻ってきた頃にはご丁寧にお皿と箸が人数分揃ってる。いつの間にかマキナさんとモプシーさんの分まであるし。


 「メインがもうちょいで上がるから、先につまんでるなり待つなり好きにしろ」


 「「はーい」」


 「はぃ…」


 何というか、この食事風景も慣れたもんだなあ…。忍は想像を絶するほど性格が悪いけど食事時はこうして真人間になってくれるのが唯一の美点だと思う。

 食卓の上には既にお茶碗に盛られた白米と、その横に薄切りにした大根のお味噌汁。そして大根の葉っぱのお浸しが並んでる。…おかあさんを思い出すなあ、なんとなくだけど。

 テーブルの真ん中には大きな皿が、まだ何も乗ってないまま置かれている。ここにメインが乗るのかな、と思っていると、台所からジュワーっ、と香ばしい匂いと一緒に聞いているだけで食欲が刺激される音が聞こえてくる。


 「揚げ物でスか。遅い時間ニ食べルと太りソうですネ」


 マキナさんって太るの?


 「わたし…もうちょっとお肉つけないと、いけないって言われてるから…丁度いいかも、です」


 付けるのは肉じゃなくて身長じゃないのモプシーは。


 「ほら出来たから退け有象無象ども。唐揚げ様の御通りだ」


 台所から立った今出来立て揚げ立ての唐揚げが乗った四角皿(バット)を持った忍がやってくる。私たちが座っているテーブルの中央の置かれていた唐の皿の上に、ドサドサと湯気が上がり続けている熱々の唐揚げが盛られていく。


 「揚げ立ての唐揚げ目の前で出すとか、年頃の女の子に随分な仕打ちじゃない?美味しそうだけどさあ」


 「確実に太リソうでスねぇ。美味しソうでスガ」


 「一緒に大根おろしが沢山きましたね…。美味しそうです。です」


 大皿に盛られた唐揚げ。忍がこの前安売りセールで大量購入してきた鶏肉だと思うけど、随分沢山揚げたもんだ。太らせる気満々か、この男。…胸につけばいいんだけど。


 「ウダウダ言ってないで冷める前に食いやがれポンコツ、マークⅡ、Z」


 「そりゃ食べるけどさ…って」


 「ワタシは2号のまマなのでスね」


 「ぜーた、って…」


 …後で(ストレーガ)の実験台にしてやる…。でも、今はさっきからこちらを視覚的にも嗅覚的にも誘惑し続けてくるコレが先決だよね。


 「おふっ…もふ、ほふっ…あ、あふいれふっ…!」


 モプシーは一足先に口を付けてる。一口で1個の半分ぐらい入れたせいで必死にホフホフしてる。可愛い。


 「……」


 一方の猫舌マキナさんは取り皿に移したままジーッと、程好い温度になるまで待ってるみたい。可愛い。


 「結構あるから、たんと食ってたんと太れよ」


 忍は揚げた油を処理しながら相変らずの減らず口を台所から投げかけてくる。可愛くない。


 「んっ…ちょっと酸っぱい?これ、レモンかかってるの?」


 「ふぇ?こっちはハーブっぽい味ですけど」


 よく見ると唐揚げの色がところどころ違う。ほんのり緑がかっていたり、細かく刻まれた黄色っぽいものが混ざってるものがあったり、ちょっぴり黒ずんでいたり…。


 「バジルベースにハーブを肉と衣に混ぜて揚げたバジル風味とレモンの皮と果汁を加えたレモン風味と黒糖を使った3種類混ぜてある」


 「ほふっ…、確かニ。ほんノり甘みガありマすね。…性質が悪いデす」


 …まったくだ。甘いのと苦いのと酸っぱいの、それぞれ脂っこさを和らげてる上に味わいが全然違うタイプだから…。


 「あふっ…、んぐ、もふっ…」


 小柄な割りにモプシーは良く食べる。ご飯も進んでしまうみたいで、私たちの中で一番沢山食べてるのは絶対モプシーだ、きっと。


 「揚げ立てで噛むとサクサクの衣の下から肉汁と美味しい脂が出てくるし…しかも皮を1つ1つ入れてるから衣のすぐ下からパリパリの鶏皮が出てくるとか、悪魔か、あんた」


 「茶碗の上に唐揚げ山盛りにして掻っ込みながら言われてもなあ」


 黒糖唐揚げを食べると今度はほろ苦いバジルタイプが欲しくなるし、ハーブの風味がたっぷりのものの次は酸味でサッパリしたくなるし、レモンの味わいが口に残ると甘いものが欲しくなって…まるで無限ループじゃないのさ、これ。なに、なんなのさ、なんなのさっ!夜食テロならぬ夕食テロは!


 「トリガラと余った皮でスープもあるけど、鶏雑炊で〆たいヤツは挙手」


 「「「…」」」


 思わず私たちは箸も置かずにお互いの顔を見回して…。




 数秒後、打ち合わせたように同時に無言で手を上げた。







 「ご馳走様。…あー、これ太る。確実に太る」


 「ご馳走サまでシタ。味気ないコンセントかラノ充電や太陽光充電デは、このヨウな充実感は得られまセんネ」


 結局満腹になるまでガッツいた3人。シャルもマキナもテーブルの上で動けなくなっている様子だ。

結構大量に揚げたから数日のオカズにしようと思ったのに、ほとんど残ってねえ。


 「あ、あの、あの…、お皿…でふ、で、です…」


 …一番食ったヤツは他の2人と違ってまだ動ける余裕があるらしく、甲斐甲斐しく空いた皿を洗い物中の俺のところに運んでくる。…子供に手伝わせてるみたいでアレな気分なんだが…。

 つか、今噛んだろ?


 「お前さんも向こうでへちゃむくれてろ。すぐ終わる」


 「で、でも…手、怪我してるのに洗い物、て、手伝います…です」


 「いらん。流しに届かないだろ」


 「と、届きますっそこまで小さくないですっ」


 …なんか、随分慣れたな、このウサギさん。昨日まで目も合わせてくれなかったのになあ…。


 「むしろ君は俺の事嫌いだったんじゃないのか?」


 唐揚げを盛っていた一番大きな皿にスポンジを擦りつけながら、特に他意も無く言ったつものだが、モプシーはどうやらそういった態度をとっていたことを気にしていたようだ。ビクッ、と体を大きく震わせたかと思えば、そのまま肩を丸めてしょぼくれてしまう。


 「ご、ごめんなさい…です。…え、ぇっと、嫌いだった、て、言う訳じゃあない、です…です」


 「怖かったか。ま、そりゃ今も変わらねえか」


 「…い、いえ、怖くは…ないです、もう」


 …おや?予想外の返事だ。今日1日トラウマレベルの出来事だった筈なんだが…。


 「た、確かに、最初は、睨んでるみたいだった、ですし…。怖い人、かな…?て、思ってましたけど…」


 洗い物が終わったので手を拭いていると、モプシーはしっかりと顔を上げて、こちらを見ながら、言葉を続ける。…初めて目があった気がするな。…割と目がデカい。


 「忍さんは、ちゃんと、わたしを信じてくれました…。わたしだって、自分のことを信じられなかったのに…。そ、それに、こうしていつも、美味しいご飯を作ってくれますし…」


 「別に餌付けするためにやってる訳じゃないんだが…」


 「あ、あぅっ、違います…そ、そういうつもりじゃないです…」


 そう言って垂れ耳兎(ロップス)は自分の両手を体の前で握って、こちらを正面から見上げながら、今まで聴いたことが無いぐらいのハッキリとした口調で、声で。


 「わたしは、この目で見て、耳で聞いた忍さんを信じます。悪いと思った事に、真っ直ぐ怒れて、怪我をしてまでわたしを守ってくれた、貴方のことを」


 「……別に」


 「お前を守るためにやった訳じゃない的なセリフはやめなよ。空気読みなさいよ」


 「誰よりモ読ンでいルから、ワザとブチ壊スのがマスターのやり口でスけド」


 人のセリフを妨害するように、さっきまで満腹でテーブルでダウンしていたシャルとマキナが台所を覗き込むようにして口を挟んでくる。


 「モプシー騙されたら駄目だよ。そいつ一件悪いヤツに見えるけど実は良い人かな?って一瞬思わせて実は見た目通りだから」


 「そレにマスターはワタシのマスターでスカら駄目でスよ。マスターも、こんな小さナ子を誑かスのは流石に騎士団通報レベルかト」


 「よしまだ油熱いままだな。丸揚げしてやるからもうちょっとこっち来いお前ら」


 どういう勘違いしてんだお前ら。何が悲しくてこんなチンチクリンに手ぇ出さなきゃならねぇんだ。

ほら、お前さんも黙ってないで言い返せ、とモプシーの肩を突く。…一瞬耳を引っ張ってやろうかと思ったけど。もう夜だし、近所迷惑(近所いねえけど)だからやめておく。


 「お、お2人が考えているような事じゃないです、ですっ…!」


 突かれて察したように手をパタパタ振りながら慌てて弁明するモプシー。


 「それに、わたし、子供じゃないですっ。これでも今年で23です。ですっ」


 「嘘付け」


 「嘘だ」


 「嘘デス」


 「ほっ、本当ですっ、ですっ…!」


 ゴソゴソとポケットから何かを取り出そうとするモプシー。しばらくジタバタしてから、免許証を出して証拠だとばかりに見せ付ける。


 (…うわマジかよ。つか車乗って足届くのか?前見えるのか?傍から見たら無人走行だろ)


 (5歳上っ!!うわぁ…ごめん、今更さん付けとか敬語とか、もう絶対無理…)


 「驚キでスね…ワタシのほとんど倍でスか…」


 ポツリと呟いたマキナに、今度はモプシーも、続いてシャルも数秒硬直してから、ギシギシと、まるでブリキ人形のようなぎこちない動きで振り返り…。


 「アあ、ワタシ製造(ロールアウト)されテカらまダ11年しか経っテいなイのデ、事実上11歳でス。テヘッ」


 「嘘だ!」


 「嘘ですっ!」


 「嘘付け」


 「イヤ、マスターはご存知デしょ?」


 まあ、もちろん知ってたけど。


 「11歳でそのスタイルってどういうことよ!機械族ズルい!身長も体系も好きに設定できるじゃないさ!じゃあ何っ?マキナさんって忍の趣味なの?」


 「わたし、マキナさんの倍生きててこのサイズなんですか…ですか…?」


 「あはハ、何かいきナりカオスな事になっテきまシタね」


 「お前、いいから少し黙ってろ」


 食後の茶でも淹れようと思っていたのに、結局騒々しくなるのな…。


 「無視すんな忍ーっ!なにかっ、着物美女趣味かっアンタの趣味かっマスターなんて呼ばせて懐かせてるのも趣味かコラあ痛たたたたたたたたたたたぁぁっ!!」


 「うぅっ…」


 無視してたらエスカレートしてきたので一先ずシャルの頭を鷲掴みにしてギリギリと握り締めてやる。今度は苦痛で呻き始めたので結局騒がしさは変わらないが…どうしよう?


 「とりあえずお前らもう帰れ。マキナもウサギもシャルん家で寝ろ」


 「エー、マスターと一緒に寝たイです。子供でスよ?ワタシ、まだ一人じャ眠れナい11歳児でスヨ?」


 「電源落としてやるからそこらで転がってろ」


 「くはっ…!不順異性行為だっ!ロリコンだっ!あれ、でも見た目的に…え、あれ、この場合合法…?えーと、とにかくぅひゃひゃひゃぁっはひゃゃひゃゃっ!?」


 顔面アイアンクローから抜け出して意味不明な奇声を上げて再び鞘議散らすシャルに、今度は両脇に手を入れてしこたまくすぐってやる。…うん、余計五月蝿い上に唾が飛んでくる、これ。


 「あ、そうソうマスター。大事なことヲ忘れてマシた」


 「あ?」


 シャルをくすぐりながらの俺に、改まったように両手を添えて小さく頭を下げるマキナ。


 「これかラまた、以前のヨうによろシクお願いします。ご主人様(マイ・マスター)


 「…だから俺はお前のマスターじゃないけどな」


 「にゅひひひひひっ…!!はっ、離ひぇっ!これっ、せっ、セクハラッ…ふひひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」


 「色気のかけらもねぇ笑い声だな…」


 まあ、結局なし崩し的に再びマキナとつるむ事になってしまうようだが…。





 「ヒャッハァアアーーーー!!!!」



 元々シャル1匹の世話をするだけだった筈のここでの仕事が、いつの間にか




 「イーーーッツ、スリーーピング、タァーーイムッ!!!!ウサァッ!!」




 何やらどんどんおかしな連中が集まってきているような気がするのは、これから少し先に控えている「遠征祭」で思い知ることになるのだが…それはまだ先の話なので、この場はもっと別に相応しい締めくくりのセリフがある。












 「ウサギうるさい」

これで第2章「マキナ、モプシー編」?、完了です。個人的にマキナが作者お気に入りなのですが嫁はなぜかやたらモプシーを気に入っているようで「ウサー!」と日頃から気の弱い夫を殴る蹴る踏みつけるビームを放つと虐待しています誰かボスケテ



 学園に編入することになったモプシーですがサイズの合う制服が無い為結局オーダーメイドになりました。理事長が悪趣味全開で「ウサギさんならバニーガール姿なんてどうかな」と言ってましたが優秀な生徒会長()の広辞苑チョップでモプシーの安全は保たれました。

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