機械仕掛けの神・その1
第2章突入。新キャラもモサモサ出して行きます。そして出番が無くなっていくクマ教官…
「理事長からの呼び出しでどうしていちいち俺までついていかなきゃならないんだよ。俺はお前の母親か」
同伴者が欲しいなら俺よりウリにでも頼め。あの過保護な天使娘のことだから「しかたないですねー」とか言いながらパタパタ飛んできてくれそうだ。
頭の中で思い浮かべた画に、全く違和感が無い。そのうちあの娘の過保護もどうにかしないといけないかもしれないな…。
夕飯の買出しに街に出ようとしたところで隣人兼世話対象であるポンコツへっぽこグータラ駄目ニートであり、この学園はおろか、世界最強と詠われる魔術師様であるこの娘、シャルトリュー・コラット(生後18歳。主な生息地はマンガとゲームに囲まれた地下室)に呼び止められ、こうして理事長室まで同行させられている次第だ。
「いま、アンタの頭の中で私の紹介が想像を絶する凄惨な内容になっている予感がするのは気のせいだよね?」
「おー、気にするな。当たってるから」
「うわぁい。こんなに当たって欲しくない正解生まれて初めてー」
茶釜社長との対談から早一ヵ月が過ぎようとした頃、俺もシャルも良くも悪くも今の生活に随分慣れてきた。
最初は随分混乱し、学園の購買で火薬が売っていないか9割本気で考えたぐらいだったが、引きこもっていたニートがオタク趣味に走るのもこのご時勢別に不思議でもないし、要するにもう諦めた。一方のシャルの方も初めのうちは過敏に俺のスキンシップに騒ぎ、喚いていたがこうして随分穏やかな反応をするようになった。人とは成長するものだな…。
「てやっ、せいっ!ええいっ、届かないっ!」
…まあ、さっきから蹴ったり殴ろうとしてくるので頭を掴んで腕のリーチの差を活かして無力化している訳だが…。うん、今ではこの程度の反撃に留めているんだ、見違えたぞ。
「んで、結局何の用事だ?お前が最近手抜き仕事ばっかりしてるからお叱りが来るんじゃないか?」
「手抜きとは失礼なっ!私はやる気は無いけど仕事に手は抜かないよ!」
意欲と質って比例しないんだな…すげぇ、勉強になるわ、この娘。
「この1ヶ月で私が世に出した画期的な術式の数々を一番間近で見てきた癖に。アンタの目は節穴なの?悪いのは目つきだけじゃなくて視力のほうまであ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
余計な一言が多い娘だ。てい、ちょっとだけ指に力を入れて頭部を締め上げてやろう。
「画期的、ねえ…。『洗って再利用できるティッシュ』や『ドラゴンが踏んでも壊れないマラカス』がどれだけ社会に貢献するのかは俺にはちょっと理解出来無いけどな。ああ、でも先週の『魚の鱗自動除去機』ってのは便利そうだな。実用化されればもう魚屋で買った切り身に取り残しの鱗が無いか気にする必要がなくなるわけだ、偉いぞ」
「あ゛ばばばばばばばば」
ヒロインにあるまじき顔と声で何故か悶絶しているシャルは返事をしてくれない。もう一度言おう、何故だ。
と、そうしてシャル「で」遊んでいるうちに到着。ここに来るのも茶釜社長を脅は…もとい、取引をして以来だな。
理事長室のドアをノックし、返事を待つのも面倒なのでそのまま開ける。
「入りますよ理事長。ポンコツお届けに来ました」
ドアを開けると何故か室内は真っ暗だ。ご丁寧にカーテンまで締め切って照明の一つもつけていない。
あれ、まだ昼前だよな?
バタン、と手も触れていないのに勝手に背後のドアが閉じる。当然、室内は完全な真っ暗闇だ。隣に居るはずのシャルの姿すら見えない。聞こえるのは、隣から聞こえる「はなせぇ~」という呻き声だけ。
「よく来たね。待っていたよ、2人とも」
突然、理事長のデスクの上のライトが点く。当然そこに座っているイザヤ理事長…何故か、真っ黒いローブに身を包み、フードをかぶっている。理事長質なのに、まるで室内の光景は黒魔術の儀式会場か何かのようだ。
「さぁ、儀式を始めよう。大上君、シャルトリュー君。今宵の宴を大いに楽しんでいってくれたまえ。最も、君たち自身が贄とならんという保障はしかねるがね…」
「5、数える前に茶番をやめないとコイツ連れて帰りますよ1.2.3.4」
「わざわざすまなかったね足を運んでもらって。いやなぁに。ちょっと2人に頼みたい事があってね」
カウント残り0.5でギリギリ理事長が元に戻った。フードを脱ぎ、部屋の照明を点ける。アンタは一体俺らにどんなリアクションを期待してたんだ…。デスクの上においてある「悪魔辞典」とかいう中二患者が胸ドキしそうな書物を見つけてしまったのは、人として最低限のマナーとして、黙って置いてあげよう。
「あいたた…。あれ、いつの間にか理事長室に」
「どうした、歩きながら寝てたのか?器用な奴だな」
「思い出したよアンタのアイアンクローで意識が遠のいてたんだっ!」
「イチャついているところ悪いが話をしてもいいかな」
シャルの頭を離した途端蹴りかかってきたので今度は両手でほっぺたを掴んで顔を「ぶに~っ」としてやる。シャルが再び「あばばばば」と悶えはじめた処で、理事長からのレフェリーストップがかかった。
「そう言や、2人に、って言いましたっけ。話って言うのは俺にもですか?」
「シャルトリュー君に関する事は大体君も同席してほしいんだよ。2人でセット、コンビ、相棒と思っていてくれたまえ」
「はぁ、まあ、別に嫌ですけど」
「自動意地悪機能のついた家事マシーンじゃなかったんですね、コレ」
お前今夜の晩飯米オンリーな。可哀想だからライスぐらいはつけてやるか。
「とは言っても、俺は魔術に関しては全くサッパリなんで、することと言ったら今まで通りコイツの壊滅的な生活態度を少しでも常人に近づけさせるぐらいですよ。不可能ぽいけど」
「何を言うかっ!ちゃんとこの前1人で買い物できるようになったのに!」
「コンビニで週間マンガ買いにいっただけだろポニ毛引っこ抜くぞ」
「と言うか、つい最近「はじめてのおつかい」したんだねえ」
ええい、突込みが足りない。話が進まない。わざわざ理事長の小芝居を見に来た訳じゃないんだぞ、
買い物いきたいんだ、俺は。今日は鳥モモ肉が安いんだぞ、知ってんのかお前ら。
「さてと、ではそろそろ本題といこうか。シャルトリュー君は当然知っていると思うが、来週門の大規模な調整工事が行われるんだ。大上君は聞いているかな?」
「ああ、まあ、なんとなくは」
門。読んで字の如く、この世界と他の世界を繋ぐ次元の境目を維持している大規模な制御装置の通称の事だ。
この世界が幾つモノ異なる世界が繋がって出来上がったのは言うまでも無いが、繋げられた主な世界、「人間界」、「機界」、「精霊界」、「天界」、「獣界」の5つの世界は今でも常にこのオルドと繋がっており、各世界から好き勝手に出入りされると混乱が起きるので入国(入界か?)の審査、管理とイレギュラーの対処を主な仕事としている、オルドでもトップエリートと呼ばれる花型職業の一つだ。
「さて質問。門は5大世界全種族をもってその管理を行っている。ではそれぞれの種族の役割は?はいシャルトリュー君」
「機械種族のテクノロジーでまず門と呼ばれる次元連結装置の管理、天使、悪魔族による異なる世界の魔力質の調整、精霊による魔力の流れの管理、人間種による各種のメンテナンス、及び細かな微調整、といったところですか?」
「獣界は激務に疲れた職員達をモフモフさせて癒しを与えるんだっけか」
「需要はありそうだけど違う。て言うか何その職場。ちょっと羨ましい」
「ふむふむ。8割がた正解。さて大上君、獣界の方は門の運営においてどう言った役割を担っていると思う?」
え、モフモフじゃないのか?…まあ、冗談はほどほどに、さっさと用件を聞きたいし答えておこう。重ねて言うが今日は近所のスーパーで鳥モモ肉が安いんだ、今夜は照り焼きにしたいんだ。今の俺は鶏肉腹なんだ、変えなくて別メニューにしなきゃならなくなったら八つ当たりでこのポンコツの額に油性ペンで「粗品」と書いてやるからな。
「危機感地能力による、イレギュラーの察知、でしょう?」
「大正解。商品だよ、ほら」
理事長がデスクの引き出しから食べかけのスルメを出してくるが、いらん。歯型ついてるじゃねえか。
「…補足させてもらうと獣人族は身体能力の低い種族は戦闘力に反比例するように危険を察知する第六感が非情に鋭敏でね。その力によって他種族では察知できない突然の事態に対処している、という訳だよ」
まあ、この程度の知識はオルドでは小学校で習うレベルだしな…。イレギュラーについては昔から問題にはなっているが、未だに具体的な対処方が見つかっていない。
「野生のカンって奴だな。…で、その門の話が俺達とどう関係が?」
悪いがまだ話が見えない。すると、俺より先に理事長が何を頼もうとしているのか、シャルが察したようだ。
「もしかして、ロップスを迎えにいけ、とか?」
「大正解。ほら、商品だ」
「いりません。せめて新品で下さいよ」
ポンコツ娘も食べかけのスルメは嫌らしい。自分は食べかけの菓子を部屋中にバラまいてるクセな…。そのうちゴキ出るぞ、ゴキ。
「ロップス…獣人族の種のひとつだよな、確か」
「そだよ。垂れ耳兎族。危機感地能力の高い草食系獣人種の中でも特に危険を「聴く」事が出来る種族でね。能力が高い者になるともう予知能力レベルらしいよ。あ、あと凄くカワイイらしい。モフモフしてるって」
まあ、獣人は大体モフモフしてると思うが。お前さんの親友だって羽だけなら十分モフモフしてるじゃないか。
「んで、門とウサギとどう関係…、って、ああ、そういうことか」
なるほど、ようやく合点がいった。ん?つまりシャルと俺が呼ばれた理由っていうのは、まさか…。
「…門の調整工事って、お前の仕事の一つか」
「だから人の仕事の内容ぐらいちゃんと見ておきなよって言ったじゃないさ…。そう、獣人さんに負担がかからなくなるようにゲートセキュリティに新機能をつけようと思ってね。その為にロップスの人に直接協力してもらう必要があるの」
「次元門管理局はどの世界の種族さんも魔力の強い方ばかりだからね。必然的に力の弱い者が適任になってしまう獣人さんは常に大きな負担がかかっているのが現実問題だからねえ」
魔力の無い俺には全く縁の無い話だ。そう、強すぎる魔力というのは言わば毒と同じだ。日常生活ぐらいならどれだけ強い魔力の持ち主がいても周囲に影響を与えないが、門の管理や制御となれば嫌でも強大な魔力を行使する場面が多々起こる羽目になる。
魔力の低い者は強大な魔力の発動の再の余波だけでも体に大きな負荷がかかる。そのアンフェアな職場現状のせいで獣人族スタッフからの苦情や改善要求が昔から問題になっていたのだが…。
「長年の環境問題をニート1匹が解決出来るとか、世も末だな」
「もう働いてるからニートじゃないしっ!あと匹って数えるなしっ!」
なんだその語尾。何のマンガのキャラだよ。あとニートと言うのは働けば払拭される訳ではない。ニートという呪いはそう簡単に拭い去れる代物では無いんだよ。残念だったな、お前は未来永劫ニートだ。お前の墓石には俺が責任を持って「ニートのばか」と彫ってやる。
「お前の場合はアレだ。趣味がニートだからニートのままでいいんだよなぁシャルニート」
「改名されたっ!あと思い切りサブカルチャーを否定したねアンタっ!」
「まあまあ。こちらの話というのはその件についてなんだよ」
殴りかかってきたシャルのへなちょこパンチを受け止め頬を引っ張っていると理事長が再び本題へと無理矢理戻す。
「シャルトリュー君の言った通りだよ。彼女の開発した新術式の協力者のロップスを迎えにいって欲しい。出来れば、君たち2人でね」
隣のシャルを見る。頬を引っ張られながらジタバタしているので、とりあえず離す。
「あいたた…。まあ、別に問題ないでしょ。理事長に言われるまでも無くそのつもりだったし」
ああ、コイツあほだ…。やっぱり気付いていない。今度は理事長に視線を移す。俺の視線に気付き、苦笑い。…おいおい、ちゃんと説明せずに送り出すつもりだったのか?
「…わざわざこうして呼び出すぐらいだから、どうせ何か問題があるんじゃないですか?そのウサギのお出迎え。…例えば、事前に何者かに狙われている、なんて話があるとか」
うぇ?とシャルが奇抜な声を上げるが、この際無視だ、無視。どこまでお気楽に物事考えてるんだよ…。あと理事長。どうせこうして俺が察して言い出すからあえて黙ってました、みたいな顔するな。
気付かないフリしてたらどうするつもりだったんだよ。
「そろそろいい時間ですね。一旦お昼にして続きは午後にしましょうか」
生徒会室の時計は既に正午を少し回っている。シャルが復帰してから学園には様々な企業や組織から様々な取引の依頼や面談の要求などが殺到し、最初は生徒会だけでなく学園全体、大忙しだった。仕事をすぐ他人に押し付けて逃げる理事長ですらしばらく部屋から出られなくなるほど忙殺されていたが、最近ようやく落ち着いてきた。お陰で久し振りにお昼にちゃんとランチが取れそう。
大体は「仕事のお話は茶釜組さんにお任せしていますのでそちらを通してお願いします」と全部一度向こうに押し付けているので、こうしてこちらに流れてきているのは茶釜組がある程度捌いて送ってきた件ということになる。大上さんの策略が無かったら、この何倍もの量の依頼が学園に殺到していたのだと思うと、流石にゾッとする。
(信頼は出来ないけど信用は出来る…。本当に、その言葉に尽きる人…)
あれからシャルとも昔のように会うようになり、他愛の無い話をしたり、部屋を散らかしたり同じマンガを3冊も買うから注意したり…、布教用とか言われて、1冊もらったけどどこの世界の風習なんだろう?
貰ったのはいいけど、未だに読んでいないし。
「会長。お昼はどうします?どこかに食べにいきます?それとも出前とります?」
他の役員が別件で出払っているため、私以外に唯一学園に残っていた副会長が書類整理の一休憩に昼食の提案を持ちかけてくる。
「そうですね…せっかく少し時間がありますし、どこかに行きましょうか」
「またコラットさん誘うつもりですか?ラブラブなのは良いですけど少しはボクの相手もしてくださいよ」
また貴方はそういう事を…。かれこれ2年、私の補佐をしてくれる有能な副会長なのだけど、どうにも軽薄な言動が多い。何度も窘めているのだけれど一向に改善されないし…。まぁ、半分以上は只のキャラ作りだというのはわかっているのだけれど。
「あなたは優秀なのだから、もう少し言動をちゃんとしたらモテると思いますよ?稲荷副会長」
「いえいえ、ボクは昔から今でも、これからも会長一筋ですので」
ほら、またこれだ…。いつもの事だから、もういちいち注意したりはしないけど。とりあえず、シャルに声を掛けてランチにしよう。大上さんが既にお昼を作っていたら…和食だったら、ご相伴に預かってしまおうかな…?
一昨日夕食でご馳走になった蒸し鯛と炊き込みご飯は本当に絶品だった。塩だけでシンプルに蒸し上げただけの鯛は箸を入れるだけで身がホロホロと零れるし、山菜と鶏肉で炊いた炊き込みはもち米を混ぜていたらしく、味の沁み込んだお米の弾力に箸が全然止まらなくなり、はしたないとは思ったのだけれど結局おかわりまでしてしまった(シャルは3杯目で「食べすぎだ」とチョップされていたけど)。
「会長~?お~い会長」
「あ、はい。なんでしょう?」
ああ、いけない。私とした事がつい思い出して…。お腹が空いているみたいで、注意力が散漫になっているみたい。
「お客さんですよ」
「お客だよ」
「お客だな」
稲荷副部長が既にいつのまにか、よく見知った2人組を生徒会室に招き入れていた。
「いやいや会うのは初めてですなぁ。ボクは稲荷います。出雲稲荷。生徒会副会長です。ウリ会長とコラットさんがようお世話になっとるようで」
「大上忍。ウリ以外にも役員いたんだな。てっきり寝ぼけ天使のぼっち会かと」
生徒会で私のイメージがおかしくなるのでやめてください。もう私のことも最近では容赦なくからかってくるようになってきて…。稲荷副会長は前々から大上さんの噂を聞いて興味津々だったようで、随分食いついている。普段女生徒のことばかり熱心なのに。…変な趣味じゃなければいいんだけれど。
「あはは、会長さんは寝起き以外は完璧ですよ。それにしても大上さん、会長の寝起きなんてどんなシチュエーションで見たんです?まさか不純異性行為とかないでしょうねえ」
稲荷副会長の悪趣味なジョークを咎めようとする前に、大上さんがハッ、とあからさまに鼻で笑い飛ばす。
…ええ、こちらとしても貴方にそういった感情はありませんが、にべもなくそうやって一蹴されると、それはそれで何かが傷つきます。
「ウリの部屋に泊まったウチのポンコツの忘れ物を届けに寝ぼけたままパタパタ飛んできて木やら街灯やらに頭から衝突して墜落する姿を見せられて異性として意識するのは難しいなあ」
やめてください。忘れてください。むしろいつも忘れ物をするシャルがいけないんじゃないですか。
「コホン、で、シャル?今日はどうしたんですか?」
気を取り直してソファに向かい合って座っているシャルに用件を尋ねる。このまま男性陣のペースに巻き込まれていたら埒があきそうにないので、あちらはあちらで好きにさせておきましょう。
「んー、明日ちょっと郊外に行くから外出用の車と武装の許可を貰いに、ね。総務課にいったらまずは生徒会の許可貰って来い、て言われてさ」
「車はわかりますが…武装が必要な案件とは、ちょっと物騒な話ですね」
車に関しては特に問題は無いでしょう。オルドの乗り物は大体が自動操縦システムですし、転入手続きの際に大上さんの運転免許も確認しているので。後者、武装に関しては…。
「…門の拡張工事の現場に脅迫状が届いたんだとさ。まぁ、念の為程度のレベルだ」
「大上さんは、そっちの方面の腕前はどうなのでしょうか?」
一応、建て前上言葉を濁して聞いてみる。立ち振る舞いや、茶釜社長とのやり取りから大方の彼の「経歴」は予想できるけど…一応、本人の口から聞いておきたい。
「護衛任務の経験は何度かあるし、よっぽど相手がヤバいか護衛対象がボンクラじゃなきゃあ、多分平気だろ」
多分、と言う言葉が若干気になるけど、出来もしない事を口にするような人ではないのは知っているので、取り合えずその言葉は信用しておく。シャルはボンクラ呼ばわりされたことが不服そうだけど。
「それにシャルはこれでも最強なんだろ?実際どれだけのものか目の当たりにしたことはないんで俺は全然信じられないんだが。チンピラが襲ってきた程度で問題ないんじゃないか?」
確かに大上さんの言うとおり、実際シャルは以前茶釜組の参加組織を一人で事実上壊滅させているし…。
「いえ、それでも不安はあります。この子はこう見えて臆病なところがあるので、実際戦闘になったらパニックになってしまうのではないかと」
事実、先月の茶釜組長との映像通信の際にも茶釜社長の恫喝に簡単に怯えていたし、シャルは力が強いだけで実戦経験はおろか、まともなケンカもしたことがないのだから、荒事に巻き込むのはとても心配なのだけど…。
「まあ、万が一の事態になったらちゃんと俺が対処するさ。別にコレを宛てにするほど人生捨ててる訳じゃないし」
「黙って聞いてれば言いたい放題言われてる気がするけど。まずはアンタ自身で私の実力を見せてあげようか?」
「せやっ」
大上さんに軽んじられているのがカチンときたのだろう。シャルが食ってかかろうとするけどそれより先に大上さんがシャルの鼻を摘む。…この2人はもしかしてこれで円滑なコミュニケーションが取れているのだろうか…。
「では、とりあえず車両は無難に学園関係者の外出用のものを手配しますね。武装に関してですが…具体的にどうしましょうか。あまり大掛かりなものになると理事長や教員達の許可も必要になるのですが」
「身を守る程度で構わない。別に襲われても戦わずに逃げればいいんだしな」
ごもっとも。では、取り合えず第2レベルで申請をしておきましょう。正直、心配は心配なのでついていきたいところですが…流石に生徒会の仕事を後回しにする訳にもいかないし。心苦しいものです。
「第2レベルの武装申請となると電磁警棒や魔導銃といったところですねえ。大上さん、使用経験の程は?」
「生憎魔術の使えない難儀な体質なんでね。拳銃や刀ならある程度経験あるんだが」
稲荷副会長の質問に随分物騒な返事が返ってきましたね…。このご時勢に実弾銃や実剣ですか…。
「大上さんは、やはり元冒険者なんですね」
前々から抱いていた疑問。いい機会だから今ここでぶつけてみる。シャルもいることだし。
「まあな。俺みたいな特異な輩はそういった仕事につくのが妥当だろ」
特に隠すつもりも無く、あっさりと肯定する大上さん。後ろめたい事をして居ないと言う証明なのか、それともたとえ行っていても平然としているだけなのか、そこまではわからないけど…。
「ほほぅ。冒険者さんですか」
一方の稲荷副会長の方はと言えば相変わらず興味津々といった様子。元冒険者と聞いても特に変わった色眼鏡で見ることも無いみたい。
冒険者。国家の元に組織され、運営されている騎士団と違い有志によって編成された自警団、通称『ギルド』の元で働く者達の俗称。正式な審査や面接、訓練を経て所属を許可される騎士団と違い本人の希望とある程度の力量が認められれば誰でも参加できるギルドは、社会一般的には正直なところ、いまいち評判が良くない。
騎士団と比べて入団のハードルが低いため、実力はさておき人格面、風紀の面においてあまり良い話を聞く事が少ない。
自警の名の元に好き勝手に暴れたり無法者と言う印象が強く広まっている。
もちろんそういった者達がいるのはごく一部で、大半は真っ当に職務を行う人達。大規模なギルドになると騎士団に匹敵する戦力を持っているといわれる所もあるほどだ。
『星界の皇女』や『獣神劇団』などと言ったギルドとなればオルド中に名が知れ渡っているほどの規模だし、騎士団と協力して合同任務を行う事もある。
反面、ギルドと言う組織を傘に違法行為を繰り返すテロリスト集団と化している連中がいるのも事実だけど…。
『ファランクス財団』や『ロキの尖兵』、『地獄階層』と、名前だけなら誰でも聞いた事があるほど有名な闇ギルドも存在するため、一般的にギルドという存在は今ひとつ微妙な印象をもたれており、その立場も微妙なものだったりする。
「大上さんはどこのギルドにいたんです?割りと有名なところだったりしてます?」
「まさか、その辺の町交番レベルのところにしばらく居座ってたぐらいだよ」
うーん、大上さんが大規模なギルドに所属している光景が全く想像できない。それ以前に組織に属するだけの社交性とコミュニケーション能力がこの人にあるのだろうか…。大上さんの言葉は謙遜でも何でもなく、事実を淡々と述べているだけに思える。
「では、装備の手配もしておきますね。明日の出発の前には用意しておきますので。午前中にこちらから連絡するようにしましょうか」
「ああ、頼む。…会長の方は寝起きが信用できないんで副会長さん、よろしくな」
「はいな。お任せ下さい」
あれ、いつの間にか嫌なコンビが出来上がっている気がするのは、私の気のせいなんでしょうか…。
気が合ったのか、談笑を続ける大上さんと稲荷副会長。あちらはあちらで今後多少心配だけど、今もっと心配なのは…。
「シャル、本当に平気ですか?茶釜組が現在貴女の盾になっているとは言え、貴女はいつ、誰に狙われてもおかしくないんですよ?」
「大丈夫だよ。誰に襲われても、私に勝てる奴なんてまずいないんだし」
まあ、それはそうなんでしょうけど…。単純な戦闘力で言えば確かにシャルは誰にも負けないでしょうが、実戦経験もない私たち学生が実際に命を狙われる状況に晒されて、実力を本来のまま発揮出来るかと言われると、私なら自信がないですけどね…。
(でも、もし万が一、実際そういう事になってしまったら…)
大上さんは相変わらず稲荷副会長と喋っている。彼が精霊界出身の妖狐であること、尻尾が9つあると実際見せられて割りと盛り上がっている。
(あの人を信用するしかないんでしょうね…信頼は出来ない、あの人を)
「んにゅ、どしたのウリ?」
「いいえ、なんでもありませんよ」
私の、杞憂かもしれない不安が彼女に伝わらないように頭を撫でて誤魔化してしまう。
けど、こういった杞憂にかぎって、当たってしまったりするものなんですよね…。
門の拡張工事という大規模かつ重要な作業はその日程を一般に公開することが無い。当然、理由は良からぬ輩の介入などを未然に防ぐ事が目的なのでしょうが、所詮は工事作業。関わる人員も少なくないので日にちを特定する事自体は不可能ではない。案の定、工事日程はすぐに判明した。
それと同時に気になる情報が調べている合間に見つかった。魔術技巧専門学校から技術者が門工事の数日前にとある場所へと向かうそうだ。乗り物として手配された乗用車の整備を依頼された首都圏内の整備工場から拾った情報だ。
「…見つけタ…」
車両使用申請者名、大上忍。やっとこの名前に辿り着いた。ずっと探していた相手。かつてこの身を砕き、任務遂行の妨げとなって立塞がり、地に伏せさせた男の名前…。
「目的地予測。状況シミュレート。…『MKKシステム』起動」
この時期、このタイミングで「そこ」にどういった目的で向かうのか、その理由と、そこから導き出されるであろう行動パターンを測定。推定誤差、7.8%。…範囲内、「彼」の思惑を予測する以上、これぐらいの誤差なら十分と言える。
「今度は、もウ逃がさなイ…」
元星界の皇女副団長大上忍。積もりに積もった借りは、必ず返させてもらいます。
新キャラその1、生徒会副会長、出雲稲荷。精霊界出身の妖狐です。大上とは割りと気があうようですがこの2人が組むとウリのストレスがマッハです。
ちなみに学園内の大上、コラット宅付近を流れる小川では豊富な川魚が釣れます。稀に何故かバケツやゴム靴、宝箱も釣れる場合がありますが…




