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魔術師と天使とミートソーススパゲティ

3行あらすじ


ニート、部屋を出る

タヌキ、脅迫される

オオカミ、脅す

 茶釜社長との映像通信での対談(一方的な恫喝だった気がするけど)の翌日。私は一晩ぶりに自分の家へと戻ってきた。

ウリには散々心配をかけてしまったし、お説教ぐらいは大人しく聴いてあげようと思ったのが甘かった。

結局あれから今までどんな生活をしていたのか、ちゃんとした食事を取っていたのか、睡眠は十分なのか、そんな事ばかりをひたすら聞かれては本当の事を言える筈も無いので言葉を濁し、その度にお説教の時間が延びてしまい、結局ウリの部屋で一晩過ごす事になってしまった。

 部屋に篭るようになる前は頻繁にお互いの部屋に泊まったりしていたのでなんだか懐かしかったけど私もウリも最近色々とありすぎて積もる話の半分も消化しないまま眠りについてしまった。


 「帰ったらちゃんとお風呂に入って着替えて歯を磨くんでふよ~」


 と、寝ぼけたままのウリに見送られ、自分の部屋のドアノブに手を掛ける。もう、結界は解除している。


 「…あれ?」


 おかしい。カギが開いている。部屋を出るときにカギはちゃんと掛けたんだから…つまり、考えられる答えはただ一つ。


 「おかえりゴミ屋敷の住人さん」


 ドアを開けると、予想通りの人物が何故かエプロン姿で人の家の中で堂々と勝手にフライパン片手に出迎えてきた。


 「…はい、ただいま。んで、どうしてアンタがここにいるのさ」


 「仕方ないだろ、元々俺の仕事はポンコツ娘の世話なんだ」


 ここ最近、ニートと同じぐらいポンコツと呼ばれる回数が多くなった。まあたしかに。不覚にもコイツの前で色々と無様な姿を見せてしまったけど、オブラートに言葉を包むという事を全くしないからムカつく。


 大上忍(おおがみしのぶ)。私と同じ人間種。意外なことに理事長に聞いたら私やウリと同じ18歳とのこと。…経歴詐称じゃないの?

 この世界(オルド)で前例の無い、魔力を持たない存在であり、結果的に私の引きこもり生活をブチ怖してくれた張本人。…感謝するべき点もあるんだろうけど、コイツに感謝したら取り返しのつかないことになりそうだから、しないでおく。


 「どうしたボーっとして。モノローグで人の事を勝手に紹介してるような顔だな」


 「やめなさい、その発言は色々ヤバいから」


 コイツと出会ってからまだ1週間も経っていないけど、出会い(あぁ、思い出したくない…)からインパクトが強すぎた上に悪鬼羅刹も菓子折りを持って降伏しそうな性格の悪さと目つきの悪さと口の悪さで、どちらかと言えば人見知りな方の私もすっかりこうして「地」で対応してしまっている。


 「具体的にお前の何をどう世話すればいいか分からねぇし、取り合えず無難に食事と掃除でもしようかと思ってな。この部屋すっげぇ汚いし」


 失礼な。自動掃除機だってちゃんと定期的にかけてたのに。…一月に1回ぐらいは。

あ、よく見ると空のペットボトルやお菓子の袋とかが全部なくなっている。コミックや雑誌もキチンと分類されて棚に仕舞われているし、あちこち埃まみれだったのに全部綺麗に拭かれている。

 え、何?この無駄な仕事の質の良さは。


 「うわぁ…アンタ、便利だよねぇ」


 「お前はもう少し言葉のチョイスを考えろ。昨日も思ったけど」


 うん、それはアンタに言われたくない。絶対に。

口に出して言おうとしたけど、大上の口撃はカミソリより切れ味が良く戦斧より重くライフル弾より鋭く人の胸を貫いてくるから、余計な反撃をされないように黙っておく。

 それにしても、さっきから凄く良い匂いがするのが気になる。今更大上が手に持っているフライパンの中身に興味が涌いてくる。


 「飯作ろうとしたけど汚い部屋の中で料理なんてしたくねぇからな。仕方なく掃除からやっといた。ほら、もう盛り付けるだけだから手を洗ってこい。ついでに着替えろ。昨日と同じ制服だろ、それ」


 着替えなんて持っていかなかったんだからしょうがないでしょ。でも、何を作ったのかは知らないけど良い匂いが気になるので、取り合えず言うとおりにしておこう。おなか、すいてるし。


 「…着替えるから、覗かないでよね」


 「興味ねえよ。いっぺん見たし」


 「忘れろっ!!」


 どうしてワザワザ余計な事をぶり返して言うかなぁ、何より、本気で「どうでもいいよ、そんなの」って顔して言われるからムカついてムカついて仕方ない。

 そりゃあ?意識して欲しい訳でも動揺させたい訳でもないけど、ここまで完膚なきまでに興味0といった

反応をされると、なんていうのかな…?「女のプライド」?あんまり無いけど、傷つくんだ、うん。


 「お前の好みなんて知らないし、知ってても無視するけどパスタにしたからな。文句言わずに食えよ」


 うん、ありがとう。パスタは好きだよ。…アンタの余計すぎる一言は大嫌いだけど。


 昨日支給されたての私だけの特注制服から、動きやすい部屋着(ジャージ)に着替える。

洗面所からリビングに戻ると、丁度大上がテーブルの上に置いたお皿の上にフライパンの中身、パスタを盛り付けているところだった。


 「うわぁ…」


 思わず声が洩れてしまう。皿の中に置かれたのは一般的な、所謂ミートソース。でも世間一般に思い浮かべるような赤いイメージでは無く、ひき肉がたっぷり入っているのでどちらかと言うと肉の色が強い。それなのに湯気と一緒に立ち上るオリーブオイルとバターの匂いが、朝食も食べていなかった空っぽの胃袋を物凄く触発する。あぅ…。


 「さっさと食え。冷めないうちに」


 大上が椅子を引いて座れ、と促してくる。え、何、大上の癖にこの紳士的な振る舞いは。ハッ!もしかしてこのパスタ、何かトンデモナイものが入っているとか…!

 私が警戒しているのを横目に大上は気にする素振りも無く皿の横にフォークと水の入ったグラスを置いてくれる。


 「いいから食えよ。片付かないだろボンクラ」


 お、新しい切り口だ。そうだよね。大上だもんね。とりあえず食べよう。お腹すいてる上にこの匂いを嗅ぎ続けてるのは体に悪そうだしね。


 「いただきます」


 「いただけ」


 はむ、と一口。不味かった時を考えて最初は少量だけ口に運ぶ。けど、すぐに2口目はたっぷりとフォークに巻きつけて、大きく口を開けて頬張ってしまう。

 なにこれ、美味しい。大上が作ったのにこんなに美味しいとかありえない。なんて考えてるのがバレてるんだろうなぁ、台所に戻って使い終わった鍋を磨いている大上がこちらを振り返って睨んでる。

やめてください、あなたのめつきはこわいんです。


 ひき肉がたっぷり入っているのでコッテリしているかと思ったらトマトの酸味が口の中で強く主張してくるので後味スッキリと食べられる。あ、もしかしてトマトは最後に入れてワザと酸味を残してるのかな。バターも風味付け程度なので油こさも感じないし、自分の好みで混ぜろとばかりにお皿の淵に盛られている粉チーズを適度に混ぜて食べると、味が濃くなって益々止まらなくなる。

 フライパンを持っていたのは茹でたパスタとソースを和えた後で火にかけたんだろう。パスタ1本1本にひき肉から出た油やトマトの果汁がしっかり絡んでフォークで持ち上げるとうっすらと赤く染まった細身のパスタがなんとも鮮やかで、オリーブ油とバターの香りを立てるのだから、堪らない! 


「おいヘタレ」


ふぁにふぉっ(なによ)


 また新しい呼び名。だけどいちいち文句を言うのも面倒だし、何より口いっぱいに頬張ってるから返事が出来ない。いきなり呼ばれて振り返ると、大上はまたフライパンを片手に近付いてきている。


 「目玉焼き、乗せるか?」


 「乗せう」



 口の中のパスタを飲み込むのも待てずに、私は迷い無く頷いた。






 「ごちそうさまでした」


 「ごちそうしました」


 朝食抜きの昼食(ブランチ)とは言え、結局シャルトリューは2回おかわりをしてからようやく、その言葉を使った。よく食う奴だな…。胸につかずに腹についても知らないぞ?


 「洗い物が済んだら掃除の再開だ。今度はお前も手伝えよ。自分の家なんだし」


 「えー、でも大体終わってるじゃない」


 そうでもないだろ。初めてこの部屋に入ったときから、ある「違和感」があるんだよ、俺には。


 「なぁヘッポコ。一つ聞きたいんだが…」


 「シャル」


 ん?なんだ。人のセリフをぶった切っていきなり。へっぽこ娘(シャルトリュー)はミートソースで汚れた口元をティッシュで拭きながら、何故か俺に視線をあわせずに、何か言いにくそうに、続ける。


 「シャル、でいいよ。テキトーな呼ばれ方するのもウンザリするし、シャルトリューっていちいち呼ぶのも長いでしょ?」


 「そうか?もっと長ったらしい名前の奴なんて居るけどなぁ…」


 コペンハーゲン、オルタネート、ディスフォード、安西常陸乃介柿右衛門…機械族で言えば正式な型番で40文字ぐらい使う奴だっているしな。


 「いいから、察しなさい。私もアンタの事はこれから(しのぶ)って呼ぶことにするから」


 あぁ、なるほどね。要するに、遠回しな「これからよろしく」と言うわけだ。実際お互いにそれほど信頼関係がある訳でもないが、まずは形からという事なのだろう。

この娘はこの娘なりに、自分から歩み寄ろうと努力しているのだろう。微笑ましいじゃないか。


 「可愛くない奴だな」


 「アンタに可愛いと思われても何にもならないでしょうが」


 ごもっとも。俺は年上が趣味なんでね。お前みたいな小娘には興味ないから安心しろ。


 「…結果的にだけど、アンタにはそんなつもりは無いのかもしれないけど、さ」


 シャルトリューが言いにくそうにセリフを続ける。とりあえず、茶々を入れるような野暮はしたくないので言葉の続きを待ってやる。洗い物が残っているから、出来るだけ早くな。


 「私も、ウリもアンタのお陰で色々とまぁ…助かった…、て言えばいいのかな?だから、礼儀として、一応、一応ね!言っておこうかと」


 「なら言いなさいな。洗い物したいんだ」


 つい声に出して言ってしまったが、もうこの程度の皮肉は慣れた様で、構わずシャルは肝心な、一番大事な一言を、そのまま声に出して、今度はちゃんと俺の目を見て、言う。


 「…ありがとうね、忍」


 なんだ、ちゃんとやればできる子なんじゃないか。ちょっとだけ見直した。正直、本当に礼を言われるような事をしたつもりはないし徹頭徹尾自分の都合のためにしたんだが…ここはまあ、素直に受け取るとしよう。


 「気にするな。これから1年の付き合いになるんだ、一応」


 こういうときは、手でも差し出してやればいいのかな?ありがち(テンプレ)だけど。

俺がこう言う態度を取るのが意外なのだろう。シャルトリューは凄く驚いた顔を見せてから…少し躊躇し、それからゆっくりと、恐る恐る手を伸ばし返してくる。


 「よろしくな、シャコ」


 「シャルって言ったのに!何で甲殻類軟甲綱トゲエビ亜綱シャコ科に属する節足動物みたいなニックネームを勝手に作るかなぁ!?」


 「いや、シャルはウリが使ってるから」


 「そんなルール無いし律儀にそんなの守る訳?台無しじゃないっ、思いっきり台無しじゃないさ!!」


 「怒るな怒るな。パンチしないでくれよ?」


 「シャコじゃないってば!!」


 その場で床を力強く踏んで椅子から立ち上がり、迫ってくるシャコ…もとい、シャル。

ああ、そうだ。お陰で思い出したわ。


 「なぁシャル」


 「だからシャコじゃ…って、うん、うん?えと、何さ」


 不意打ちで|親しい者しか使わない愛称ニックネームで呼ばれて戸惑って…若干の照れもある様子だが(なら言うなよ…)、今にも首を締めようとしていたシャルの手が止まる。危ない、仕事相手に殺されるとか洒落にならないからな。


 「この家…下に何があるんだよ」


 トントン、と床を何度か軽く足の裏で叩くようにして、前から感じていた疑問をぶつけてみる。


 「何か足音が不自然なんだよ。下にそこそこ大きな空間があるみたいな感じなんだが…。ウルスに聞いたこの部屋の間取りには地下室なんて無いはずなんだけどなぁ」


 「そ、そう?じゃあ無いんだよきっと。アンタの気のせいじゃない?」


 「うん、思い切り目を逸らされなかったらそう思ったかもな」


 どうやら、コイツは隠し事とか全然出来ないタイプのようだ。感情をそのまま表に出してしまうと言うか、昨日の茶釜刑部とのやりとりでも思ったが…。


 「なぁシャルさんや」


 「な、なんですかな忍さんや」


 「俺は、この先しばらくお前の世話をあれこれしなきゃならないんだ」


 「ほ、ほほう。それはそれは、ご愁傷様です」


 「…吐け」


 「やだっ」


 ぷいっ、とそっぽを向いてしまったシャルに、流石に力ずくで薄情させる訳にもいかないので…




食後のデザートとして用意しておいたリンゴのコンポート(シロップ煮)を交渉材料にして、俺はこの家の隠された真実に辿り着くことが出来た…。


 


 

 「へっぽこシャルさんや」


 「なにさチンピラ忍さんや」


 「お前、もしかしなくても駄目人間だろ」


 デザートを餌にようやく白状させたシャルの自宅の秘密。シャルの自室の真下に学園にも秘密でコッソリ作られていた地下室に下りた瞬間、俺はシャルの抱えている「本当の闇」を一目で理解した。


 「失礼なっ。立派な趣味じゃないのさ。世界に誇る文化じゃないのさ」


 「まぁそうだな。お前が引きこもり中にコレに熱中していたと思うと今まで俺がやってきた事が馬鹿馬鹿しく思えてくるわ。一発叩いていいか?」


 とすっ、と手刀一閃。髪の分け目を狙ってチョップしながら、地下室を進んでいく。


 「痛っ!力は弱いけど狙いが的確すぎる!」


 頭を抑えながらシャルが俺の後についてくる。地下室とは言うが、これ、絶対上の家より広いだろ…。

室内はライトで照らされ明るく、地下にあるとは思えない明度だ。奥行きも高さも、上の家よりずっと広い。床は上の部屋と同じフローリングだが灰一色なのでコンクリートにしか見えない。

背後を振り返るとここに降りてきた上の階と行き来するための階段(しかもエスカレーターだし)。流石に自室の床がいきなり左右に開いて階段が出てきたときは驚いた。

 茶釜社長。こいつ建設業でも十分荒稼ぎできるぞ?


 「何も無ければ宙返りぐらい出来そうな広さだな」


 「人の家で空中回転するシチュエーションってある意味見てみたいけどね」


 なにもなければ、と言ったのは。言葉通り「何かある」からだ。むしろ、在りすぎて広いはずの地下室の中は、酷く狭っ苦しく感じるぐらいだ。

 右側を振り向く。天井まで届きそうなほど積まれているのはマンガの山だ。ああ、そういえば家の部屋でも沢山置いてあったな。マンガ好きか、こいつ。ただし、ここにあるマンガの量は上の比じゃあない。

何せ拾い地下室の四方の壁の一面を丸々埋め尽くしているほどだ。これ、崩れてきたら圧死確実だぞ?

 続いて、左手に目を向ける。こっちもまた山積みにされているが、マンガではなくこちらにあるのは様々な箱だ。…遠回しな言い方はやめよう。ようするに、こっちはオモチャだ。

未開封のプラモから調合金のロボット物、休日の朝に放送されている子供向けの軍隊ヒーローや覆面ライダーの変身アイテムやら武器やらがアホみたいに積まれている。

 そして正面。こちらには大小さまざまなモニターが設置されており、その手前には多種多様な機械製品達…うん、要するにゲーム機が並んでいる。もちろんその傍には当たり前のように山積みにされたゲームソフトのパッケージが幾つもの塔を形成している。


 「…爆破するか」


 「無表情でポツリと言われると凄く怖い!!」


 「いや、だってここ、魔界だろ?駄目だろ違法な空間接続は。木っ端微塵にしないと」


 「私の家の地下だってば!」


 「待ってろ。今爆薬持ってくるから。家ごと吹き飛ばしてやる」


 「そのセリフだと私も一緒に爆発するよね?ねえワザと?ねえワザと?」


 はぁ…。溜息しか出ねぇ…。お前、もしかして…。


 「部屋に閉じこもってからしばらくはね。大人しくしてたんだけどさ…ほら、暇になっちゃったと言うか、何もせずゴロゴロしているだけだと不健康だから、ネットとかテレビで時間を潰すようになってね…」


 聞きたくない。引きこもりがオタライフに一直線になっていく過程なんて聞いているだけで精神汚染されそうになる。


 「んで、ネットで評判の作品とか見るようになって、段々楽しくなってきて…せっかく時間もあるし、幸い私、お金は無駄に持ってるから気になったモノは片っ端から集めていたら…ねえ」


 シャル助、お前には今隣で頭を抱えている可哀想な好青年の姿が見えないのか…。ああやだ、埋めたい、この子。


 「結界張ってたから通販とか無理だろ。どうやってたんだよ。食事もそうだけど」


 「え?ああ、そんなの簡単だよ」


 そう言ってシャルはジャージのポケットから携帯を取り出し…何度かボタンを押して見せる。

すると俺達の後方、上の部屋から降りてきた入り口の丁度隣の空間が一瞬光り、数瞬のタイムラグの後、見たことのあるテーブルが出現する。


 「ほら、これ見てみて。ここ、ここ」


 シャルが付けっぱなしのモニターの一つを指差して俺の裾を引っ張る。やめろ、生地が伸びる。

モニターの一つはこの家の玄関前を映している。え?防犯カメラか、これ。

そしてすぐに、「本来あのテーブルが置かれていた場所」がいつの間にかこの地下室と同じ灰色の床になっている。


 「…おい、まさか、これ」


 「そ。外のテラス部分をそのまま空間転送できるようにしたの。業者さんに注文したものを置いて貰って、後は部屋の中に直接転送すれば私は一歩も出ずにOK。どうよ、この技術力はぁ痛っ!!」


 宝の持ち腐れどころか技術をドブ川に垂れ流してるようなモンだろ。思わず背後から頬を摘んで左右に思い切り引っ張ってしまったが、仕方ないよな。これは正義の執行だ。


 「ごく限られた場所への的確な転送技術なんて、売り出したらそれだけで一生食っていけるだろ。オルド中でテレポート生活が広まるな」


 「ふりふり、ひょれふぁふりふょ。ふぁっひぇふぉれ、ふぁふぁひのふぇやえひかふぇひにゃひふぉん」


 「『無理無理、それは無理。だってこれ、私の部屋でしかできないもん』って言いたそうな顔だな。何言ってんのかわかんねえからハッキリ言え」


 「いやぁ一言一句合ってるよ?というか痛いよ、乙女のほっぺたをなんだと思ってるのさ!」


 「まず乙女と思ってない」


 手を離してやった途端この暴言だ。やれやれ、でもどういう事だ?専門的な魔術の知識が無い身としては、この便利な技術が世に出せない事が腑に落ちない。


 「この術式は使用者の魔力で予めマーキングされた場所の中でしか使用できないって事。転送魔術を行う為にはまず最初にその場所に術式を書き込んで土台を作らないといけないの。だから逆に言えばマーキングを施せば出来るんだけど…」


 おっと、嫌な予感がするぞ?とりあえずチョップの準備だ。あ、クッション頭に載せて防御体勢取りやがった。予感的中か、こら。


 「家から出ずに欲しいものが手に入るにはどうしたらいいかなーって考えてる時に勢いで作って、出来上がったら欲しかったものも食べたかったものも好き放題になったじゃない?…そういう一時のテンションで作ったものだから、さ…」


 「…術式を忘れた、と?」


 「てへ」


 「お前やっぱり一生ヒッキーしてろ」


 取り合えず、クッションでガードしていたので手刀ではなく、拳にしておいた。





 「ああ、2人ともこっちにいたんですか」


 地下室から出て来た所で、丁度同じタイミングでこちらにやってきたウリと遭遇する。

頭が痛いことに、一時のテンションに任せて作り上げた転送術式は1から解析する事も出来ない上に作り方も思い出せないそうだ。この娘は最強でも天才でもなく只のアホウだ…。やっぱり地下室は爆砕すべきなんじゃないかな…。


 「ああ、ウリ。どしたの」


 「ポンコツに用か?…寝癖ついてるぞ」


 咄嗟に頭に手をやるウリだが、違う違う。寝癖がついてるのは羽根のほうだ。バッサバサだぞ。食肉にされる寸前のニワトリみたいになってる。

ゲンコツを脳天に受けてずっと頭を抑えていたシャルが慌てて駆け寄り、手櫛でセッセッとウリの羽並を整えてやる。…個人的にシャルに世話を焼かれるウリというのは、見たくなかったな…。


 「…ん、失礼しました。ウルス教官から大上さんがシャルの部屋の掃除をしていると聞いたので、お手伝いにと思いまして」


 ああ、そういえばウルス()にバケツとモップの場所を聞いた時にそんな話をしたっけか。

でも、もう昼過ぎだぞ?もしかして今まで寝てたのか、この天使。思ったよりだらしない。


 「家の掃除ならもう大方終わってるぞ。後は魔界に攻め込むだけで」


 「魔界って言うな!と言うかウリには内緒にしといてよっ!!」


 「…よくわかりませんが、随分仲良しになったようですね、2人とも」


 「なあ、…起きてるか?」


 「ええ、もちろん。幾らなんでもお昼まで寝ていて寝ぼけていたりしませんにょ」


 …シャルのほうを見ると、向こうも同じ反応で目が合う。シャルが、黙って頷く。つか、本当に昼まで寝てたんかい。


 「…パスタでよければあるから、昼飯まだなら食ってけ。…と、もう一回顔洗って来い」


 「いえいえ、お気遣い無く、そこまで気を使われるのは。朝は塩鮭だと嬉しいです」


 「もう昼だし気を使うなって言っておいてリクエストしてるしパスタだって今言ったよなお前そんなキャラだったっけか?」


 やめろ、どいつもこいつも。俺をツッコミ担当にするな。

シャルにウリを洗面所に連れていかせ、その間にシャルの分と、ついでにまだだった自分の分の昼食の用意。ああ、シャルのデザートも出しておいてやるか。ちなみにシャルの家で料理をしていたのは、単にガス代の節約だ。

 皿を用意しているとタオルで顔を拭きながらウリがシャルに連れられて戻ってくる。


 「…見苦しいところを。」


 「ほんとだな」


 タオルを顔に当てたままのウリ。もしかして恥ずかしがってるのか?やばい、ちょっとだけキュンとする。虐めたくなる。


 「まあいいや。マヌケのシャルさんや、デザートあるからウリの分の皿と運べ」


 「了解です、ありがとうデーモン忍さんや」


 やめろ、それだと大昔の有名アーティストみたいじゃないか。


 「…ほんと、仲良くなりましたね」


 テーブルに付きながら、ウリが少しだけ複雑そうな顔を見せる。ある意味コッチも複雑だよ。てっきり父親とは正反対のクールビューティー系だと思ったのに…。


 




『彼女、シャルトリュー君はね。実は…』






 ふと、イザヤ理事長の言葉を思い出す。茶釜組の件もそうだったが、世の中狭いと言うか、こうなるともはや「因縁」と思えてきてしまう。「運命」と言う言い方はガラではないので、あえて「因縁」と言っておく。何のことかって?…今のところはまだ、秘密だ。


 「…?なによ、人の事ジーっと見て。あげないからね」


 「俺が作ったモノだろうが」


 俺の視線に気付いたシャルトリュー…シャルがこちらの気も知らずに呑気にコンポートを頬張りながら振り返る。行儀が悪い。シロップを零すな。


 (ま、なるようにしかならない、か…)


 シャルとウリに自分の分まで取られないうちに俺も昼食にするとしよう。とにかく今考えても仕方の無いことだ。「その時」が来るまでは取り合えず、現状維持に務めよう。


 (でもまぁ、実際時期が来たら…俺はどうするんだろうな)


 恐らくはそう遠くない未来、「その光景」を思い浮かべ…そんな時に、ウリがフォークを持つ手を止めてこちらを見ていることに気付く。視線に気付かないとは油断していた…。シャルは、シナモンを振り掛けることに夢中でもうこっちなど見向きもしていない。太るぞ。


 「なんだ、パスタは不満か?」


 そういえばウリは和食が良いとか言ってたな。意外な趣向だが人様の昼食に肖ってるんだからえり好みはさせないぞ。


 「いえ、そういう訳では」


 そうかい。自分の更にパスタを盛り付けると、女子2人と同じテーブルで食するのも鬱陶しいので離れてソファに腰を下ろし、フォークにパスタを絡めて一口。うん、88点といったところか。


 「食い終わったら掃除の続きだからな。当然、地下室もガッツリやるから覚悟しておけよ」


 「ちょっ!!」


 ああ、地下室の惨状(オタクエリア)はウリには内緒に、って言ってたか。まあいいか。秘密にしてやるなんて言ってないし。


 案の定ウリは何の話かと怪訝そうに首を傾げてシャルと、俺に交互に視線を向けてくる。

俺に聞くな、ソレに直接聞け。


 予想通り、午後から再開したシャルの巣大掃除で、地下室の存在や引きこもり中にすっかりイタい趣味が身に染み付いたシャルの自堕落な生活がバレ、結局掃除の続きはほとんど俺一人ですることになり、シャルは正座させられ2時間近くウリ(保護者)の説教漬けになった。











 薄暗い倉庫の中。集まったのはざっと見回してみても10人にも満たない。5.6人といったところでしょうかね。大きな組織に属している訳でもないチンピラ連中ですが、だからこその使い道があるというもの。約束のモノを与え、中身を確認させる。過ぎたオモチャでしょうが。これも必要経費というもの。


 「確かに。後はその日を待つだけだな。協力感謝するぜ」


 「いえいえ、こちらはこちらの目的がありますし、持ちつ持たれつ、というヤツですよ」


 男達の手には先ほど渡した荷物の中身、黒く、鈍く輝く無骨な道具…世界統合(オルド設立)以前の人間界や機界に流通したと言われる簡易兵器、「銃器」と呼ばれるものが握られている。

このご時勢ではもはやアンティーク同然ですが魔力の大小関係なく、種族間の差も問わず誰しも平等にその威力を振るえる点では、こうして今でも需要は十二分にあるようで。その分結構な値段がするんですがねぇ…。


 「具体的な日程が分かったらご連絡しますよ。当然、あちらもそれなりの警護はつけるでしょうが。騎士団のほうはこちらで動きを抑えておくようにしましょう。追加料金は、特別にサービスさせてもらいますよ」


 「ありがたい。アンタ達の期待に応えてみせるさ。コイツでな」


 手に持った銃に、早速自分が強くなったような錯覚にでも落ちてるんでしょうかね。こういう扱いやすい連中だからこそ、こちらも都合よく操れるのですが。ああ、もちろん期待など全くしていませんので。

それでもこちらも一応商売ですし、愛想よく笑顔を浮かべて、一礼。さてさて、失敗して当然、成功すれば儲け者。我々は高みの見物とさせて頂きますよ。


 「我ら『ロキの尖兵』、成功をお祈りしています。この世界(オルド)にあるべき姿を。」


 「ああ、あるべき姿を。」


 我々に唯一共通する目的。それはいつの間にかこうした合言葉となっています。さぁ、彼らが実行に移す日が待ち遠しいですね。


 (せいぜい我々の為に励んでください。貴方方が例え犠牲になったとしても、それは礎となり力となりましょう)


 生命の保証は出来ませんが、彼らが散っても彼らの意思は我々がしっかりと受け継ぎましょう。来たるべき日の為に、そして、「あの方」を迎えられるだけの力を得る為に。


 (今少しお待ち下さい、我が神よ。このオグロ、必ずや貴方の元に相応しい力を持って参りましょう)


 私の真意など知る筈も無く、手にした(オモチャ)にはしゃぐ雑兵達の背後で巨大な鋼鉄の怪物がその凶悪な力を現すように赤い瞳を輝かせている。


 (そちらには期待させてもらいますよ、機械兵器(アームズ)さん)

第1章はこれで完結。「性悪ワンコと駄目ニャンコ」編とでも言えばいいでしょうか。

次章からポンポン新キャラを出していきたいです。奇人変人しか書けませんがね。


予断ですがシャルの地下室増築は独自に製作した機械人形で行いました。増築後は解体されて地下室入り口のエスカレーターとして可動中です。

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