キミ
悲しい顔を浮かべたキミは、冷たい風が吹く真夜中の浜辺に立っていた。
月明かりに輝く涙を流すキミは、赤く染めたナイフを手に握る。
錆びれた鎖に縛られたキミは、自由の効かない体になったのか。
酒に溺れ、薬に飲まれ、行き着いた果ては傷だらけの体。
キミの手を握ると、氷の様に冷たかった。
ある日から変わったキミ。
気が立ったから部屋を荒らした。
気が立ったから足を引っ掻いた。
気が立ったから手首を切り刻んだ。
過食症のキミ。拒食症のキミ。
繰り返す病がキミを蝕む。
病を抑える薬がキミの支え。
精神安定剤。
しかし、キミを抑える薬は意味が無くなりつつある。
酒のつまみに、薬を飲み込むキミ。
薬の効果が無くなるの事、キミは重々知っている。
「止めよ」
キミに伝えた言葉。
キミはちゃんと聞いていたのか、それとも聞こえていなかったのか。
またある日、キミはいつかの笑顔を見せてくれた。
初めて見たキミの笑顔より、髪はバサつき、肌は荒れていた。
僅かな救いを求めて、新たに変わったキミ。
苦労は数え知れなかった。
変わった食生活に、何度も吐いた。
痩せては太る体も、簡単には治せなかった。
数年が経った。
まだキミは完全には治っていないけれど、あの頃と比べると大分変わった。
「海へ行こ」
キミはそう言った。
夜、いつかの浜辺へやって来た。
月明かりに輝くキミの瞳。
キミの手を握る。
温かかった。
キミの手を握る。
キミが導いた手の先は、手より温かい命の宿ったお腹だった。