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後宮の華は暁に咲く  作者: 麗明
第零夜:忘却された妃
3/23

03

 ――疲れた・・・


 望まぬ形で仕方無しに帝位について今年で14年。

 異母兄達が愚かな思いを巡らせ、無益でしかない帝位争いさえ起こさなければ、自分は今頃裕福ではないが、それなりに幸せに暮らせていたことだろう。それがどうだ。今や自分は300人を超える後宮の主で、大陸一と謳われる軍事国家の皇帝だ。


 つい先だっては、長年この莉迂国と冷戦状況下にあった梁麗国りゃんれいから婚姻による和睦が打診されてきた。それ自体はこの国の皇帝としては問題は無い。が、問題はその和睦を結ぶに当たり付けられた条件だった。



 一つ、梁麗の公主たる姫君は最低でも正二品以上の位に就ける事。

 一つ、和睦を結ぶにあたり、莉迂国皇帝の妃一人の贈与を望む。

 一つ、一度贈与された妃は、死した後も梁麗から出る事は無い。

 一つ、梁麗はこの和睦を持って、莉迂国との同盟を結び、以後、不可侵条約を締結す。



 梁麗の大使により、滔々と読み上げられる強気な和睦条件の中で、霙明が一番頭を悩ませ、抱えさせたのは、公主の位と妃の贈与である。

 妃は皇帝の妻であると同時に一つの立派な職業であり、また、皇帝自身の財産の一つでもある。そのことを踏まえた上で、梁麗は妃を寄こせと言って来ているのである。


 霙明が心なき皇帝であったなら、ここまで苦しむ事は無かっただろう。しかし、不運な事に彼は非常にはなり切れなかった。こと、妃に関しては。


 誰にも見向きされなかった皇子時代。

 尊敬していた伯父は武力派貴族達の手により命を奪われ、伯父の寵愛していた妃は伯父が命を落した翌日、変死体となって後宮の池で発見された。その発見者こそが霙明であるという事は、公然の秘密とされている。


 霙明は孤独だった。

 一応は皇子である事から、政略で妃を娶る事も、何れは臣籍に下る事も覚悟していた。そして、婚姻当日、霙明は自分の元に嫁いできたであろう妃を目の当たりにし、愕然とした。


 何と妃は10歳になったばかりの幼女だったのである。

 幼女は緊張で顔を強張らせながらも、咲き染めの花の様にふんわりと微笑んだ。その微笑みに自分は一目で心を奪われ、それ以来、あの忌まわしき争いが起きるまでは幼いながらも夫婦として愛情を育みながら平和で幸福な、満ち足りた日々を過ごしていた。


「懍砡・・・。」


 自分が知識ではなく、武力を選んでしまった事により、不遇の立場に追いやってしまった妃。

 これ以上惨めな想いはさせたくないと思い、渋る貴族を説き伏せ、自分達が穏やかに暮らしていた時代の宮を与え、なんとか繋ぎとめていたと言うのに。


 霙明は己の不甲斐なさを呪った。

 今回の和睦を結ぶ為には一人の妃を梁麗に引き渡し、その国の公主を最低でも正二品の位の妃につけなければならない。


 皇帝としては何が正解なのかはもう答えは出ている。そしてそれらを成し遂げる為に何をすればいいのかも。だが、一人の男としては、その答えは、霙明にとって、身を切られる事よりも辛く厳しい物であった。




 ――せめて、子供でも生まれていれば・・・。



 執務で疲れきっていた霙明に、李明宮で嘆く妃の声が届く事は遂になかった。


 

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